
多重人格探偵サイコ(1)
田島昭宇,大塚英志
ヤングエース
洗練された残酷さ
残虐な殺人が次々と起こる猟奇的な世界を、田島昭宇氏のノワールな作画で描きあげた本作。目を背けたくなるほど残酷な描写が、人体実験と猟奇殺人の狂気に満ちた世界を際立せています。探偵的な存在であり、事件の発端に関わる人物でもある主人公の雨宮は、解離性同一性障害、すなわち多重人格者。事件を追う雨宮としての人格や凶暴で手の付けられない他の人格が入れ替わりながら、発生し続ける猟奇殺人犯とその真相に迫ります。一連の殺人の背後には、想像もしなかった巨大な闇の存在も見えてきて…。異常な行動の根源にはいったい何があるのか。ぶっ飛んだ思想の果て。(スタッフO)
0投稿日: 2013.09.20サクリファイス
近藤史恵
新潮社
自転車ロードレースの裏側で
自転車ロードレースを舞台にした本作は、熱で溶けたアスファルトの上に広がる凄惨な事故現場から、時間を遡るように真相が探られます。輝かしい栄光を浴びるエースと、エースを支えるアシスト。役割がはっきりとしたチーム戦には、仲間を勝たせることを徹底するチームメイトの苦悩がありました。自分の得意な走り方をいかに発揮するか、そして過酷な状況下での心理的な駆け引きがレースの進行とともにしっかりと語れ、自転車ロードレースを知る入門書としても読む価値があります。勝利を目指すチームの裏で動く思惑とは何なのか。ラストに予想もしなかった展開が待ち構えていて、自転車で駆け抜けるように一気に読んでしまいました。本作の後にも『エデン』『サヴァイヴ』『キアズマ』と続く「サクリファイスシリーズ」。続編にも注目です。(スタッフO)
4投稿日: 2013.09.20ボーン・コレクター(上)
ジェフリー・ディーヴァー,池田真紀子
文春文庫
圧倒的なスピード感
殺人をゲームのように遂行する犯人の追走劇と最新鋭の科学技術を駆使し次の被害を防ごうと動く捜査班。事件現場に残る手がかりとも言えないようなわずかな痕跡から探る事件。犯人逮捕が先か、次の犯行が先か…。アメリカの推理小説家、ジェフリー・ティヴァーが描いた犯罪科学者のリンカーン・ライムは、捜査中の事故で四股麻痺になり、首から上と左手の薬指しか動かす事のできません。その状況でも研ぎすまされた捜査の勘は失われず、最先端の科学捜査を武器にチームとともに犯人を追いかけるのです。1999年に映画も公開されている本作ですが、犯行へのタイムリミットとともに恐怖が押し寄せる切迫感とスピーディでめまぐるしい展開は、まるで映像化を見越して書かれたのかと思うほど素晴らしい出来。(スタッフO)
2投稿日: 2013.09.20ビブリア古書堂の事件手帖(1)
ナカノ,三上延,越島はぐ
ヤングエース
一つの古書には、幾つかの物語がある
物語はもちろん、作家も、「読書」という行為も愛してやまない古本屋の女店主が、日常に起こる謎を本から学んだ豊かな知識をもって解決していくミステリー。「人の手から手へ渡った本そのものに物語があると思うんです」と語る彼女。人が本に残した痕跡を感じとろうとする姿には人間への温かい思いを感じ、さらにその痕跡から事件の真相に迫ろうという発想がこのマンガのユニークなところ。不意にむかし読んでいた本を目の前にした時、当時自分が考えていたことやその時好きだったことを突如思い出す経験がある人もいるのではないでしょうか。人と本との出会いを綴り、かつてその本を読んだ人の時間をたぐり寄せるように読む作品です。(スタッフO)
3投稿日: 2013.09.20ぼくのメジャースプーン
辻村深月
講談社文庫
特種能力の使いどころ
幼い頃から推理小説ばかり読んでいた著者の辻村深月。本書の事件の発端となったのは、小学校を舞台にうさぎの惨殺事件。主人公である小学4年生の「ぼく」は、「もしも『○○』をしなければ、『○○』が起きる」という言葉をかけ、人の運命を縛ることができる特殊能力の持ち主。「ぼく」は大事なクラスメイトのふみちゃんを守ることに能力を使おうとするのですが、大切な人の恨みをはらすためだったら、悪い奴には何をしてもよいのか、わかりやすい報復をするよりも、もっと別の方法で大切な人を救うことはできないのかという問題に悩まされます。誰かを想う気持ちと行動に伴う犠牲という葛藤が、無垢な小学生を通して伝わってきます。でも、これは子どものだからの悩みではありません。人間の本質的な問題を浮き彫りにもした作品なのです。(スタッフO)
