
ほんとうの親鸞
島田裕巳
講談社現代新書
歴史ミステリー
仏教に興味のない人でも「ナムアミダブツ」という言葉を聞いたことがあるでしょう。それを称名念仏といいます。 そして、称名念仏によって救われることを信じる宗派で日本最大級の信者数を誇る浄土真宗の祖師親鸞とは 何者かに迫る書となっています。 この本は、現代の我々が思い浮かべる親鸞像が、親鸞の弟子である唯円が書いた「歎異抄」という書物を通して のものではないかいう疑問から始まります。一度その思い込み(歎異抄で語られる親鸞像)を取っ払って親鸞を 考えてみようと試みています。これが意外に面白いのです。 親鸞の出生、得度、比叡山で何をしていたか、なぜ比叡山を下りたのか、法然の弟子の中で地位が高かったのか、 本当に流罪になったのかなど、現在宗派で信じられている神格化した親鸞とする根拠は何一つないというのです。 ぶっ飛びます。ここが面白く、歴史ミステリーと私が感じた所以です。ただ、逆に言うと島田氏の言っていることも ただの想像でしかないのですが・・・。 島田氏は、親鸞は自分自身をあくまで法然の教える一僧侶であると自覚し、法を説いていたのではないかといいます。 私もその意見に賛成で、実際親鸞が弟子を持ったのは、関東に在住した時だけで、京都在住の際には、弟子を持たな かったことから、法然や優秀な兄弟子のいる京都では、弟子を持つことがはばかられたかもしれないなどと、私も推理 したくなったほどです。 本当はどうなんだろう、いや実はこうだったのではないか?という推理の幅を広げてくれる良書です。そこが堅苦しくな くていいのです。そして、ここから本格的に研究してみるもよし、推理してるもよしと、久しぶりにワクワクした本でした。
1投稿日: 2017.04.10
明日の記憶
荻原浩
光文社文庫
文芸ゆえの表現力が凄い
先に映画で見ました。映画も非常によく出来ていてたのですが、 小説の方が良いですね。 若年性アルツハイマーと診断された広告会社営業部長の佐伯。 その彼が記憶を記録しておこうと始める日記の文字が次第に、 ひらがなと誤字が多くなっていくことで、症状の悪化が表現 されます。こういうことは、映像で表現できませんね。 私自身も最近物忘れがひどく、職場でペンをどこに置いたか 分からなくなったり、人の名前や言葉が流暢に出ないことが しばしば。そういう時は、この病でないかと思ってしまいます。 そして、この病だけにはならないようにと、祈るばかりです。 この物語において、佐伯の病が治ることはありません。 いくら小説とはいえ、治れば嘘っぽいですから。 そういう意味では、救いようのない悲惨な物語なのですが、 ただ悲惨な物語にならず、なぜか温かい気持ちになります。 物語の後半部で佐伯が一緒に仕事したギガフォースという クライアントの課長の人の名前がでてこなくなるのですが、 小説を読んでいた私も、その課長の名前が出てきませんで した。ちょっと自分が心配です。
1投稿日: 2017.04.01
自閉症スペクトラム障害 療育と対応を考える
平岩幹男
岩波新書
お子さんが自閉症スペクトラムか疑いがあるなら
自分の子とうまくコミュニケーションが取れなかったり、 自分の子が周囲の雰囲気を汲み取れず、非常識なことをよく言うような場合、 この本を読んでみると良いと思います。丁寧に解説しており、好感が持てます。 ただ、専門的説明もかなりあり、その部分は難解で理解しにくかったです。 まぁ、分かり易けりゃ良いってモンでもないですが。 しかし、自閉症スペクトラムと気付かず大人になってしまった人への対処に ついては書かれていません。私は、成人後に自閉症スペクトラムと診断され た場合の対処法を知りたかったので、星マイナス2です。
1投稿日: 2017.03.28
日本人というリスク
橘玲
講談社+α文庫
人生をいかにデザインするか
