
女王国の城 上
有栖川有栖
創元推理文庫
学生アリスと江神二郎が活躍するシリーズ第4弾!
前作ではマリアが不可解な行動の末に山奥の村に逃げ込むようにして引きこもったが、本作ではなんと探偵役の江神二郎が新興宗教の街に一人赴き、それを追ってアリス、マリア、モチ、信長の4人もその街・神倉へとやってくる。 その新興宗教・人類協会は傍目には人畜無害な人たちの集まりのようではあるが、ひとたびその街の中で殺人事件が起こると、外部からやってきたアリスたちを含め、関係者を軟禁してしまう。しかも、警察には届けず、自分たちで解決しようという。 江神二郎とアリスたちは再会できたが、なぜ一人でいきなりこの街に来たのかは納得のいく説明がえられない。さらに、11年前の殺人事件も未解決となっていて、今後ストーリーにどのように絡んでくるのか。人類協会は本当に人畜無害なのか。謎は謎のまま上巻は終わり、それらの謎がどのように収束するのか、上巻を読み終えた段階ではほとんど何もわからない。 下巻の目次をみると、やはり「読者への挑戦」があるようだが、これまでのところ完全に作者にしてやられている。下巻の挑戦までにその謎を解き明かすことが出来るのか、自分に対しても興味を持って下巻に取りかかりたい。
1投稿日: 2013.11.28
千里眼 トランス・オブ・ウォー 完全版 下 クラシックシリーズ9
松岡圭祐
角川文庫
様々な要素を織り込んだ意欲作の下巻!
イラクでの戦いはアメリカによる陰謀渦巻く殺戮の舞台だった。美由紀は何とかして殺戮の連鎖を停めようとするが、逆にとらわれの身になってしまう。トランス・オブ・ウォーを証明し、殺戮の連鎖を停めることが出来るのか。 相変わらず、この作者は主人公をとことんまで絶体絶命の場面に追い込むことで、あり得ないような状況からの逆転劇を演出する。これがまた気持ちいいくらいスカッと決まるところが、想像の上をいっていてすごい。トランス・オブ・ウォー理論の擁護者でもあった厭世の博士すらも証明を諦めていたのに、そんな方法があったのか!!と思わずうなってしまう。 心理学的な物語の構築もさることながら、イラクを舞台とし、イスラムの人々の立場や考え方(これはもちろん、作者のフィルターが通っている)も十分物語に織り込みながら、美由紀の過去の確執や部隊の同僚との和解などいくつもの要素を余すところなく描ききっている。 それにしても、松岡圭祐の本は長くても途中でだれることがない。本作も適度な緊張感をはらみながら最後まで読み切らせる。ますます続編が楽しみになる。
0投稿日: 2013.11.18
千里眼 トランス・オブ・ウォー 完全版 上 クラシックシリーズ9
松岡圭祐
角川文庫
美由紀の過去や内面を丹念に描く、これまでとは違ったアプローチの第9弾!
本作ではこれまでほとんど語られることのなかった美由紀の過去、特に両親が死んだいきさつや救難部隊を目指していた頃の同僚とのやりとりなどが上巻のほぼ3分の2ほどを使って語られる。そこでは女性幹部自衛官の少なさから世間体を気にして有能な自衛官から選抜すべき救難ヘリ要員を女性だけに限定して選抜しようとする組織の思惑を不快に感じながらも自らが目指す救難部隊への配属のために選抜試験を受ける美由紀と、父親が人事権を持つトップエリートの娘との確執などが描かれ、これがやがて下巻での美由紀の境遇に大きく関わってくることになる。 上巻ではこれまでのようなアクション主体の物語からやや一線を画し、美由紀の内面の心情を深く掘り下げ、美由紀という人物により奥行きをもたせようとする著者の思いが感じられる。これまでの物語では異常に思えるほどのスーパーウーマンとして八面六臂の活躍をしてきた美由紀だが、それも過去の血のにじむような努力があったから、ということをしっかりと描いていく。やがて、現代に物語は戻り、アメリカの仕掛けたイラク戦争によって大幅に治安の悪化したイラクにおいて、成り行きとはいえ戦争に歯止めをかけるべく美由紀が単身挑んでゆく。 イラク戦争というアメリカの仕掛けた帝国主義的暴虐をある意味最も真実に近い形で描いているのではないかと思えるくらいリアリティに溢れた設定と、それをイラク側に立つことになった主人公の目を通して描いていくところは、メディアリテラシーという意味でも学ぶところが多い。報道されるものがすべて真実ではない、ということを改めて考えさせられる。
0投稿日: 2013.11.18
ヘーメラーの千里眼 完全版 下 クラシックシリーズ8
松岡圭祐
角川文庫
臨床心理士の岬美由紀が活躍する千里眼シリーズ第8弾の下巻!
