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パドラッパさんのレビュー
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  • 自然、文化、そして不平等 ―― 国際比較と歴史の視点から

    自然、文化、そして不平等 ―― 国際比較と歴史の視点から

    トマ・ピケティ,村井章子

    文春e-book

    フランスの平等性はフランス人が言うほどでもないらしい

    先日「21世紀の資本」を読み直し(やはり面白かった)、最近の彼の関心事を知りたくなって読んだ昨年3月の講演録。 10年前には資本と所得の格差拡大が自然過程であり国際的な累進課税が処方箋だと(乱暴にまとめると)言っていたが、超格差社会から転身したスウェーデンをヒントに、政治や経営への市民参加が平等への鍵であること、その射程は教育・医療・ジェンダー・環境・気候変動などに及ぶことを、様々なデータを示しつつ簡潔に語っている。 世界不平等データベースが公開されており、レポートもあるので、色々と考えてみたい。 https://wid.world/

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    投稿日: 2023.08.26
  • 140字の戦争 SNSが戦場を変えた

    140字の戦争 SNSが戦場を変えた

    デイヴィッド パトリカラコス,江口 泰子

    早川書房

    ナラティブ戦の実態を追求した初期の1冊

    少し前の本(原著2017年、邦訳2019年)で、語られている内容に懐かしさを感じると同時に、今日に地続きで感嘆するところが多かった。 その中でも、マイダン革命やクリミア編入でウクライナに緊張が走っていた2014年にロシアの「トロール工場」(ネット言論捏造・荒らしのパイロットプラント)で働いていた若者の話が興味深い。その主がワグネルのプリゴジンで、彼らにX Blueを売ることのヤバさなどに思いをめぐらせている。

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    投稿日: 2023.08.22
  • 腸よ鼻よ 09

    腸よ鼻よ 09

    島袋全優

    KADOKAWA

    来月最終巻が出ます(2023/09/22予定)

    入院病棟からの外出で寿司を堪能できるようになり、病をほぼ克服したかに見えたのが前巻の締め。 し・か・し、そうは問屋が卸さない。ここにきての驚愕の展開に難病の難病たる所以を突きつけられつつ、ギャグを手放さない作風が見事。これが本当に落ち着くのか目が離せません。

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    投稿日: 2023.08.18
  • ホーキング、ブラックホールを語る BBCリース講義

    ホーキング、ブラックホールを語る BBCリース講義

    スティーヴン W ホーキング,佐藤 勝彦,塩原 通緒

    ハヤカワ文庫NF

    「宇宙を語る」の電子化希望

    BBCラジオで2016年に行われた15分2コマの講義録。量子宇宙論によってブラックホールのインフォメーション・パラドックスを解くという超難解な話題を30分で語りきってしまうという凄まじい内容。ニュートン宇宙論に少し相対論が入った程度の理解しか無い私には、とてもいい入門だったと思う。もう少し突っ込んだ本を読んでみたくなったが、筆頭候補の「宇宙を語る」が電子化されておらず残念。

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    投稿日: 2023.08.09
  • 都市と野生の思考(インターナショナル新書)

    都市と野生の思考(インターナショナル新書)

    鷲田清一,山極寿一

    集英社インターナショナル

    射程の長い話は古びない

    2015年に行われた対談録。シジュウカラの鈴木俊貴氏と山極氏の共著が2023年8月に出るにあたって検索していて引き寄せられた。 1980年代には「成熟社会」や「少子高齢化」は悪いことではないと考えていたが、グローバリゼーションにあって貧困と格差に覆われているとの現状認識。地域社会の小商いは大資本の流通に勝てないと、錦市場の目線で語られる。人類が類人猿との共通祖先から別れて700万年の特質とも絡めて、資本主義の不自然さが浮き上がってくる。 また、liberalの本意は気前が良く大らか、そして豊富であるためにとらわれない自由。これが政治的な自由や自分勝手のlibertyとしばしば混同されているという指摘も興味深かった。

