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あっくんさんのレビュー
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  • 姑獲鳥の夏(1)【電子百鬼夜行】

    姑獲鳥の夏(1)【電子百鬼夜行】

    京極夏彦

    講談社文庫

    京極夏彦のデビュー作!

    実は京極夏彦の作品は初見で、表紙のおどろおどろしいデザインや水木しげるに師事し、後継者を自認する行動などから、もっとねちっこく、いわゆる魑魅魍魎が跋扈し、超常現象が飛び交う非日常の世界を描いているものかと思っていたので、本書が正統派のミステリであることにまず驚いた。 しかしながら、物語世界を構築するためにまず脳と認識、記憶などについて京極堂に語らせ、その話はやがて量子論にまで発展するあたりは、蘊蓄好きの自分としては本筋にどのように関連してくるのかは別として非常に面白く、また自分の存在を自分たらしめているのは記憶であることに改めて気づかされ、その意味で空恐ろしくなった。 主要な登場人物が非常に個性的であり、京極堂をはじめ探偵榎木津、刑事の木場などはそれぞれがとっても濃いので、語り手である関口はまさにいつも翻弄されているんだろうなあと変なところで心配になった。

    2
    投稿日: 2013.10.19
  • ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士(上・下合本版)

    ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士(上・下合本版)

    スティーグ・ラーソン,ヘレンハルメ美穂,岩澤雅利

    早川書房

    スウェーデン発大河ミステリ第3弾!

    第2部で瀕死の重傷を負ったリスベットは病院に収容され、治療を受ける。一方で国家機密を保持しようとする勢力が暗躍し、リスベットを再び精神病院へ送り、二度と出てこれなくしようと画策する。ミカエルはこの勢力を暴き、粉砕すべく奔走する。やがて、殺人未遂ほかの罪で起訴されたリスベットの裁判が開廷する。 第3部は冒頭からすごいスピードで展開する。第1部のようなゆっくりとした導入部はなく、第2部の終盤の勢いそのままに、しかしさらに新たな要素が加わって大きなうねりとなっていく。本作のクライマックスであるリスベットの裁判シーンでは、完膚無きまでに相手を粉砕するための周到なやりとりが爽快である。 本作でこれまで提示されたほぼすべての謎が解決され、三部作は見事大団円を迎える。しかし、作者のPCには第4部、さらには第5部の一部の原稿も保存されていたらしい。作者の親族と作者のパートナーとの間でもめており、決着はまだ着きそうにないが、出来うるならば早期に和解して、続編の出版に道筋をつけてもらいたい。

    1
    投稿日: 2013.10.10
  • ミレニアム2 火と戯れる女(上・下合本版)

    ミレニアム2 火と戯れる女(上・下合本版)

    スティーグ・ラーソン,ヘレンハルメ美穂,山田美明

    早川書房

    スウェーデン発大河ミステリ第2弾!

    ヴァンゲル家の謎とヴェンネルストレムへの復讐を果たしたミカエルに対し、リスベットが距離を置いてお互いの関わりをなくそうとするところから物語がはじまる。ある事件をきっかけにリスベットの過去が徐々に明らかにされるが、そこには重大な秘密が隠されていた。 リスベットの過去が明かされるにつれ、なぜリスベットがこんなにもかたくなな姿勢を貫いているのかが納得できる。第1作「ドラゴンタトゥーの女」の時点ですでにこうしたバックグラウンドは設定済みで、第3作に繋がる秘密も伏線として張ってあったということにまず大きな驚きが隠せない。 一方で、作者はジャーナリストらしい、緻密な筆致で現在のスウェーデンが抱えている問題も喝破し、それらも物語にうまく織り交ぜながら展開させていく。それはそれは圧倒的なリアリティを感じさせる。人身売買、官僚の腐敗、女性蔑視、報道被害など諸々の要素を織り交ぜながら破綻なくストーリーを展開させ、しかもそのページターナーぶりもまた圧倒的だ。 終盤の衝撃的な展開で第3部への期待も高まってゆく、その仕掛けもすばらしい。

    2
    投稿日: 2013.10.10
  • ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(上・下合本版)

    ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(上・下合本版)

