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yakitoriさんのレビュー
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  • 兵士は起つ―自衛隊史上最大の作戦―(新潮文庫)

    兵士は起つ―自衛隊史上最大の作戦―(新潮文庫)

    杉山隆男

    新潮文庫

    「日陰者」自衛隊から見たあの日(3.11)

    第一部では地震直後に所属部隊(多賀城駐屯地)へ駆けつけようとしていた彼らに津波が襲いかかり、流された先で他の被災者を助ける自衛官たちと有事の際にすぐに被災地に出動できるよう準備していたにもかかわらず、自身も被災したため機材が駄目になり、交通網が寸断され初動に時間を取られた部隊が如何にして現場に向かったのかが語られます。普通の人間であれば自分自身が生き残るのに精一杯の状況で、自身の生かしながら同じく津波に呑まれた・流された人々を救うという強靭さには感嘆します。 第二部は要救助者と遺体の捜索・救助の話で、特に「ご遺体」の章では読んでいて不覚にも泣いてしまった。72時間という生存時間リミットを過ぎて生存者よりも亡くなった方を発見する機会がどんどん増えていく絶望的な状況で警察だけでは対処できない数の遺体の捜索・搬送を担った彼らの奮闘振りが描かれている。初年から古参の隊員に至るまで連日連夜、不眠不休で「ご遺体」に対応する姿は涙なくしては読めない。何故そこまでできるのか?と思うぐらいの献身ぶりには本当に頭が下がる。   そして第三部は、未だに先が見えない福島原発での命がけの注水活動の話。核・生物科学兵器を対処する「中特防」102防護隊とCH47チヌークを運用する104飛行隊による福島第一原発・三号機の炉心プールへの海水注入による炉心冷却オペレーションが描かれている。これはNHKでも放送され当時全国民が見守る中、行われたあのシーンの裏でどのように作戦が遂行されたのかが語られている。 「日陰者」である彼らが唯一人々から感謝される災害救助という場面で自身も被災者になりながら「他を生かすため」に活動する姿を賛美するわけでもなく淡々としかし一人の人間として、同じ被災者としてあの日の彼らの行動を追った自衛隊員たちから見た震災レポート。これは自衛隊を何十年も取材してきた作者だからこそ書ける本だと思う。(再掲)

    4
    投稿日: 2016.02.11
  • 異種間通信

    異種間通信

    ジェニファー フェナー ウェルズ,幹 遙子

    ハヤカワ文庫SF

    意外と軽めのコンタクト物

    ファーストコンタクト物=ハードSFって考えがあったせいか、本作もそうだろうと思って読んでいましたが良い意味で裏切られました。また言語学者が主人公なのでテッド・チャンの「あなたの人生の物語」も想像していたのですがそれとも違った。 話はサスペンススリラーものでスピーディーに話がドンドン展開して行き海外SF作品ですがサクサク読めます。もちろん、コンタクト物なので異星人も登場するし様々なSF的フォーマットも用意されているのでのですが主軸は人間ドラマ。都市ほどもある異星船の中で展開する手に汗を握る事件の数々に翻弄されながら主人公ジェーンが奮闘する。海外ドラマやハリウッド映画的な作りになっているので映像化には向いているかも。 そのせいか若干軽め、クラークの「宇宙のランデブー」やレムの「ソラリスの陽のもとに」を想像していると面食らうかと。あと気になる終わり方をしているので続編読んでみたい。

    8
    投稿日: 2016.02.07
  • 俳優・亀岡拓次

    俳優・亀岡拓次

    戌井昭人

    文春文庫

    何処にでもいそうでナカナカいない

    ヤスケンさん主演で映画化されましたが、正に彼の為に書かれた様な話。主人公の亀岡拓次は映画では端役、役柄も殺人鬼やヤクザなどの無頼漢から主人公の叔父や夫などの味わい深い役までどんな役でもこなすバイプレイヤー。映画の撮影に呼ばれれば東北の山村からモロッコの砂漠まで何処にでも参上する映画バカで撮影の合間に地元の呑み屋で酒を飲むのが好きなノミスケでやたらと惚れっぽい。この情けなくもおかしな中年男が何故か国内外の映画監督にはモテまくる。ただしハリウッドやヨーロッパの有名監督に呼ばれても出演シーンはワンカットのみのヤラレ役なのがおかしい。その為、年中映画の撮影現場に出かけて行くのだがその先々で出会う人達との小さな交流。何でもない日常を描いてるのに何故かホッコリさせられる不思議な小説だ。

    7
    投稿日: 2016.02.06
  • 紫色のクオリア

    紫色のクオリア

    うえお久光,綱島志朗

    電撃文庫

    サクッと読めるハードSF?

