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あっくんさんのレビュー
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  • SRO6 四重人格

    SRO6 四重人格

    富樫倫太郎

    中公文庫

    富樫綸太郎による広域捜査専門集団の活躍を描くシリーズ第6弾!

    タイトルにあるように、本作は多重人格の登場人物が存在する。その人格も当初はA、Bなど記号で、やがてその特徴を表した呼び名で、最終的には判明している人物の名前で呼び表され、読み進めるにしたがってその人物の詳細が露わになる構造となっている。 SROのメンバーの周りの人間関係もさらに複雑化する。新九郎と花子がいい雰囲気になってきたかと思いきや、そこに割り込んだ人物に花子の気持ちが傾いていったり、麗子を心配する人物と少しいい雰囲気になったかと思うと1人に戻った麗子からは彼の存在はなかったかのごとく軽いものになったり。 本シリーズがどこまで続いていくのかわからないが、こうも複雑化しすぎるとシリーズが中途半端に途切れてしまう懸念を抱いてしまう。もちろん、物語の中では時間が1年と経っていないため、あまりアッサリとまとまったらおかしいだろうが、あまりに登場人物たちが幸せそうでないのが気にかかる。

    3
    投稿日: 2016.04.27
  • SRO5 ボディーファーム

    SRO5 ボディーファーム

    富樫倫太郎

    中公文庫

    富樫綸太郎による広域捜査専門集団の活躍を描くシリーズ第5弾

    本作でついに近藤房子との対決にようやく一区切りがつく。そこにいたるまでの房子とSROの面々との駆け引きが実に面白い。 副室長の麗子は房子に襲われた時の記憶からPTSDに近い症状を発症しており、時折精神的に耐えられなくなる。木戸沙織は房子に襲われた時の衝撃からなかなか立ち直れない。さらに尾形の家庭の事情も深刻さを増しており、SROはある意味満身創痍の状況で房子と対峙せざるをえない。 そんな中、坊屋久美子がSROに異動してきて、一課との摩擦は増えるがSROとしては戦力ダウンをある程度補え、しかも目の付け所の良い坊屋の獲得で房子の捜査にも少しずつ進展が見られるようになる。 本作を通して、やはり房子は尋常ではない人物で、そのコレクションの異常性や殺人に至る精神の動きも描かれており、しかも小気味良いテンポで物語が進んでいくので、ついつい読む手を休めることなく読み進めてしまう。 とくに、第1弾以降、ずっと追いかけてきた房子との対決となるので、否が応でも先を読まずにはいられない。 本作のラストにはさらに衝撃の事件が起こり、次作への期待をもたせて終わるあたりもニクい。ただ、そろそろ前作を読まなくても話が理解できる、読み切り型にしてもらえないかなあと、やや思うところもある。

    3
    投稿日: 2016.04.27
  • チンギスの陵墓 下

    チンギスの陵墓 下

    ジェームズ・ロリンズ,桑田健

    竹書房文庫

    ジェームズ・ロリンズによるシグマフォースシリーズ第8弾下巻

    地球に向けて落下してくる地球近傍天体。彗星のエネルギーによって引き寄せられ、地球に深刻な影響を与えかねない状況が、実はチンギス・ハンも手にしたことのある、隕石から作られたと思われる十字架によって引き起こされているらしいことがわかってきた。グレイたちシグマの面々はその十字架を見つけるために行動する。 モンゴルの有力者や北朝鮮の科学者など、胡散臭い人物が出てきてはグレイたちの邪魔をする。ヴィゴーは体に異変を感じているが、それをレイチェルにも打ち明けていない。様々な要素が絡み合い、物語はやがてクライマックスに向けて疾走する。 本作では終盤にあっけないほどに衝撃的な展開が用意されている。これまでのシリーズの流れからいって、そんなにあっさりとこんな重要な展開が起きるとは予想もしておらず、ある意味ではシリーズ中最も大きな出来事かもしれない。しかし、作者は物語の中で独自の論理を展開し、それがエピローグ・裏として結実し、読者に一つの安堵の感情を植え付けることに成功している。 前作はシグマとしての一つの区切り、本作は登場人物たちの過去との決別という側面を持っているのではないか。 ある意味、本作でシリーズは終わりと言われても納得できそうな展開であった。 それにしても、本作のタイトルはちょっとミスリードではないか。チンギスはストーリーに深く関わっているが、その墓はタイトルにつけるほどの重要性は与えられていない。原題の「The Eye Of God」のほうがストーリーにもしっくりくる。

    2
    投稿日: 2016.04.27
  • チンギスの陵墓 上

    チンギスの陵墓 上

    ジェームズ・ロリンズ,桑田健

    竹書房文庫

    ジェームズ・ロリンズによるシグマフォースシリーズ第8弾上巻!

