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あっくんさんのレビュー
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  • 櫻子さんの足下には死体が埋まっている

    櫻子さんの足下には死体が埋まっている

    太田紫織,鉄雄

    角川文庫

    太田紫織による骨に魅了されたお嬢様とその知り合いの高校生が繰り広げるライトミステリ第一弾

    なぜか骨が大好きなお嬢様・櫻子の性格はとてもお嬢様とは言い難いが、骨好きに伴う知識の幅広さは、叔父が監察医という設定とも相まってマニアックなまでにすごい。さらに、動物でも人間でも、骨に関わりそうなら腐敗臭もなんのそので、ある意味お近づきになりたくない人物だ。 そんなお嬢様となぜか親しく、何かあればご飯まで食べさせてもらう奇特な高校生・正太郎も頼まれたことは断れない、流されやすく巻き込まれやすい人物だ。 ぱっと見はよくあるような設定ではあるが、骨にまつわる物語の軸としてこの設定がうまく効いていて、物語ひとつひとつも程よい長さでまとめられているため、さらりと読める。 体裁はライトノベル然としており、実際そうなのかもしれないが、法医学や骨にまつわるウンチクについては非常に高度かつ端的にまとめられていて読み飛ばすこともなくヘェ〜と思う場面も少なくない。 本書一冊でまとまるなんてことははなから考慮されていない感じで、当然のように続巻が刊行されている。

    2
    投稿日: 2016.09.22
  • 獣の奏者 外伝 刹那

    獣の奏者 外伝 刹那

    上橋菜穂子

    講談社文庫

    上橋菜穂子による壮大なファンタジー長編の外伝

    本書は掌編を含む4つの物語から構成される。 作者が述べている通り、本編はもはや付け足すところのない一つの閉じた丸のように欠けるところのない作品であり、本作はいわば蛇足のようなものではあるが、本作によって描かれるそれぞれの人物がより人間らしく生き生きと感じられてくるという点で、本編を補強する大事な作品である。 特に、冒頭で描かれるエリンの母ソヨンは本編では重要な役どころではあるものの、描かれ方は限定的であった。本作によってよりソヨンの思いが際立ってくる。 いずれの作品も「児童文学としての獣の奏者」ではなく、ある程度歳を重ねた大人に向けて描かれているように感じる。本編を含め、作品全体の懐の深さを感じることができる良作である。

    0
    投稿日: 2016.06.28
  • 獣の奏者 IV完結編

    獣の奏者 IV完結編

    上橋菜穂子

    講談社文庫

    上橋菜穂子による壮大なファンタジー長編第4弾にして完結編

    リョザとラーザの全面的な戦いが迫る中、エリンは王獣の訓練に明け暮れる。闘蛇と王獣が入り乱れる戦いがどんな結末を迎えるのか、伝説と掟の真相がいよいよ明かされる。 前作では完結した物語を再び立ち上げたことによるややとってつけた感がないわけではなかったが、本作の結末まで読み進めれば全てが収まるべきところに収まっていく感覚を味わえる。後半の2作ではエリンの息子・ジェシがいることで、一つの大きな歴史の流れを物語から感じることができる。現実の世の中もうまくいかないことやままならないことが多いが、それも含めて大きな流れの中で生かされているのだと、本作が語りかけてくれているようだ。 自らが心を通わせた生き物を戦いの道具として使うことの葛藤、生きるとはどういうことか、といった心の内面を丁寧に描き、生への讃歌を歌い上げているように感じた。

    0
    投稿日: 2016.06.28
  • 獣の奏者 III探求編

    獣の奏者 III探求編

    上橋菜穂子

    講談社文庫

    上橋菜穂子による壮大なファンタジー長編第3弾

    前作から11年がたち、エリンはイアルと結婚、ジェシという息子に恵まれ、平穏な日々を過ごしていた。実は前作で一旦物語は完結していたそうで、少女だったエリンがいきなり母となり、ある意味風格も漂わせていることにやや面喰らう。 王獣たちの繁殖、闘蛇を操った母の指笛など、残された謎は多く、それらに徐々にメスが入れられていく中、物語も新しい展開を見せていく。 真王と大公が結婚して以来の動揺はいまだ尾を引き、それにつけいって領土を拡大しようとする隣国との緊張が高まるなど、収束に向けての怒涛の展開が続いて読む手を止められない。 強大な戦力を有するがゆえに高まる緊張は現代の世界情勢にも通じるところがある。話し合いは話し合う相手が交渉のテーブルにつかなければ成り立たない、といった意味の一文は、現代の日本が置かれている立場にも通じていてハッとさせられた。