0投稿日: 2013.09.20解錠師
スティーヴ・ハミルトン,越前敏弥
早川書房
原題は「The Lock Artist」
幼い頃に経験したトラウマによって言葉を失ってしまった青年マイクは、どんな鍵でも開けることができる天賦の技術を持っていました。才能を活かして金庫破りの解錠師になっていく姿を描いた本作で、スティーヴ・ハミルトンはエドガー賞長編賞等、いくつもの賞を受賞しています。物語は犯罪を重ねたマイクが、刑務所に収容されてから10年が経ったとき、過去の事件の真実が時間を遡って紐解かれていきます。言葉がでなくなった真相と、語れない彼が胸に秘め続けた想いとは。原題は「The Lock Artist」であり、マイクの神業のような美しい解錠が、その人にだけ備わった突出した才能は「芸術」ですらあるという美意識で書かれている気がしました。(スタッフO)
1投稿日: 2013.09.20屋根裏の散歩者 人間椅子 パノラマ島奇談
江戸川乱歩
創元推理文庫
「犯罪の真似事」からすべてははじまる
「屋根裏の散歩者」は、読者に最初から提示される犯人を、探偵明智小五郎がいかにたどりつくのかが肝になっています。犯人であり主人公の郷田三郎が「犯罪の真似事」から、実際の犯罪に手を染めてしまうに至るきっかけは、皮肉にも明智が今まで経験した事件を郷田に語ったことでした。刺激的な事件の話しは、変わらない日常に飽き飽きしていた郷田を犯罪へと駆り立てます。憎しみから殺意が生まれるのではなく、ただの興味から悪意が生まれるという犯罪心理には、江戸川乱歩らしい人間観察の深みと寒気のする恐怖を感じます。(スタッフO)
6投稿日: 2013.09.20喰いタン(1)
寺沢大介
イブニング
大喰い刑事が、事件を解明
定食屋の息子を天才料理人として描いた『ミスター味っ子』や、寿司職人の息子、将太の奮闘を描いた『将太の寿司』など、マンガ家寺沢大介氏の作品は、いつも料理を通して人間を描かれています。本作『喰いタン』もグルメで食いしん坊な探偵高野聖也が主人公。出向く先々で事件が起こり、その真相を探るのですが、高野は捜査中でも食べ物を見つけたら周りのことなんてお構いなし。ところが高野が関わる事件は、ありふれた食パンが凶器になったり、庶民的なコロッケが犯人逮捕の決定打になりと、食いしん坊が見事に活きてくるのです。「食」をテーマに、毎回変わったトリックをつくる著者は、思いついた瞬間を逃さないように、食べながらマンガを描いているんじゃないのかな…。(スタッフO)
0投稿日: 2013.09.20シャイロックの子供たち
池井戸潤
文春文庫
「半沢直樹」の伏線はここにある
テレビドラマが驚くような視聴率を叩きだした「半沢直樹シリーズ」。本作は、半沢シリーズと同じ「東京第一銀行長原支店」を舞台に起こる事件が、代わる代わる登場する10人の主人公を通して浮き彫りになっていきます。銀行内で起こった不祥事が、それぞれの立場から探りあい、語られ、うごめく嫌な人間関係が徐々に顕に…。銀行員というと優秀なエリートである印象が強いですが、競争意識の高いエリートが集まる場所だからこそ、内部の人間関係は激しく衝突していくのでしょう。銀行員から作家に転身し、金融機関を熟知している池井戸だからこそ書ける銀行の裏側は、けっこう事実なのかもしれませんね…。(スタッフO)
1投稿日: 2013.09.20ヴィンランド・サガ(1)
幸村誠
アフタヌーン
本当の"強さ"は
11世紀の北欧及びイングランドを舞台にヴァイキングたちの侵略と支配を描く歴史マンガ。ということはわかっても11世紀の西ヨーロッパ史の知識がない自分には、物語のイメージができなかったのですが、読み始めたらそんなことは全く気になりません。繊細かつ大胆な作画力で描かれる物語は、複雑に絡む民族間の対立、個人の愛憎関係や思惑など、まだ見ぬ未来を先取ってイメージしてしまいます。キャラクターたちが自分のなかで動き始める、もしくは動かしたくなるという感覚かもしれません。(スタッフI)
2投稿日: 2013.09.20