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あっくんさんのレビュー
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  • 光圀伝 電子特別版 (上)

    光圀伝 電子特別版 (上)

    冲方丁

    角川書店単行本

    冲方丁による水戸黄門でおなじみの水戸徳川家・光圀を描いた歴史もの

    幼少の頃、父が斬首した男の首を取って来させるというシーンから物語は幕を開ける。その後光國は兄を差し置いて世継ぎとなったことで長らく「なぜ自分なのか」という疑問を持ちながら過ごすことになる。 ここで描かれる光圀像はドラマ水戸黄門で描かれたような好々爺ではなく、どちらかというと荒くれ者で無骨なイメージだ。史実でも若い頃はいわゆる不良であったそうだが、全くそういう印象を持っていなかったので度肝を抜かれる。 ただ、確かに戦国の世が終わって20年やそこらのため、それを引きずっている人たちが多かったのも確かだろう。本書で強烈な印象を残したのは剣豪宮本武蔵で、はめられたとはいえなんの罪もない人を殺そうとしていた光圀の前に現れて止めを刺す。この武蔵もまた泰平の世からはみ出していた。 儒家の林読耕斎、冷泉家の為景などとの交流を通して文事にも磨きをかけていく。こうした交友範囲の広さも水戸黄門のイメージにはなかったので、驚きを持ちながら読んだ。

    2
    投稿日: 2016.01.02
  • レインツリーの国

    レインツリーの国

    有川浩

    角川文庫

    有川浩による図書館戦争シリーズとリンクする恋愛小説!

    図書館戦争シリーズの中でエピソードとして出てくる本をきちんと物語として描いたもので、中途失聴の女性を主役にすえた作品。図書館戦争シリーズでも言葉の検閲を暗に(正面から?)批判した作者が、「なぜかタブー視されている」障害者を主役に物語を描きたいとして作品化したそうだ。 一般的に聴覚障害というと先天的な難聴や失聴をイメージしがちだが、本書では様々なタイプがあること、同じように見えるためにひとくくりにして判断されることで余計に孤立していくことなど、自分たちが気がついていなかったことにハッとさせられるシーンが多く盛り込まれている。 障害者を扱うというだけで様々な制約が課せられるようで、実際に図書館戦争のアニメではそうしたエピソードが放映されなかったということもあり、これに異を唱えるべく作者の思いがほとばしっている。 こうした課題提起をさしおいても、相変わらずの少女漫画ちっくな有川印の恋愛ものとして安定感を見せる。ただ、扱っているテーマが茶化すことができないものであるためか、いつものベタベタな甘々展開とはやや異なっている。また、有川作品としては短めで、とっつきやすい。

    0
    投稿日: 2016.01.02
  • はなちゃんのみそ汁

    はなちゃんのみそ汁

    安武信吾,安武千恵,安武はな

    文春文庫

    家族の大切さが身にしみる一冊!

    がんによって若くして亡くなることを余儀なくされた女性と、がんを患った後で授かったはなちゃんたち一家の足跡を辿る一冊。 著者の一人、千恵さんは20代の若さで乳がんを発症、闘病しながらその日々の様々なことをブログに記録していた。発症後、抗がん剤治療などを経て一旦はがんが消え、その間に最愛の娘・はなちゃんを授かる。がんの再発や免疫を抑えるために別の病気を発症するリスクなどとたたかい、ギリギリまで葛藤して産むことを決意。その心の揺れる様も赤裸々に綴られている。 千恵さんはいずれがんが再発し、幼いはなちゃんを置いて死んでしまっても、はなちゃんが生きていくことができるように、まだ幼い時からはなちゃんの身の回りのことは自分でできるように接し、やがては料理も自ら作れるように教えていく。しかも、みそ汁は出汁からとり、具材は極力全てを使うホールフードを実践。米は有機玄米と、食べることが自分の体を健康にし、守ってくれるのだということを身を以て教えていく。 千恵さんは本当に強い人だ。もちろん、くじけそうになったこともあるだろう。でも、愛する家族のために最後まで生きることを願い、でももしもの時には憂いを残さずに行けるようにしていた。こんなことは並大抵の覚悟ではできない。母親になったことが彼女にその強さを与えたのだろうか。 千恵さんが亡くなった後のぽっかりと空いたような二人の生活。愛する人の不在から立ち直っていく様子も描かれている。 家族の大切さ、生きることの意味、食べること、あきらめない姿勢、、、、本書からたくさんのことを教えられた気がする。 家族といつまでも一緒に居られるわけではない、なんて普段は考えもしないが、病気だけでなくいつ事故や事件に巻き込まれて命を絶たれるかわからない。だからこそ今を大切に生きていきたいと素直に思えた。

    4
    投稿日: 2016.01.02
  • 魍魎の匣(3)【電子百鬼夜行】

    魍魎の匣(3)【電子百鬼夜行】

    京極夏彦

    講談社文庫

    京極夏彦による百鬼夜行シリーズ第2弾3冊目にして最終巻!

