
英国のスパイ
ダニエル・シルヴァ,山本やよい
ハーパーBOOKS
やっと人間関係と名前が頭に入ってきた
美術修復師でありイスラエルのスパイでもあるガブリエル・アロン。 シリーズ2冊目を読み終えてやっと人間関係と名前が頭に入ってきた。 今回はリアルIRAと言われている北アイルランドのテロ組織と対決する。アイルランド問題に今まで興味を持ったことのなかったので前半は混乱したまま読み進めた。途中からプロテスタントとカトリックの問題だとわかってきたがさらにイスラエルやロシア、イランまで関わってくるので大変だった。 あとがきに本書はエンタメ小説なのでガブリエルを探しにイスラエルに行かないで、と書いてあるほどリアルな作品だ。 そんな中で面白さを加えているのがガブリエルの相棒ケラーが故郷に帰るドラマである。ケラーは元イギリスSAS隊員だが友軍の誤爆で死に掛けたのを機に逃走しコルシカ島に渡る。島では普通に平和に暮らしながら影で殺しを請け負う必殺仕事人の生活をしていた。過去を少しずつ清算しながら前に進もうとするケリーの心情が涙を誘う。 やっと難しい人間関係にハマってきたところなので登場人物の名前を忘れないうちにすぐ次の作品を読もうと思っている。
0投稿日: 2018.01.16
亡者のゲーム
ダニエル・シルヴァ,山本やよい
ハーパーBOOKS
真の民主主義とは何なのかと考えさせられる内容だった
美術修復師のガブリエル、裏の顔はイスラエルの伝説的スパイ。盗まれたカルヴァッジョの名画「キリストの降誕」を探すうちに中東の独裁者の隠し資産に辿り着く。 アクションシーンは非常に少なく頭脳戦とサイバー攻撃と諜報活動がメイン。こんなにデータを盗むのは簡単なのかと改めて驚く。 ミュンヘンオリンピック事件やアラブの春、カダフィ大佐殺害などリアル事件も絡めているがあくまでもエンタメ小説である。政治理念よりも宗教よりも金を追い求める独裁者の姿は哀れだ。哀れなのだが何となく中東情勢やイスラエル問題が少しわかった感じがした。 なぜ永遠に憎悪が続く?なぜいつまでたっても終わらんのだ?しかし人民の犠牲の上に成り立った独裁国でもわずかな安定をもたらしているのも事実。カダフィ大佐の死後のアラブ情勢を考えると真の民主主義とは何なのかと考えさせられる内容だった。 この小説のもう一つの魅力はベネツィアからイギリス、フランス、スイス、オーストリア、イスラエルなど各国への旅である。ロンドン⇔パリが高速鉄道で2時間、ちょっとそこまでの感覚で他国に行ける環境であるが故に外交も難しいのだろうかなどと考えながら読了した。
0投稿日: 2018.01.10
暗い森
アーロン・エルキンズ,青木久惠
ミステリアス・プレス文庫
ハーレクイン・ミステリと名づけたいほどのロマンス
人類学のギデオン・オリヴァー教授が遺骨の破片から身長や体重、性別、年齢などを割り出してFBI顔負けの推理を展開するシリーズ。 今回はワシントン州のオリンピック国立公園(神奈川県より広い)の雨林で見つかった人骨を分析する。インディアンの生活やアトラトル(投槍器)の話などミステリ自体は面白いのだが・・・公園保護官ジュリーとギデオン教授が恋に落ちるというもう1つのストーリーが邪魔している感あり。ハーレクイン・ミステリと名づけたいほどの雰囲気である。 解説によると次作からはロマンスシーンはないとのことなので安心した。 このあとジュリーと結婚し各地を旅しながら事件を解決する本格推理ものでスケルトン探偵シリーズと呼ばれているらしい。お正月に読むには暗い内容だったか、と読み始めは心配したがギデオン教授は大変明るい性格だった。このシリーズはシャーロック・ホームズに似ているというレビューをどこかで見た記憶があるので今後に期待ということだろうか。
0投稿日: 2018.01.04
見知らぬ乗客