精神療法と称して新型の麻薬を投薬し、本来精神病患者ではない人さえも精神病として扱い、それによって世界の征服を企む製薬会社がついに本性をさらけ出す。上巻で死亡したと思われていた子供の母親が寝たきりとなったことや、伊吹がとらわれの身となり、麻薬中毒で前後不覚に陥ったりしたことからその製薬会社に乗り込み、結果的に壊滅に追いやる美由紀。そして、その新型麻薬は大陸から大量に運ばれたものだった。しかも、その輸送船には私設空軍が護衛にあたり、その操縦者は過去に人民解放軍でエースパイロットとしてならした男だった。 上巻で死亡したと思われていた少年の行方、そして伊吹は立ち直れるのか。美由紀の一世一代の大勝負が最後に待ち受ける。 すべてが納まるところに納まり、スッキリと終わるあたりは複雑に伏線を張り巡らせた後に最後のピースまであるべき所に納める上質のミステリを読み終えたときの感覚に似ている。いろいろな要素を駆使しながらも破綻なくまとめ上げるあたりはさすがといえる。
0投稿日: 2013.11.18
ヘーメラーの千里眼 完全版 上 クラシックシリーズ8
松岡圭祐
角川文庫
臨床心理士の岬美由紀が活躍する千里眼シリーズ第8弾!
航空自衛隊の演習中に、標的の中に隠れて遊んでいた少年が演習における爆撃によって死亡する事故が発生。しかも、使用された武器は新型の爆薬で、炸裂と同時に肉体は蒸発し、骨すらも残らず、後に残るのはわずかな細胞が分解された後の一部の元素だけのため、本当に少年がいたかどうか誰にもわからないため、自衛隊としても本当に事故があったかどうか慎重に見極めるために報道発表すら行われなかった。その事故を起こしたのは美由紀の防衛大学校時代の先輩であり、操縦などについてアドバイスをしてくれた師匠でもあり、かつ当時の恋人でもあった、空自のエースパイロット、伊吹一尉だった。 伊吹と過ごした日々を振り返りつつ、事故を起こしたことでやけになり、もはや自分は存在していてはいけないとでもいうかのような態度をとる伊吹に対し、諦めずに支えていこうとする美由紀の姿が描かれる。 相変わらず出てくる自動車は普段の生活では全くなじみのないものが多いが、ついに世界最高額といっても過言ではないスーパースポーツカー、ブガッティ・ヴェイロンまで登場してしまった。松岡圭祐という人の車への執着はどこまでなんだろうと、物語の本筋とは違ったところでものすごく興味を引かれてしまった。
0投稿日: 2013.11.18
千里眼の死角 完全版 クラシックシリーズ7
松岡圭祐
角川文庫
臨床心理士・岬美由紀が活躍する千里眼クラシックシリーズ第7弾!
謎の人体発火現象により、テロリストを始めとする人々が次々に死んでいくなか、英国王子の妃、シンシアが意味不明の行動を取り始め、その対応に嵯峨敏也が派遣される。一方、人間の脳を模して作られたコンピュータと人工衛星を使ったレーザー防衛システムが謎の誤動作を始める。その裏にはメフィストコンサルティングの陰謀が渦巻いていた。 本作はこれまで以上にショッキングな内容となっている。人の生き死にが描かれるのはもちろんだが、それはさほどグロテスクではない。しかしながら、ディフェンダーシステムと呼ばれるレーザー防衛システムとそれを制御するためのコンピュータを乗っ取り、恐怖の統治を成り立たせようとするメフィストコンサルティング、その天空からの攻撃によりあっという間に全世界のほぼすべての軍事力、警察力などが壊滅し、混乱の極みを迎える世界はフィクションだとしても背筋が凍り付くリアリティで描かれる。 もはや行き場もなく、ただ逃げ惑うだけしかすべをもたない人類への明るい希望はあるのか。どういう結末を迎えるのか、先が読めない。美由紀が敵の手に落ちてしまい、自由を奪われてしまうのは「ミドリの猿」以来だが、さらに深刻な状況に陥って、もはやわずかな希望すら持てない展開になったときには、永井豪の「デビルマン」のように人類が滅亡してしまうラストへと流れていくのかとすら思えてしまう。 それにしても、マリオン・ベロガニアなる人物はもう少し友里佐知子のようにしぶとければ、というのがちょっと残念な感想になってしまうが率直な意見だ。
0投稿日: 2013.11.04
千里眼 マジシャンの少女 完全版 クラシックシリーズ6
松岡圭祐
角川文庫
臨床心理士・岬美由紀が活躍する千里眼クラシックシリーズ第6弾
美由紀は休暇を取ってスキーに来ていた。そこに突然現れた自衛隊ヘリ。救難信号を受信したというので美由紀も同乗し、ホバリングするヘリから信号源付近にダイブする。しかし、そこには誰もおらず、呆然とする美由紀を雪崩が襲った。 東京では東京湾沖合に巨大アミューズメント施設が建設されていた。表向きはレジャー施設だったが、実は密かにカジノの建設が進められており、やがては法改正を果たしたい議員らが視察に訪れる。そこでは、実際のカジノ同様、現金のやりとりも行われるべきという意見をくみ、400億円の現金が倉庫に運び込まれていた。それは、これからはじまる大いなる陰謀の始まりだった。 途中まで読んでいて、明らかにそれまでの美由紀と言動が異なる美由紀と、どう考えてもただのアミューズメント施設の従業員には見えない女性が登場し、やや混乱を招きがちになる。その伏線が冒頭の雪崩事故であるが、そのつながりも決して無理はない。本作のキーマンはタイトルにもある「マジシャンの少女」と「落ちぶれた汚職刑事」で、いずれも美由紀顔負けの活躍を果たす。 それにしても、F15のパイロットまでは許すとしても、潜水艦の操艦指揮もこなせるなんてのはちょっとやり過ぎでは。どこまで万能キャラクターになってしまうんだろう、岬美由紀は。
0投稿日: 2013.11.04
千里眼の瞳 完全版 クラシックシリーズ5
松岡圭祐
角川文庫
臨床心理士・岬美由紀が活躍する千里眼クラシックシリーズ第5弾!