本の内容は、他の著書と同じことを言っているので、新鮮味がないかもしれません。 でもそれは、ブレがないとも言えるわけで、経済状況が変化すれば、言うことがコロコロ変わるような人より信用できるとも言えます。 そして、著者の他の著書よりも、テーマが広くありません。人生のバランスシートの資産側をいかに増加させ、負債を減らすことで、人生の経済的危機にいかに備えるかに重点が置かれているので、読みやすいです。 だだ、読みやすい=内容が理解しやすいではないわけではないです。テーマが分散していないという意味で、読みやすいというだけです。私は、投資の部分なんてほとんど理解できませんでした。 しかし、会社に頼らず資産を増加させていくというのは、非常に難しいことでもあります。著者は、東日本大震災で持ち家と会社しか資産がない人生に恐怖を感じたと言います。私もそれを読んでその通りだと思いました。けれども、もう定年迄の年月が勤続年数より小さくなっている現在、持ち家と会社以外の資産をどう増やせるでしょうか。それを真剣に考える必要があるんでしょうね。その答えは、何も投資だけではありません。真剣に人生設計を描いてみる必要がありそうです。
1投稿日: 2017.03.21
大学のウソ 偏差値60以上の大学はいらない
山内太地
角川oneテーマ21
愕然とする
大学への進学率が50%を超えた現在エリートが行くところという戦前や戦後直後の感覚は、なくなっている。しかしながら、大学で行われている講義は、大講義室で百人単位の学生を相手に教授が最新でもない理論をぼそぼそ話しているという構図が相変わらず行われているという。 これからグローバルに生き残っていかなければならない時代に、こんな旧態依然とした大学教育でいいのかということを問い質しているのが本書だ。 当然、外国の大学教育との比較がなされる。アメリカ、カナダ、フィリピン、マレーシアの大学の時間割と教育が紹介される。絶句だ。語学は実践的に話せるように毎日少人数で行われ、テストも毎日毎週行われる。他の講義も少人数で行われ、ディスカッションするたまにハードな勉強を行う必要がある。しかも、寮が付設され、同宿する教員は四六時中質問や勉強の仕方をサポートしてくれる。クラスも少人数で構成され、親交を深めまさしく生涯の学友が得られように運営されているという。ただし、米国の大学の学費が日本のほぼ4倍ではあるが。また、日本の大学でも、高偏差値ではないがゆえに、教育に力を入れている例も紹介している。日本の大学が生き残るには、教育改革しかないのだ。 しかし悲観する必要はない。米国と同じような教育内容で、マレーシアやフィリピンなら日本の学費の半額でこれ米国と同等の教育が受けられるという。だから、偏差値60もあるような人はそういう大学に行って自分を高めた方がいいと言うのだ。 同じことを日本の大学でやろうとすると、アメリカと同じような学費になるだろう。かといって、フィリピンやマレーシアの大学を出ても、日本では大学相当教育を受けた人というだけで、日本の大学卒業の学歴は得られないという現実への説明は省かれている。 自分の子供をフィリピンやマレーシアにやってみたいとも思うが、そこまで踏みきれないのも現実としては感じる。しかしながら、こういう道もあるのだということを知らしめてくれる良書と思う。
2投稿日: 2017.03.08
平安女学院大学の奇跡
山岡景一郎
PHP研究所
この大学に娘を行かせたくなる
著者が倒産寸前の女子大学をどのような考えに基づき改革したかを書いた本。 第1章、第2章は自己啓発本としてもよく出来てます。自己啓発本のいいとこ ろは、前向きな考えに触れられるところ。前向きな人を育てていこうとされて いることが分かるし、自身の人生のリーダーであろうと思いました。 第4章、第5章は、どのような教職員で赤字大学から黒字大学に転換したか そして、学生に対してどのような教育を行っているかが述べられます。 小規模大学だからこそできること、女子大学だからできることとは何かを つきつめ、教職員が協力し合い、学生達もそれに応える体制を作られたこと は、本当に素晴らしいと思いました。自分の子をこの大学に入れてもいいの ではと思ったほど。 この方がいなくなったあともこの体制が続けられるかが、この大学の試金石 となるでしょうね。引き継ぎがうまくいくことを、祈るばかりです。 ★マイナス1は、第3章。年を取るとなんで自分のしたことを吹聴したがる のかなぁ。題名とは関係のない自分史部分でここは読み飛ばして問題なしで す。
2投稿日: 2017.03.02
7年目のツレがうつになりまして。
細川貂々
幻冬舎単行本
良かったね