    0
    投稿日: 2016.06.28
  • 獣の奏者 II王獣編

    獣の奏者 II王獣編

    上橋菜穂子

    講談社文庫

    上橋菜穂子による壮大なファンタジー大河第2弾

    闘蛇衆だった母を闘蛇に屠られたエリンは一族を憎みこそすれ、何の未練もなく育っていく。ある時、怪我をして瀕死の王獣をそれまでの規範からかけ離れたやり方で救って以来、エリンを取り巻く環境が大きく動いていく。 闘蛇や王獣というファンタジー特有の生き物が人間とどのように関わっているのかも非常によく練られた設定の上に描かれており、物語中でそれらの存在を疑うような展開は全くない。むしろ、今それらの獣たちがここにいてもおかしくないくらいのリアリティをもって描かれている。 それらの獣たちがエリンの住む世界で政治の道具として扱われるさまは、現実世界でいえば警察や自衛隊のような武力をどう制御していくのか、という問いかけと無縁ではないように思う。 武力のバランスというのは現実でも非常に危ういせめぎ合いの中で成り立っているが、本作中でも同様で、そのバランスを崩そうという勢力と何とか立て直そうとする人々の良識の戦いを描いていると言っても過言ではない。驚くほど現実世界に当てはまる物語が展開する。 エリンがおかれる立場は相変わらず過酷で、読者としては何とか幸せになれるよう祈りたいが、なかなか作者はそうはいかせない。とはいえ、この先のエリンの行く末も気になるので、相変わらずすぐに続巻に手を伸ばすことになる。

    0
    投稿日: 2016.06.28
  • 獣の奏者 I闘蛇編

    獣の奏者 I闘蛇編

    上橋菜穂子

    講談社文庫

    上橋菜穂子による壮大なファンタジー大河第1弾

    主人公エリンは10歳にしていきなり目の前で母親を失うという過酷な運命を経て、たくましく生きていく。読者はその姿を見ながら生きることについて深く考えさせられる。 もともと自分は物語としてのファンタジーはあまり食指が動く方ではなく、もっぱらミステリーや冒険小説を好んで読んでいるが、「鹿の王」で作者の懐の深さを知って以来、ファンタジーを毛嫌いするのは美味しい物の味を知らないのに食わず嫌いしているようなものだと思い、名作の誉れ高い本作を手に取った。 本作は正にファンタジーだからこそ成り立つ舞台設定の中で、ある意味普遍的ともいえるテーマを少しずつ掘り下げていく。その展開は宮崎駿が「風の谷のナウシカ」で提示したようなエンターテイメントとして楽しめながらも、作者からのメッセージをベースとして読者にそれとなく、かつしっかりと問いかけていく。 エリンがおかれた境遇がどうしてそうなのか、それはややもすると現代に生きる一人一人に置き換えられるところもあるかもしれない。それをどのように打開していくのか、その様を見ながら自分たちも勇気をもらえる。そんな物語が紡がれていく。 まだまだ導入部といえる本作を読み終え、すぐに続巻を貪り読みたくなる。

    2
    投稿日: 2016.06.28
  • 掟上今日子の推薦文(単行本版)

    掟上今日子の推薦文(単行本版)

    西尾維新,VOFAN

    講談社

    西尾維新による忘却探偵シリーズ第2弾

    前作で主役級の役割を与えられていた隠館は登場せず、親切守という別人が物語を語っていく構成となっていて、それはそれで少し残念。 本作では美術館の警備員・親切が、抽象的な絵画の値段に2億円と値をつけた今日子と出会うところから始まる。その絵をいつもしげしげと立ち止まって見ていた今日子が、ある日いきなり素通りするのを目にしてなぜ?と問い、今日子の鑑定額が200万円に値下げされたこと、ある老人がその絵をいきなり叩き壊してしまったことなど、ただ字面だけ追っていると訳がわからないのでついつい先を読ませられる感覚は作者にしてやられているようで悔しい。 もっとも、本作は長編の体裁をとっているため、前作に比較してやや冗長に過ぎる感もあり、特に親切の独白がややウザい。 また、前作ではがめついだけの印象だった今日子が案外性悪で、簡単に嘘はつくしサラッと騙すし、やや関わり合いになりたくない人物の印象になってしまった。最後にはそれらにもある程度の理由付けがなされており、納得はできるが、それにしても、、、、 次作以降でさらに今日子の知らない面が描かれていくのだろうが、楽しみなようなあまり見たくないような、複雑な心境になる。