    いよいよ全ての謎が明らかになる。時折挟まれる不気味なモノローグの真の意味、それぞれの事件のつながりとその真相、物語に配置された登場人物の一人一人に至るまできちんと意味を持たせ、最後まで丹念に紡ぎ上げられていく。この完成度の高さはどうだ。 猟奇的な事件を猟奇的なままで終わらせないところもさすがである。一見あり得ないと思えることも科学や医学の進歩によって有り得るのだということを再認識させられる。 ボリュームはかなりのものだが、それを忘れるくらい没入できる。

    2
    投稿日: 2015.12.26
  • 魍魎の匣(2)【電子百鬼夜行】

    魍魎の匣(2)【電子百鬼夜行】

    京極夏彦

    講談社文庫

    京極夏彦による百鬼夜行シリーズ第2弾2冊目!

    前の巻で起こったバラバラ殺人、少女の殺害未遂事件と新興宗教、謎の研究施設などが少しずつ関連性を見せ始める。京極堂にそれ以上踏み込むなと注意を受けていても知りたい欲求に突き動かされる関口、憧れの元女優を何としても助けたい木場など京極堂の友人たちに加え、カストリ雑誌の編集者・鳥口が非常にいい働きを見せる。時代設定が戦後しばらくということで、東京通信工業のデンスケなどという知る人ぞ知る的な機械も登場する。 本書の中ほどで京極堂はある結論に到達する。それは解決したとしても不幸になる人はいるが、幸福を手にする人はいないという。そして、バラバラ殺人の次の被害者の命を救うべく、青木刑事に依頼する。この過程で少しずつ舞台の裏側が明かされていくが、一瞬、あれ?2分冊だったっけ?と思うほど、探偵小説でいうところの解決編のごとく次々に謎を解いていく。残り一冊でどんな物語が紡がれるのか、心配になる程だ。 しかし、そんな杞憂もなんのそのの展開がこの後待っている。

    1
    投稿日: 2015.12.26
  • 魍魎の匣(1)【電子百鬼夜行】

    魍魎の匣(1)【電子百鬼夜行】

    京極夏彦

    講談社文庫

    京極夏彦による百鬼夜行シリーズ第2弾!

    本作は非常に複雑な構造を持っている。バラバラ殺人、新興宗教、少女の殺害未遂と誘拐事件などが複雑に絡み合い、物語が進行する。その合間合間に挟まれる箱の中の少女をめぐる描写がいかにもグロテスクだ。 本作のタイトルにもなっている魍魎が一つのキーワードとなっている。新興宗教にはまってしまった母親は娘に向かって「もうりょう」と口走り、教主は魍魎退散をお題目にする。魍魎とは何か、もう一つのテーマとなる。 本書は3分冊の1巻目だが、冒頭から半分くらいまでは本シリーズの主人公ともいえる京極堂は登場しない。京極堂を中心とする友人たちと本作の主要な役回りを演じる人たちが語られていく。物語がどんな方向に進むのか、全く予想がつかない。 一方で、本シリーズの特徴ともいえる、京極堂によるウンチク解説が後半に待っている。その掘り下げ方は尋常ではなく、もはやストーリーそっちのけで解説されても興味が後を引くほどの分量に圧倒される。この、悪く言えば長すぎるウンチクが気にくわない人もいるだろうが、これがあるとないとではこのシリーズの魅力が大きく変わってくると思う。

    2
    投稿日: 2015.12.26
  • シグマフォースシリーズX Σ FILES 〈シグマフォース〉機密ファイル

    シグマフォースシリーズX Σ FILES 〈シグマフォース〉機密ファイル

    ジェームズ・ロリンズ

    竹書房文庫

    ジェームズ・ロリンズによるシグマフォースシリーズの番外短編と設定資料集!

    収録されている短編はコワルスキが主人公のシグマに入隊する前の物語、セイチャンがフランスで巻き込まれた事件、タッカーとケインのコンビがシグマに関わる前の物語の3編。いずれも本編につながる物語で、短編らしいスピーディな展開が楽しめる。本編に比べれば掘り下げが少ない分、エンターテインメントの要素がより増しているようだ。 後半は設定資料集で、「ウバールの悪魔」から「ギルドの系譜」までを振り返ることができる。登場人物や各組織、それぞれの物語のあらすじなどから構成され、最新作「チンギスの陵墓」を手に取る前にいい復習ができる。とくに、初期作品からは発表からかなりの年月が経過しているため、大筋を振り返るのに非常に良かった。 短編はこれまで電子書籍で発表されていたものの、こうして一冊にまとまったことでより手に取りやすくなったのではなかろうか。

    0
    投稿日: 2015.12.26
  • 恋する空港 あぽやん2

    恋する空港 あぽやん2

    新野剛志

    文春文庫

    新野剛志による旅行会社の空港係員の活躍を描くシリーズ二作目!

