
探偵の探偵IV
松岡圭祐
講談社文庫
松岡圭祐による探偵の悪事を暴く探偵を描く第4弾!
妹を死に追いやることになった相手、市村凛を倒し、その際にかけられた言葉に傷ついた玲奈は琴葉からも距離を置き、スマリサーチもやめてしまう。その結果、キレのいい探偵業務ができず、冒頭は大きな失敗をやらかし、あわや逮捕という状況に。ここからどうやって立ち直っていくのかが一つの大きな見所となる。 本作では琴葉もこれまでと大きく変わり、より積極的に探偵のスキルを上げようとする。これが結果的に玲奈をも巻き込んだ大きな事件に発展する。 相変わらずウンチクに富み、テンポの速い展開でスラスラと読ませる。後半はややあっさりとしすぎている感もあるが、表に出たがらない人物はやはり表に出た途端に弱みを見せるものなのかもしれないと、ある意味納得した。 最終巻かと思ったら、「新章にご期待ください」と書かれていて面食らった。Qシリーズや千里眼シリーズもそうだが、いわゆるシリーズ完結編というべき作品が見当たらないのも本作者の特徴。期待を抱かせながらも次が出ないで別の新作が発表されるのはそれはそれで面白いが、シリーズの登場人物にももっと活躍してもらいたい、と思う身にとってみれば、新章の登場は待ち遠しいものだ。
1投稿日: 2015.08.29
人類資金VII
福井晴敏
講談社文庫
福井晴敏によるM資金にまつわる長編第7弾にして最終巻!
囚われの身となった暢人を助けるため、真舟と美由紀、石が行動を起こす。その端緒がディスカバリーオイルというボロ株を使ってカペラの注目を高めることだった。 まさしく、最終巻にふさわしく、これまで登場してきた主要な登場人物がそれぞれに果たすべき役割を果たしていく。その結末はややもすれば希望を持てなくなりそうな世の中に差す一筋の光明のような印象を与える。 個人的には終章は蛇足のような気がするが、未来へ希望を持たせるという意味で作者の気持ちを表しているのかもしれない。 亡国のイージスや終戦のローレライのような冒険活劇ではないが、手に汗握る展開も散りばめられた本作は福井晴敏の新たな代表作と言える。
3投稿日: 2015.08.21
人類資金VI
福井晴敏
講談社文庫
福井晴敏によるM資金にまつわる長編第6弾!
本巻は冒頭からおよそ3/4が回想録となっている。前巻終わりの遠藤の回想を含めるとおよそ一冊分丸々が回想ということになる。物語に深みを与える一方、現在の物語が一向に進まず、もどかしい思いをする印象だ。 ようやく回想が終わったと思うと物語が急展開し、その背景でどんなことが起きているのか一切わからないまま次巻へと続く。読者は半ば置いてけぼりにされている感があり、これもまたもどかしい。 次巻はいよいよ物語が決着する。どんな結末を迎えるのか、主要登場人物はどうなっていくのか、期待は高まる。
0投稿日: 2015.08.21
人類資金V
福井晴敏
講談社文庫
福井晴敏によるM資金にまつわる長編第5弾!
「M」が正体を明かしたことにより、ついにその計画も明るみに出、暢人もローゼンバーグの囚われとなってしまう。その時、石は、真舟は、なすすべもなく見送るしかなかった。 一方、清算人として生きてきた遠藤はある特質により優れた清算人となった。彼の父ハリー遠藤、暢人の祖父、ハロルドの祖父との関係も遠藤の回想の中で語られ、複雑な人間関係もようやく形が見えてくる。 いよいよ先が気になるが、ストーリーがどこに落ち着くのか、福井晴敏だけにありきたりな終わり方はしないだろうと期待したい。後2巻、じっくり楽しみたい。
0投稿日: 2015.08.21
人類資金IV
福井晴敏
講談社文庫
福井晴敏によるM資金にまつわる長編第4弾!
いよいよロシアでの仕事が佳境に入ろうとしたところで、昔詐欺をはたらいた時から追われている相手、ヤクザの酒田と列車内で出くわした真舟。酒田は高遠美由紀から送り込まれ、M資金の奪取を防ぐための駒だった。真舟の素性も割れ、いよいよ仕事が破綻するかに見えた時に現れたのは「M」だった。 本巻でいよいよ「M」の素性が明かされる。「M」と石の関係、「M」がなぜM資金の奪取を計画しているのか、高遠との関係などが次々に明らかになっていく。 知るということの大切さとその威力をまざまざと見せつけ、今の世の中の可能性の大きさを感じさせる。その一方、敵対勢力の大きさも描かれ、「M」の計画が果たしてうまく転がっていくのか、いよいよ目が離せなくなってくる。
0投稿日: 2015.08.21
人類資金III
福井晴敏
講談社文庫
福井晴敏によるM資金にまつわる大作長編第三弾!