    ライトノベルだからと侮ること無かれ。後半はイーガンばりの量子SF的展開になるので何んだコレは!と驚く展開に。内容はナカナカのハードSF…ちょっとしつこいけどね。

    5
    投稿日: 2016.01.30
  • 天冥の標 IX PART1 ヒトであるヒトとないヒトと

    天冥の標 IX PART1 ヒトであるヒトとないヒトと

    小川一水

    ハヤカワ文庫JA

    シリーズ最大のクライマックスへ

    遂に世界の外まで話が及び前作のラストシーンの真相が明らかに。そしてヒトとヒトではないヒトの上に等しく訪れる決断の刻!各登場人物の活躍と新なる立ち位置、そして各々の決心を世界の謎を解きながら物語は終局へ向けて動き出す。いよいよ大詰めを迎えたシリーズ最大のクライマックスへと物語は駆け上がリ…と思った処で、またもや続くってそんな殺生な! まだまだ見せ場が用意されているシリーズ終盤、期待して待ってます。

    7
    投稿日: 2016.01.30
  • 機動戦士ガンダム THE ORIGIN(16)

    機動戦士ガンダム THE ORIGIN(16)

    安彦良和,矢立肇,富野由悠季,大河原邦男

    角川コミックス・エース

    ロボット野郎としては

    今回は、前半からかなりオリジナルのストーリーが展開し読んでいて楽しかった。こういう細かな変更は、オリジナルを観ているファンにはうれしい。特に後半の禁じ手である核ミサイルのエピソードは、TV版とは違い爆撃機に搭載してのビッグ・トレーへの襲撃。覚醒したアムロの敵ではなかったんですけどね。。。 しかしTV版では、この頃Gメカと合体してガンガン敵をなぎ倒していたのにコアブースターとの連携のみというのはロボット野郎としてはある意味さみしい・・・。(笑)

    11
    投稿日: 2015.12.26
  • 地球へ… (1)

    地球へ… (1)

    竹宮惠子

    eBookJapan Plus

    竹宮恵子が描いた超能力SF叙事詩

    西暦3000年の時代。人類による環境破壊により荒廃した地球を救うため、人類は他の惑星へと移民する。そこではSD(特殊政府体制)による完全なる生命管理が実施され人口の抑制や異分子(ミュウ)の排除を行っていた。植民惑星アタラクシアで“目覚めの日”を迎えたジョミー・マーキス・シンは自分が超能力者(ミュウ)であることを知り、管理局から追われることになる。潜在的に巨大な力を秘めたジョミーを次世代の長にしようとしていた現ミュウの長ソルジャーブルーによって助けられた彼は今まで自分が信じ込んでいた常識がSDが作り上げた人類の為だけのものであることを知る。人類ではない者(ミュウ)という立場に立たされたジョミーは、遠く離れた地球を目指しミュウの長として立ち上がる。 竹宮惠子が「月刊マンガ少年」に77年から80年にかけて連載したSF漫画作品で4部作。星雲賞コミック部門、小学館漫画賞を受賞している名作である。とにかく少女漫画家でここまでのSFを描く作家は当時は「萩尾望都」ぐらいしかいず、しかもバリバリのSF本道の話をよく描いたなあと感心した。本作は、宇宙船などのメカ物が沢山登場するのだが竹宮恵子はメカに関してはあまり得意ではなく、メカ専属担当として少年誌で活躍していた「ひおあきら」と共同で描いた点もプラスに働いている。 第一部のジョミーがミュウとして目覚め、ソルジャーブルーから地球への想いと長を引き継ぐ。第二部はメンバーズ・エリートのキースが登場し自分の出生と人類の敵(ミュウ)を認識する。第三部は、この二人の出会いとそして新たなミュウの誕生。第四部では、人類対ミュウの全面戦争と真の地球の支配者及びミュウの真実が明らかになる・・・という非常に練りこまれたストーリーで、単なる超能力漫画ではない壮大なるSF叙事詩になっている。 最近、ここまで大上段に構えたSF漫画がなくなってしまい寂しい限りです・・ 東映でアニメ映画化されておりまして内容は約2時間という枠によく話をまとめたと感心するほどうまく作られている。声は当時の人気俳優を起用していてジョミー役の井上純一やキース役の沖雅也はまだ良かったと思うが、秋吉久美子のフィシスはちょっと・・ね・という感じ。ダ・カーポの歌うオープニング・エンディングは、映画にうまくマッチしていた。 ※主人公のジョミーの名は、超能力SF小説の元祖「スラン」から取っているらしい・・

    6
    投稿日: 2015.12.11
  • 叛逆航路

    叛逆航路

    アン・レッキー,赤尾秀子

    東京創元社

    七冠は伊達じゃない?

