竃猫さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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南国太平記(上)
直木三十五 / 文庫コレクション 大衆文学館
なるほど”直木賞”だ
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文学界の2大タイトルと言っていいだろう対極的性格付けをされた芥川賞と直木賞に名を残す二人の作家。教科書に載るのは芥川龍之介だけで、恥ずかしながら直木三十五は今回初めて読んだ。偶然、墓所の近くを通りがか…ったので思い立っただけなのだが、結構な偶然であったと思う。なにしろ出だしからして緊迫感のある場面で引き込まれるし、細部に垣間見える見識の高さ、人間観察の鋭さ、さらにはこの長編全体の骨格の骨太さ、それでいて大衆小説としての娯楽性をも備えている。いや、文豪というか、名工、熟練の職人の業の精華をたっぷり堪能しました。
それにしても、月丸の半端者ぶりにはイライラしました(笑)。 続きを読む投稿日:2017.05.28
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勝つために戦え! 監督稼業めった斬り
押井守 / 徳間文庫カレッジ
馬鹿にするかもだけど、結構、人生の岐路、難所で役に立つのよ!ホント!
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私が個人的に押井守の勝敗論3部作と呼んでいる「勝つために戦え!」、「勝つために戦え!監督篇」、「勝つために戦え!監督ゼッキョー篇」の一冊(監督編かな?)。ビジネスマンに評判が良い「仕事に必要なことはす…べて映画で学べる」も、Nextのゲームオヤジのエピソードも、この勝敗論のカテゴリーに入る。本作は勝敗論を映画監督の評価に応用したもので、確かに具体的で分かりやすいかも知れない。
だが、やはりバイブルたる「勝つために戦え!」は外せない。是非、追いかけ電子化され、広く若年層に読まれることを望む。
ただし注意までに、蛇足を述べるなら、押井勝敗論の極意は唯一点『負けない事』に尽きる。それを、なぁんだ、と切り捨ててしまう人も多い、いや寧ろ多数派と思うが、そのテーゼが実に私の場合、役にたったんです。お勧め。 続きを読む投稿日:2017.05.02
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山怪 山人が語る不思議な話
田中 康弘 / 山と溪谷社
レビューに惹かれて読んだら大当たり!
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多分面白いだろうなぁと確信めいた期待を持って読み始めましたが、実に面白い。勿論、笑えるという意味でも、役に立つという意味でもなく、ただただ面白い。
さて、本書は山で起きた怪異、不思議なこと、それも基…本的には些細な事を聞き取り調査し、その一部を収録したものです。怪談、オカルトに近いエピソード、人命に関わる事例も収録されていますが、基本的には恐怖を煽る内容ではありません。そのエピソードがいちいち面白く、興味深い。ですので、怪談好き、オカルトマニア向きではなく、民俗学マニア向きかと思います。
エピソードに付けたられた筆者の言も、中々だと思いますが、個人的には2点、特筆したいと思います。
一点目は、本書の調査の動機です。少数言語が消滅しているそうです。また、一民族一格闘技といわれる部族固有の体技も消滅しているとか。そのように古来存在した文化がフラット化した世界で失われることに対する焦燥感にも似た思いに駆られて本研究に着手したとのこと。正にその意気や良しと思いました。
二点目は、近親者に関するエピソードに散見される「近親者の幽霊なら驚くものではなかろう」という趣旨のコメントですが、それも同感です。先に鬼籍に入った老妻が、同じく可愛がっていた愛犬の幽霊と一緒に、臨終がせまる夫である老人を迎えに来るなど、良いものだなぁと思います。
最後に、一言、一応、科学を仕事にしている側ですが、これらを非科学的だと井上円了大先生のように切り捨てるのは、些かどうかと思います。科学で解明されている領域は実に微々たるものです。分からないものを、既知の知識で無理やり理論付けする姿勢こそ、科学的でないように思う次第です。
ウチの犬が子犬のとき、散歩をしていたら、葬儀中の家の前でピタッと止まって空中をジーッと見ていたことがあります。こう言うことを、余り簡単に説明らしきものを付けてしまうのは、どうかな、という意味です。
続きを読む投稿日:2017.04.27
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船を建てる 上
鈴木志保 / 秋田書店
うわぁビックリ!
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「ぶーけ」連載時に読んでました(歳がバレますね)。再読できるなんて、驚きです!
絶対に一般受けしないと思いますし、私も一般的な意味での好きな作品なのか自分自身
で分かりません。でも、記憶に残り続けて…いる作品です(ある意味最高の賛辞ですよね)。
各話毎のつながりはなく、短編集のようなものです。鮮明に覚えているエピソードは
「杏の樹の下で出合った老夫婦の話」「金髪が燃えてしまったスターの話」「5つも部屋
がある素敵な家を見つけた話」「左右のヒレにタトゥーを入れる話」かな?いやぁ、これ
から再読しよう(私自身に、あの頃の感性が失われていないか少し怖いです)。
よくある表現としては「独特な世界観の詩情あふれる作風」と評されるだろうと思いますが、
その表現では少し微妙に違う気がします。青森県とは不思議な芸術家を輩出する不思議な土地
ですね。
出来れば、後は森川久美「南京路(ロード)に花吹雪」と竹坂かほり「空のオルガン」「花は
幽かに・・・」を再読したいなぁ。
続きを読む投稿日:2017.04.15
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東京大空襲を忘れない
瀧井宏臣 / 世の中への扉
今年も3月10日が来る
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2011年以降、3.11を忘れる人はいないだろうが、3月10日を忘れる人は70年以上経ってしまったので多いだろう。でも、今年は「この世界の片隅で」が公開されたから、話題になるかも・・・。そんな風に思っ…て、関連書を読もうと本書を購入しました。でも、20頁くらいまでしか読めない。つらくて読めない。関東大震災の本は読めるし、「この世界の」も観れたけど、ダメ。恐くて、つらくて。
私の父は、この日、祖母(母親)と叔母(妹)の手を引いて逃げ回ったそうだ。生き残ってくれて良かった。そうでなければ、私は生まれてこなかったもの。
3.11の死者・行方不明者は約1万9千人。東京大空襲の死者はたった2~3時間で非戦闘員ばかり10万人。この作戦は戦争終結にどれほど効果があったのだろうか?あったとしても、これほどまで大規模で徹底した無差別な殺戮を行って良いのだろうか?アメリカ人という個々人を恨むことは無いが、そう言う判断をしたアメリカという国には不信感が拭えない。だから、どうしても鼠園は好きになれない。
戦争は国家レベルで行われる暴力行為だけど、これは国家が行ったテロと言えまいか。
蛇足にトリビアをひとつ。今年のゴジラと違い初代ゴジラは芝浦から上陸した。初代ゴジラは、この時のB29の爆撃ルートに沿って歩いたのです。
続きを読む投稿日:2017.02.27
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真剣師 小池重明
団鬼六 / 幻冬舎アウトロー文庫
果報な人だ・・・
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西村賢太の作品を地で行くような人生を垣間見る。
多くの人が、きっと迷惑を蒙っただろう。また、少なくない人に嫌悪されただろう。私自身、現実世界では、絶対に係り合いになりたくないと思う。
本人も自分の人…生に満足して、この世を去った訳でもないことは明白だ。
でも、果報な人だと思う。
だって、迷惑な奴だ、困った奴だと言いながら、こんなにも長い長い弔辞を書いてくれる人がいるなんて、そうある事じゃない。そう、これは一遍の弔辞なのだろうね。
続きを読む投稿日:2017.02.27