あっくんさんのレビュー
参考にされた数
429
このユーザーのレビュー
-
あぽやん
新野剛志 / 文春文庫
新野剛志による旅行会社の空港係員の活躍を描くシリーズ一作目!
6
タイトルの「あぽやん」が一体何を意味するのか、それが気になって読み始める。しばらくは明かされないが、明かされてみるとなるほど、そういうことかと納得する。そのあぽやんたちが巻き込まれる騒動と、それによっ…て成長していく主人公がストーリーの軸だ。
空港係員といっても、本作の係員は航空会社の子会社の旅行会社で働く人たちなので、他の旅行会社では持っていない特権も持っている。また、旅行会社のカウンター業務についても解説され、普段何気なく対応してもらっている空港の人たちの仕事が垣間見れて面白い。
ストーリーも空港ならではであるが、登場人物も癖のある人が多く、本当にこんな人ばっかりだったら大変なのでは?といらぬ心配もしてしまう。
旅好き、飛行機好きの人には既知の物事もあるかもしれないが、空港がどんな風に動いているのか、その一部を知ることができて、また旅に行きたくなる。そんな作品だ。 続きを読む投稿日:2015.10.16
-
植物図鑑【幻冬舎文庫版】
有川浩 / 幻冬舎文庫
野草や山菜てんこもりの恋愛もの!
6
作者は山菜や野草を食べるのが好きなのだそうだが、その趣味が全面的に押し出された作品で、出てくる野草は普段良く目にするものからちょっとマニアックなもの、スタンダードなものまでバラエティに富んでいる。
野…草の見つけ方から狩りのし方、美味しく食べる料理法まで一連の物語の中で魅力的に紹介される。ただし、本格的な図鑑でもなければレシピ本でもないため、より深く知りたくなったら自分で調べてね、という意図も見え隠れする。ちゃんと知ってる人にちゃんと教えてもらえるなら、確かに野草狩りとそれを使った料理を楽しみたくなる。
冒頭に書いたように、本作は恋愛ものなので、ラブラブで甘々な展開はもちろん、いきなりの失踪とそれを勝手に待つ女というシチュエーションもある。そもそも、行き倒れた男を一人暮らしの女が拾うというトンデモな設定で物語が幕を開けるだけに、現実にはありえねー!といいながらもニヤニヤしながら読んでしまうあたりは作者にしてやられている感じもする。 続きを読む投稿日:2014.10.05
-
さよなら妖精
米澤穂信 / 創元推理文庫
米澤穂信による、リアルな日常系長編ミステリ。
6
守屋路行らの前に現れた黒髪で日本語を操る外国人マーヤ。2ヶ月の間に彼らとの交流を深めて母国へと帰った彼女から届くはずの手紙は届かない。
本作は突き詰めればマーヤの出身地はどこかを考えていくミステリであ…る。マーヤは連邦国家・ユーゴスラヴィアからきており、ゆくゆくは政治家としてユーゴスラヴィアに新しい文化を作っていきたいという目標を実現するために、日々を送っている。そのささやかな日常の会話の中に彼女の出自や文化を垣間見せてくれる。
ユーゴスラヴィアという国はあまり日本に馴染みがないと思われ、現に自分もほとんどその知識を持たなかったが、本書により随分と身近に感じることができるようになった。とはいえ、ユーゴスラヴィア自体はすでに連邦国家としては解体され、構成国家がそれぞれ独立して現在に至っている。そうした国を題材として取り上げ、時代もそこに合わせて日常の中に織り込ませることで物語としての説得力を高めている。
本作のラストは非常に切なく、もどかしい思いにさせられるが、これもまた今自分たちが生きている世の中の一つの側面であることをわきまえなければいけないだろう。 続きを読む投稿日:2015.08.29
-
天地明察 下
冲方丁 / 角川文庫
大団円!
6
冲方丁による時代小説の下巻。
ついに晴海は授時暦を日本の暦として用いらせるべく、様々な布石を打っていく。一度は改暦に対し事なかれ主義で「否」を唱えた公家衆であったが、晴海が仕掛けた授時暦とこれまで80…0年にわたり用いられてきた宣命暦とを比較し、授時暦の正確さを世に問い、改暦の空気が形成されてゆく。しかし、最後の最後で授時暦が間違いを犯し、改暦の空気が一気にしぼんでゆく。
事実を元にしたフィクションであり、実際に渋川春海が経験したことを元に物語が構成されているが、こんなに挫折を繰り返しながらも周囲に助けられて大願を成就させるということが如何に劇的であり、それを歴史の授業などではほぼ語られてこなかったことが如何に勿体ないことか。仲間たちと心を通わせ、自分よりも優れた人たちと交流し、そして粘り強く諦めないこと。ビジネス書などでも語られるような要素がこの物語には凝縮されている。
ラスト、晴海の人生の最後が描かれているが、自分たちもこうありたいと思えうようなラストであり、素直にうらやましく感じた。 続きを読む投稿日:2013.10.07
-
背の眼(上)
道尾秀介 / 幻冬舎文庫
道尾秀介のデビュー作
6
道尾秀介のデビュー作。
背中に眼が浮かび上がるという写真と、その写真に写っている人が必ず自殺している、という奇妙な符号が、やがてある山奥の町で起こった少年の行方不明事件へと繋がっていく。心霊現象探求所…なるものを開設し、霊にまつわる現象の解明を進めてきた真備と凜、その友人で主人公の道尾が遭遇する事件の真相とは。
デビュー作という事もあり、かなり回りくどい表現や冗長な文章が目に着くのは仕方ないが、それでも読み始めると先が気になってどんどん読み進めてしまう。道尾秀介の作品は本作で初めて触れたのだが、デビュー作にしてこれなら、それ以後の作品にも期待が持てる。
上巻を読み終わった段階では霊の存在と事件がどう絡んでくるのか、予断を許さない状況で、非常に面白く読んだ。 続きを読む投稿日:2013.10.10
-
骸の爪
道尾秀介 / 幻冬舎文庫
道尾秀介による真備シリーズ第2弾!
6
前作では写真に写る背中の目が心霊現象として扱われていたが、本作は真備シリーズではあるものの完全に心霊現象等は出てこない。もちろん、それらしい描写はあるが、結果的にすべて説明がつくように細心の注意が払わ…れている。背の眼はミステリー要素のあるホラー、本作はホラー要素のあるミステリーという感じか。
相変わらず私こと道尾くんは読者をミスリードする役目をしっかりと果たし、その裏をかくように真備はひとり着々と真実に近づいてゆく。
それにしても、登場人物がこれほどまでに少しずつボタンを掛け違い、それによって結果的にみんなが不幸になってしまうという切なさがなんともいえない。もう少し救いのある結末になれば後味も良かったのだろうが。 続きを読む投稿日:2014.03.17