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BACH/バッハさんのレビュー
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  • やおい君の日常的でない生活

    やおい君の日常的でない生活

    魔夜峰央

    花とゆめ

    イジメぬいて埼玉

    関東近郊以外の人がこれを読んで埼玉にどんな印象を抱くのか、非常に気になっている。 テレビで話題となった、埼玉ディスりマンガ「翔んで埼玉」。 著者の魔夜峰央が当時住んでいた埼玉をバカにしまくり、 差別しまくり、病気扱いすらしたギャグ漫画。 港区在住者はA組、田無はE組、埼玉は外の掘っ立て小屋のZ組。 埼玉県民謡の定食屋メニューは残飯が並ぶ始末。 何もそこまでと思えば思うほどおもしろくなっていく。 いじめ抜くことで改めて埼玉のおもしろさを伝える、稀有な漫画作品。

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    投稿日: 2016.02.16
  • 伊藤潤二の猫日記 よん&むー

    伊藤潤二の猫日記 よん&むー

    伊藤潤二

    講談社

    伊藤潤二、もうひとつの傑作。

    ホラーコミックの奇才が、実際の日常をネタにマンガを描くとこんなことになるとは。 結婚し、妻が飼っていた猫二匹と同居することになった、J(伊藤本人)。 呪い顔で背中にドクロ模様を持つ「よん」と人懐っこい洋猫で噛み癖のある「むー」。 ドクロ模様のよんに怯えながらも、 徐々に猫がかわいいのはわかってきたけれど、 どう接していいのかわからないJ。 猫たちを巧みに手懐ける妻A子を真似てみるJの姿はまるでホラーのよう。 見慣れる猫が蛇に見えたり、ゲロを掴んでしまったり。 ホラー的描写が絶妙なギャグとして機能する、 非常に稀有作家であり、その猫への愛が絶妙に空回りする愛すべき猫エッセイ漫画。

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    投稿日: 2016.02.04
  • フューチャー・オブ・マインド 心の未来を科学する

    フューチャー・オブ・マインド 心の未来を科学する

    ミチオ・カク,斉藤隆央

    NHK出版

    心を見ることはできる…?

    『サイエンス・インポッシブル』でSF世界のこれからの実現可能性を物理学の観点から考察したミチオ・カク。 本作は、ライトセーバーやタイムマシンのようなモノではなく、 「フューチャー・オブ・マインド」、見えない心や脳の世界に特化して解説が行われている。 物理学者がみた脳の組織と意識、作用としてのテレパシーや念力、記憶操作などなど、 人間の外部に作られ描かれてきた未来ではなく、人間そのものの能力を増幅し、 新しい人類の可能性と未来が示されている。

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    投稿日: 2016.02.04
  • サイエンス・インポッシブル SF世界は実現可能か

    サイエンス・インポッシブル SF世界は実現可能か

    ミチオ・カク,斉藤隆央

    NHK出版

    夢見た未来はやってくるのか。

    SFを下敷きにしたマンガやアニメが当然の世代にとって、 現代は10年代以降、徐々にではあるが夢見ていた未来が見え始めてきた。 とはいえ、まだまだ夢でしかないものもたくさんある。 ニューヨーク市立大学シティカレッジ物理学部教授で、超弦理論の研究者。 科学書のベストセラー作家で科学番組のパーソナリティも務めるミチオ・カクは、 不可能のように思われた様々な事象を物理学者の視点で解説。 ・不可能レベルⅠ 現時点では不可能だが、既知の物理法則には反していないテクノロジー であるライトセーバーやテレポーテーションから、 ・不可能レベルⅡ 物理的世界に対するわれわれの理解の辺縁にかろうじて位置するようなテクノロジー のタイムトラベル、 ・不可能レベルⅢ 既知の物理法則に反するテクノロジー の予知能力などまで。 夢見た未来は、実現されうるのか。 スマホの登場すら想像できなかったように、 その答えは、未来にならなきゃわからない。

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    投稿日: 2016.02.04
  • 世界から猫が消えたなら

    世界から猫が消えたなら

    川村元気

    マガジンハウス

    なくなることで思い出すこと

    もし◯◯がなかったら、という想像をしたことがある人は多いと思うのだが、 大体は細かな状況設定の辻褄が合わず、無理ゲーな状況設定だけが残って妄想はその場で終わる。 本書は、そうした辻褄の合わなさということを一度脇において読んでみてほしい。 何かがなくなる世界にあって、自分と世界の関係、他人と世界の関係、自分と他人の関係、 それぞれがどう変化するかということより、なくなるということで思い出す様々なことが、 この物語の主題になっている。 なくなることではなく、なくなってほしくないこと。 それは記憶であり、思い出であり、その人自身なのだ。