パトリシア・ハイスミス,白石朗
河出文庫
交換殺人の元祖といわれている作品
「罪と罰」に似ているというレビューが多いので興味を持った。建築家のガイは親の金で遊び暮らすブルーノと列車内で出会う。父親を憎むブルーノが離婚で悩むガイに一方的に話を持ちかけた。ガイは善悪の判断はついているがブルーノに引きずられる自分の甘さに苦しむ状態。後悔を重ねる心理描写それに色を添えるガイと恋人アンとのロマンス。ミステリ要素は重要ではなく倒叙としてのスリルや追い詰める探偵にあまり魅力は感じなかった。人を人として見るという原点にかえっていくガイの姿に不思議な安堵感を感じた。
0投稿日: 2017.12.24
フランケンシュタイン
メアリー・シェリー,山本政喜
グーテンベルク21
この作品は巨人の苦悩を描いた文学作品である。
息子が小さい時アインシュタイン博士の写真を見て「フランケンシュタインだ!」と言っていた。私は「フランケンシュタインは怪物だよ」と教えた。 あぁしかし、フランケンシュタインは若き科学者であった。その若き科学者は無生物に生命を与えることに成功したが生まれた巨人が異様な風貌であったため研究を捨て逃げた。 残された巨人は森を彷徨いながら人間を観察し言語を習得し人間同士の情愛を知る。 私達の知っている怪物とは違う心優しい姿がそこにあった。 特に森の中で拾った本(ウェルテルの悩みであった)を読んで人間愛を感じるなど感動的なエピソードが続く。 この作品はホラーやSFではなく人間から阻害された巨人の苦悩を描いた文学作品である。 ヨーロッパの田舎はヘッセの世界のように美しく、庶民の暮らしはトルストイの世界のように純朴で、巨人の覚醒の過程はアルジャーノンのように切ない。 巨人は覚醒したが故に自分の醜悪な姿と孤独を認識した。生まれた時から巨人だったので子供時代の思い出すらない究極の孤独であった。無知な時は苦しくても死の概念が無かっただけ幸せでだった。 そんな心優しい巨人を人間は誰もかれも怖がり人命救助さえも誤解して迫害しようとする。 中盤で語られる巨人の身の上話と深い心理描写がこの作品の中枢であり映画では描写しきれていない美点である。 終盤は悲しくて何度も泣きそうになって休みながら何とか読了した。それにしても長い間の勘違いがここに修正されたことは喜ばしいことである。
0投稿日: 2017.12.12
警視庁情報官 トリックスター
濱嘉之
講談社文庫
スケールの大きい犯罪が次々に・・・
警視庁情報官シリーズ第3弾。今回は詐欺事件が発端となり新興宗教や政治家、暴力団が絡んだ複雑な犯罪が明らかになる。争っていた2つの新興宗教がいつの間にか裏で手を握り何と警視庁襲撃を画策するというスケールの大きさ。詐欺事件も金額が桁ハズレで被害者も日本の大企業の社長である。裏情報がモサドのエージェントから入ってくるところも流石は黒田警視と言いたくなる展開だが、相変わらずこのシリーズの問題点は文章が堅苦しいことである。前半の状況説明で相関図が頭に入ってからはヤメラレナイトマラナイモードになるがそこまでが長かった。
0投稿日: 2017.12.07
優しき共犯者
大門剛明
角川文庫
切れ者で人情あつい刑事登場
翔子は父から製鎖工場を受け継いだが連帯保証人になって3億の負債を押し付けられた。なんとか工場を続けようと奮闘する最中、債権者が殺される。 今までの大門さんの小説には切れ者の警察官は出てこなかった。弁護士や関係者がもつれた糸をほぐそうと奔走し自分たちで結末に至るパターンが多い。しかし本書には切れ者で人情あつい刑事が登場する。元従業員や町の人たちも強い絆で結ばれていて下町人情物語のような雰囲気で進んでいく。 製鎖工場で作っている船舶用アンカーチェーンにひっかけて人情の鎖を描いたという感じだ。 元従業員の鳴川は自分のことを考えるより先にいつも工場のことや翔子のことを考えて奔走するが問題を複雑にしてしまっているのも事実。色々疑問に思う点もあるがこの小説の柱になっているのは鳴川の実直な性格と連帯保証人の理不尽さである。 余談ではあるが船舶用アンカーチェーンという巨大な鎖があることを本書で初めて知った。姫路に製鎖工場が多いということで姫路市の夢前川付近がの舞台になっている。 今までの作風とは違っているがこれはこれで面白かった。