    1
    投稿日: 2016.06.28
  • 海のある奈良に死す

    海のある奈良に死す

    有栖川有栖

    角川文庫

    有栖川有栖による作家アリスシリーズの長編作

    まず、タイトルが目を引く。無知な自分には「奈良に海なんかない」と即座に思ってしまうのだが、福井県小浜市は国宝級・重文級の寺社やゆかりの地が多く、歴史的にも海外との交易などで重要な地であり、奈良とのゆかりも深いことから「海のある奈良」と呼ばれているそうだ。 もう一つキーワードとなるのが「人魚」だ。作中で不審な死を遂げる赤星楽が取材に行くといった場所が「海のある奈良」、書こうとしていた作品のタイトルが「人魚の牙」で、小浜は八百比丘尼とのつながりが深く、八百比丘尼は人魚の肉を食べて年をとらなくなったと言われる。 これらの要素をうまく物語に取り込み、所々でガイドブックか歴史の解説書のような解説も盛り込まれ、物語が進行する。長編ということもあり、やや冗長に感じる部分もあるが、近畿から北陸にいたる地域で展開する物語に、いつかはそれをこの目で見たいと思わせるものも登場し、飽きさせない。 作者が専業作家となって初めての作品ということで、相当気合が入ったと思われる。やや?と首をかしげてしまうところもないではないが、それも含めて労作であり佳作である。

    2
    投稿日: 2016.06.28
  • 掟上今日子の備忘録(単行本版)

    掟上今日子の備忘録(単行本版)

    西尾維新,VOFAN

    講談社

    西尾維新による忘却探偵シリーズ第一弾

    寝てしまうと前に寝たときからの記憶を一切失ってしまうという異色の探偵が活躍するシリーズだが、この設定が程よく生きていて、短編だからこその魅力を醸し出している。とはいえ、本作は一冊で一つの長編を構成しているような作りにもなっており、一粒で2度美味しいイメージだ。 いきなり登場してから睡眠薬を盛られるというピンチに遭遇するなど、忘却探偵ならではの展開も用意されていて面白い。一方で、全てを忘れるのになぜ探偵として生業を営めるのかといった疑問にもある程度の回答が用意されており、それはそれで切ない。 西尾維新作品に触れるのは個人的には初めてだが、良くも悪くもライトノベルテイストで、とっつきにくさはない。他の作品を知らないのでこれぞ西尾維新という作品ではないかもしれないが、松岡圭祐同様、筆の速さの割に作品レベルが高い印象だ。購入したまま積ん読になっている続編にも期待したい。

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    投稿日: 2016.06.28
  • ノックス・マシン 3/4 電子オリジナル版

    ノックス・マシン 3/4 電子オリジナル版

    法月綸太郎

    角川文庫

    法月綸太郎によるミステリにまつわる話をSF仕立てにした短編集

    本作はいろんなところで言われているように、決して万人向けではない。むしろ、クリスティやクイーンといった古典ミステリをこよなく愛し、かつSFもある程度読みこなしている人が、そこかしこに仕掛けられた遊びを楽しむ、という側面がかなり強い。そういった意味で、「このミス」一位という評価だけによって本書を手にするとなんだこりゃとなる可能性も高い。かくいう自分も、古典ミステリはかじる程度しか読んでいないため、ネタ元がわかるものとわからないものがある。様々な作品に触れた後で読み返すとおそらく今とは違った感想を持つだろう。 古典ミステリへの愛が如実にあふれた作品として「引き立て役倶楽部の陰謀」が収録されているが、ミステリの歴史の体系的なまとめとも言える作品で、それと知らずに読んでも非常にコミカルな作品でもある。 また、本作は「紙の書籍」への愛着もそこかしこに感じられる。残念ながら電子書籍版には収録されていない「バベルの牢獄」はその最たるもので、絶対に電子書籍化できない仕掛けが仕組まれている。 表題作とその続編もふくめ、よくもこんなことを思いつくものだと感心することしきりで、ある意味論理の煙に巻かれたような読後感もあり、そういう意味でミステリにも通じるが、あくまでも本作はミステリではなくSFテイストの作品集だ。

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    投稿日: 2016.06.28