クラフト★ビア★マンさんのレビュー
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漂流する巨船 ソニー 週刊東洋経済eビジネス新書No.101
週刊東洋経済編集部 / 東洋経済新報社
ソニーの各時代の経営者たちの声(盛田さんはいない)
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アプリのおすすめに表示されて衝動買い。
ソニーの各時代の経営者たちのインタビューがバラバラと掲載されている。
井深、大賀、出井の旧世代の経営者の、歴史を感じるインタビューに加え、
現在の経営層の平井…・吉田・十時の世代まで。
(盛田さんとストリンガーの記事はない)
記事の順番がバラバラしていて恣意的。なんでこの並びなのかはよくわからなかった。
出井さんの時代以降は厳しめの記事が並んでいる印象なのは、そういう風にソニーが見られているということなんだろうな。
不思議なのは、出井さんの記事の「デジタル・ドリーム・キッズ」という言葉には時代を感じるが、
井深さんの「アイデアやヒントはいくらでも転がっている。そのアイデアを具体的にしていくことのほうがよっぽど重要」という言葉には
まるで古さを感じないこと。
昔から本質は変わらないのだなぁと思った。
改めてソニーという会社がどんな道のりを歩んできたのか、
今どういう局面にいるのかをざざっと読みたい方におすすめ。 続きを読む投稿日:2015.03.23
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影との戦い ゲド戦記1
アーシュラ・K.ル=グウィン, 清水真砂子 / 岩波少年文庫
世界3大ファンタジーにしてジブリ映画原作。こっちが本物です
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世界3大ファンタジー「ナルニア国物語」「指輪物語」「ゲド戦記」の一角にして、ジブリの宮崎吾郎監督初監督作品「ゲド戦記」の原作。
映画版は、複数あるゲド戦記の原作の内容がなぜかごちゃまぜになっていて、本…質を捕まえているとは到底思えず、原作読了者としては「?」が頭の中から取れないままだったのを覚えています。
映画の方はあんまり評判がよくない印象ですが、宮崎駿監督がずっと映像化したかったという本作は、非常にテーマが深く、10~20代前半での、個人が体験する自我が確立する過程を、ファンタジーの形を借りて克明に描いた傑作だと思います。
ユング心理学での「影」の考え方に強い影響を受けて書かれたこの「影との戦い」は心理学的な観点から見ても高い価値が認められていて、文章は低年齢層向けに平易に書かれているものの、内容は深く、暗く、重く、本質的です。
出版は1968年と古く、本作を読むと、現代の少年漫画などでよくある、自分の悪意を受け入れて主人公が強くなる(NARUTOでもあったな)描写のひな形はこれなんだと思えます。
「ナルニア国物語」「指輪物語」と比べると、登場人物は少なく、世界観も限られているので、テーマが分かりやすいかもしれません。
連作で、1作ごとテーマは大きく変化していきますが、一貫してあるのは人の心の有り様を深く掘り下げていく視点にあるように思います。
秋の夜長にはよくはまる物語ではないかと。 続きを読む投稿日:2015.10.15
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デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション(1)
浅野いにお / ビッグスピリッツ
デデデデ
10
相変わらずの浅野いにお節満載で前作「おやすみプンプン」よりもテンション高めか?
読み手の予想を斜め130度くらいで飛ばしてくる独特の読みくちはそのままに、嫌になるほど現実的な日常を、何をするでもなく、…ただ無為に過ごしては絶望に負け越していく気味の悪さはプンプン以上かもしれない。
って、プンプンは中盤からあまりの重さに読むと本気で鬱になるので途中でやめてしまったのだけど。
それでもこの作家から目が離せないのは、実験的で、マンガを知り尽くした完成度の高さに加え、とにかく社会に絶望していて何だか大人になりきれていないところに惹かれているせいなんだと思う。基本、とてもパンクな作家。
そろそろ大人の社会の中で違和感に苦しむ子供から抜け出してもいいんじゃないの?という気もするけど、この人はどこか絶望していることが作家としてのアイデンティティなのかなぁ。世の矛盾や理不尽さに心底愛想が付きながらも、歯を食いしばって現実と折り合っていくのが大人なのだとしたら、この人の作品はちっとも現実を飲み込めずに壊れていくので、そういう意味で完全にモラトリアム文学。子供の物語なのだと思います(褒めてます)。
ただ、あまりにも理不尽なことが起きるのでそこが何とも言えない。
プンプンとは違う方向に進んでくれたら…と思いながら次の巻を待ちたいと思います。
普通のマンガでは飽きたらない人は是非挑戦してみては。 続きを読む投稿日:2015.02.16
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懲役339年(1)
伊勢ともか / 裏少年サンデー
良作みーつけた!
