
踊るジョーカー
北山猛邦
東京創元社
気弱な名探偵によるプチ本格
5つの事件を収録した短編集です。内気で気弱な名探偵が主人公というユーモラスな作品なのですが、その中身は意外と本格ミステリーしてます。中には、ちょっと現実的ではないかな?と思うトリックもあるのですが、あくまでもフェアで論理的な解決が図られるので本格ファンも納得な内容ではないでしょうか。その一方で、ひきこもり名探偵・音野順をはじめ、個性的なキャラクターたちのやり取りは楽しく、文章も読みやすいので、本格ミステリーへの登竜門という側面も持ち合わせている印象です。一編が比較的短いので、就寝前にちょっとだけ読むのにもオススメです。
1投稿日: 2015.01.13
UFO大通り
島田荘司
講談社文庫
馬車道時代の御手洗が活躍!
「UFO大通り」「傘を折る女」中編2本が収録されています。表題作でもある「UFO大通り」は、島田荘司らしい幻想的な謎と論理的な解決を扱った作品。カタブツ刑事とのやりとりがとても楽しく、皮肉たっぷりに相手する御手洗の姿はとても痛快です。「傘を折る女」は、犯人側の視点でストーリーが進むのですが、途中、犯人も驚くまさかの展開が待っています。このひっくり返しかたは実に見事で、作品に対する印象が一変してしまいました。両作品とも馬車道時代の御手洗の活躍を楽しめます。なお、両作品はそれぞれ独立した物語なのですが、ある共通点をもっています。この二作品を一緒にまとめる遊び心(?)もまた楽しいですね。 【2015/3/7追記】「傘を折る女」のドラマ見ました。御手洗中心で話が進んだり、キャラが少し違っていたりと、色々アレンジされていましたが根幹部分は違いません。ドラマを気に入った方は、違った目線でストーリーを楽しめる原作もオススメです。
4投稿日: 2014.11.16
バイロケーション スプリット
法条遥
角川ホラー文庫
テイストが変わったシリーズ2作目
前作が面白かったので手にとってみました。前作では、主人公とバイロケーション(不定期に現れる自分の分身)が敵対関係にありましたが、今作は主人公とバイロケーションが共存関係にある点がまず面白かったです。しかし、共存ルールを無視してバイロケーションが不可解な行動をとりだすと物語は一気に転がりはじめ、緊迫感たっぷりの展開へとシフトしていきます。前作とテイストが変わったので賛否両論ありそうですが、個人的には別エピソードとして十分アリだなと思いました。なお、1作目を読んでいないと意味がわからない箇所がある点には要注意です。
1投稿日: 2014.11.07
ホーンテッド・キャンパス
櫛木理宇,ヤマウチシズ
角川ホラー文庫
オカルト+学園恋愛モノ
角川ホラー文庫ではありますが怖さはほぼ皆無。むしろ恋愛要素が強く、ホラー要素に期待していた場合は肩透かしをくうかも知れません。様々なオカルト事件を通じて、主人公とヒロインの距離が少しずつ縮まっていくのですが、これが本当に少しずつなのでヤキモキさせられますw このあたりを楽しめるかどうかで評価が変わるかもしれません。オカルトは好きだけど怖いのは苦手(恋愛要素は大歓迎)といった人にはピッタリの作品だと思います。
1投稿日: 2014.11.07
プラスティック
井上夢人
講談社文庫
大仕掛けだけではない面白さ
本作の核となっている ある仕掛け には多くの人がすぐ気づくと思います。しかし、それが分かったとしても、物語がどのような終焉を迎えるのか、そして「いま読んでいるこれは何なのか」といった謎が、読者の興味を最後まで引っ張ってくれます。フロッピーディスクが登場したり、逆に携帯電話が出てこないなど時代を感じる場面もあるのですが、物語の面白さはまったく色あせていない。さすがはストーリーテラー井上夢人という印象です。
0投稿日: 2014.11.07
追想五断章
米澤穂信
集英社文庫
粛々と進む物語の先には・・・