    ギルドとの戦いを終えたシグマが新たな局面に入る。落下する人工衛星が撮影した4日後の崩壊するアメリカ東海岸の写真、ヴィゴーの元に届いた謎の遺物が指し示す世界の終わりの日付も同じ日だった。 セイチャンは母親の行方を捜してグレイとともにマカオに行くが、そこで拉致されてしまう。上巻のグレイはほぼセイチャン救出に行動が費やされるが、そのテンポの良いアクションシーンには手に汗を握らされる。特に、香港における高層建造物からの脱出は漫画「め組の大吾」のレスキューシーンを彷彿とさせ、ハラハラさせられる。 一方、ヴィゴーとレイチェルのチームにはモンクと新キャラクター・ダンカンが合流する。ダンカンがまた変わったキャラクターで、弟を癌で亡くしており、それを機に体に刺青を入れ始めたり、指先に微小な磁石を埋め込み、第六感ともいえる不思議な感覚で目に見えないものを感じ取ることができたりする。これがヴィゴーの元に届けられた遺物のもつ特徴を探る際に大きく役立つ。 それにしても、この作者の間口の広さはどうしたことか。本作では量子力学にまで言及され、読者はその知識量に圧倒されながら読み進めることになる。しかも、それがストーリーに絶妙に融合しており、難しそうな話もすんなりと頭に入ってくるのだから恐れ入る。 下巻で物語がどのような展開を見せ、どのように落ち着くのかまださっぱりわからないが、溢れるうんちくと知的好奇心を刺激してやまないストーリーに翻弄されながら読み進めたい。

    2
    投稿日: 2016.04.27
  • SRO4 黒い羊

    SRO4 黒い羊

    富樫倫太郎

    中公文庫

    富樫倫太郎による広域捜査専任特別調査室SROの活躍を描くシリーズ第4弾!

    通常4作目ともなれば作品中の時間も大きく経過し、主人公たちを取り巻く状況も大きく変わることが多いが、本シリーズはほとんど物語中の時間経過がなく、第1作からそれほどの時間は経っていない。 本作では初めてSROに協力要請がくる。それは家出人の捜索であり、基本的に誰かがどうこうなったという類のものではなかったが、やがてそれが連続殺人へと繋がっていく。 前作でパートナーを失った坊屋久美子や近藤房子をはじめとする登場人物たちが様々な思惑の元でいろんな動きを見せる。本作はしかし近藤房子の事件が主題ではない。そのため、読者にとっては房子事件の行方を焦らされている感がないわけでもない。 しかも、発足から一年足らずの組織において、これほどまでにシリアルキラーに遭遇するというのもやや疑問が湧く。物語だから、と片付けるには頻度が高すぎないか。 とかいいながらも、相変わらずストーリーは面白く、読み始めるとのめり込む。房子事件の先行きだけでなく、本作中の事件の先行きも気になり、どんどん読み進めてしまう魔力を持っている。

    2
    投稿日: 2016.01.02
  • SRO3 キラークィーン

    SRO3 キラークィーン

    富樫倫太郎

    中公文庫

    富樫倫太郎による広域捜査専任特別調査室SROの活躍を描く第3弾!

    第1作で強烈な印象を与えた房子が本作ではより強く、より残忍なキャラクターとして描かれる。物語だからといってしまうと身も蓋もないほどの強運で、警察の包囲をかいくぐっていく様は、もはや神々しさを感じさせるほどだ。 しかし、頭のネジは何本もぶっ飛んでおり、人を殺すこと、傷つけることにはなんの躊躇もない。本作でも関わった人間はどんどん不幸に、あるいは殺されていくのに、房子は飄々とその中をくぐり抜けていく。まさにキラー・クイーンだ。 本作は完全に続編を描くことを前提に編まれており、そういう意味では次作がどんな展開になるのかが非常に気になる。それほどたくさんの出来事が本作で起きており、発足間もない部署としては相当ヘヴィな状況だ。現実にこんな部署があり、こんな事件に立て続けに見舞われたら精神を病んでしまうのではないかと思うくらいだ。 が、物語としてはすこぶる面白く、軽妙な会話シーンなどが随所に織り込まれていることもあり、非常に読みやすい。ヘヴィな展開も読みながら気が重くなるような書き方ではない。むしろ、先を読みたくなる。次作が楽しみである。

    2
    投稿日: 2016.01.02
  • SRO2 死の天使

    SRO2 死の天使

    富樫倫太郎

    中公文庫

    富樫倫太郎による広域捜査専任特別調査室SROの活躍を描く第2弾!