10
「Reader Storeのおすすめ」にあった「懲役339年」というタイトルに惹かれて購入。
まったくのジャケ・タイトル買いで予備知識なし。結果は、吉だった。
某事件で懲役339年を求刑された「ハロ…ー」。前世のつながりを信じるその世界では、ハローが死んでも刑は終わることがなく、生まれ変わりとされる人間がその罪を償うことになる。このあたりの設定は、手塚治虫の火の鳥っぽい。火の鳥と違うのは、本当の転生ではなく、国が勝手に前世がハローだと決めた人間に罪を着せ、それが当たり前になっていること。
なんとも理不尽で、残酷だ。
過酷な監獄での環境で長生きできるわけもなく、歴代のハローは投獄からせいぜい10年から30年くらいで死んでしまう。その度に濡れ衣を着せられた人間がハローにされていくのだが、本人もそれが当然だと思っているのが独特。手塚治虫だと本人がその仕組みのおかしさに気づいて反乱を起こしていく展開なのだが、本書は、看守がそれに違和感を覚えて脱走をもくろむ。
これ以降はぜひ読んでもらいたい。
絵は独特に単純化された線で書かれていて(ちょっとワールドトリガーっぽい?)少し人を選ぶかもしれないが、慣れてしまえばむしろ作品にあっている感じがしてくる。
まだメジャーじゃない良作を見つけるのもコミック読みの楽しみですよね、と。
雑誌は違うけど、なんとなくアフタヌーンあたりの空気感を感じた。黒田硫黄とか芦奈野ひとしとか、漆原友紀とか好きな人も向くかもです。
あ、佳作SFという意味では、「預言者ピッピ」とかが好きな人も楽しめると思います。
次も買おうと思います。 続きを読む投稿日:2014.09.08
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ワールドトリガー 1
葦原大介 / 週刊少年ジャンプ
上質の王道SFバトルマンガっていうだけじゃないです
10
アニメ化+1巻無料のコンボにつられて読んでみたところ、まんまとハマってしまった。
一晩で7巻読破・・・。
これは面白い。久々のジャンプ王道アクションでの会心作ではないだろうか。
ナルトやワンピレベルま…で化けるかもしれない。
すごいと思ったのには、一流の作画、1話ごとのネームのクオリティ、ワクワクする世界観といった
ジャンプでヒットするための大前提を鮮やかにクリアしつつ、以下の点で突出していたから。
①
今までの王道少年漫画と違い、少年だけがかっこいいのではなく、大人もちゃんとかっこいいこと。
少女もかっこよくて、このあたりは鋼の錬金術師を思い起こさせる。
それぞれの利害関係・背景を緻密に練り上げていて、組織的な対立をしっかり描いている。
②
戦闘能力が、才能ではなく道具であること。
もちろん才能による部分もあるが、基本誰でも使える汎用道具の使いこなしによって勝敗が決まるところが面白い。
どう努力すれば強くなれるか、自分ならどうするか、といった想像がはかどる。
話の合間にある武器の設定の裏側を読むのも楽しい。
③
キャラの豊富さと個性付けの上手さ。
登場から数コマでキャラの印象付けをするのがとても上手い。
巻数を重ねると登場人物と戦闘場所の多さにちょっと全体図が把握しずらくなるが、
地味なキャラでも魅力をしっかり持たせていてすばらしい。
チーム戦なのもたのしい。
武器や編成もまったく異なるので多様な戦い方が楽しめる。
④
設定のうまさ。
SF的な世界観の構築も見事なんだけど、
1番アクションの見せ方として上手いと思ったのは、戦うときは「トリオン体」という生身とは違うからだなので
腕をぶった切られたり首が吹っ飛んだりというグロテスクで少年誌では書けないショッキングな表現もちゃんと書けること。
設定を知らないでジャンプ立ち読みしたときは驚いた。
⑤
みんな賢い。
性格がいやなやつはいても、みんな理由があってそうなっていて、ハリウッド映画でよくある
理解しがたい自分勝手な行動で周りをピンチにしてしまうようなトラブルメーカーがおらず、
謙虚で客観的な目線のあるキャラたち。
みんな自分で反省する力がある。
この辺はネット世代の、知識があふれている時代だからなのかな。
この点についてはもしかするとすっとぼけキャラだらけのルーズさで話を展開するワンピースと比べ、
緻密すぎてあとあと苦しくなるケースがでるかも・・・、という気もするけど。
たくさん書いてしまいましたが、とにかく面白いです。
今後もっともっと面白くなることを期待して★5つ! 続きを読む投稿日:2014.10.03
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銃・病原菌・鉄 上巻
ジャレドダイアモンド / 草思社
なぜ、強者は私ではなくあなただったのか?
