
THE ROSWELL 封印された異星人の遺言 下
ボイド・モリソン
竹書房文庫
宇宙人とロズウェル事件の謎にタイラーが迫るシリーズ第三弾の下巻!
ボイド・モリソンによるタイラー・ロックシリーズ第三弾の下巻。 タイラーたちがロシア人工作員コルチェフと破壊兵器及びその起爆装置の奪い合いを演じながら、いよいよロズウェル事件の真相に迫っていく。 ニュージーランドから始まった物語はオーストラリア中部のアリススプリングス近郊、イースター島をへてナスカの地上絵のあるペルーとつながり、いよいよその決着がつく。 タイラーとジェシカがある程度そんな仲になるのかも、という予想はついたが、モーガンとグラントがまさかの!という展開もあり、アクションや謎解き以外にも楽しめる要素がある。 タイラーやグラントがあんまりなスーパーマンぶりを披露して都合よく物語が展開するのはいつもの通りだが、それが気にならないほど次から次に畳み掛ける出来事に読む手が止まらなくなる。 宇宙人やロズウェル事件にも作者なりの、納得のいく解釈が与えられており、ただのトンデモストーリーに陥ることもなく安心できる。むしろ、邦題の「封印された異星人の遺言」というタイトルがそもそも怪しすぎて、本作のおもしろさを減じてしまっていないかという気にさせる。
1投稿日: 2015.10.16THE ROSWELL 封印された異星人の遺言 上
ボイド・モリソン
竹書房文庫
宇宙人とロズウェル事件にタイラーが挑むシリーズ第三作!
ボイド・モリソンによるタイラー・ロックシリーズ三作目の上巻。 これまでの二作でもノアの箱舟やミダス王の手など、伝説とされているものをテーマとして物語が展開されていたが、本作では宇宙人とロズウェル事件がテーマとなっている。しかし、そこはタイラー・ロックシリーズで、いわゆるグレイが登場するのはごく一部の回想シーンにとどまる。 登場人物も魅力的で、タイラーとグラントの二人に加え、タイラーの大学時代の恋人ジェシカとその祖母のフェイ、ロシア人工作員のコルチェフなど、一筋縄でいかない人物が多い。 物語はニュージーランドでフェイの依頼を受けるかどうかという場面から始まる。が、いきなり謎の男たちに襲われ、カーチェイスからボートチェイスまで繰り広げる羽目になる。この、いきなりの展開で物語にグッと引き込まれていく。 宇宙人の存在自体が未だ未確認な中でどうやって宇宙人やロズウェル事件に迫っていくのか、興味は尽きないが、それにも増して物語はそんな狭い範囲にとどまらず、アメリカとロシアの覇権争いを含む壮大な展開を見せていく。 前二作に勝るとも劣らない面白さである。下巻も楽しみだ。
1投稿日: 2015.10.16亜愛一郎の狼狽
泡坂妻夫
東京創元社
名探偵亜愛一郎初登場の短編集!
泡坂妻夫による亜愛一郎の活躍を描くミステリ短編集。 普段はパッとしないくせに、人の話を聞いてその裏に隠された真相を推理する能力がずば抜けている亜愛一郎。亜愛一郎はいわゆる安楽椅子探偵で、その現場を見ていなくても人の話から推理を展開し、事件を解決に導く。 特に、収録作のひとつ「ホロボの神」では戦時中の南方の島で起こった現地人の酋長の自殺の謎を解き明かすが、最早その現場に愛一郎が立ち会うことなどできないにもかかわらず、話を聞くだけで真相に辿り着いてしまう。その論理的かつ他に考えようがない結論の提示は小気味良いほどだ。 推理を展開すると鋭い頭脳を披露するのに、普段はまるっきり頼りないというギャップも面白い。 ふるい作品だけに、現在ではあまりお勧めされない表現や、戦争の記憶が生々しく描かれているなど時代を感じさせる部分はもちろんあるが、作品の面白さは色褪せていない。
2投稿日: 2015.10.16キングを探せ
法月綸太郎
講談社文庫
ミステリ作家法月綸太郎の新たなる代表作!
