
クラッシュ
楡周平
角川文庫
エンターテインメント小説として割り切ると、抜群の面白さ
最新の航空機・コンピューター&インターネットに関して、くどいくらいディーテールを記述しているが、こここそが楡氏の本領発揮の部分で、フライトシステムの改竄⇒航空機事故・サイバーテロ(パソコンのクラッシュ)⇒経済活動の大混乱というストーリーにより重いリアリティーを与えることになる。エンターテイメントとして読むと抜群の面白さで、引き込まれるようにして読んだ。最後の終わり方はあっけないが、後半の途中までの重たいトーンに比して、ちょっとだけ明るく、あっさりと解決する終わり方は、これはこれで悪くないと思う。
1投稿日: 2014.04.26
クーデター
楡周平
角川文庫
現実味のある結構重厚なプロット
オウム事件を彷彿とさせる宗教団体によるクーデターだが、オウム事件よりさらに現実味のあるクーデターに仕上がっている。前半の状況設定がとても長く(銃器の説明など結構オタク的)、多少間延びする場面もあるが、後半は一気に読める。朝倉恭介vs川瀬雅彦という本屋のフレーズに踊らされて読み始めた感もあるが、川瀬が主人公となる『クーデター』、『クラッシュ』の方が、登場人物の厚み(人間味)があり、こちらの方がお勧め。
0投稿日: 2014.04.19
猛禽の宴
楡周平
角川文庫
前作・Cの福音と比較すると、圧倒的に面白い小説
Cの福音に登場する朝倉恭介が、猛禽の宴では人間くさく(親代わりであるファルージオを半身不随にされた怒りなど)描かれている。悪党であるコジモを相手にすることで、恭介が相対的な正義を演じているせいもあると思うが、この本では共感を持てる存在である。個人的な復讐戦で戦闘ヘリ・コブラまで持ち出すのはどうかと思うが、たった二人でマフィアの一味を全滅させるラストは痛快である。
0投稿日: 2014.04.12
Cの福音
楡周平
角川文庫
ストーリーとしては非常に面白いが・・・
USから日本へのコカイン密輸方法は、非常にリアリティーがあり、これなら実際にも上手くいくのではないかと思わせる。各種銃器の説明についても専門家はだしであり、緊張感も伝わってくる。この一方で、朝倉恭介をはじめとする登場人物たちの背景描写に割く紙面が少なく、人としての重みが伝わってこない。ダークヒーローという触れ込みだが、恭介にいまひとつ入り込めないで読了した感じ。
0投稿日: 2014.04.09
日輪の遺産
浅田次郎
角川書店単行本
終戦前後を舞台とした名作
浅田氏の作品では、本書『日輪の遺産』と『シェエラザード』、『終わらざる夏』が第二次世界大戦の終戦をテーマとしているが、いづれの小説も名作と称していいと思う。本編の小泉中尉、シェエラザードの土屋少佐、終わらざる夏の吉江少佐ともに主人公ではないが、非常に人間くさい、渋い役どころで登場し、“浅田氏独特の小説らしさ”に一役買っている。是非とも読んでほしい三作と思っている。
4投稿日: 2014.04.06
さよなら快傑黒頭巾
庄司薫
中公文庫
男の子も結構面倒なもんだ。なんせ大義名分がひつようだから。
赤頭巾ちゃんに引き続いて読んだせいか、庄司薫の文体(一部にはサリンジャーの模倣だともいわれている)にも大分慣れて、すらすら読めた。女性間の人間関係は男に比べて複雑怪奇に感じるが、男は男で結構面倒くさいということが、この本を読んでよくわかった。なんせ、何をやるにしても大義名分が必要で、行動が先にあったとしても、これ(ある意味、言い訳)を探し続けなければならない。いつでも怪傑黒頭巾でありたいと思うのは男の悲しい性。
0投稿日: 2014.03.23
赤頭巾ちゃん気をつけて 改版
庄司薫
中公文庫
40年以上前の本だが、今の若者にも読めるであろう名作(?)
高校生のころに読んだ本を再読。中学から大学って、『何が何だか分からない悩み』を抱えて、『何物にもなれそうで何物でもない』と表現できそうな時代だが、今でも、これは変わらないと思う。50歳をとうに超えた今、改めて庄司薫を読んでみたが、感性が擦り切れてしまっているためか、当時抱いた強烈な印象はない。今の高校~大学生が読んだら、どう感じるのだろうか。乗り掛かった船で、黒・白・青と読む予定。
8投稿日: 2014.03.19
アフリカの瞳
帚木蓬生
講談社文庫
アフリカの未来に光明を灯す日本人医師に脱帽
HIV感染・教育インフラの不備・貧困の悪循環と10年前に書かれたこの本の内容は、今でもアフリカの現状と変わらないと思う。無能な政治、巨大製薬会社の闇など外部に原因を求めるのは簡単だが(これはこれで痛切なしっぺ返しがあるが)、まず身近でできることから始めようという作田医師夫妻に頭が下がる。併せて、女性の地位向上と教育、これがいかに重要かが切実に理解できる。帚木文学の中でも一二位に挙げられる一冊だと思う。是非とも皆さんに読んでほしい。
0投稿日: 2014.03.15
量刑(上・下合冊版)
夏樹静子
光文社
少し硬い裁判の話に、得意のサスペンスを織り込んで読みやすく
小説の大筋は、裁判官の視点から“量刑を決定する難しさ”がテーマとして貫かれている。ややもすると読みにくくなるが、夏樹氏はサスペンスの名手であり、単調になりがちな量刑決定の過程に、裁判長の娘が誘拐されるというストーリーを加えて変化を出している。評価としては三つ星にしたが、四つ星でもいいかも。
1投稿日: 2014.03.02
震える牛
相場英雄
小学館
大型ショッピングセンターの裏側を鋭く描いた社会派警察小説
相場英雄氏作品の初読。かって問題になった牛肉偽装をベースに、駅前の商店街をシャッター街化してしまう郊外への大型ショッピングセンターのからくりも交えて、話は展開する。単なる推理物としての警察小説ではなく、時代背景を巧みに切り取っているところが面白い。それにしても最後の警視庁一課長の悪ぶり・・・これも実際の警察機構(=国家公務員機構)の中に実在するか。お勧めの一冊。
2投稿日: 2014.02.08
