
人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」
篠田謙一
中公新書
牽強付会からほど遠い、知的興奮が詰まった1冊です
昨年ノーベル賞を得たペーボ氏らが拓いた進化遺伝学による人類の系譜について、現時点での知見がまとめられている。座組がしっかりした研究集会を覗いている感じで、言葉は平易なのだがモザイク状に広がった考察を自分の頭で整理するのは一苦労する。昭和に学んだ人類学がかなり覆っているのが恐ろしくも凄かったです。
0投稿日: 2023.06.03図書館司書と不死の猫
リン・トラス,玉木亨
創元推理文庫
回り道を楽しむホラー
ラノベなどで主人公が異界に連れて行かれるお話はよく見るけれど、読者自身にそのような体験をさせる書きっぷりが新鮮でした。猫の日常行動が意外な方向へ解き明かされるのも面白かったです。
0投稿日: 2023.05.26最終講義――分裂病私見
中井久夫
みすず書房
「回復過程」という考え方が画期的だった時代
1997年3月に神戸大学教授を退任されるにあたり、統合失調症との出会いから当時最新の見解までをおさらいされた講義録。 「病気というのは人生の仕切り直しの機会」などの言葉に救われる人は、今なお多いと思う。 治る病気だと思われていない、いくつかの薬が効くこともあるという1960年代から様々なツールを通して「回復過程」と捉えなおして患者を手助けされてきたお話はリアルかつ感動的で面白かったです。
1投稿日: 2023.05.16本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部「女神の化身XI」
香月美夜,椎名優
TOブックス
いよいよ残り1冊
web連載で一難去ってまた一難にハラハラし通しだった辺りがついに書籍化されました。本編の加筆が2万字に及び、書き下ろしによる多視点が以前までにも増して立体的で素晴らしい1冊になっています。 約半年後に最終巻を迎えるのが寂しいような気もしますが、それ以上に楽しみです。 神に祈りをꐕ
0投稿日: 2023.05.10ペスト
カミュ,中条省平
光文社古典新訳文庫
遅ればせながら「100分de名著」から来ました
とても読みやすい訳。しかし不条理を煮詰めた内容は重く、一気読みはできなかった。 ペスト(に象徴される何者か)と直面した人々の振る舞いに、コロナ禍の初期に見受けられた事件や空気を思い出す。「ペストと戦う唯一の方法は、誠実さなんだ」「ペストとは足踏みにほかならない」など、印象に残る言葉も多かったです。
0投稿日: 2023.05.09腸よ鼻よ 08
島袋全優
KADOKAWA
一難去らず、また一難。とにかく応援
潰瘍性大腸炎の実録ギャグマンガ8巻にして、ようやく連載開始間近の時間軸まできました。しかしこの後もすんなりとはいかないことを、web連載を読んでいる読者は皆知っているというメタ展開も興味深いところ。 早く痛苦しく貧しい状況を脱却できますように
0投稿日: 2023.03.16漢方医学 「同病異治」の哲学
渡辺賢治
講談社学術文庫
漢方薬と腸内細菌の互恵関係など興味深い話が多い
私自身、抗がん剤の副作用を漢方薬に救われた経験があるが漢方のことは全く知らなかった。著者らの考えでは全人的医療としての漢方は、西洋医学と密接な協力関係を築くことによって高齢化を始めとする今日的な課題に応えうる。しかし現状では専門医も少なく補助的な立場に留まっているようで、もったいないと感じた。
0投稿日: 2023.02.21脱・陰キャで事故プロデュース
島袋全優
エッセイささくれーる
「腸よ鼻よ」のバックグラウンドが知れて面白かった
連載開始当初から続けて読んでいる潰瘍性大腸炎との闘病記録ギャグ漫画「腸よ鼻よ」の作者自叙伝。こういう作品をキチンとリコメンドしてくれたらいいのに、2023年3月に出る第8巻を検索するまで知らなかったのは残念。
0投稿日: 2023.02.12宗教地政学から読み解くロシア原論
中田考
イースト・プレス
地図の図版が多くてありがたい
2022年いちばんの国際問題であり、多くは軍事問題・人道問題・経済問題にフォーカスして語られてきたロシア・プーチンによるウクライナ侵攻について、プーチンの妄挙だけでは無い何かがあると感じていたところ、キリスト教会の東西分裂から1000年の歴史というぶっとい補助線を引いてもらった。理解の及ばないところは多いが、いま読めてよかった。
0投稿日: 2022.12.31リスクコミュニケーション
福田充
平凡社新書
行動判断がベネフィットからリスクへシフト
リスクは仮定・渦中はクライシスと端的に分類しつ、さまざまな災害に対応できる社会基盤を創出するオールハザードアプローチを構想する。最後に載せられた津田大介氏との対談で2013年頃までのtwitterは炎上しにくかったとあり、仕掛けの重要さに思い至った。 本書の執筆は菅義偉政権から岸田政権への移行期。説明責任やコミュニケーションへの態度が前進することを期待して結んでいるのが、いまとなっては虚しい。
0投稿日: 2022.12.12