9
文化人類学、地政学、歴史、化学、数学、生物学・・・こういうのを学際的というらしいが、一つの学問の視点ではなく複数の学問を総合した観点から大局的に「なぜ欧米が世界で支配的な立場にいて、アジアやアフリカで…はなかったのか」という根源的な問いを追う壮大な著作。
もう少しちゃんというと、著者がフィールドワーク先のパプワニューギニアで会った現地ガイドの「なぜあなた方アメリカ人が社会的強者で、我々パプワニューギニア人はそうでないのか?」という問いに答えられなかった経験がもとに本書は執筆された。
自分自身、子供のころから
「なぜ自分は日本という国に生まれ、黒い髪で、黒い目で、肌が黄色いのだろう」
「世界中の言葉や料理が違うのはなぜだろう」
「国ごとに貧富の差があるのはなぜだろう」
といった疑問を持っていたこともあり、本書の問いとリンクし、非常に興味深く読めた。
そして、その答えは、読む前に想像していたものを超えるものだった。
本書の特徴は、歴史書を紐解いて仮説を立てていくだけでなく、
科学的なデータをもとに、客観的事実を積み立てていく点にある。
特に興味深かったのは、文明が栄える条件の話だ。
メソポタミア文明、黄河文明、インダス文明、エジプト文明の「4大文明(最近はもっと多いとするのが普通らしいが)」
の共通点は「大河の存在」と世界史で習ったが、よく考えると、それだけの条件を満たす箇所はもっとたくさんある。
東南アジアのメコン川、ヨーロッパならドナウ、ライン、北米・南米にも大河はたくさんあるはずだが、
「アマゾン文明」ってあまり聞いたことがない。日本だって利根川とかいろいろあるじゃないか。
この疑問に答えるのは、水の存在や気候だけでなく、
①カロリーを安定して確保できる穀物が存在したか(メソポタミアでは麦があった。これはインドやアラブのナン、エジプトのビール、ヨーロッパのパン、果ては中国の麺につながる)、
②家畜化が可能な動物が存在したか(家畜化とはペットの意味でなく、人になつく気性で、集団で飼育でき、肉や毛皮・乳・卵を安定して生み出すかといった条件)、
が重要な要素であったためだとする論。
なるほど、これらの条件が揃うかどうかが、文化や国家が栄える条件になっていることが容易に想像できる。
(驚いたのは、①②とも、世界広しといえども、条件を満たすのはたったの数種類しか存在しないということ。
詳しくは本書をぜひ読んでいただきたいが、②でいうと豚、牛、羊、山羊、馬の5種くらいしか条件を満たさない。
「シマウマはなぜ家畜化できないか?」という問いは本質的で面白い。)
といった形で、様々な「他と比べ決定的な差を生む要素」を丁寧に積み上げていく。
その中でもより決定的だったのが、タイトルになっている「銃・病原菌・鉄」である。
とりわけ、病原菌が殺した人間の数を知った時ゾッとしてしまった。
これを兵器として利用したヨーロッパの恐ろしさ・・・・
筆者は淡々と書いているが、他者を支配するために殺し合いをしてきた人の業の深さに戦慄した。
これまで認識していた世界、歴史観が一新される、人生でもそう読めない強烈な本だと思う。
歴史、文化人類学に興味がある人だけでなく、「世の中って一体なんなんだ?」といった根本的な疑問がどこかにある人に大お勧め。 続きを読む投稿日:2014.07.02