前作で追い詰められた友里佐知子は、山手トンネル事件の犠牲者が集まる49日法要の場に姿を現す。参列者たちが隠し持っていたものがレアアースではないかとにらみ、法要の会場から出てくるトラックを待ち受けるが、そこにあったものは全く思いもよらないものだった。 平穏な日々を取り戻した美由紀は、北朝鮮による拉致事件に絡むと思われる失踪者の父親から依頼を受ける。それは自衛隊時代に悔いの残る出動となった北朝鮮による不審船領海侵犯の際の拉致被害者ではないかと思われた。 一方、北朝鮮の総書記の息子が不法侵入した際に一緒にいた女性は、身分を偽り、韓国人臨床心理士として美由紀たちの臨床心理士会に職を得る。怪しいとにらんでいた美由紀だが、いろんな場面でふれあっていくうちにお互いの心情がわかり始める。 本作は派手な冒険活劇というよりも精神的な人とのつながり、あるいは岬美由紀が背負ってきたものといった背景が少しずつ解き明かされ、物語により奥行きをもたせている。特に、自衛隊自体の悔いの残る出動の件や北朝鮮工作員と思われる女性とのやりとりなどは、これまでの強い岬美由紀ではなく、人間としての弱いところや優しさなどがより丹念に描かれているようで好感が持てる。ラストに向けて優しい気持ちになれる、そんな展開もこれまでの千里眼シリーズとは一線を画している印象だ。
0投稿日: 2013.11.04
千里眼の復讐 クラシックシリーズ4
松岡圭祐
角川文庫
臨床心理士・岬美由紀が活躍する千里眼クラシックシリーズ第4弾!
今回はつい最近開通したような気がする山手トンネルが舞台。レアアースの一種を巡って恒星天球教の友里佐知子が暗躍する中、岬美由紀がむかった先は山手トンネル。トンネル内にはワナが仕掛けられており、トンネルの崩落とともに閉じ込められてしまう。そこではイリミネーションと名付けられた儀式が始まろうとしていた。 前作でもやや常人離れした活躍を見せた岬美由紀だが、本作ではさらにスーパーウーマンぶりを発揮する。弱点がわからない、脳手術を受けて痛みを感じなくなった人間=怪物を相手に、八面六臂の活躍をする。イリミネーションの儀式はその裏に壮大な陰謀を秘めていたが、それすらも見破り、やがて友里佐知子を追い詰めていく。 半ばグロテスクな描写が続き、ややもすれば吐き気を催しそうな状況の中、しかしそれでもスピーディに展開していく物語に引き込まれ、続きを読みたくなってしまうのは作者の力量のなせる技か。チェーンソーで脚を切られけがをしたはずの美由紀がやたらと俊敏に動き回れるのが違和感を残すといえばそうだが、それを補ってあまりあるストーリー展開のおもしろさに一気読みしてしまう。 追い詰められた友里佐知子がこの後どんな動きを見せるのか、続編がまたまた気になってくる。
0投稿日: 2013.11.04
ロスジェネの逆襲
池井戸潤
ダイヤモンド社
テレビドラマも大ヒットした半沢直樹シリーズ第3弾!
出向先の証券会社で企業買収のアドバイザー業務の依頼が来、それに対応する半沢たちが、もたもたしている間に古巣の東京中央銀行がその案件をかっさらう。その理不尽な横やりに対し、半沢の逆襲が始まる。 相変わらず半沢のすがすがしいまでのやり口にスカッとする。一方で、倍返し、といいながら今回は最終的に完膚無きまでにたたきのめすのではなく、ある意味救済の手をさしのべるかのような振る舞いをして窮地を脱する。論理的には半沢側に正義があり、論理的に追い詰めていくので反論のしようがないが、前2作のように泥臭く自分の地位にすがりつくために悪事をはたらくキャラクターという位置づけの登場人物が若干弱い感じがした。 物語の中盤から逆襲が始まり、真綿で首を絞めるかのように外堀から徐々に追い詰めていく様子はある意味空恐ろしいが、前2作ほどのスリリングさはなく、むしろじっくりと読ませていく。 半沢の生き方は傍目からみると強烈で不器用に見えるが、その心持ちは仕事をするすべての人に通じると思う。自分の仕事に自信が持てないとき、本書がひとつの道しるべになるかもしれない。
0投稿日: 2013.10.21
