
破門
黒川博行
角川文庫
軽快な会話のリズムが面白い!
表紙のイメージから、深刻なサスペンスかと思ってしまいましたが、全く違いました。 ヤクザがでてきて、結構な暴力シーンがありますが(……得意ではない) ポンポンと軽快な会話のリズムが心地よく、面白かったです。 イチゴのシャツ(パジャマ?)とか、ちょっとしたネタがちょっと笑えて やさぐれた、コメディタッチの面白い小説でした!
1投稿日: 2017.02.25
黄昏に眠る秋
ヨハン・テオリン,三角和代
ハヤカワ・ミステリ文庫
読み応えある北欧ミステリの傑作。
少年の失踪から物語は始まる。 少年の母と祖父の悲しみとやるせなさが漂いますが、 感傷的どころか、冷静な筆致はその陰影を増幅させる。 さすが北欧ミステリ……、そんな印象すら与えます。 終盤の一行で、涙をこらえることができませんでした。 ずっしりと読み応えある北欧ミステリーの傑作です。
4投稿日: 2017.02.25
また、桜の国で
須賀しのぶ
祥伝社
何度も何度も、反芻し、かみしめる感動
読んだ後、何度も何度も、情景を思い出し、言葉を思い出し、 そして感動をかみしめました。 第二次世界大戦時のポーランドを舞台にロシアの血をひく日本の外交官を主人公に話は展開します。 「国を愛する心は、植えつけられるものでは断じてない。まして、他国や他の民族への憎悪を糧に培われるものではあってはならない」など、いつの時代にもつきささる言葉が随所にあります。 登場人物のひとりひとりが、懸命に生きている様も胸を打ちます。 「ポーランドから見る世界は、過酷かもしれないがきっと美しい」 この言葉に込められた思いに考えをめぐらすと、もう、たまらないです。 第二次世界大戦下のワルシャワの状況は想像するだに恐ろしいものですが、 その中でこうして人が生きている姿を描いてくれた著者に私は感謝の念すら感じます。 素晴らしい小説というのは、その作品だけではなく、そもそもの小説というものの可能性とすばらしさを 教えてくれるものだということを、改めて『また、桜の国で』を読んで感じました。
3投稿日: 2017.02.24
アメリカの壁 小松左京e-booksセレクション【文春e-Books】
小松左京
文春e-Books
トランプ時代を予言?!
トランプ大統領の就任後、話題の本書。 1977年に書かれたとあって、 「土曜日の午前中に働いているのは日本人くらい」という記述があり 「ああ、そんな時代にこの小説が書かれていたのか」と感慨深い。 内容も、もちろんフィクションなので、描かれる“壁”もSFっぽさがありますが、 輝けるアメリカ、という大統領のスローガンや内向的になるアメリカ国民、など 「おお、これが……」と納得します。 短編集一篇だけなので、分量としても手軽です。 そしてSFってこういうことができるんだな、という「SFの面白さ、魅力」というようなものも教えてくれるので これをきっかけにSFが注目されるといいなと思いました。
2投稿日: 2017.02.24
ワーキング・ホリデー
坂木司
文春文庫
初めまして、おとうさん……?!
元ヤンキーで今はホストの大和のところに 小学生の男の子が「おとうさん」と、たずねてきて、ビックリ!というところから始まり……。 しっかり者でまるで「おかあさん」のように家事をこなす小学生男子、息子の進くんとの短い夏休み生活。 ホストから宅配便業者へと転職するのですが、 宅配便屋さんとしての「お仕事もの」としても、そして進くんとの「父と息子もの」としても すごく楽しめます! ちょっとコミカルで、でもしっかり人情のこもった、温かくて気持ちのよいお話です。 進くんがコンビニと家にあるものでつくってくれる朝食とか、本当においしそう。 生活が愛おしくなる、そんな部分もとても魅力です。 父と息子、もう、比較的軽いタッチで描かれているけれど、 しっかり泣いてしまいました。坂木さんの作品で流す涙は、とても幸せな涙でもあります。 坂木司さんの作品の中でイチオシです!
