nakさんのレビュー
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楽園のカンヴァス(新潮文庫)
原田マハ / 新潮文庫
画家の情熱、狂気、幻想
47
ルソー、ピカソ、ヤドヴィカ、ジョセフ、作中の物語で語られる人物達の強い想いに感化され、目頭が熱くなりました。
この小説はあくまで創作ですが、大なり小なり私達が目にする芸術作品にはこのような想いが込めら…れている可能性があると考えると、胸が熱くなります。
作中でも語られていますが「画家を知るには、その作品を見ること。何十時間も何百時間もかけて、その作品と向き合うこと」が必要で、これは以前読んだ詩集の本にも似たようなことが書いてありました。絵画だけに限らず、全ての芸術作品について言えることなのでしょう。なかなか実行するのは難しいところですが、これからは少なくとも琴線に引っかかった作品ぐらいはもっと頑張って見て、画家に向き合った結果として書かれた解説についても真剣に読んでみようかなという気にさせてくれました。 続きを読む投稿日:2013.12.31
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知っておきたい日本の神話
瓜生中 / 角川ソフィア文庫
簡潔によく纏まっていますが、余計なスパイスが...。
42
読み始めた直後から「ん?」と違和感を感じました。冒頭の前書き部分でイスラム神話をとうとうと語り、自分のルーツを誇らしげに語るイラン人の青年の話があり、そこから神話と民族のアイデンティティ云々と話を続け…ているのですが、それを聞いた筆者が自分には語るべきルーツがあいまいで、神話の持つ力の恩恵を授かっていない、日本の神話は天皇家の正統性を主張する為の政治的思想を元に編纂された不幸なものだと断じて嘆く場面があります。それもどうかと思いますが、青年が語るイスラム神話が筆者が言うところの政治的思想に編纂された可能性があることに思い至らないところに最初の疑問を感じました。
神話の定義として「一部の人の創作ではなく広く民衆に支持され、宗教性と呪術性をもつこと」であると歴史学者の直木孝次郎氏の定義を引用していて、その定義には私も納得できるものですが、筆者は日本神話や古事記はこの条件とは真っ向から反発するものと断じています。もちろんこれらが作られた経緯を考えれば筆者の言うことも解からないではありませんが、もともとその時代に伝わっていた伝説、神話、言い伝えや伝承等を編纂したものであり、それら全てが当時の政治的思惑のもとに創作されたかのような書き方をしているのはどうなのでしょう?
この筆者の思想、歴史感の根底にあるのものは戦後の自虐史観のように感じました。内容的には簡潔で解かりやすくまとめられていますが、筆者のそれが文章の端々に見え隠れしています。
日本に限らず世界中の神話というものの大部分は古くから伝わるものを大々的に編纂した人間がいて、それが基礎となって後世に伝わっているものがほとんどで、編纂者の意向が強く反映されるのはどこの国でも同じです。
また、どのような形であれ、日本書紀や古事記が現在の日本神話の礎になり、日本人の宗教観に深く浸透し、広く民衆に根付いているのは間違いのない事実です。そして日本神話を編纂した千何百年前の朝廷が現在まで続いているというのが日本と他の国と異なる特異な点で、それは誇れさえすれど、決して卑下するようなことではないと思います。 続きを読む投稿日:2014.11.19
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小説 君の名は。
新海誠 / 角川文庫
儚い記憶
32
これの映画を見た帰りに、映画の余韻が醒めないうちに衝動的に買って読みました。
とりあえず映画の方はとても良かった...。新海監督らしさ全開のすれ違いというか、あの絶妙な距離感と共に、目覚めた瞬間、覚…えていたはずの夢が次の瞬間からスーッと消えていくあの喪失感。そして何かを見たという朧げな記憶だけが残るあのもどかしさ。あの感覚...。
まあ、映画の感想を書く欄ではないのでこれで留めておきますね。
さて肝心の本小説の方です。読む前の印象では新海監督の映像作品やインタビュー等での落ち着いた物腰等を見ると、もっと情緒的で詩的な文章を書く人と思っていましたが、実際に読むといい意味でライトノベル的、つまりとても読みやすいです。
映画と違って内面描写については一人称視点で語られていますので分かりやすいですし、映像でスッと流された部分についてもところによっては詳しく書かれていますので、物語の補完と復習には良い小説だと思います。
ただ情景描写が文章と映像では比較するのもバカバカしいくらい映像が圧倒的ですので、個人的には小説を読んでから映画を見るのは勿体ないかなと思いました。 続きを読む投稿日:2016.08.27
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万能鑑定士Qの事件簿 I
松岡圭祐 / 角川文庫
悪意を感じるほど、文章構成の「引き」がうまいです。
24
まるで最近の悪名高いバラエティー番組のCMの入れ方のような文章構成になっています。次どうなるんだと先が気になるところで場面転換してヤキモキさせられます。この手の手法はよくあるのですが、この作品について…は、それを顕著に感じました。おかげで先が気になって一気に読んでしまいました。
登場人物も魅力的で、好感が持てます。特に凛田莉子さん。表紙のイメージからもっとクールな性格なのかと思って読み始めましたが、いい意味で期待を裏切られました。 続きを読む投稿日:2013.10.13
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All You Need Is Kill 1
桜坂洋, 竹内良輔, 安倍吉俊, 小畑健 / 週刊ヤングジャンプ
切り結べ!知識を蓄積せよ!
22
「ギタイ」と呼ばれる謎の生命体に侵略されつつある地球。
人類が絶望的な戦いを繰り広げる中、「ギタイ」に対して唯一勝利を続けるリタ•ヴラタスキ率いる部隊と共に初陣を向かえる初年兵リヤ・ケイジの身に異変…が起こります。
全2巻完結です。
設定や展開、ストーリーについては特別目新しさは感じませんが、よく作り込まれていて面白いです。そして作画は言わずと知れた「小畑健」です。繊細で臨場感溢れた漫画は流石です。いっちゃってる男性と透明感のある女性を描かせたら天下一品ですね。 続きを読む投稿日:2014.06.19
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君の名は。 Another Side:Earthbound
加納新太, 田中将賀, 朝日川日和, 新海誠 / 角川スニーカー文庫
素晴らしい補完作品。
20
映画を観て「良かった...」「面白かった!」という人、全てにお勧めしたい素晴らしい補完小説になっています。
構成は4話。(下記は要約です。)
1話 瀧と三葉の入れ替わり生活の詳細(瀧サイド)
2話 …テッシーが思うこと。行動原理
3話 四葉の三葉像と不思議な体験
4話 三葉の父親の過去話とあの決断に至った経緯
いずれも「君の名は。」という作品をより楽しく、より深く理解することができるようになること間違いありません。全部面白かったです。
特に4話の父親の話はイイ!映画でも小説でもバッサリと省略されていたあの場面です。決して説明を避けていたわけでは無く、むしろこれだけで「君の名は。サイドB」として一本映画が作れそうなほど説得力のある濃い内容になっていて、これは絶対読んだほうがいい...、いや読むべきだw 最後は鳥肌モノです。
もちろん本編を観てから読むことをお勧めします。 続きを読む投稿日:2016.09.08