
総合評価
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介護殺人ミステリー
介護の実態を詳しく知らない人間にはとてつもなく重く、非常に考えさせられるお話。 ただこの物語は謎が次第次第に明らかになってゆき、犯人に少しずつ迫ってゆくという、ミステリーとしての要素も十分に楽しめる。おおよその犯人は目星が付くものの、作者の意図的なミスリードによって、最後の方まで真犯人は伏せられている。 また犯人を含め主人公となっている若きエリート検事、その旧友などのキャラクターが際立っていて物語に惹き込まれる。三人がそれぞれに「使命」や「信念」を持っていて自説を最もらしく語る。それはとても巧みで思わず共感しかけるのだが、一歩引いて眺めて見ればどれも個人個人の思い込みに過ぎない。 乱暴な言い方をしてしまえば『お前は何様のつもりか?!』というような、そんな個性のぶつかり合いである。 法律としての犯罪と罪の意識とを両方正そうとする者。犯罪である事は承知しつつも罪の意識のない者。罪の意識を持たぬよう、犯罪を犯罪とも思わぬ者。 それらが重なり、絡め合いながら物語は進んでゆく。 介護とは。家族の絆とは。罪とは。人が人を殺す事とは。答えの出ない思い問い、一人ひとりに様々な答えを投げかける作品である。
0投稿日: 2016.04.15とても興味深いテーマでした。
もし、このロストケアーが実際に介護の一環として存在するなら、自分が寝たきりになった時、ぜひ、受けたいと思うのは私だけだろうか。そして誰に知られることなく自然死として扱われたら、それはとても幸せなことだと思えてしまうのは私だけだろうか。そう考えると〝彼”の犯した罪を責める気にはならない。老人介護に対してあまりにも日本の社会・政治がついていけてない現状を知り、老いていく先が非常に不安になりました。次は少し気分転換できる本が必要です。
1投稿日: 2016.04.14死んで嬉しいわけない、けれども…
もともとはブログ「俺の邪悪なメモ」で人気を集めていた著者が、 「第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した作品。 地方裁判所で死刑の判決が下されようとしている犯人の〈彼〉は、なぜか微笑みを浮かべていた… 戦後最多の犠牲者43人もの高齢者を殺した連続殺人犯、死刑判決の男がなぜ笑っているのか。 男も裁判もどこかおかしい。傍聴席に座る被害者遺族たちは、少なからず救われた表情をしている。 日本の介護事情の実情を、祖父の介護を経験した当事者である著者が、ミステリーという方法であぶり出した。 サイコパスなわけでも、衝動に任せた犯行でもなかった犯人は、いったいなぜ異常なまでの殺人を繰り返したのか。 決してあってはならない殺人事件に違う光をあてようとする名作。
3投稿日: 2016.03.03
powered by ブクログ葉真中顕『ロスト・ケア』(光文社文庫)読了。 読了といってもすでに3週間ほど前に読み終わってました。しかし紹介できませんでした。 なぜか。 あまりに圧倒されすぎて、うかつに感想が書けませんでした。 小生にとっては、『ジェノサイド』(高野和明)以降に読んだ本の中で一番面白かった一冊です。もしかすると今年の最高の一冊になると思います。 ロスト・ケア。意味深な言葉です。社会派ミステリーとしては、あまりに重い、身につまされる内容でした。 題材は介護ビジネス。 介護ビジネスといえば、コムスン事件を思い浮かべますが、この小説でもそれを題材にしています。しかも、大量殺人事件(何と43人!)に発展します。それを暴く熱血検事。圧巻は殺人が起きた時間帯から犯人を特定する推理。 実は犯人は冒頭から想像が付くので、推理は結果論でしか過ぎないのですが、登場人物の人間関係に引きずられて『あれ?』と訝しみながら読むことになります。 主人公は熱血検事でクリスチャンです(とはいえ敬虔というほどではありませんが)。ですので、検事の独白では聖書が引用されます。 