夫は、嫁の漫画の著作権管理事務所の経営を始める。 子供も授かり、漫画は、ドラマにも映画にもなり、ある意味「大成功」だ。 ここで、嫉妬してはいけない。本当に良かったねと言わねばならない。 病気絡みの本は、そういう感情を抱かせるために、出版されているからだ。 癌だけど子供を産んだとか、癌だけど結婚したとか、苦しいけど美しい話だからだ。 でも、私が一番共感できたのは、このセリフだ。 「うつ病ってただなまけてるだけだと思うんです」「うつ病だからってひらきなおって いばってるのってどう思います?」だ。 私の会社にも、保険給付されるギリギリまで休職し、その後トレーニング出社とかで 会社に出てくるだけが仕事。その後は、席で大きなヘッドフォンをつけて、資格取得の DVDを遠慮なく見るのが仕事みたいな人がいて、自分より給料もらってるかと思うと 士気が下がること甚だしい。正直、細川さんの旦那のように、会社辞めて、引きこも ってほしい。 私は、3巻読んでも こんな感想しか抱けない悪い人です。そして、一番共感できたのが 上のセリフでした。でも、一方的に周囲に気を使えっていうのは、(その人と親しくもな いし人生の接点も会社という場だけなのに)言われる周囲にしてみれば苦痛の極みです。 会社という労働力提供の場で、見ず知らずの他人に気を使い、使われているうつ病患者は それが当然って顔をする。たまたま私が知っている人がそうなのかもしれませんが、うつ病 患者は、大嫌いです。
1投稿日: 2017.02.26
その後のツレがうつになりまして。
細川貂々
幻冬舎文庫
経験
第1弾が、「うつ病」そのものを描いていたのに対し、その対処の仕方、自分たちの誤った対応を描いている。 また、あの頃はこう思っていたとかの感想も交えている。 突然やってくる現実にあたふたしたことが想像される。 うつ病前はいきいきと優秀な人だったのが、電車に乗ることさえできなくなる現実が描かれているといっていい。 それをどこまで周囲が受け止められるか、正しく対処できるか。そういったことの参考にできる内容だ。 けれども、「うつ病」患者ファーストな視点はかなり暑苦しい。なんで、「うつ病」ってだけでこんなに神経使わない といけないんだ?という疑問だけが湧き上がり、共感できなかった。しかも、夫も「うつ病」だから甘えて当然みた いなところがあり、どちらかというと嫌いなキャラクターだ。共感できないので、★3としました。
0投稿日: 2017.02.26
ツレがうつになりまして。
細川貂々
幻冬舎文庫
大変な病気を明るく描写
人は多かれ少なかれ「誰かの役に立ちたい」という気持ちを持って生きているのではなかろうか。 その一方、自分と誰かを比べ、「自分は○○さんより優れている」とか周囲から「優秀な人」と思わ れたいと思っているのではないだろうか。 そういう意識の中で、「俺(もしくは私)がやらねば!」がオーバーワークを招き、眠れなくなるまで働き、 結果「うつ病」になってしまう。誰にでもおこりうる状況で、「こころの風邪」と呼ばれる所以なのだろう。 そんな「うつ病」の状況を、明るく淡々と描いている。生真面目すぎる夫に、会社を辞めさせ、ダラダラ 過ごすことを覚えさせる。それでも当の本人は、自殺を考えたり、電車に乗ることも困難であったり、 少し良くなったと思えば、すぐに元に戻ったり・・・。こういった「うつ病」の症状を中心に描いている。 明るく描いているからこそ、「乗り越えられるんだ」という感想を抱かせることに成功しているともいえ る。けれども、会社を辞め、奥さんの収入だけが頼りになるという現実が、突然家庭にやってくること は、到底受け入れられない人が多いのではなかろうか。 金銭的にどう乗り越えるか。精神的にどう乗り越えられたか。そういう点は描かれていない。そういう ことを知りたかったので、★マイナス1。
0投稿日: 2017.02.25
「即戦力」に頼る会社は必ずダメになる
松本順市
幻冬舎新書
給与なんかで悩まない!
給与の多少なんかで転職を考えていたり、他人を出し抜いて少しでも多くの賃金を得たいと思っている方必見! ・成果主義が、いかに誤った施策なのか ・年功序列的な人事施策がとられるのはなぜか ・組織を維持発展させていくには、どのような人事施策が望ましいのか これらをすっきりと説明してくれています。・・・また、合わない上司の対処法もチラッと書かれています。 給与の決まる仕組みが分かりやすく書かれており、その上げ方も書かれています。 また、異なる企業の他人(友人などですね)の給与と比べることの無意味さも書かれています。 読むと前向きになる書き方をされているので、自己啓発本としても使えます。 給与や評価で、転職を考えたり、悩んでいる方におススメです。
1投稿日: 2017.02.14
