竃猫さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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人間万事塞翁が丙午(新潮文庫)
青島幸男 / 新潮文庫
人生いろいろ
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才人、青島幸男の御母堂を主人公とした物語。桃井かおりが演じてTVドラマ化もされたもの。まさに、諺のとおり起きた出来事が結局、良いのか悪いのか分からないという、市井の生活者なりにジェットコースターのよう…な人生が展開されます。こういう先達の苦労は勉強になるなぁ。個人的には、ご尊父の商売人としての時代の読み方は、ヘぇと思って読みました。
登場する脇役達も、味のある人物ばかりの役者揃いです。もし、現実も作中と同じような生活だったとしたら、さぞ賑やかな日常だっただろうと羨ましいです。それは、江戸の残り香のする昔懐かしい風景なのかも。作中では御母堂とご尊父の馴れ初めから嫁入りするまでの著者の語り口に江戸っ子らしさ感じられる気がしますので、是非、味わって一読をお勧めします。
どうも、渡世の苦労に今昔で大差があるや無いや知れませんが、今の世の中、なにかにつけ”ギスギス”し過ぎた感じがありはしないでしょうか。同じ苦労をするにしても、塞翁が馬と受け流せれば、心に少しは空気も入るのでしょうか・・・。 続きを読む投稿日:2017.02.17
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樅ノ木は残った(上中下) 合本版
山本周五郎 / 新潮文庫
シリアス版『男はつらいよ』か、いや、漢の鑑か・・・
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命を懸けても守りたいもの、守らなければならないものがあった、そして守り切って微笑しながら死んでいった、しかも汚名を残すことを承知の上で・・・、そんな漢の生き様を根性なし腑抜けの私が読みました。
現在…に続く大河ドラマのご当地ブームのきっかけになった原作です。
ひたすら救いのない、読んでいて、苦しくなる物語。全てを放擲して出家でも脱藩でもしたらどうかと、逃げるは恥だが・・・(苦笑、オッホン(咳払い))、少なくとも命は落とさないのにと、何度も思って読みました。山本周五郎にしては主人公の社会的地位が高いものの、周囲との”しがらみ”や自分に課せられた責任・使命を全うしようとして悩み苦しむ姿に貴賤の差はないようです。本日は山本周五郎の命日にあたり、読売新聞のコラムでもエピソードが紹介されていました。それによれば、あらゆる受賞を辞退したそうですが、その姿は主人公と重なって見えはしないでしょうか・・・。
主人公が守ったものは教科書的には、伊達藩の存続、ということになるのですが、「何を守ったか?」に対する読み手の解釈が本作に対する評価に深みを与えてくれると思います。あなたは、どう思いますか?私の解釈は・・・恥ずかしいので書けませんm(_ _)m。
山本周五郎、次に読むのは宮本常一と名を連ねている『日本残酷物語』の予定です。 続きを読む投稿日:2017.02.14
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田中芳樹初期短篇集
田中芳樹 / らいとすたっふ文庫
喜んで”人柱”になりました。
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収録作品が明記されていなかったので購入を躊躇しましたが、どうせ何が入っていても損はないと思い直した次第です。1978年から1980年にかけての以下の作品が収録されています。ご参考にして下さい。
「緑…の草原に・・・・・・」
「いつの日か、ふたたび」
「流星航路」
「懸賞金稼ぎ」
「黄昏都市」
「白い断頭台」
「品種改良」
「深紅の寒流」
「黄色の夜」
「白い顔」
「長い夜の見張り」
「炎の記憶」
「夜への旅立ち」
「夢買い人」
「ブルー・スカイ・ドリーム」
「銀環計画」
「訪問者」
「戦場の夜想曲」
「闇に踊る手」
「死海のリンゴ」
個人的には、アルスラーン戦記もいいですが、”中国もの”の電子化を期待して首を長くして待っています。
特に「天竺熱風録」は知らない人はビックリするだろうなぁ。苦行の種類が違うから、三蔵法師より凄いとは言わないけど、確実に”彼”は同じ水準の偉人であることは確か。あと、『黒竜潭異聞』中の各短編も魅力的ですよね。「宛城の少女」なんて痛快だと思うのですが、早く電子化しませんか?