冒頭で引用されるマタイによる福音書7章12節。 「だから、人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい。これこそ律法と預言者である。」 これは小生の勤務先でもしばしば語られる聖句ですし、性善説的に用いられます。しかし『ロスト・ケア』では、もしこれを逆説的に捉えるとすれば、という発想で使われています。 心に残ったモチーフは、今の高齢社会が訪れることが予見可能であったにもかかわらず介護という言葉を作り出し、何とか理屈を付けて「介護」と「ビジネス」を結び付けてしのぎながら根本的な対策を先送りしてきた役人と、介護をビジネスと割り切って高齢者を抱える家族を食い物にしてきた事業家という構図です。 現実には、それに乗ったコムスン(事業者)は一時は介護業界の救世主とみられていたにもかかわらず、あっという間に役人(厚生労働省)とマスコミに粛正され市場から退場させられてしまいます。『ロスト・ケア』を読みながら「介護」と「ビジネス」を結び付けることが果たして正しかったのかを改めて考えさせられました。つまりは介護を市場として捉えることは間違いではなかったのかと。 親を殺された家族にとって犯人はもっとも憎い存在のはずなのに、この小説では犯人を憎むという感情とは別にホッとしたという感情も描かれます。実に残酷です。 しかしこれが現実なのかと思わずにもおれません。 犯人はいいます。 「そうです、殺すことで彼らと彼らの家族を救いました。僕がやっていたことは介護です。喪失の介護、『ロスト・ケア』です」[p.316] 幸せとは何なのか。とりわけ高齢者を持つ家族にとって幸せとは何なのか。 介護に関する制度的な問題とは別に、家族のあり方に一石を投じる小説でした。 この小説は、もちろん、小生のゼミ生にも推薦しますし、大学で会計やビジネスを学ぶ学生さん、社会福祉とりわけ老人介護を学ぶ学生さん、現在介護施設で働く皆さん、人を裁く法律を学ぶ学生さん、そして年老いた親がいるすべての人々に推薦します。 きれいごとでは済まされない時代に直面した我々はどうすべきなのでしょうか。
2投稿日: 2016.02.14
powered by ブクログおそまきながら手を伸ばしたロスト・ケア。文庫版解説で近藤史恵さんが「正直、あらすじを聞いた時点では好みではなく最後に残して読んだが一気に引き込まれた」と書いているがその通〜り〜。 手に取れなかったらまさにそのせい。 「介護疲れ」「高齢化社会」「ケア施設」・・・・えー、こんないきなりの重たいコンテンツ、エンタメとして成立しなさそう。暗そう。救われなさそう。共感しづらそう。できれば目を背けたいな。 そんな気分にずどんと襲われ、作者の「絶叫」を読んでほどなく手に入れたはずのこの作品は、ずーとずーと、いわゆる積読状態。宗教・老後・世界経済とかって、私の苦手分野なのですよ。 で、何とか開いて読み始め、冒頭の裁判をこれからでてくる登場人物たちとともに「君誰?」と思いながら読んでゆく。犯人が「彼」とされているだが裁判〜判決まで描かれるので、つまりは若干、コロンボ形式ではあるわけだ。犯人(彼、だから誰かはわからないにしても)がいて結論があり、関係者がそこにいて、もうあらかたこんな感じか・・と思わせての導入なので。ところがこれが、かなりリズミカル。最初がサクサク進んで、さあこのひとたちはなんなの、ということで予想通りそのひとたちの物語が順繰りに続く。おーこれはありがたい、飽きない飽きない。 イニシエーションラブで、「もう一度読み直したくなる」だったらこれも、そうじゃない? 「彼」の登場が、予想通りのありきたりなものではなかったのがちょっと、新鮮だった。うれしいひねり、感謝! 淡々と物語が進み、クールな中に作者の問いかけもあり、でもそれが過剰にうるさくなく、そうして後半、作者がひょいっとおいていった、軽いどんでん返しのおかげでもう一度かるくこの本を流し読みする、したくなる。 それは名作、ではないのかい?