これまで米澤穂信作品は、小市民シリーズや氷菓、インシテミルなど比較的ライトな作品しか読んだことがありませんでした。ところが本作は、それらとは異なる静かで深みのある雰囲気で展開されます。まずその作風の幅広さに感心させられました。本作は、依頼を受けた古書店員が、故人の私的小説5編を探すというストーリーです。ところが小説の所在を調べていくうちに、図らずも故人に起こった事件、そしてその真相に近づいていくことになります。この過程も面白いのですが、一介の店員である自分がどこまで踏み込むべきか、そして依頼者である遺族に真実を伝えるべきか、といった主人公の葛藤にも共感させられました。静かに粛々と物語は進みますが、最後に待っている結末は意外なもので、ミステリーとしても楽しめます。
2投稿日: 2014.08.09
楽園のカンヴァス(新潮文庫)
原田マハ
新潮文庫
絵画の魅力溢れるミステリー
美術館には数えるほどしか行ったことのない自分でもアンリ・ルソーの世界に引き込まれ、読了後もその余韻がずっと残る非常に印象的な作品でした。どこまでが史実でどこまでが創作なのか分からないのですが、100年以上前の画家たちの熱意や息吹が感じとれるような気がして、読みながらとても熱い気持ちになりました。絵画に残された謎が少しずつ解明していく過程も素晴らしく、美術の世界と高いレベルで融合した傑作ミステリーと言えるのではないでしょうか。余談ですが、本作を読み終わったあとルソーの作品集をみたのですが、どれも不思議な魅力を持つ作品ばかり。これがルソーの世界なんですね。余韻を楽しんでいます。
1投稿日: 2014.08.09
アンデッド
福澤徹三
角川ホラー文庫
油断大敵の学園物ホラー
ライトに読める学園物ホラーです。ストーリーは正直凡庸な印象ですが、拷問シーンはなかなかのエグさで、丁度油断していた頃だったので思いがけないカウンターパンチをもらうことになってしまいましたw ところどころ挿入される異常犯罪者に関する豆知識がよいスパイスになっており、テンポの良さもあって、最後まで飽きることなく楽しめました。恐怖指数は低めですが、深夜に読んでいたらさすがに怖くなってきたりもして、甘く見ていると足下をすくわれかねない作品となっています!
1投稿日: 2014.08.01
ルーズヴェルト・ゲーム
池井戸潤
講談社文庫
野球好きお父さんにオススメの一冊
業績悪化によりリストラを進める企業と、そこに所属する社会人野球部の物語です。善と悪が明確でストーリーはシンプル。また題名にもなっている「ルーズヴェルト・ゲーム」の意味を知ると、後半の展開は概ね想像がつきます。しかしながら、登場人物たちがみんな熱いハートの持ち主で、会社人として野球人として生き残りをかけて帆走する姿にはとても心を打たれます。きっとこう展開になるんだろうな・・・と思っていても、最後まで熱い気持ちをもって読むことができました。野球好きのお父さんには鉄板の一冊ではないでしょうか。ドラマは未見でしたが、本作を読んだことでそちらにも興味がわいてきました。
0投稿日: 2014.06.14
福家警部補の挨拶
大倉崇裕
創元推理文庫
本家も顔負け!?なでしこコロンボの活躍
犯人視点で物語が進む倒叙ミステリーです。まず最初に犯人が凶行を起こすまでの過程が描かれます。主役である福家警部補は事件発覚後に登場し、その鋭い洞察力と推理力で、見事事件を解決へと導いてくれます。本作は4編が収録されているのですが、そのどれもが犯人の動機が切ないのが印象的でした。私的ベストは「最後の一冊」です。また、福家警部補のキャラクターが非常に面白く、ストーリーもよくまとまっており、単なるコロンボのモノマネでは終わっていない面白さを感じました。短編集ということもあり、ちょっとした空き時間に手に取るのもオススメの一冊です。
2投稿日: 2014.05.03