法月綸太郎による作家・法月綸太郎と父親の法月警視が活躍するミステリ長編。 冒頭から四重交換殺人がテーマであることが明かされ、その犯人たちがいかにして殺人を実行するのか、相談をするところから物語が始まる。犯人たちと綸太郎たちのそれぞれの側から物語が展開するため、途中までは綸太郎たちの読者にとっては的外れに見える推理に苦笑しながら読み進めていくことになるが、いつの間にか作者の周到な伏線の元、読者もミスリードされていき、最終盤のどんでん返しに見事騙される爽快感を味わうことになる。 現代は様々なツールが身近になり、本格ミステリ作家にとっては非常にトリックを仕掛けにくい状況なのではないかと思うが、そんな中でもSuicaを使ったコインロッカーやカラオケボックスなどを駆使して犯人たちがいかにして匿名性を保っていくかを丁寧に描く。 さらに、犯人の一人を恐喝する人物の登場で犯人への共感を読者に植えつけていくなど、様々な要素を的確にかつ不自然にならないように盛り込んでいく様はさすが。 本作のタイトルは、本作で重要な役割を果たすトランプにもひっかけてあるが、ラストの法月警視の言葉が本作タイトルにもつながっていて大変興味深い。 そこかしこでさすがと思わせる作者の力量を示しており、間違いなく作者の代表作のひとつと言える。
3投稿日: 2015.10.16鎮火報 Fire's Out
日明恩
双葉文庫
日明恩による消防士の成長物語!
主人公・大山雄大は現役の消防士だが、楽してもうけるために現場の消防士から早く日勤の消防士に変わりたいと願うやる気のない消防士。そもそも消防士になったのも父が助けた仁藤の売り言葉に買い言葉で成り行き上なったようなもの。 そんな雄大がある事件をきっかけに父との向き合い方、仁藤とのつきあい方など、これまで受け入れられなかったことを少しずつ受け入れられるようになりながら、同時に消防士として成長していく姿が描かれる。 といっても、基本はやる気のない消防士の雄大。クラゲのようにこの世から消えてなくなりたいと願う引きこもり中年の守、幼い頃からのダチ・裕二らにせっつかれながら少しずつ消防士としての心構えを理解していく、という程度ではあるが、それが実は大きな成長を感じさせるストーリー展開となっている。 消防士の物語でありながら、一方では入国管理官・小坂を軸とした不法就労外国人やそれを助長するような現代の経済状況を糾弾する社会派ミステリの側面も持ち合わせ、主人公の一面では軽薄な、一面では人情に厚い不思議な魅力もあり、重い気持ちだけを引きずることなく読み切らせる。続編や関連作にも期待。
2投稿日: 2015.09.20浜村渚の計算ノート 6さつめ パピルスよ、永遠に
青柳碧人
講談社文庫
青柳碧人による数学ミステリの第7弾!
前作はやや息切れ感のあった本シリーズだが、本作で少し息を吹き返した印象。行方知れずになったキューティー・オイラーの影がチラチラしながらもなかなかそこにたどり着けないのももどかしいながらも面白いし、本作の特徴である数学ネタもナポレオンが絡んできたり、完全数なんて普通に生活していると関わりなさそうなものがテーマになったりといろいろ思ってもみなかったアプローチがあり、興味深い。 実際の物語はそろそろいい加減ご都合主義的側面も目についてはいるが、それはそれで描かれている数学のうんちくや物語の面白さが減じていなければまあいいかと思わせる力も本作にはある。 はたしてどこまで物語が続くのか、ドクター・ピタゴラスは結局生きているのかなど、いろいろ気になることはあるので、次作も楽しみに待つことにする。
0投稿日: 2015.09.20犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題
法月綸太郎
光文社文庫
法月綸太郎による星座をモチーフとしたミステリ連作短編集第2弾!
