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BACH/バッハさんのレビュー
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  • アブサン物語

    アブサン物語

    村松友視

    河出文庫

    アブサンは家族である。

    このエッセイは愛猫アブサンが亡くなったところから始まる。 中央公論新社「海」編集部にいた彼が、 同僚の安原顕が拾った(見つけた)猫をもらうところの回想から始まり、 死を向かえる終わりへと話しは進んでいくんだろうなと思いながら読むと、 わかっていながらにして、悲しみがこみ上げる。 21歳というそうとうな長生きをし、大往生したアブサン。 村松の奥さんは、猫がゴロゴロいっていることを意味すらも知らない状態からスタート。 しかし、村松と妻どちらが好かれているかというとどうも妻のようなのだ。 猫はわれわれの創造や思惑を軽々と超え(無視し)、気ままで自由である。 しかし、そこに愛情がないのかと言えばそういうことでもないのだ。 ペットと呼ぶにはあまりに相方であり、家族なアブサンの物語。

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    投稿日: 2016.03.04
  • 刺青・秘密

    刺青・秘密

    谷崎潤一郎

    新潮社

    自分の理想とする女に、自らの魂を刷り込む刺青を施すこと

    谷崎の実質的な処女作である「刺青」。 “奇警な構図と妖艶な線”で知られる腕ききの刺青師清吉は、 自分の理想とする女に、自らの魂を刷り込む刺青を施すことを宿願としてきた。 ある日、馴染みの芸姑の使いとして来た16、7歳の少女に、 思い描いていた支配的な女性の画題を重ねあわせ、その絵を彫らせてもらう。 臆病ですらあった少女は、 彫られた女性のサディスティックな強さを自らの内に取り込み、 突如として隠されていた本性が顕となるのだった。 文庫にしてわずか12ページの短編。 “鋭い彼の眼には、人間の足はその顔と同じように複雑な表情を持って映った”というような、 谷崎特有の足へのフェティシズムもすでに見られ、エッセンスが凝縮された作品になっている。

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    投稿日: 2016.03.04
  • アフリカ・ビジネス入門

    アフリカ・ビジネス入門

    芝陽一郎

    東洋経済新報社

    アフリカ大陸に注がれる投資家たちの熱い視線

    野村総合研究所にて金融システムコンサルタントを経て、 ソフトバンクグループの当時最年少役員を勤めた著者。 現在は会社を経営しつつ、2009年からケニア共和国のITベンチャーの投資事業を展開している。 これからワールドカップとオリンピックを向かえるリオ。 その未来を占う上でも、ワールドカップを終えた南アフリカの 現在と関連する分析に目を通しておくべきかもしれない。 大きくは「貧困・飢餓」という括りから抜け出ていないアフリカ。 だけれども、資源大国でもあるアフリカを「ビジネス」の視点で考えると、そこにはすごい可能性が埋まっている。 経営コンサルタントである著者が、真っ向ビジネスの視点からアフリカ市場を解説。 パラジウムなどのレアメタル採掘が盛んな中央・南部アフリカや ナイジェリアを中心に石油が採れる西アフリカなど、広いアフリカ全体で言えば、 気候も含めて国や地域ごとに特徴が大きく異なる。 ケニア共和国は資源に頼らず、産業主導で成長している国。 首都ナイロビでは、携帯電話が爆発的に普及し、金融システムが発達。 アイフォンを持った人で溢れ、後進国という表現はもはや当てはまらない。 今年の注目は南米かもしれないが、 引き続きアフリカはまだまだこれから開拓可能な、 新しい可能性に溢れている。

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    投稿日: 2016.03.03
  • 宇宙になぜ我々が存在するのか

    宇宙になぜ我々が存在するのか

    村山斉

    ブルーバックス

    宇宙の中の地球、地球の上の私の「材料」。

    重力波の検出によって、宇宙物理学は新しい時代へと突入する期待を感じる昨今。 素粒子物理学の視点から宇宙の根源を探る村山斉は、 東京大学のカブリ数物連携宇宙研究機構長を勤め、 ニュートリノやダークマターなど未知の物質について研究している。 村山が、宇宙のなかの物質である「私」の存在について起源をたどる。 地球や、いま我々が知っている星や銀河のすべての物質を集めても、 宇宙全体の5パーセントほどにしかならないという。 残りの95%はまだ解明されていない暗黒エネルギーやダークマターと呼ばざるをえないもので充ちている。 わかっている5%のなかには、ニュートリノと呼ばれるとてもとても小さな素粒子がある。 日本が誇る素粒子観測装置「スーパーカミオカンデ」で観測されたことも記憶に新しいが、 日本人が誇るべき研究分野として素粒子はある。 私たちの体を一秒間に数百兆個も通過してるニュートリノとは一体何なのか。 もはや見るという行為では捉えきれない、物質が人間とどんな関わりを持つのか、 未来を考えるためには、もはや避けて通れない分野の入門書。

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    投稿日: 2016.03.03
  • 日本の黒い霧(上)

    日本の黒い霧(上)

    松本清張

    文春文庫

    松本清張が突き止めた真実

    『或る「小倉日記」伝』で芥川賞を受賞したことをきっかけに、 朝日新聞社の記者から作家に転身した松本清張。 名誉、権力、愛にまみれた男と女の悲劇を描かせたら彼を抜く者はいない。 数々の小説がドラマ化される等、世代を超えて大人気の松本清張が書くノンフィクション。 1960年、「黒い霧」という言葉を流行らせた松本清張のノンフィクション『日本の黒い霧』。 この本は、戦後GHQの占領下に起きた事件の背後に潜む、政界や財界のいくつもの不祥事を「黒い霧」と呼んだ。 松本は『小説帝銀事件』を書く際、事件に疑問をもって調査していくうち、 さまざまな事件にGHQのある部門が関与している事実にいきたる。 下山事件で下山国鉄総裁はなぜ殺されたのか、その影に潜んだ事実とは何か。 ソ連元代表部二等書記官・ラストヴォロフの失踪事件や帝銀事件の平沢貞通犯人説への疑問等、 軍事占領下に起きた事件を、小説家の調査力と推理力で紐解いていく。