続きを読む投稿日:2016.08.20
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もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら
岩崎夏海 / ダイヤモンド社
もし夏休みの読書感想文の宿題やレポートにするなら
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延々とあらすじを書いてページ数を稼ぐのも、ある程度は仕方ないかと思いますが、せめて本書の中で紹介されている「マネジメント理論を、こう適用した」という内の一つくらいは、特に取り上げて自分なりの意見を書く…べきではないかと思います。なかでも「ノーバント・ノーボール」作戦を考え出したくだりは、外したくないポイントでしょうね。欲を言えば、開成高校野球部の「弱くても勝てます」との比較に言及があると、評価が高くなるのではないかと。
続きを読む投稿日:2016.08.15
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半七捕物帳 10巻セット 『お文の魂』『石灯籠』『勘平の死』等どこから読んでも楽しい岡本綺堂の人気シリーズ「半七捕物帳」セット
岡本綺堂 / ゴマブックス
注!伝七に非ず、半七なり。
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私自身は間違えて買った訳ではないのですが、NHK-BSのドラマに合わせて伝七の原作を買おうとしている若者は、ご注意を。
シャーロック・ホームズに触発されて、わが国で初めて創作された推理小説が、この半…七シリーズ。と、まぁ言われているものです。本製品には抜粋ではないものが全作品が収録されており、お値打ちものと思います。もっとも、10作品とも、中短編といった分量ですので。
余計なお世話かと思いますが、鑑賞のアドバイスとしては、トリックの謎解きや推理を楽しもうというのではなく、壮年期の半七の粋(いき)と、老人となった半七の語り口、佇まい渋さを、じんわり味わうのが宜しかろうと思います。
江戸から明治へと激変した世の中を映した作品中の空気感が、杉浦日向子の「東のエデン」と通じるものがあるように感じられます。そういう読み方も、面白いかと思います。
続きを読む投稿日:2016.08.15
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疵 花形敬とその時代 本田靖春全作品集
本田靖春 / 講談社
濃厚な昭和の残り香を味わいつつ戦後を考える
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「敗戦を終戦などと馬鹿を謂い」とは内田百閒の至言だが、敗戦後より終戦後という表現が馴染んでしまったので、ここでも終戦後と呼ぶとして、終戦後の闇市がバラック建てのマーケットに移り、もはや戦後ではないと言…われるまでの復興に至った時代背景を舞台に、花形敬を中心とするアウトロー達の群像劇を見るが如き作品である。
敗戦とは単に戦争に負けるということだけでは勿論なく、その結果として伝統的な価値観、文化や技能の伝承、市井の暮らしぶりや、親から子へ受け継がれてきた生活習慣その他諸々を一挙に喪失することになる、その事を思い出すために、再確認するために花形らの足跡を辿るのは実に有効だと思われる。本書の意義は、花形の人物評価を云々するのではなく、その点に求めたい。
きっと、押井守の『立喰師列伝』を愛読する奇特な人なら、本書を気に入る筈である。何故なら、「あの決定的な敗戦により・・・」を頻出させる押井の問題意識と本書のそれは一致しているうえ、語り口まで似ているからである。
余談だが、高倉健の『唐獅子牡丹』も同じ時代であるものの、根差す精神は伝統的任侠道であり、花形らとは一線を画す、お互いに似て非なる存在であろう。
戦後、我が亡父は糊口を凌ぐため道玄坂で金物屋を営んだそうだ。その隣では元教員が食用にならない米で煎餅をつくり菓子屋を開いており、高等教育を受けた少数ということでお互い商店街組合の役員をしていたという。その菓子店は現在、有名企業となっているが亡父は一介のサラリーマンで終わった。本書で本田は自身と花形を比較し、彼我を隔てた差はほとんど何もなかったと言っているが、あの時代とはそういう人生が行き交う時空間であったのだろう。
続きを読む投稿日:2016.08.07