各物語の冒頭、その星座にまつわるギリシャ神話などが簡潔にまとめられ、その星座のことを知らなくてもある程度星座のバックグラウンドの知識を得られるようにしてあり、その神話をモチーフとした物語が展開される。事件の展開や登場人物が概ね神話に沿った形で描かれ、興味深い。 基本的にはアクロバティックなトリックはなく、王道の本格ミステリが展開される。一時期の法月綸太郎の悩める探偵のイメージはなく、法月警視と二人三脚で問題を解決していく。 長編で描かれるパズラーとしての作家・法月綸太郎もいいが、短編でこそ光る作品も多く、本作も佳作ぞろいである。
2投稿日: 2015.09.20シャイロックの子供たち
池井戸潤
文春文庫
池井戸潤による連作短編集
全10話のショートストーリーがいつの間にか絡み合って一つの長編を構成する。各話の主人公は全て異なっているが、物語は基本的に時系列に進み、前の話で描かれた出来事がそれ以降の物語に影響を及ぼしていく。 物語は大田区にある銀行の支店が舞台。営業成績が芳しくないために支店長、副支店長は部下を叱咤激励しながら成績を上げようとする。それはまさしく客のためではなく全ては自分の昇進と会社の利益のため。顧客本位を貫きたい部下との衝突、部下を守るために上司に食ってかかる管理職などいろいろな人間模様が描かれていく。 悪いヤツは最後まで救いがなく、地道に真面目にやっている人は最後まで信念を持っている。部下への暴力、ギャンブルにハマって銀行の金に手をつける男、架空融資。これでもかと言わんばかりに様々な問題が沸き起こる支店。こんな銀行、ちょっと嫌だなと思いつつ、実際の銀行の裏側って案外こんなものなのかもと思えてしまったり。 いわゆる勧善懲悪ものではないが、それだけにストーリーがリアルに感じられる。読み始めたら止まらない面白さもさすがである。
1投稿日: 2015.09.20さよなら妖精
米澤穂信
創元推理文庫
米澤穂信による、リアルな日常系長編ミステリ。
守屋路行らの前に現れた黒髪で日本語を操る外国人マーヤ。2ヶ月の間に彼らとの交流を深めて母国へと帰った彼女から届くはずの手紙は届かない。 本作は突き詰めればマーヤの出身地はどこかを考えていくミステリである。マーヤは連邦国家・ユーゴスラヴィアからきており、ゆくゆくは政治家としてユーゴスラヴィアに新しい文化を作っていきたいという目標を実現するために、日々を送っている。そのささやかな日常の会話の中に彼女の出自や文化を垣間見せてくれる。 ユーゴスラヴィアという国はあまり日本に馴染みがないと思われ、現に自分もほとんどその知識を持たなかったが、本書により随分と身近に感じることができるようになった。とはいえ、ユーゴスラヴィア自体はすでに連邦国家としては解体され、構成国家がそれぞれ独立して現在に至っている。そうした国を題材として取り上げ、時代もそこに合わせて日常の中に織り込ませることで物語としての説得力を高めている。 本作のラストは非常に切なく、もどかしい思いにさせられるが、これもまた今自分たちが生きている世の中の一つの側面であることをわきまえなければいけないだろう。
6投稿日: 2015.08.29追想五断章
米澤穂信
集英社文庫
リドルストーリーに秘められた真実とは!
米沢穂信によるミステリ。 古書店で居候をしている芳光のもとに一人の女性が訪ねてきて、父親の書いた5編の小説を探して欲しいと依頼する。作家の名は叶黒白。少しずつ手がかりを見つけながら一つずつ作品を見つけていく芳光。やがてその小説群は作家が関わったある事件に深く関わっていることが明らかになる。 古書店が舞台の一つとなり、依頼された謎を解いていく流れは三上延の「栞子さん」シリーズと似ている。が、本作は作品の中に小説が5編織り込まれているなど、三上作品とは異なる要素を持ち合わせることで独特の雰囲気を出している。 小説の中の小説もやや不思議な雰囲気を持ち、ある意味趣味は悪いがよく出来たリドルストーリーで、なかなか面白い。これがラストに向けて大きな意味を持ってくる。結末自体はそれほど突飛でもないが、5つの作品に込められた意味が明らかになることで、この作品に仕掛けられたものが何だったのかを読者が知らされるところにある種の感動を覚える。 米澤穂信という作家の力量を示す佳作。
0投稿日: 2015.08.29