    前作からそれほど時間が経っていないのに新たな連続殺人の疑惑に迫っていくSRO。今度は医師が相手となる。 本作では殺人を神の御心に従ったまでという認識のもとに、なんの罪悪感も持たずに実行していく相手が出てくる。しかも、普段は非常に優秀かつ冷静に的確に物事を判断できる聖人のような人物というところが空恐ろしい。つまるところ、外見や普段の行動からは相手が連続殺人犯とは見分けにくいということだ。 海外作品ではよくそういった事例を扱うものを見かけるが、日本にはそぐわないのかなあと漠然と思っていた。前作の近藤房子もそうだが、普段とはまるで別の顔を見せる殺人犯に、現実にあり得るのではと思う瞬間が盛り込まれ、しかも、房子は薬剤師、本作では医師という本来人の命を救う役目を果たしている人たちというのがリアルに恐ろしい。 SROの活躍もさることながら、こうしたリアルな設定で現実に起こりうると思わせる展開を用意しているところが、本作の大きな魅力である。

    2
    投稿日: 2016.01.02
  • SRO1 警視庁広域捜査専任特別調査室

    SRO1 警視庁広域捜査専任特別調査室

    富樫倫太郎

    中公文庫

    富樫倫太郎による広域捜査専任特別調査室SROの活躍を描くシリーズ第一弾!

    エリートだが脛に傷を持つメンバーばかりで構成された警視庁広域捜査専任特別調査室SRO。日本のFBIを目指して作られたものの、様々な部署から集められたメンバー間の信頼の醸成はままならない。 一見事件性がなさそうな白骨死体から警察の連携の隙をついた広域連続殺人ではないかという疑いをもち、調査を開始するSROのメンバーたち。その過程で元の部署からのスパイ疑惑や過去の事件の清算など、様々な出来事を通じて少しずつチームとしての結束を強めていく。 出来上がった組織ではなく、組織の出来上がる過程を描きながら、現在の警察の盲点をも指摘し、かつ十分に面白いエンターテインメントとして成り立っている。特に、会話の軽妙さからスイスイと読み進められるところがいい。 シリーズ化されているので、出来立てホヤホヤの組織で各所から白い目で見られているにも関わらず、存続していくだろうことはわかっているが、度々組織の瓦解の可能性がチラつき、ハラハラする場面もある。結果的にどう収束させるのか、というのも気になるところ。

    2
    投稿日: 2016.01.02
  • 光圀伝 電子特別版 (下)

    光圀伝 電子特別版 (下)

    冲方丁

    角川書店単行本

    冲方丁による水戸光圀を描く長編下巻!

    ついに藩主となった光國は、かねてよりの大願、史書の編纂に着手する。それを通じて学問を学べる場所として彰考館を設立、また、産業の乏しい水戸に特産品を育てるため、様々な取り組みを行う。 物語の随所に読耕斎、泰姫の面影を見る。それだけ二人に生きていて自らの姿を見ていてほしいと願っていたのだろう。彼らのような理解者、きちんと苦言を呈してくれる人を求めてやまなかったのか、泰姫の侍女・左近を頼ることが多くなるというのも面白い。 一方、若き逸材として藤井紋太夫が登場する。歴史を知っていれば紋太夫と光圀の関係も知っているだろうが、その結末に至る理由はいろいろな説があるらしい。これについても作者は一つの仮設の元に説得力のある物語を展開する。 光圀は親しい人、理解を示してくれる人を先に送り出すこととなり、それを見送り続ける。読みながらもなんとももの寂しい気持ちになるが、作者の作り上げた光圀像がそうした湿っぽさを弾き飛ばすくらいの器の大きな人として描かれているため、後味は決して悪くない。 これまでドラマ「水戸黄門」でしか知らなかった光圀がどんな人物だったのか、なぜ今に至るまで名声を保っているのか、を作者独自の視点で構築し直し、魅力的な物語に仕上げてある。歴史物独特の文体も少なく、非常に読みやすい佳作である。

    0
    投稿日: 2016.01.02
  • 光圀伝 電子特別版 (中)

    光圀伝 電子特別版 (中)

    冲方丁

    角川書店単行本

    冲方丁による水戸光圀を描く長編中巻!

    光國の嫁取り話が進行して、本人は納得していないまま婚儀が開かれる。嫁いできたのは公家・近衛家の娘、泰姫。光國は泰姫の率直な飾らない性格に安らぎを覚え、泰姫も光國のよき理解者として夫婦で共に歩いていく。 光國は藩主となるが、兄を差し置いて藩主となったことに不義を感じており、いかにして義を正すかを考え続け、一つの結論を得る。その義を全うすることにたいし、読耕斎、泰姫から賛同をもらい、その義を果たそうとする。 本書の中で光國にこれでもかと試練が訪れる。江戸は大きな火災によっておよそ半分もの街が灰塵と化す。心許せる友人、愛する人の死。しかし、支えてくれる人もいる。辛いことも多いが、だからこその喜びもある。そうしたことを本書は語ってくれているようだ。 最終巻ではいよいよ藩主となった光國の姿が描かれる。幾多の試練を乗り越えて義を果たすことができるのか。

    0
    投稿日: 2016.01.02