いよいよ真舟、石、Mが組んでロシアでの仕事に取り掛かる。ファンドマネージャー・鵠沼を足がかりに、財団から巨額の金を盗もうというもので、詐欺師の真舟にとってみれば自分の生業を生かせる仕事に違いない。その口のうまさはさすがに詐欺師を彷彿とさせるもので、このあたりの描写はうまいなあと感心する。 一方で、ロシア・サンクトペテルブルクやモスクワの描写も、実際にその場で見ているかのように緻密で、情景が目に浮かぶ。 いまだに明かされないMの素性とその目的、彼らを追う高遠やブルームバーグのマーカスなどの登場人物のおかげで物語が加速していく。
0投稿日: 2015.08.21
人類資金II
福井晴敏
講談社文庫
福井晴敏によるM資金にまつわる長編第二弾!
詐欺師の真舟、謎の青年・石と彼が崇拝する「M」、Mの企みを阻止しようと動く自衛官・高遠美由紀ら主要な登場人物が揃い、いよいよ物語が動き出す。 ようやく福井晴敏らしい緊迫した物語が語られ始め、登場人物が生き生きと描かれていく。本作では特に中盤の逃走劇が手に汗握る展開で目を離せない。お互いが先の先を読み、追いつ追われつになる展開は、面白さと同時に組織の恐ろしさも訴えかけてくる。一方で、逃げる真舟と石が選んだ場所が東京の知られざる場所で興味深い。それが物語の中でうまく生かされているあたりはさすがといえる。 物語の全貌はまだまだ見えない序盤ではあるが、すでにこの先が気になる展開になってきている。
0投稿日: 2015.08.21
人類資金I
福井晴敏
講談社文庫
福井晴敏によるM資金をテーマにした長編の導入部!
終戦の日、日本軍の軍人がのちにM資金と呼ばれるようになる金塊を持ち出し、一部を水中に沈めるシーンから物語は始まる。その後、度々話題に上りながらもやがては詐欺のネタとして扱われるようになり、実在しないものという認識が定着していく。 終戦から現代に至るまで、M資金にまつわると思われる事柄や時代を象徴するような出来事をその当時の新聞記事やテレビ・ラジオの原稿をコラージュすることで描く序章中盤は秀逸。こうした事実の下敷きの上に本作がフィクションとして成り立っていることで、より物語に説得性を与えている。 本書はまだまだ導入部であり、登場する人物もまだ人となりを紹介する程度にしか描かれていない。しかし、この導入部で描かれたことが、今後物語が動き始めた後でどのようにつながってくるのか、早くも楽しみである。 大作のためか、やや冗長に感じる部分がないわけでもなく、作者のアベノミクスへの低評価とも相まってこれまでの作品と比較してやや違和感がないわけではないが、これらももしかすると今後を見据えた作者なりの計算なのか?
1投稿日: 2015.08.21
WORLD WAR Z(下)
マックス・ブルックス,浜野アキオ
文春文庫
反撃に転じる人類が描かれるゾンビ小説の下巻
マックス・ブルックスによるゾンビ小説下巻。 いよいよ人類による反撃が始まる。よくあるゾンビものと同様、頭を潰すか吹き飛ばせば倒せるが、核は効かないとか、海の底でも問題なく動けるとか、でも寒いところでは動きが止まるとか、街が壊滅的な被害を受けているのに武器弾薬はどうやって製造しているのかとか、いろいろ微妙にツッコミどころは多々あるが、それでも非常によく考えられ、ある程度は納得のいく説明もなされている。下巻では日本人もようやくといった感じて登場するが、アメリカ人から見た日本人のイメージってこんな感じなのかなという、日本人から見るとやや違和感のある設定となっている。が、非常によく調べており、その点では評価できる。 最後まできちんとインタビュー形式を貫いている点もすごいと思うが、やはり細部は登場人物の主観にとらわれる結果、やや曖昧にならざるを得ない感があった。だからこそ、いわゆる通常の小説の体裁をとった物語としても読んでみたいと思った。
1投稿日: 2015.08.21
WORLD WAR Z(上)
マックス・ブルックス,浜野アキオ
文春文庫
インタビュー証言録の体裁で紡がれるゾンビ小説
マックス・ブルックスによるゾンビ小説。 世界ゾンビ大戦の終結から10年、その戦争を生き抜いた人々にインタビューした証言録という体裁で物語が進む。上巻は感染の発生から大規模な戦争へと移行し、人類がどんどん追い詰められていく様子がリアルに描かれている。 戦争を生き抜いたということで軍人中心で物語が進んでいくが、世界中の様々な立場の登場人物により、重層的に物語が紡がれていく。ある地域で重要な出来事や発見があり、それを受けて別の地域では、というかたちの展開はややもすれば単調になるきらいはあるが、設定が程よく練られ、飽きることなく読み進めることができる。 人類が戦争に勝ち、復興に向けて着実に歩んでいる時点でのインタビューということで、先の展開はある程度読めるが、それでもなかなかハラハラする展開が用意されていて、下巻での戦争終結に至る流れに興味をそそられる。
1投稿日: 2015.08.21
