
沈黙の艦隊(1)
かわぐちかいじ
モーニング
ありうる未来を想定しつつ読んでみる
1988年から96年にかけて連載されたこのマンガが、現代の政治や国際情勢に訴えかける射程は驚くほど広いのではないでしょうか。アメリカの原子力潜水艦「シーバット」を日本の海自が占領、独立戦闘国家「やまと」と名乗り、世界に自らの思想を発信していきます。“政軍分離”“世界政府構想”“沈黙の艦隊計画、別名SSSS(Silent Security Service from the Sea)”などなど、提示される概念は、実態が付いてきていないものもありますが、実際の政治においても検討して見ていいんじゃないかという要素を含んでいます。国連会議から去る海江田が最後に言った「地球のことは海から解決するほうがいい」という言葉は、“水の惑星=地球”に生きる自分たちの安全保障問題を考えるときに、とても重要な言葉にも思いました。マンガが最も得意とする”if”の物語のなかでも、リアリティと危機感を強く感じる名作。(スタッフI)
9投稿日: 2013.09.20信長のシェフ 1巻
西村ミツル,梶川卓郎
週刊漫画TIMES
料理の技術は果たして進歩しているのか
西洋料理の料理人(だったらしい)男ケンは、平成の現代から戦国時代へタイムスリップ。料理のこと以外の記憶をほぼ失いながら、料理人として織田信長に仕え始めます。いわゆるタイムスリップものですが、料理人という設定はとても新鮮。特に珍しいもの好きだった信長のシェフを務めるというシチュエーションもとても説得力があります。ごちゃごちゃ言わずに食べたらわかるという、シンプルな食の論理が戦国時代の生き様とうまく共鳴した、美味しそうな戦国マンガです。(スタッフI)
2投稿日: 2013.09.20キングダム 1
原泰久
週刊ヤングジャンプ
500年戦いづつける国を治める王になる男の誕生
これはおもしろい! 小難しいことではなく、読む快楽を与えてくれるマンガ。中国全体がまだ統一されたことのない春秋時代が舞台なのも珍しく、新鮮。国を追われた嬴政は王を目指し、戦争孤児の信は将軍を目指すふたりの少年は、ひたすら戦い抜いて、頂点を目指します。無数のキャラクターが登場しながらも、しっかりとそれぞれの個性が描き分けられ、埋もれていくことがない。これが連載デビュー作とは思えない力。近代的な武器が発明される前の戦いは、人が人に飛び込み、物理的にぶつかり合う戦闘のみ。戦場の群衆や背景も丁寧に描かれ、遠い時代の遠い場所ということを忘れさせる没入感に、熱と勢いが溢れています。嬴政が始皇帝になるという歴史的事実を踏まえた上でなお、読み進めるワクワクが止まらない歴史ファンタジー。(スタッフI)
15投稿日: 2013.09.20センゴク(1)
宮下英樹
ヤングマガジン
合戦てそんなに簡単なことじゃない! という前提。
このマンガを読むとき、所詮マンガだからとか、こんな戦い現実にあり得ないよねという考えは一切捨てましょう。「全ての常識を覆す超リアル戦国合戦譚」とキャッチコピーがついた『センゴク』は、本当にリアルな戦闘表現に徹したマンガで、これまで通説とされてきた戦い方に違和を唱え、「だがこの通説には疑問が残る」という言葉とともに大胆な新説を描くのです。それもその説はいちマンガ家が思いつきで書いたものではないことが、重要なポイント! そうした新説は、大河ドラマ「平清盛」でも時代考証を務めた、東京大学史料編纂所教授で歴史学者の本郷和人を始め、識者を意見を吸収して、宮下が追加取材を行っているそう。もはやこれは新しい戦国合戦史の教科書なのかもしれません。(スタッフI)
3投稿日: 2013.09.20NARUTO―ナルト― カラー版 1
岸本斉史
週刊少年ジャンプ
戦闘能力はどこまで高まるのかの実験
オリエンタルな要素を中心とした、自分で能力を制御しきれない男が主役の異能バトルもの。こう書くと、やはり同じ「週刊少年ジャンプ」で連載されていた「ドラゴンボール」を思い出させます。事実、海外でも、ドラゴンボール的な位置づけで人気があるようです。ドラゴンボールと同じく、生き返るという手法を取ってしまったがゆえに強さのインフレが若干起こりつつあるのですが、そこは力だけで戦わない忍術であることが、それを絶妙に回避しています。お互いにできることを分担し、それぞれの能力を最大限発揮できるようにする。すごく当然なことのようですが、子どもたちはマンガを通して、こうしたことをしっかりと学んでいくんだよなと、ジャンプを読んで大人になったいま思っています。(スタッフI)