2投稿日: 2016.01.21
powered by ブクログ「身内の介護というのは、多くの人が直面する問題だ。極めてプライベートなのに、社会問題でもある。」(解説文) 「人間ならば、守られるべき尊厳がある。生きながらえるだけで尊厳が損なわれる状況に陥っているなら死を与えるべきだ」との信念を持ち、「犯罪を犯したことは認めたとしても、罪は背負わない」と宣言する犯人。 「たとえどれほど立派な信念に基づいていようとも、救いのための殺人など認めるわけにはいかない」と、検事は対決する。 彼の殺人という行為は、救済と言えるのか。 そして、繰り返し語られるイエスの言葉。 「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい。」 少子高齢化と人口減少が進展し、介護問題が我々に重くのしかかる、そんな現代に一石を投じる日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作品。 3.11.以降、流行語とさえなった”絆”、この言葉には、手枷足枷、人の自由を縛るものという意味もあると、著者は記している。
13投稿日: 2015.11.14
powered by ブクログ介護の問題を扱った社会派小説。ミステリー要素も入り、読みやすく介護の問題も学べる。こういった小説をかける人はすごいと思うし、読んでいても色々勉強になる。社会に対する憤りを読み応えのある、小説にして世に出せる能力を持つ人は、多くの人に問題を提起し、投げかけることができるので、世界を変えられる能力さえ持つと思う。 まだ、人事に考えていた介護の問題だが、読んでいて心痛い。「介護なんてボランティアでするものだから、儲かってはいけない」と言う意見が強いのだろうか?その考えこそが一番の問題で、続けられる構図づくりが必要だと思う。 死について、自然界では自力で生きられないものは死んでいくしかない。人間だけが、延命の科学を得たが、負の効用も少なく無く、 尊厳死も重要な選択肢の一つだと思うが少数派だろうか。 考えさせられる一冊。 【知】 知通常の事故では約九割が不起訴、死亡事故でも三割以上が不起訴となり、罰金や免停など道路交通法上の処分だけで罪には問われない事がある。
3投稿日: 2015.11.09
powered by ブクログ犯人に激しく同意してしまった。実態を知らず、自分は安全地帯にいながら正義感たっぷりに『後悔させ、罪悪感を負わせなければならない』と犯人を詰問する検事の大友こそが罪人だと思った。犯人は誰かという謎と、介護という身近な社会問題が小難しくなく描かれていてとても面白かった。
2投稿日: 2015.10.29
powered by ブクログ(15.10.26) 現代の日本における介護や終末医療に関する問題を提起するような、限りなくノンフィクションに近い話。自分も祖母の介護を目の当たりにしていた経験から、とても考えさせられる一冊だった。被介護者にとって、また家族を介護する者にとって、本当の幸せとは一体何なのだろうか。そして日本の社会福祉制度は、高齢化の加速する今後の社会においても本当に機能するのだろうか…うーむ。
4投稿日: 2015.10.26
powered by ブクログ老人介護の問題とミステリがいい感じに組み合わさっている。 安全地帯の人がつくった、自宅介護を前提とした今のシステムには無理があると思う。
2投稿日: 2015.09.28
powered by ブクログ老人介護問題をテーマに、現代社会の矛盾や人間の善悪を鋭く突く衝撃作。日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。 読み終わっても心の整理が未だに出来ない。それほど深くえぐられたように考えさせられる。自分自身だけでなく、妻と子供、両親の数年後を想像してしまう。そして、決して明るい展望が見えてこない現実に気が滅入る。 また、『絆』という言葉のもうひとつの意味を初めて知った。これにも身震いする。何もかもが衝撃的で文句なしの見事な傑作。
4投稿日: 2015.09.25
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
これは他人事じゃない・・・ いくら大好きな親でもつらい。 ミステリー慣れしてる人は犯人はすぐ予想がつくかと・・・
