
永遠の曠野 芙蓉千里IV
須賀しのぶ
角川文庫
シリーズ完結編
馬賊が愛用したというモーゼル拳銃を抱えた ふみが描かれたカバー絵にまずやられてしまった。このシリーズの完結編だが、このシリーズの中で飛び抜けて優れている。ヒロインふみの健気さ 力強さがとてもいきいきと読者に伝わってくる。ロシア革命期のシベリア 極東とストーリーの舞台があまり知られていない時代場所だけに、なおさら異世界モノ的な雰囲気も出て実に良い。
0投稿日: 2022.07.24
汝ふたたび故郷へ帰れず
飯嶋和一
小学館文庫
ボクシング小説
スポーツと言えるかどうかも疑問な命がけのスポーツの代表がボクシングである。このボクシングを題材とした小説は数々あるが、その中でも屈指の名作がこの作品である。「文章から殴ったときの手応えが伝わってくる」という評があったそうだが、まさにそのとおり。再生の苦しみと栄光というわかりやすい主題であるが、それだけに心を打つものがある。
0投稿日: 2022.07.24
合成生物学の衝撃
須田桃子
文春文庫
科学そのものが持つ可能性と危険性
科学そのものが持つ可能性と危険性を端的に表すのが、この遺伝子操作による生物の改変 そして創造である。「伝染病撲滅のため」という反対しにくい目的のため、遺伝子改変された生物を環境中に放す という話が出てきた。SF作家 上田早夕里の描いた環境汚染の話が、現実味を伴った形で書かれていることに慄然とする思いである。 軍事 民間両用の研究の話も深く考え込まされた。本書の中に「生物兵器研究の成果をモデルナに渡す」というくだりがある。今回のコロナ禍に対抗するmRNAワクチンをアメリカの企業がいち早く開発できたのは、このような基盤があったからなのだ と大いに納得してしまった。善悪は別にして「軍事研究反対」という主張を繰り返している日本学術会議を思うと、純粋に科学の視点からみて日本がどんどん立ち遅れてゆくのは当然のことだと思ってしまう。 著者は「科学ジャーナリスト」と言われている人で、込み入ったテーマをわかりやすく そしていくらかセンセーショナルな書き方をしている。本書の前に「化石の分子生物学」という研究者の書いた本を読んだが、遺伝子を扱うという同じテーマにも関わらず、書きぶりがジャーナリストと研究者の違いが大変によく現れていて面白い。
0投稿日: 2022.07.23
化石の分子生物学 生命進化の謎を解く
更科功
講談社現代新書
内容も素晴らしいが
ネアンデルタール人や恐竜など興味深いテーマを題材にしているので、かなり専門的な内容なのだが投げ出さずに読み進めることができた。他の本でも色々と言及されているネアンデルタール人や恐竜と違い、先カンブリア紀の話は初めて読むので特に興味深かった。このような内容も素晴らしいが、科学というものに対する姿勢 態度の話が良かった。締めくくりの「大切なことは、自分に不利な証拠を探すこと」に感銘を受けた。
0投稿日: 2022.07.22
「縮み」志向の日本人
李御寧
講談社文庫
比較文化論
「縮み」というキーワードで日本文化の様々な容態を批評論評している。韓国文化や中国文化との対比をさせている点が面白い。随分と昔の本ではあるが、多くの点で現在でもその鮮度を失っていない。もっとも日本経済が衰退しつつあり、韓国経済が基調としては上り調子な点が、この本が書かれた当時と大きく異なっているが。 記載されている主張には納得できるもの、納得できないもの様々であるが、縮み->詰め込み->全体主義.個人の埋没という点は今回のコロナ禍で何度も言われている「同調圧力」と同根と思いひどく納得してしまった。紋章 社章にも同じ流れがあるが、昭和から平成令和となってこちらの方は意識が変わってきたかな。紋章好き->名刺好き->象徴好き->天皇制の流れには納得しがたいものがあるが。
0投稿日: 2022.07.13
イヴの末裔たちの明日-Genesis SOGEN Japanese SF anthology 2018-
松崎有理
東京創元社
近未来のお話
AIが多くの人部との職を奪いその代わりにベーシックインカムが実現する。マルクスの言う無産階級ではなく、古代ローマ以来の無用階級が出現してしまう。その時、人々は...という、そう遠くない将来 実現してしまいそうな近未来の話である。SFと言うよりは予想ものであり、内容もオチもほぼ想定の範囲内ではあるが、それだけにしっかり足が地についた感じがして読みやすい。
0投稿日: 2022.07.06
薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~(14)
日向夏,倉田三ノ路,しのとうこ
月刊サンデーGX
なかなかに魅せる
日向夏さんの原作を大変に手際よくコミカライズしている。かなりの長編で巻を重ねているにも関わらず、謎解きの一つ一つに結構工夫が凝らされていて、読んでいて飽きない。同じ原作をコミカライズしているねこクラゲさんの絵柄のほうがやや好みではあるが、こちらの絵の方もそれなりに良い。
0投稿日: 2022.06.30
薬屋のひとりごと 10巻
日向夏,ねこクラゲ,七緒一綺,しのとうこ
月刊ビッグガンガン
絵がいい
同じ日向夏さんの原作を、ねこクラゲさんと倉田三ノ路さんの二人がほぼ並行する形で次々とコミカライズしている。ストーリーのメリハリは倉田三ノ路さんのほうがややいいが、ねこクラゲさんはとにかく画力が高いのが特徴である。特にこの巻の前半部分のように美女勢ぞろいのシーンは画力の高さが光る。
0投稿日: 2022.06.30
決戦!賤ヶ岳
天野純希,木下昌輝,矢野隆,土橋章宏,乾緑郎,吉川永青,簑輪諒
講談社文庫
企画倒れ
本書を作るための下打ち合わせを記録した、賤ヶ岳七本槍の七人の武将を七人の歴史作家に割り振る「『決戦!賤ヶ岳』七本槍ドラフト軍議」という電子本を、以前読んだことがある。これがずいぶん面白かったのでかなり期待して本書を読んでみた。しかし賤ヶ岳の戦いと七本槍に限定した企画のせいか、冒頭作の加藤清正がまあ良かったが、他の決戦シリーズと比べて面白い作品が少なかった。
0投稿日: 2022.06.30
マインド・クァンチャ The Mind Quencher
森博嗣
講談社ノベルス
風変わりな剣豪小説
剣豪小説といえば吉川英治.柴田錬三郎.子母澤寛.五味康祐...と枚挙にいとまがないが、その剣豪たちとはひと味もふた味も違う風変わりな剣豪小説である。全五巻の完結作ということで、主人公の剣の腕前は上がっているのだろうが今ひとつピンとこなかった。天一坊事件のような終盤に違和感を覚えたが、エピローグでなんとなく納得させられた。
0投稿日: 2022.06.30