    本物のあぽやん、今泉が去り、古賀恵が自分探しと称して留学のために日本を離れ、所長も変わった成田空港所。今泉の後任としてやってきた枝元はグアム帰りの典型的なアイランダー。教育係を任された遠藤が様々なトラブルを経験しながら、本物のあぽやんになるために奔走する。 タイトルの「恋する」が掲げられているほどは恋愛沙汰は盛り込まれていないが、遠藤がお嬢様に惚れられるエピソードがあるなど、一応の恋愛要素は盛り込まれている。遠藤はあまり乗り気でないが、お嬢様側は案外積極的で、空港所の窮地を救ってくれるのではという期待感から、周囲の対応が変わるあたりも面白い。 初めて見送った旅客が事故により死亡する試練や、彼の意思を引き継いで活動しようとする人物との関わりの中で、遠藤も少しずつ変わっていく。 本作は全体として大きな流れの中で一つ一つの物語が配置され、それぞれの物語の終わりがちゃんと落ち着いていないものも多い。そういう意味では週刊連載漫画にありがちな次回への期待感を引っ張る手法と言えなくもないが、思わせぶりなシーンで終わると、ついそのまま読んでしまってなかなか途中で止められない弊害があって困る。(笑) 相変わらず独特のキャラクターが多いが、それぞれに悩みや葛藤を抱え、人間味あふれる描き方をされているので、こんなやついるいる、と思いながら読み進められ、感情移入もしやすい。 遠藤の恋愛事情は終盤で急展開を見せるが、これが果たしてどうなっていくのか、シリーズ続刊が気になるところだ。

    1
    投稿日: 2015.12.26
  • あぽやん

    あぽやん

    新野剛志

    文春文庫

    新野剛志による旅行会社の空港係員の活躍を描くシリーズ一作目!

    タイトルの「あぽやん」が一体何を意味するのか、それが気になって読み始める。しばらくは明かされないが、明かされてみるとなるほど、そういうことかと納得する。そのあぽやんたちが巻き込まれる騒動と、それによって成長していく主人公がストーリーの軸だ。 空港係員といっても、本作の係員は航空会社の子会社の旅行会社で働く人たちなので、他の旅行会社では持っていない特権も持っている。また、旅行会社のカウンター業務についても解説され、普段何気なく対応してもらっている空港の人たちの仕事が垣間見れて面白い。 ストーリーも空港ならではであるが、登場人物も癖のある人が多く、本当にこんな人ばっかりだったら大変なのでは?といらぬ心配もしてしまう。 旅好き、飛行機好きの人には既知の物事もあるかもしれないが、空港がどんな風に動いているのか、その一部を知ることができて、また旅に行きたくなる。そんな作品だ。

    6
    投稿日: 2015.10.16
  • 埋み火 Fire's Out

    埋み火 Fire's Out

    日明恩

    双葉文庫

    日明恩による消防士の活躍を描くシリーズ第二作!

    相変わらず口では日勤消防士を目指すといいながらも、第一作と比較しても随分まともな消防士となった雄大。後輩消防士の香川との仲がギクシャクしていたり、自衛官出身の星野がいなくなってたり、何より漆黒の引きこもり中年・守がいないなど、前作からの違いが経過した2年を物語る。 本作では雄大の親友・裕二が勤める工務店の、完成間近の建物だけを狙った放火事件や死者が出ているのになぜか近隣に被害を及ぼさない程度の失火が相次ぎ、それらの謎に雄大と裕二が迫っていく。 当たり前ではあるが、消防士はチームで救助活動を行うため、誰かが足を引っ張るとみんなが危険にさらされる。それが雄大にもわかっているからか、前作ほどの型破り感は感じられない。口ではやる気がないなどと言いながら非番の日に火災現場に赴き、謎に迫っていく様子はイッパシの消防官を彷彿とさせる。これを成長とみるか、一般化とみるかで物語の感じ方が変わってくる気がする。 終始雄大視点で物語が進行するため、時々読者が置いていかれるあたりがやや不満か。説明過剰と思えるところと、もう少し説明が欲しいと思うところのバランスが難しいのだが。

    1
    投稿日: 2015.10.16