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    投稿日: 2023.07.28
  • 人を動かすナラティブ

    人を動かすナラティブ

    大治朋子

    毎日新聞出版

    表紙と試し読みで持った自分のナラティブは安易でした

    表紙絵とコメントから「安易なお話に引き寄せられる心性の解明」がテーマかと思いきや(それもあるのだが)、正解を求める論理科学モードの認知的スキルと発散的思考のナラティブモードの社会情動スキルを各種の場面で丁寧に追った上で、ナラティブとアルゴリズムを駆使する心理操作がなぜ可能でどう活用されているかが解き明かされており、それが表紙の意味だと気付いて私自身が安易なナラティブに乗っていたことに愕然とした。 今年ここまで読んだ本で、有数の面白さでした。

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    投稿日: 2023.07.11
  • おいしいベランダ。 亜潟家のアラカルト【電子特典付き】

    おいしいベランダ。 亜潟家のアラカルト【電子特典付き】

    竹岡葉月,おかざきおか

    富士見L文庫

    通知してくれたらいいのに〜

    「おいしいベランダ。」全10巻(+1)のシリーズ後を描いた短編3本と、こぼれ話的な印刷書籍の特典SS12本がとても楽しかったです。お話と食レポの両面でごちそうさまでした。あぁ、海南鶏飯食べたい。 --------- 2021年6月に完結するまで発売即読みしていたシリーズの続編が2022年6月に出ていたことに、2023年6月に遅ればせながら気が付きました。購入した本の続巻をwebの本棚から見る機能がついたおかげですが、他書店には普通にあるシリーズ続刊通知機能が無いのは困りものですね。毎日のように送られてくる割にハズレが多いリコメンドをあらためて検索しましたが、そちらには入っていませんでした。

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    投稿日: 2023.07.04
  • 原発再稼働 葬られた過酷事故の教訓

    原発再稼働 葬られた過酷事故の教訓

    日野行介

    集英社新書

    規制庁や行政のロジックを見事に腑分け

    毎日新聞での調査報道を再構成し再考した一冊。例えば避難計画に実効性が無いばかりか虚構の積み上げになっていることが顕わになっていく。何故こうなるかというと、事故に備える構えのはずが、再稼働のため作っておくものに転倒しているから。その他リアタイでは理解しがたい展開が「彼ら」それぞれのナラティブでは普通の物事であるというギャップが丁寧に分析されていて、興味深くも暗澹とした。

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    投稿日: 2023.06.28
  • 氷原・非情のブリザード

    氷原・非情のブリザード

    新田次郎

    新潮社

    非持続的な人間活動への数々の警鐘

    自然と人間の関係について書き続けた氏の急死後すぐ、1980年4月に出た短編集。「孤高の人」や「八甲田山〜」などの影に隠れるマイナーな作品が淡々と並ぶのを読むうちに、戦争や開発その他のエゴが自然ひいては人間を蝕んでいることが60年ほど前に言語化されていることの凄みが迫ってきました。 収録作と初出年のメモ: 「氷原」1956 「非情のブリザード」1962 「火山群」1957 「虹の人」1958 「三つの石の物語」1958 「神通川」1968 「風の墓場」1975(全集に収載) 「春紫苑物語」1975(全集に収載) 「高原の憂鬱」1975(全集に収載)

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    投稿日: 2023.06.18
  • 自民党の統一教会汚染2 山上徹也からの伝言

    自民党の統一教会汚染2 山上徹也からの伝言

    鈴木エイト

    小学館

    7月8日、安倍元首相暗殺から間もなく1年

    逸早く情報共有すべく緊急出版された前著には「ごった煮」感があったが、本書は情報の氾濫や教会と自民らのダメージコントロールなどで拡散しズレた論点を整理し直すことに主眼があり、読みやすくまとまっていた。同時に事件後の動きに詳しく、現状が一層クリアに見えてくる。これを踏まえて前著を読み直すのがいいかも知れない。

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    投稿日: 2023.06.12
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