1投稿日: 2017.02.24
うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち 【電子書籍限定 フルカラーバージョン】
田中圭一
角川書店単行本
“うつは心のガン”
“うつ”については一度、ちゃんと読んでおこうと思っていて そのまま読まずにきてしまっていたので「読みやすそうだな」と思った本書を。 “うつ”は、目に見えるケガやなどとは違い、判断が難しいところ。 それをどう判断するか、というよりも 「どう対応していったらよくなったか」というのが体験談で描かれてるので そこからわかってくることもあります。 自分が“うつ”かどうかということによって読み方も変わってくるかもしれませんが (とはいえ、体験者の「うつヌケ」は辛いときにこう考えればいいのか!という参考にもなります)、身近な人の“うつ”への対応や、それに悩む人にもヒントになるかと思います。 “うつ”は最近、よく見かける言葉になり、かえってそれが軽く扱われているような場面もありますが本書にある“うつは心のガン”ということを、もっと多くの人が意識できると “うつヌケ”できる人が多くなるのかもしれない……そんな考えが頭をよぎりました。 ライトなタッチで描かれていますが、 とても親切で理解しやすく、そして真摯な本です。 できるだけ多くの人に読んでほしいなと思います。
7投稿日: 2017.02.24
盤上の夜
宮内悠介
東京創元社
うまい、そして、面白い。
表題作の「盤上の夜」はなんともいえない余韻。 ちょっとこわい。けれどどこか透明感があり、突き抜けた美しさすらも感じる。 「象を飛ばした王子」が特にその“なんともいえない感触”が顕著で不可思議にもまるでもてあそばれるような感覚に陥りました。 摩訶不思議……ですが、SFなんだよ、と言われるとそうなのかと思う。 SFのイメージを覆されました。
0投稿日: 2017.02.23
渋谷金魚 1巻
蒼伊宏海
月刊ガンガンJOKER
ドキドキぶりが半端ない。
お魚って、生々しさ半端ないんだよなあ、と思っていたら そのお魚さんの生々しさを抉り出す描写がスゴイです。 ありえない設定ですが(と、願います)、 でもちょっとあり得るような気がする……そんな現実のひょっとしたらの感覚とむすびつく描写は見事です。 でも、やっぱり怖いので 「ああ、こわかった。無事に終わってよかった」という着地点を期待します。 怖いんだけど、気づいたら最終ページになっていて むさぼるように読んでました。面白かったです!
1投稿日: 2017.02.23
チャタレー夫人の恋人
D・H・ロレンス,木村政則
光文社古典新訳文庫
従来のイメージとは……?
もともと「従来のイメージ」というものがなかったので、 「従来のイメージ」を覆すと言われてもちょっとピンとこなかったのですが……。 チャタレー裁判とか、そういったイメージは確かにあり、世間的に「卑猥な」イメージがあるのでしょうか。全く、卑猥さなど感じませんでした。それどころか「生きる」ということにとても真摯な作品だと思います。コニーがなぜ、メラーズに魅かれたのか。そしてそれを周囲の人間がどう受け止めたのか。読み進めていくうちに、とても新しく、第二次世界大戦より前の時代、ましてやこれが「古典」だとは思えませんでした。 中盤以降、読み進めるのが本当に惜しく、けれどやめることができず、苦しくなるほどでした。 そして、最後の手紙。 人間という存在をここまで描き切ることができる小説の素晴らしさに、 ただただ、脱帽です。 生きているというこては、本当に素晴らしい。この作品を読んでそう思いました。
2投稿日: 2017.02.20
スペードのクイーン/ベールキン物語
プーシキン,望月哲男
光文社古典新訳文庫
プーシキンの代表作。新訳と、そして読み応えある解説がおすすめ!
表題作『スペードのクイーン』はこれまで『スペードの女王』と訳されてきたプーシキンの代表作。 神西清さんの名訳もさることながら、こちらの新訳もとてもいい。 読みやすいうえにとても明快で、臨場感がある。 『ベールキン物語』も、ちょっと寓話風なのだけれども、プーシキンの「かっこよさ」が随所に生きてロシアの文豪たちがプーシキンを好きだというのも納得です。 そして巻末の解説が、素晴らしい。特に『スペードのクイーン』の読み解きの面白さは「え、ここまで読めちゃうの?」という発見と驚き、そして感動の連続です。本を読む楽しみ(本編)、本を読み解く楽しみ(解説)。本当にすごい一冊だと思います!
1投稿日: 2017.02.20