    スティーグ・ラーソン,ヘレンハルメ美穂,岩澤雅利

    早川書房

    北欧ミステリの火付け役

    ハリウッド映画化も話題になった、スウェーデン発大河ミステリの第1部。 文庫化にあわせて発売された電子書籍版が上下合冊で安価だったので、購入して読んでみた。確かに冒頭から中盤あたりまでの人間関係を延々と探る描写は一面、長いなあと思わせるものではあるが、遅々とではあるものの物語が進展し、やがて一つの手がかりを見つけたあたりから徐々に加速して終盤のたたみかけるような流れは圧巻である。 しかも、ある面では解決したと思っていた物語が実は振り出しに戻っただけであったり、大きなどんでん返しが用意されていたり、それがきちんと整然と、ピースがはまるべく片付けられていく様子はミステリならでは。 所々強引に話が進んでいるように感じる部分がないわけではないが、デビュー作でこれだけの完成度はすごい。惜しむらくは作者スティーグ・ラーソン氏はすでに鬼籍に入っていること。禁句ではあるが、もし生きていたらこの3部作以外にどんな作品を書いていただろうかと思ってしまう。

    4
    投稿日: 2013.10.10
  • 千里眼 完全版 クラシックシリーズ1

    千里眼 完全版 クラシックシリーズ1

    松岡圭祐

    角川文庫

    千里眼シリーズ第1作

    自衛隊出身の臨床心理士・岬美由紀が活躍するシリーズ第1弾。 この作家の本は体裁が変わったり出版社が変わるごとに大幅に改稿されているようで、本書は9.11などもふまえて書き換えがなされている。物語は新興宗教と対立する国家側を取り巻く手に汗握るやりとりが展開され、そこかしこに催眠術や心理学の蘊蓄がちりばめられている。 物語の盛り上がりとは別に、主人公が悪の元締めにたどり着く瞬間がアッサリとしていて若干の拍子抜けの感がないわけではないが、バイクや自衛隊機を自在に操りながら追い詰めていくさまはスリリングで楽しめる。ただ、主人公が自衛隊のパイロットだった設定は良しとしても、主人公が通う病院の院長であり、臨床心理の手ほどきを加えた友里佐知子がものすごいクルマを疾駆させたり、新興宗教の幹部が自衛隊機を自在に操るなど、ちょっとやり過ぎではないかと思えるシーンもあり、物語の展開に疑問符が並ぶ部分もある。 すでにシリーズ化されているからかもしれないが、今後の作品への伏線と思えるところが所々に貼られていて、続きを読みたくなるような仕掛けもなされている。気になるところはあるにしても、エンターテインメントとして楽しめる一作である。

    12
    投稿日: 2013.10.10
  • スーツケースの中の少年

    スーツケースの中の少年

    レナ・コバブール,アニタ・フリース,土屋京子

    講談社文庫

    北欧の良質群像ミステリ

    スティーグ・ラーソンの「ミレニアム」と賞レースを争ったというデンマーク作家二人による共作ミステリ。 友人から頼まれてコインロッカーから取り出したスーツケースに収められていたのは、全裸の少年だった。誰が、何のために? 物語は複数の主要な登場人物の視点に切り替わりながら進んで行く群像劇となっており、読者はある意味神の視点で物語を読むことができる。その意味で、少年が誰なのか、黒幕が誰なのかは比較的早い段階で想像でき、また明かされて行く。一方でなぜ?という命題は物語終盤まで明かされず、群像劇にもかかわらず、良質なホワイダニットのミステリとしてまとめられており、ミレニアムと賞レースを争ったというのも頷ける。 登場人物はいずれも精神的に問題を抱えていて、現代社会の暗部にも触れているあたりはいわゆる社会派ミステリとしての側面も併せ持ち、物語の説得性を高めている。 ミレニアムと比較すれば、テンポは圧倒的にこちらの方が良いが、面白さではミレニアムに軍配が上がるか。とはいえ、かなりレベルの高い勝負ではあるのだが。