2投稿日: 2015.09.13
powered by ブクログ介護現場をテーマにしたミステリーを何気なく探したときに、どこでもすぐに目に入ったのが本書。社会派の肩書きにそぐわない圧倒的な現実味が持ち味で、具体的な数字がぽんぽんと出てくるのもその特徴。とにかくリアルを描くことに突出して秀でているのがよくわかる。登場人物も個性がありすぎるほど豊かで、共感できる者も少なく無い。 介護現場についてイメージが湧いていない方には、具体的な事例があるのでとても参考になるはず。介護の世界を目指し学んでいる方や、今直近でそれに直面してる方、身内が介護をしないなんてとあからさまな批難をする人には是非とも読んでみてほしい。 ただし、完全に好みの問題で、私にはあまり合わなかった。ミステリーとしてはオススメできない。謎が殆ど無いのだ。 本編で人物の視点が一周すればことの全貌がわかってしまうので、犯人が追い詰められていく様を眺めるつもりでいたらサスペンス性も無い。トリックやら殺害方法よりも、動悸やその事件にまつわるストーリー性が重要視されるのが最近のミステリーの特徴なのかもしれないとしみじみした。だいたいのことが科学の力でわかってしまう今、新規の謎を製作するにも限界があるのかも。 あと一点、単純な誤植なのか。探偵役と思しき人物が、友人が死んだ事を電話口で知らされた時に、友人とは異なる名前の人物が「被害者」と報告され、さらにその「被害者」の身柄を拘束したとまで言われ、かなり混乱してしまった。ここで何故加害者と思しき人物が被害者と言われていたのかがとにかく気がかりでならない。私の読解力の問題なのだろうか…。
1投稿日: 2015.09.09
powered by ブクログう~む。イマイチ入っていけなかった・・・。犯人は最後までわかりませんでした。犯人あての推理したい人にはいいかも。
1投稿日: 2015.08.31色々な意味で怖かった。
介護の会社で事務の仕事をしている為、非常にこの業界の事がよく書かれている事がわかります。ほぼ間違いないと思って大丈夫です。介護関係の事にあまり詳しくない方に是非読んで頂きたいです。 犯人は誰かと考える点ではミステリーですが、同時に社会の問題に踏み込んで書かれている読み応えのある小説でした。
0投稿日: 2015.08.29
powered by ブクログミステリー小説としての枠組みを超えた小説。 2015年8月から介護保険制度が変わる。 その直前に読んだのもあり、物語の面白さも相まって、のめり込んで読んだ。 介護については、制度含めて決して他人事ではなく、一人一人が真摯に考えなければいけないと改めて、思わされる作品。
3投稿日: 2015.07.31
powered by ブクログ高齢化社会、介護問題の闇をリアルに描いた社会派ミステリ。 普通にミステリとしても面白くて唸る。 ミステリ読むのほんとに下手だから、ネタバレしたシーンで誤植かと思ってしまった。てへ。 一番のテーマは現代介護の闇、なんだけど、他にもドラッグやら詐欺やら地震やら放射能やら官僚やらが盛り込まれてて読み応えがあった。 性善説やキリスト教の話もちらほら出てきてよいアクセントになってる。 盛りだくさんだけど、そんなに散逸的でもなく読みやすい。 私はやっぱりメインの介護問題の所が気になった。 一見豊かなこの社会では、そこに穴が開いていることになかなか気づかない。 フリーターでもそれなりに生活していける。 でもそれは穴の縁ギリギリを歩いていたようなもので、父が倒れ、介護という一押しが親子を穴に落としてしまった。 一度落ちてしまえば、その穴からは容易に抜け出せない。 一度家を失ってしまえば生活保護すら申請できないようなこの社会。 その穴がどこかに存在するらしいということはなんとなく知っている。 でも私はその穴に落ちてしまった人々がもがき苦しんでいるということを実感として捉えることができていただろうか。 その絶望は私たちの想像をはるかに超えている。 「検事さん、あなたがそう言えるのは、絶対穴に落ちない安全地帯にいると思っているからですよ。あの穴の底での絶望は、落ちてみないと分からない。」(p339) 「もしも死が救いでなく諦めだとしたら、諦めた方がましだという状況を作っているのはこの世界だ! もしも僕が本当は父を殺したくなんかなかったとしたら、殺した方がましだという状況を作ったのは、この世界だ!」(p347) 穴が開いていない世界に少しでも近づけるために。