    最近の海外作品の常でいつもの様にまったく説明無しでの主人公ブレクの一人語りで物語はスタート。話は昔からよくある復讐譚らしく、主人公が何故彷徨うことになったのかの過去パートと復讐の為の現在パートが交互に語られる。ラドチという帝国が版図を広げ他の惑星を侵略し併呑する為に当地に送り込んだ戦艦のAIが主人公で自らの人格を四千人の人体に転写した生体兵器〈属躰〉として侵略任務に当たっている。ところがある事件からシステムから切り離され一人だけ生き残ってしまうのだが・・・。 帝国、蛮族、戦艦AIなど目新しい設定はなく通常のスペース・オペラのフォーマット。帝国内の人間関係は特有の家系やジェンダー意識を説明なしで語るのでよくわからず。ブレクの復讐の準備もマジそれだけ?というモノだし、後半の皇帝への謁見もそんな簡単でいいの?と突っ込みどころ満載。まるでハリウッド映画のシナリオを読でいる感じで小説としての厚みもないのでSF小説を読んだ!という気がしない。SFガジェットは使われているものの、その仕組みや成り立ちについても言及されず文化や宗教についても踏み込んで記述されているわけでもないので、すべてにおいて中途半端。確かに新人が書いた小説だ。 登場人物もラドチ文化のせいなのか、主人公がAIのせいなのか、わかりませんが「性別が理解できない仕様」になっているので読んでいて普通に感情移入ができない。この設定が後半生きてくる展開があるのかとも期待していたのですがそれもなし。シリーズものなのでこのあとこの設定を回収して行くのかもしれませんが本作のみで評価するとすれば、ただ読み辛らかっただけとしか言いようが無い。 7冠ということで読み手がハードル上げていることはわかるのですがそれを差し引いても、新人が書いた普通のSFというのが正直な感想。

    13
    投稿日: 2015.12.08
  • 犯人に告ぐ 上

    犯人に告ぐ 上

    雫井脩介

    双葉文庫

    今夜は震えて眠れ!

    一気読みしました、素直に面白い。扱っている題材は重いものですが、劇場型捜査というTVを使っての捜査という設定や警察内部、マスコミ、被害者家族など癖のある人物が多数登場し、それをうまくまとめてエンターテイメントにしている。当初これだけ盛り沢山な話の為、主人公巻島の掘り下げ方が浅くなるのではと不安でしたが、時折、津田という部下に見せる心情の吐露やラストシーンで見せた彼の態度や台詞に過去の事件の影や責任を背負って生きてきた人間の苦しみ、悲しみが表現されていて感情移入しまくり。 また犯人は別にして警察内部にも敵がいるというのは燃える設定。しかも嫌なやつほど盛り上がる。とにかく最初から最後までほとんど中弛みなしで話が疾走するので読むのをやめられません。年末に読むものがないのなら是非!かなりのお勧めです。映画化もされているらしく豊川悦司主演なのでこれも観たいですね。 最後のTV出演時の巻島が犯人に言い放つ「今夜は震えて眠れ」が圧巻でカッコイイ!

    5
    投稿日: 2015.12.08
  • ノックス・マシン 3/4 電子オリジナル版

    ノックス・マシン 3/4 電子オリジナル版

    法月綸太郎

    角川文庫

    表題の3/4の謎

    上海大学のユアンは国家科学技術局からの呼び出しを受ける。彼の論文の内容について確認したいというのだ。その論文のテーマとは、イギリスの作家ロナルド・ノックスが発表した探偵小説のルール「ノックスの十戒」だった。科学技術局に出頭したユアンは、想像を絶する任務を投げかけられる…。 ミステリ要素はありますがこれはSFです。しかもおバカSF。でも面白い。話は小説を人間が書かなくなった未来、数理文学解析が発達してコンピューターが小説を書く「オートポエティクス」が全盛の時代。ここである国家プロジェクトの実験にミステリ界では有名な「ノックスの十戒」が重要なキーとして登場します。小説が構文解析され数式に置き換えられるという設定であるからこそできる仕掛けになっており、だからこそその後のSF的展開がばかばかしくも面白い。かなりニヤニヤします。オチも予測できるのですが最後にきれいに収まる様はおみごと。ただミステリーファンには不評を買うかも。(笑) ※さて表題の3/4ですが、本来の紙媒体の「ノックス・マシン」には「バベルの牢獄」という話が収録されていて「ノックス・マシン」と「論理蒸発 - ノックス・マシン2」、「引き立て役倶楽部の陰謀」の合わせて4編の短編集となっています。ところが「バベルの牢獄」は物理的な本の構造や構成を理解していないとわからない内容になっている為、電子版には収録できないとの事、なので本来は4編のところ3編しか収録してませんという意味で3/4。 確かに読んでみる書物愛に溢れた物語(相変わらずのおバカSFですが)であり、そうか・・・確かに電子化には不向きかとは思うのですが・・・。ここでこんな事を言うのは不本意なのではありますが「バベルの牢獄」を読みたいのであれば今のところ紙媒体の本を購入するしかありません。

    9
    投稿日: 2015.12.01
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