0投稿日: 2013.09.20へうげもの(1)
山田芳裕
モーニング
美を言葉で表すとこういうことになるのでしょう
発音する時は“ひょうげもの”。「これは『出世』と『物』、2つの【欲】の間で日々葛藤と悶絶を繰り返す戦国武将【古田織部】の物語である」と連載時に描かれていたように、戦国武将でありながら、茶の湯と物欲にまみれ、武士としての威厳や出世との間で葛藤する古田織部。彼は、千利休の静謐な美のありようとは真逆、動的な“破調の美”を確立していきます。この破調は、利休が自然とともにある侘び寂びの有り様と追求したのとは違い、人工的な意図を持って美をなし、「はにゃあ」や「めぎゅわ」「みゅきん」というオノマトペとして表現されていきます。圧倒的な趣味の世界でありながら、完璧に政治の道具でもあった茶の湯。美のいきどころが、力のいきどころだった稀有な時代の変人たちを見よ!(スタッフI)
0投稿日: 2013.09.20浮世艶草子(1)
八月薫, 篁千夏
浮世艶草子(1)
八月薫,篁千夏
コミック乱
エロかった江戸時代のことを真面目に考える
エロ漫画を中心に活躍するマンガ家八月薫が、吉原を舞台に江戸の性風俗を、詳細な解説とともに描いています。江戸時代は、今よりももっと性に対してあけっぴろげだったと言われていますが、このマンガでは、吉原が抱える問題や人間同士の人情、身分の違いよる権力など、性の文化にまつわる生(いきること)の文化が随所に織り込まれています。武家の娘の性の指南書や初めての男女をレクチャーする「介添女」のこと、夜這い文化に混浴文化、そして大奥事情などなど、お上のことも民衆のことも硬軟織り交ぜたお話しが詰まっています。Hな場面ももちろんいいのですが、それ以上に江戸時代の勉強になるという優れものなのです。(スタッフI)
2投稿日: 2013.09.20蒼天航路(1)
王欣太,李學仁
モーニング
戦う男の血と汗と涙と。
日本なら戦国時代、中国なら三国志。このふたつは歴史漫画普遍のモチーフなのかもしれません。個性溢れる人物、それぞれの特技、特性を活かした生存戦略、命をかけた戦い、人間同士の魂の交流や騙し合い。本書もしかり、三国志を描くことは人間そのものを描くことになるんですよね。「三国志演義」以来、つとに悪役として描かれてきた魏の曹操を、北方謙三の『三国志』と同様主役に据え、史実によりながらも時に残虐過ぎるほどの戦闘シーンや知謀戦略を駆使した駆け引きなどを盛り込み、エンターテイメント作品として第一級の仕上がりに! あえて劉備側からでは三国志もいいものです!(スタッフI)
0投稿日: 2013.09.20お~い!竜馬(1)
武田鉄矢,小山ゆう
ヤングサンデー
武田鉄矢のマニアっぷりが存分に生きた傑作
司馬遼太郎氏の『竜馬がゆく』の影響で生粋の坂本竜馬オタクとなった武田鉄矢氏による原作、小山ゆう氏作画による坂本竜馬伝。『竜馬がゆく』で描かれなかった、幼少時のことから描くことと、史実とフィクションのギリギリラインを描くこととを考えてスタートしたのだそう。このマンガを引っ張るのは、小説よりも明確にされた強力なキャラクター設定。竜馬の天パしかり、西郷隆盛の極太眉毛しかり、性格と外見との関係性が見事に演出として生きています。一気読み確実な激動明治のかっこいい男たち。ちなみに、金八先生の苗字“坂本”は、もちろん坂本竜馬からきていますよ。(スタッフI)
0投稿日: 2013.09.20つらつらわらじ(1)
オノ・ナツメ
モーニング・ツー
余白に込められた情報量に気づくということ
備前岡山藩から江戸までの参勤交代を描いたマンガ、と書けばシンプルですが、そもそも参勤交代がマンガの題材になるとは想像していませんでした。質素倹約を掲げた老中松平定信による“寛政の改革”期、それに抗うように贅沢を好む藩主松平治孝は、多くの部下たちを従えながら来る日も来る日も歩き続け、さまざまな事件に遭遇していきます。歩いては留まり何かが起こる、もしくは誰かが何かを起こす。ものすごい数の人間がお供にいることを考えると、そこには数限りない無数の物語が埋もれているわけです。オノ・ナツメのすごさは、絵やコマ割りなどはもちろんですが、言葉を発しない瞬間に蠢く情報がとても雄弁だということ。静かなコマが大きな情報をもっているときが大いにあって、その筆力に唸ります。(スタッフI)
2投稿日: 2013.09.20