1投稿日: 2015.07.13
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
ちょっと前に読んだ「廃用身」とテーマは同じく老人介護なのかな、と思います。 なかなか面白い作品でしたが、テーマを考えるなら「どんでん返し」は要らなかったんじゃないかな、という点が唯一の不満。テーマ性を考えるなら、このどんでん返しでそれ——読者である私たちに、本作を読んで何を、どのように感じてほしかったのか——がボケてしまったように思いました。
2投稿日: 2015.07.10
powered by ブクログなんとも言えない読後感だった。 今後日本では、介護の問題はより深刻になっていくだろうし、この物語が物語ですまなくなるんじゃないかと思う。
2投稿日: 2015.05.20
powered by ブクログこれは、えぐられた。序盤から丁寧な描写で一気読み。最後のちょいどんでん返しもバランス感がよかった。すごい。
2投稿日: 2015.05.15
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
「絶叫」を読んだ直後、店頭に並ぶこの本を購入していたが、立て続けに重たいのは読みたくないなぁ~と二の足を踏んでいたのですが、一気読み。 「絶叫」ほどの衝撃は残念ながらなかったし、ミステリー色も少なかったのですが、話の内容は身につまされることばかりで、明日は我が身と感じながら読みました。 表社会にちらちら見え隠れする裏社会の世界の話ーー介護事業・人材派遣・クスリ等々、実はTVの世界の話でなく、そこらじゅうにある事実なんだと改めて空恐ろしい気持ちになりました。
2投稿日: 2015.05.13
powered by ブクログ介護問題を取り巻く様々な問題に鋭く斬り込んだ社会派ミステリー。 日本ミステリー文学大賞新人賞作。 久々にお気に入りの作家を見つけた。真山仁・日明恩あたりが好きな人には是非お勧めしたい。 社会への問題提起としても、ミステリーとしても良かった。随所に出てくるキリスト教の考えもスパイスになっていて良かった。 “なぜ人を殺してはいけないのか?” この問いに対し、誰もが納得できる答えがあるだろうか。 主人公は性善説を支持する検察官だが、「善」とは何なのか。 生=善、死=悪。本当に? 生きること。それだけで苦しくてたまらない人もいる。生きているだけで図らずも他者の生活を脅かしてしまう人もいる。生きることを誰にも望まれてなくて、自分でも望んでいないなら、死んだっていいじゃない。 《彼》が言うように、“死を与えて救済する”ことは絶対的な悪と言えるのだろうか。 増え続ける高齢者。減り続ける働き手。分かりきった未来に何ら対策が打てない国政。 “安楽死”について議論を深めなければ、国が滅んでしまうと本気で思った。 *以下引用* つらくない、つらくない、つらくない。本当につらいのは、母さんの方よ。私はつらくない。私は母さんの介護を嫌がるような薄情な人間じゃない。(p39) 人が死なないなんて、こんなに絶望的なことはない!(p45) 俺は自分が受けたサービスに見合った対価を払うよ(p51) この世で一番えげつない格差は老人の格差だ。特に、要介護状態になった老人の格差は冷酷だ。安全地帯の高級老人ホームで至れり尽くせりの生活をする老人がいる一方で、重すぎる介護の負担で家族を押しつぶす老人がいる。まあ、介護保険が施行されても『家族介護という日本の美風』は残ったわけだ。未だに多くの家庭で介護が原因のノイローゼや鬱が生まれ続けている(p56~57) 「介護」と「ビジネス」。相容れようのないものを掛け合わせてしまったキメラのようなグロテスクさ。(p57) 母さんが死んだ、地獄が終わった。半ば無意識のうちに顔面の筋肉がほころび笑顔を作り出していく。 ああ、これでもう、母さんの世話をしなくていいんだね。もう、母さんになじられることもないんだね。もう、母さんをベッドに縛り付けなくてもいいんだね。もう、母さんのお尻を拭かなくてもいいんだね。これで、もうー。 ーもう、拭いてあげられないんだね。 不意に湧きあがるその感情に、胸が詰まった。小さな、しかし誤魔化しようもない染みのような、喪失感。