0投稿日: 2017.12.01
チーズは探すな! 他の誰かの迷路の中でネズミとして生きることを拒んだ人たちへ
ディーパック・マルホトラ
ディスカヴァー・トゥエンティワン
なぜ?と深く掘下げて考えることの重要性を語りかけている。
ハーバードビジネススクール教授が「チーズはどこへ消えた?」で説明不足ではないかと思われる部分をオリジナルキャラクターで書いた本である。 あの「素晴らしい本」の教えを守って迷路の中でチーズを探し続ける生活をするネズミたち。そんな生活に疑問を持つ3匹のネズミ、名前はマックス、ゼッド、ビッグという。 マックスはそもそも迷路はどうしてあるの?と考えて迷路の外に飛び出していく。ゼッドは迷路の壁が空気であるかのように通り抜けることができる。ビッグは日々のトレーニングのために迷路を走り回りいつも偶然にチーズを発見している。 チーズを追い求めるために何をすべきか、ではなく「どのように存在したいか」を追及することで迷路は迷路でなくなっていく。 「チーズはどこへ消えた?」はイソップ童話、本書「チーズは探すな! 」は「かもめのジョナサン」に雰囲気が似ている。決してあの「素晴らしい本」を否定するものではないが、なぜ?と深く掘下げて考えることの重要性を語りかけている。 本書には最後にディスカッションのための質問集がついている。彼らのうち最も印象に残ったのは誰か?という質問に私はゼッドと答えたい。
0投稿日: 2017.11.30
テミスの求刑
大門剛明
中公文庫
苦しみながら関係者全員が真実を求めていく姿が清々しい。
冤罪を検察側から描いた作品で大変読みやすかった。検事が殺人事件現場から立ち去る姿を監視カメラが捉えていた。血まみれで凶器を手にしていた。無罪を主張する検事を信じようとする検察事務官の星利菜。過去の冤罪事件も絡んで検察内部は緊張が高まっていく。可視化が進んだ現代では起きるはずのない間違いが起きたとするなら・・・正義感とは何か。正義感ゆえに起きる間違いもあれば嘘のほうが人に優しく正義に近いこともある。苦しみながら関係者全員が真実を求めていく姿が清々しい。視点が変わることで検察事務官の仕事がリアルに理解できた
0投稿日: 2017.11.30
チーズはどこへ消えた?
スペンサー・ジョンソン,門田美鈴
扶桑社BOOKS
一歩踏み出すためには何が必要なのか。
本書は2400万部超えのベストセラーであり若い時に読んでおくべき本として取り上げられることも多い。大谷翔平選手の愛読書としても有名。 チーズとは夢、目標を意味している。チーズステーションで2匹のネズミと2人の小人が幸せに暮らしていた。ところがある日チーズが消えてしまう。ネズミはすぐに新しいチーズを探しに行くが小人は様々な検証を行い行動できないまま時が過ぎていく。 一歩踏み出すためには何が必要なのか。自分の愚かさをあざ笑い前進することの大切さを教えてくれる。チーズとは同じ相手との新しい関係と捉えることもできる。 私が初めて読んだ時はすでに50歳になっていた。ソップ物語を読むように面白みが伝わってくる一方で、イヤしかし考えることも恐怖心も立ち止まることも大事である。という思いを捨て切れなかった。やはりこの本を読むには長く行き過ぎてしまったのだろうか。 今回は「チーズは探すな」という本を読むための再読
0投稿日: 2017.11.30