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    投稿日: 2016.02.04
  • 路

    吉田修一

    文春文庫

    断ち切れない過去、進めない現在、未来への希望。

    台湾の台北と高雄をつなぐ新幹線は、日本の”新幹線”車両が走っている。 事情により、独仏による設備と日本の車両というハイブリッドなかたちで進んだこの計画。 新幹線を走らせる仕事を担当する春香を主軸に、日本統治時代の台湾で青春を過ごした日本人、 春香と台湾で出会い日本へ旅だった男エリックなど、吉田修一が得意とする群像がひとつに繋がっていく。 断ち切れない過去、進めない現在、未来への希望。 日本と関係も深く、最も身近かもしれない外国台湾の事実とフィクションが交錯し、 離れた人たちの心の動きと関係性のゆらぎがとても丁寧に描かれる。

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    投稿日: 2016.01.14
  • NHK ニッポン戦後サブカルチャー史

    NHK ニッポン戦後サブカルチャー史

    宮沢章夫,NHK「ニッポン戦後サブカルチャー史」制作班

    NHK出版

    これからの文化を考える基礎にもなる。

    「80年代地下文化論」や「ノイズ文化論」など、 いわゆるサブカルチャーと言われるものを体系的に、 かつ経験的に語り続けてきた劇作家の宮沢章夫。 自身の劇団「遊園地再生事業団」に作品においても、 入念なリサーチをもとにした作品作りを行ってきた宮沢にとって、 本書はまさにライフワークのような思考の集積である。 NHKで放送された『ニッポン戦後サブカルチャー史』を書籍化した本書。 もはやかつてサブカルと呼ばれたジャンルはないとも言われる昨今だけれど、 メインカルチャーとして受け入れられた様々なジャンルもかつてはサブであるものも多い。 カルチャー、文化と言われるものは社会と別のところで存在しているのではなく、 社会の中、社会と並走して発生、成長、成熟、衰退していくもの。 宮沢はその社会や政治経済とカルチャーとの連動を読み取っていく。 その視点は、これからの文化を見つめる基本的な教養となるはずだ。

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    投稿日: 2015.12.11
  • 闇金ウシジマくん(1)

    闇金ウシジマくん(1)

    真鍋昌平

    ビッグスピリッツ

    逃げ出したい現実のためのお金は、逃げられない現実を生む

    借りたお金は返さなくてはいけない。 当然そうなっていることがどうしても難しい人たちがいる。 闇金にお金を借りるということはその人にとって最後の手段であり、 藁にもすがる思いのはずなのだが、 この作中で借りる人々はことの事態を飲み込めていないし、 自分の状態を把握していない。 それはおそらく現実でも同じ状況なのだろう。 そしてその状況はもしかしたら、自分にも起こり得ることなのかもしれない。 自分は騙されることもないし、頼れる人が近くにいるから大丈夫と思える自信は本物なのか。 ウシジマくんは、お金が絡んだ問題はそうそう簡単ではない、 ということをこれでもかとぶつけてくる。 逃げ出したい現実を前にお金を借りてみたことで、 逃げられない現実だけが目の前に残ってしまうのだ。

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    投稿日: 2015.12.11
  • 永遠の詩03 山之口貘

    永遠の詩03 山之口貘

    山之口貘,井川博年

    小学館

    金銭的な貧しさと人間的な貧しさは関係ない

    貧乏だけれど明るい人がいる。 こういう人は友だちになるとおもしろい。 沖縄から東京へとやってきた詩人山之口貘は、 詩人という人間に宿命付けられたかのように貧乏な日々を過ごした。 しかし、彼はその境遇を哀れむことも、 金がほしいと詩にすることもなかった。 彼の金銭的な貧しさは、あっけらかんとして明るく、キモチがいい。 表紙にも書かれている詩「自己紹介」はこんな詩だ。 ーーーーー ここに寄り集まった諸氏よ 先ほどから諸氏の位置に就て考へてゐるうちに 考へてゐる僕の姿に僕は気がついたのであります                               僕ですか? これはまことに自惚れるやうですが びんぼうなのであります ーーーーー

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    投稿日: 2015.12.11
  • しろいろの街の、その骨の体温の

    しろいろの街の、その骨の体温の

    村田沙耶香

    朝日新聞出版

    成長してくニュータウンと少女の体。

    この小説は、男性読者には刺激が強いかもしれない。 性的な意味も含んではいるが、それはエロと呼ばれる意味ではない。 ままならぬ自身とそこから溢れる嗜虐性と困惑する少年性とでも言えば良いだろうか。 子どもの頃、たいていの男子は言葉通りの子どもで、 心身ともに成長の早い女子は、何歩も早く”子”が取れていく。 成長による自分の体の変化や脆い友人関係に戸惑いながら、 自分を支配できない少女は少年の心を支配し、その代償とするのです。 少女の成長と同調するかのように、 爆発的に広がり続ける新品の白い家が立ち並ぶニュータウン。 そして経済不況により、止まる開発。 少年も成長していくなか、少女は何を思うのか。

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    投稿日: 2015.12.11
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