(p72) 介護の世界に身を置けば、誰でも実感する。この世には死が救いになるということは間違いなくある。(p81) 誰に教えられなくても、人は人を慈しむことや愛することを知っているし、人は人を殺してはいけないと思う。人が倫理と呼ぶものは、全てこういった人が生れながらに備える善性の先にあるのだと俺は思うんだ。この善性は君の中にもある。なぜなら、そうでなければ『なぜ人を殺してはいけないのか?』という問いは立てられないからだ(p102) 介護企業は報酬を減らされた分、人件費や事務経費を圧縮・効率化して、利益を確保しようとした。しかしそうして利益が出るようになると、次の改正でまたその分、報酬が削られたのだ。(p108) 「お婆ちゃん、ごめんなさいね。散歩の付き添いはできなくなっちゃったのよ。だから今日から独りで行ってね。どうしても付き添いして欲しければ、その分は実費でお金を貰うことになるの。保険が利かないから、普段の十倍になるわーって言えっていうの?」(p115) 聖書に誓うことのない日本の裁判は、しかしきわめて宗教的で道徳的だ。法律上の犯罪(クライム)だけでなく、人としての罪(シン)も裁く。(p125) そう、人間は不完全な存在だ。分かっていてもつい悪事を働いてしまう。知らず知らずのうちに他人を傷つけていることもある。そんな不完全さを罪だと考えることは、やはり善なるものを求めるからなのだろう。(p127) なぜ人は悪をなすのか?なぜ悪をなしてはいけないのか?問うことがすでに答えだ。善を求めている。(p128) 彼女は害意や悪意を持って罪を犯しているのではない。彼女が人間らしく生きられる場所が刑務所しかなく、そこへ入るための手段として罪を犯しているのだ。これでは罪を罪として自覚しようがない。もし真に彼女を裁くというなら、この社会で彼女が罪を犯さずとも人間らしく生きる術を示さなければならない。(p158) 狂っている。金儲けなんて言語道断?無欲無私の精神で人様に尽くせる人しかやっちゃいけない? 彼らはこれを本気で言っているのか?それを良識だと思っているのか? 金ももらわず、無欲無私で、他人の尻を拭ける人間がどれだけいると思っているのか?恐るべき想像力の欠如。(p170) もう生まれた時代を呪うのはやめよう。どんな時代、どんな立場だって、やるべきことがあるはずだから。(p180) ビジネスであれば、合理化は当然だ。不採算部門は凍結したり廃止したりする。しかしその一方で介護は福祉でもある。儲からないという理由で一度始めた事業を止めてしまえば、その利用者、特に介護に頼って生きている者は、生存権が脅かされる。(p198) 殺すことで彼らと彼らの家族を救いました。僕がやっていたことは介護です。喪失の介護、『ロスト・ケア』です(p316) 母の死によって洋子が救われたのは間違いない。そして身も心も自由を失い、尊厳を剥ぎ取られたままに生きていた母にとっても、やはり救いだったのではないだろうか。(p329) かつて私は自分が母を見捨てるような酷い人間ではないことを証明するために、本当は逃げ出したい介護から逃げずに耐え続けた。同じように今、私は自分が母の死を望むような酷い人間ではないことを証明するために、本当は救いだった死を無念と言い換えるのだ。(p330) たとえ年老いて身体機能が衰え自立できなくなっても、たとえ認知症で自我が引き裂かれても、人間は人間なのだと。ときに喜び、ときに悲しみ、幸福と不幸の間を行き来する人間なんだと。そして、人間ならば、守られるべき尊厳がある。生き長らえるだけで尊厳が損なわれる状態に陥っているなら死を与えるべきだと。(p340) もしも死が救いでなく諦めだとしたら、諦めた方がましだという状況を作っているのは、この世界だ!(p347) 「絆」という字に「絆し(ほだし)」という読みもあることを知った。これは馬をつなぎ止めるための縄のことで、転じて手枷足枷、人の自由を縛るものという意味がある。(p370) 絆は、呪いだ。それでも。それでも、人はどこかで誰かと絆を結ばなければ生きていけない。(p371) たとえ行く先が地獄と分かっていても、人はつながることから逃れられない。ならば、つなごう。せめて愛する人と。絆でなく絆しなのだとしても。呪いなのだとしても。つないで、生きてゆく。(p372)
2投稿日: 2015.04.30究極の介護とは?