    3
    投稿日: 2013.10.10
  • 万能鑑定士Qの推理劇 IV

    万能鑑定士Qの推理劇 IV

    松岡圭祐

    角川文庫

    万能鑑定士Qの推理劇はこれが最終巻。

    莉子は前作までにいろんな問題に首を突っ込み、それぞれの問題は解決してきていたが、その行動を起こすために祖母に借金までしていた。やがて資金繰りに苦労しているところに祖母から借りた以上のカネの返済について話をされる。そんなある日、万能鑑定士Qの店舗にあの力士シールが貼られるという事件が発生する。 人の死なないミステリ、という触れ込みのこのシリーズも本作が最終巻のようだ。莉子に立ちはだかるのは最強の贋作士コピア。といいながら、案外アッサリと尻尾をつかまれ、非常にアッサリと事件が解決してしまう。このシリーズ最終巻を飾るには何ともスッキリしない終わり方で、もやもやが残ってしまう。 もちろん、松岡圭祐らしい蘊蓄もふんだんに用意され、相変わらずテンポも良く、読んでいる分には面白いのだが、やはり多作になりすぎてレベルが落ちてしまったのか、心配になってしまう。最終巻にふさわしく、ほぼオールスターキャストではあったが、その必要がないような物語の展開だったようにも思う。

    0
    投稿日: 2013.10.07
  • 天地明察 下

    天地明察 下

    冲方丁

    角川文庫

    大団円!

    冲方丁による時代小説の下巻。 ついに晴海は授時暦を日本の暦として用いらせるべく、様々な布石を打っていく。一度は改暦に対し事なかれ主義で「否」を唱えた公家衆であったが、晴海が仕掛けた授時暦とこれまで800年にわたり用いられてきた宣命暦とを比較し、授時暦の正確さを世に問い、改暦の空気が形成されてゆく。しかし、最後の最後で授時暦が間違いを犯し、改暦の空気が一気にしぼんでゆく。 事実を元にしたフィクションであり、実際に渋川春海が経験したことを元に物語が構成されているが、こんなに挫折を繰り返しながらも周囲に助けられて大願を成就させるということが如何に劇的であり、それを歴史の授業などではほぼ語られてこなかったことが如何に勿体ないことか。仲間たちと心を通わせ、自分よりも優れた人たちと交流し、そして粘り強く諦めないこと。ビジネス書などでも語られるような要素がこの物語には凝縮されている。 ラスト、晴海の人生の最後が描かれているが、自分たちもこうありたいと思えうようなラストであり、素直にうらやましく感じた。

    6
    投稿日: 2013.10.07
  • 天地明察 上

    天地明察 上

    冲方丁

    角川文庫

    平易な文体の時代小説

    冲方丁による時代小説。実在の人物を主題にすえ、その昔唐からもたらされた暦をそのままありがたく使っていた時代に、その暦の誤差から日本独自の暦を作り上げるまでを描く。 とにかく、主人公・渋川春海がいかにもヘタレで、何かにつけてふわふわとしている感が現代の悩める若者にも通じるのではないかと勝手に想像しながら読んでしまった。しかし、ある程度は才能に恵まれ、それ以上に人に恵まれた晴海は、全国を回り緯度を測定する大事業に参加することで一回り大きく成長する。 晴海に立ちふさがるようにそびえる「化け物」関孝和はほとんど登場らしい登場もしていないのにものすごい存在感を示している。実際にそれほどまでに頭が良かったのかどうかはわからないが、世の中には「化け物」としか言いようのない豪傑が時として現れるようで、あながち嘘ではないのかも。 歴史小説にありがちなかしこまった文体ではなく、あくまでも現代劇風な描写の仕方なので、時代小説が苦手という人にも受け入れやすいと思う。一方で、時代小説ファンからするとその軽やかな語り口がやや軽すぎる印象を与えてしまうかも。

    3
    投稿日: 2013.09.30
  • ロシア紅茶の謎

    ロシア紅茶の謎

    有栖川有栖

    講談社文庫

    有栖川有栖による国名シリーズ第1弾

    有栖川有栖による国名シリーズ第1弾。 本作は長編ではなく短編なので、隙間時間などを使って気軽に読むことができるが、屈指のミステリ作家である有栖川有栖が手がけているだけのことはあり、いずれも非常によくできている。 ラストに据えられた「八角系の罠」には例の「読者への挑戦」も用意され、小粒ながらもピリッとした佳作となっている。 トリックはいささか非現実的と思えるものがなくはないし、解決編で初めて明かされる事実があったりとフェアで無い感がないわけではないが、それも気にならない面白さが本書にはある。

    5
    投稿日: 2013.09.28