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    投稿日: 2016.03.03
  • 超常現象の科学 なぜ人は幽霊が見えるのか

    超常現象の科学 なぜ人は幽霊が見えるのか

    リチャード・ワイズマン,木村博江

    文藝春秋

    脳は見たいものしかみない都合のいい奴。

    イギリスのエディンバラ大学で超心理学の学位を取得した著者のリチャード・ワイズマン博士。 大学在籍中にはプロのマジシャンとしても活動。 超常現象の仕組みを学問と実践の両方から探った彼が、 20年の長きにわたる研究結果をまとめたのが本書。 世界中で100年以上に渡り、毎年何百万人もの人々が占い師や霊能者のもとに訪れ、 自分ことをズバズバ言い当てられたというのは、どういうことなのだろうか。 幽霊の目撃は後を断たず、写真が発明されてからはそこに写るものが霊だと主張する人々が出てきます。 人間の脳は精密にできているがゆえに誤作動も起こしやすいと著者は言う。 人間の知覚のゆがみと無意識を実感しつつ、人間の気づかぬ不可視の心理に迫ります。

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    投稿日: 2016.03.03
  • ロスト・ケア

    ロスト・ケア

    葉真中 顕

    光文社文庫

    死んで嬉しいわけない、けれども…

    もともとはブログ「俺の邪悪なメモ」で人気を集めていた著者が、 「第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した作品。 地方裁判所で死刑の判決が下されようとしている犯人の〈彼〉は、なぜか微笑みを浮かべていた… 戦後最多の犠牲者43人もの高齢者を殺した連続殺人犯、死刑判決の男がなぜ笑っているのか。 男も裁判もどこかおかしい。傍聴席に座る被害者遺族たちは、少なからず救われた表情をしている。 日本の介護事情の実情を、祖父の介護を経験した当事者である著者が、ミステリーという方法であぶり出した。 サイコパスなわけでも、衝動に任せた犯行でもなかった犯人は、いったいなぜ異常なまでの殺人を繰り返したのか。 決してあってはならない殺人事件に違う光をあてようとする名作。

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    投稿日: 2016.03.03
  • マザコン

    マザコン

    角田光代

    集英社文庫

    近づくと時にうっとうしく 離れると寂しい、母とは何だ。

    婦人公論文芸賞を『空中庭園』で、2006年『ロック母』で川端康成文学賞、2007年『八日目の蟬』でも、中央公論文芸賞を受賞した作品たちは、どれも家族のかたちや母の姿が綴られる。 母と子の関係を娘、息子、息子の嫁と視点をかえて描く短編集。 母親への執着が度を超すマザコンという状態は、なぜ他人から見ると居心地が悪いのだろうか。 母への想いは誰もが何かしら持っているものであって、 それは通常気恥ずかしさや恐さと呼ばれる感情がそうさせているのだろうか。、 しかし、想像してみてほしい、自分は本当に母のことをよく知っているだろうか 知らないことの方が多いのではないだろうか。 「母」とはいったい何なのか、誰だったのか。その存在の不思議さを改めて問われているようだ。 “母のことを知っているつもりになっているけど、実は知らないんじゃないか”という登場人物の言葉は、まさにその通り。 この小説をまとめていた4年間で、自身の母を亡くしてしまった角田。 母とは、自分を産んだ女性である、いうだけでは何も説明できていないのだ。

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    投稿日: 2016.03.03
  • 樅ノ木は残った(上)

    樅ノ木は残った(上)

    山本周五郎

    新潮社

    ただひとり、幕府の陰謀を見破っていた原田甲斐。

    人情味溢れる時代小説や目立たない存在に光を当てた歴史小説を残した小説家、山本周太郎。 唯一直木賞を辞退した気骨の人としても知られている。 本書は、江戸時代に起きた伊達氏のお家騒動「伊達騒動」を題材とした小説。 山本は、伊達宗重を殺した原田甲斐(宗輔)を主人公とし、 従来の悪訳としてではなく幕府から藩を護ろうとする忠義的な姿として描きました。 家全体が崩壊しないよう、せめて家名だけでも続くようにと願った人々。 空に向かって枝々を伸ばす樅ノ木が大地に根を張り、すくんと立つように、 人がそれぞれの信念/芯をもち、強く生きていた時代の力強さが伝わってきます。

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    投稿日: 2016.03.03
  • 新宿ラッキーホール

    雲田はるこ

    新宿ラッキーホール

    雲田はるこ

    onBLUE

    『昭和元禄落語心中』の雲田はるこBLもの

    ゲイではない男性がBLを楽しむというのは、難しいのだろうか。 ゲイビデオ制作会社で働く人間の過去と現在を描いた本書。 働く人間がみなゲイであるこの会社には、 わかりやすいけれど決してストレートではない性と感情の繋がりが描かれる。 男性のBL有り無しは描写の度合いにもよるという回答が多そうな気がするが、 『昭和元禄落語心中』で一般誌でもヒットしている雲田はるこが描くBLは、 キャラクターがかかえる葛藤や背景がうまく溶け込んでいる。 恥ずかしさや照れ、興奮をわかりやすく伝えるための 頬を赤らめるスクリーントーンの明快さにかわいらしさも感じられるのではないだろうか。 何が難しいわけでもない、素直に読めばおもしろい。

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    投稿日: 2016.02.16
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