地獄のような在宅介護の果てにある究極の介護、今の日本の介護を巡る問題をえぐり出しているという意味では骨太の社会派ミステリーと言える。その中にある本格ミステリー的なだましの要素はスパイス的な感じに捉えた方がいいかもしれません。とは言え、構成は緻密で、ほとんど無駄な部分はないことに驚かされます。読後の爽快感を求めるような類いの話ではありませんが、引き込まれるような文章力で一気に読んでしまいました。在宅介護の経験がない方には特に読んでいただきたいと思います。ここに書かれている現実は決して誇張されたものではないので・・・
3投稿日: 2015.04.05
powered by ブクログ介護問題、介護する側される側、家族と国、企業と自分ならどうすると正解が出ないまま重たい気分になった。犯人を割り出すまでの過程で統計が全面的に出ているのが、新鮮でした。年齢や性別による抽出はしないのか、その数値でいいのかという突っ込みは野暮ですね。
2投稿日: 2015.03.24
powered by ブクログ社会問題のインパクトが大きくミステリ感には重きを置いて読んでなかったので、結末には久々の会心の一撃を食らいました。末恐ろしいデビュー作です。
2投稿日: 2015.03.18
powered by ブクログ社会の穴に落ちた者の叫びであり、自分もいつか同じ穴に落ちるかもしれない恐怖を感じた。圧倒的なリアリティが突きつけられる。ミステリーとしては、最初から犯人も手口もわかっているのにどんなトリックがあるのかと思ったけれど、終盤、おおっ!ときたね(笑)そうきたか!ってね。でもこの本はトリックより、もっと大きな社会問題がテーマなんだと思う。
2投稿日: 2015.03.15
powered by ブクログ2015年9冊目。とても考えさせられた。 社会派本格ミステリ、と一言で表すのはもったいないというか、適切でない気がする。 介護をテーマに、現代日本への問題提起をした作品だと思う。 家族の介護を経験した者なら、あの壮絶さ、絶望感が痛いほどわかるし、「救いのための殺人」というキーワードに、揺れてしまうはず。 最後の大どんでん返しがなくても、じゅうぶん読み応えある作品。 介護、脱法ドラッグ、振り込め詐欺、震災、原発、個人情報…いろいろ盛り込みすぎな感も否めないが、現実の社会もこれらが渦巻いているわけで、逆にリアルなのかもしれない。
2投稿日: 2015.03.08
powered by ブクログ現代介護の闇とミステリーを融合させた物語です。いつか多くの人がする方も、される方も経験する身近な問題であり、大きな社会問題でもあることが、怖さと不安をかき立てないことはない作品でした。 メインテーマを支えるキリスト教や大地震、死刑制度といったサブテーマがスパイスのように物語を面白くさせている感じがします。 情景がテンポよく進むところと、興奮、怒りといった感情の爆発の部分のメリハリで気持ちよく読める。
2投稿日: 2015.03.05
powered by ブクログ面白かったけど、評判ほどではなかったかと。介護の問題は他人事ではすまないことは分かってはいるけど何もしていないのが現実。
2投稿日: 2015.02.26
powered by ブクログ43の命を奪った男に下された死刑判決。しかしそれを傍聴席で聞いていた被害者遺族は〈彼〉に対し怒りも憎しみも抱いていなかった。そして話は〈彼〉に死刑判決が下される5年前にうつっていく。 この小説で描かれるのは介護の問題です。母親の介護で身をすり減らす女性、父親を高級老人ホームへ入れた検事、大手介護事業の社員、その事業所で働くヘルパー、それぞれの視点から語られます。 お金もなく福祉や保健から排除された老人とその介護をする家族の状況はかなり悲惨です。そしてヘルパーも仕事の過酷さや難しさから常に人材不足…。制度も上手く機能しているとは言い難く、そのうえ行政や国民の無理解と山積みの問題が語られます。 そうした問題の解決策の一つとして〈彼〉が行った犯罪。しかしそれが罪にあたるのか、読み終えたころには分からなくなってしまいます。ひたすらに正義を語ろうとする検事の声があまりにも無力でむなしく聞こえてきます。 医学が進歩しよく言えば寿命が延びたから、悪く言えば簡単に死ぬことがなくなったからこそ生まれた、介護や死への問題に対し、人間はいまだに答えが出せていないように思います。 最近でも尊厳死の是非についても議論になりましたし、このレビューを書く直前にも高齢者向けマンションでのヘルパーによる高齢者への身体拘束が虐待となり指導が入ったというニュースがありました。 こうした話題を聞いていると、今のこの社会では〈彼〉のだした回答以外に最適解がないのかもしれないと思えてきてしまいます。だから自分は〈彼〉の主張に対し何も言い返せないどころか、どこか賛成してしまうところもありました。 ストーリーの内容もそうなのですが、文庫の最終ページがまたある意味では悲痛です。解説の後に「この本はフィクションです」といった内容のことが書かれているのですが、それに続いて書かれている文章が、 『作中に描かれる「完全犯罪」の手法は物語上都合の良い情報だけで構成された創作であり、現実には成立しません』といったことや、 多くの自治体で介護の相談窓口が開設されていること、介護についての問題を一人で抱え込まず、役所や支援センターに相談することを勧めている文章があるのです。 これもまた問題はフィクションの世界ではとどまらないことを示しているように思います。 ”寿命が伸びたことの代償” この問題に対し人類は〈彼〉が選んだような回答しかできないのか、それとも別の回答があるのか、あるとしたらその回答を実行するために、社会は、自分は何を考え行動するべきなのか、 そうしたことを問いかけてくるような、非常に芯の強い社会派ミステリーでした。 またミステリとしてはトリック以上に犯人に迫る過程が独創的というか、他のミステリではあまり見ることのないロジックで面白かったです。 第16回日本ミステリー文学大賞新人賞 2014年版このミステリーがすごい!10位
3投稿日: 2015.02.18
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
話の構成が上手く、スラスラと読めてあっという間に読み終わる。 老人介護がテーマなんだけど、すごく考えさせられる話でした。 いざ自分の親が、介護が必要になったらきっとこの小説を思いだす
2投稿日: 2015.02.14
powered by ブクログ現代の日本が冒されている病魔の如き課題を背景に描かれた社会派ミステリー。デビュー作とは思えないほどの見事な構成とストーリー展開に驚いた。 四十三人を殺害した戦後最悪の凶悪犯、『彼』に降された死刑判決で幕を開けた物語は『彼』に関わった人びとの視点で目まぐるしく動き出す。そして、介護現場の実情、認知症問題、高齢者を狙った振り込め詐欺、麻薬問題、原発問題などを背景に『彼』が殺人を犯すに至った理由と過程、『彼』の正体を少しずつ明かして行く形でミステリーが展開する。 ある事をきっかけに検事の大友秀樹が『彼』を追い詰める事になるのだが、その辺りが一つの山場で、展開が非常に面白い。
5投稿日: 2015.02.14
powered by ブクログこの小説を読んだ直後にドラマ「相棒」を見たら、右京さんが監禁されて「なぜ人を殺してはいけないのか」レポートにまとめよ、とせまられていた。まさしくこの小説のテーマです。
2投稿日: 2015.02.13現実ですよ。
私も寝たきりの父親を30代の時から介護しています。 内容はまさに現実。一見豊かである日本ですが その陰ではすごく大変な思いをしている人がいる。 ますます高齢化社会が進むこの国に重大な問題を投げかけていると思います。 物語のテンポも良く一気に読めました。 ぜひ皆さんにも一読して頂きたいと思います。
3投稿日: 2014.04.23身につまされる
介護の難しさ 悲しさ 辛さ 人間何時かは死を迎える 何事もなくその時期が来ればいいが、そう行かないのが現状であります まさにこの小説はそこを突いたストーリーでした 内容は濃くて、その都度納得しながら一気に読みました いま、何処かの家庭で現実にこの小説と同じような事が進行形である 同じ境遇の方が読んだら、考えさせられる内容です
2投稿日: 2013.10.24ミステリーだけど
介護にまつわるある事件を、様々な角度から様々な登場人物が語る形式で物語が進む。 ミステリーとしての展開は間違いなく面白い。読後感も悪くない。 でも、何とかしたいと思う何かが心に残ったままで胸が痛い。 謎解きの先にとてつもなく重いテーマがそっと差し出される、優しくて悲しい物語だった。 著者の初の長編作品だそうだが、次回作が出たら必ず読みたい。
6投稿日: 2013.10.02
