
夏、19歳の肖像
島田荘司
文春文庫
青年の一途な恋物語
島田荘司初期の名作です。近年の重厚な作品に慣れてしまっていたので、この真っすぐすぎる青春物語はとても新鮮に感じられました。愛する女性のために命すら投げ出そうとする青年。その姿はとても青臭いものですが応援しないではいられない。それゆえページをめくる手も早くなってしまいました。ミステリー色も島田荘司らしさも薄いのですが、昭和の若者の熱量を感じられる作品でした。
1投稿日: 2016.02.18
ノックス・マシン 3/4 電子オリジナル版
法月綸太郎
角川文庫
古典ミステリーとSFの融合
古典ミステリーの知識と、現代物理学への興味。その両方を求める非常に読者を選ぶ作品です。正直、クイーンとアガサ・クリスティを数冊読んだことがある程度の私ではついていけない部分もありました。しかし、そこはさすがノリリン。特に表題作である「ノックス・マシン」ではその特殊設定をうまく活かして最後まで興味深く読むことができました。なお、書籍版では4編収録されていますが、電子版では「バベルの牢獄」がフォントの関係もあってか収録されていません(内容も紙媒体でないと分かりにくい)。他3編との絡みもなく、実験的とも思える作品なので無理して読む必要はないと思いますが、折角なら書籍版を手に取ってみるのもよいかも知れません。
1投稿日: 2016.02.10
探偵の探偵IV
松岡圭祐
講談社文庫
死神の師との対峙
前作で「死神」との決着はついたものと思っていましたが、本作では何とその師と対峙することに!本調子ではない玲奈でしたが否応なしに事件に巻き込まれて行きます。今作の特徴は、何といっても今まで妹的存在であった琴葉のがんばりでしょう。キーマンになっています。しかし、がんばればがんばるほど危険な目に遭うわけで...ボコボコにされる姿を見るのは少々ツラいものがありました。それでもしっかり成長した姿を見せてくれたのは嬉しかったです。一方、玲奈はもはや貫禄の域。新章でもさらなる活躍を見せてくれるのでしょうか。
1投稿日: 2016.01.30
さよなら妖精
米澤穂信
創元推理文庫
切ないボーイミーツガールの物語
異国の少女と出会った少年・守屋は、激しい紛争が続くユーゴスラヴィアの実情を知ることになります。これまで平和かつ狭い範囲で生きてきた少年にとって、はじめて世界を身近に感じると同時に、母国のために自分にできることを成し遂げようとする少女の姿に感化されます。そしてある行動を取ることを決意するのですが・・・それは若さゆえの短絡的思考でした。痛々しくもあります。しかし、こうした苦い経験を経て、登場人物たちはど大人へと成長していくのでしょう。登場人物の一人である大刀洗は「王とサーカス」等で成長した姿を見せてくれます。果たして少年・守屋は、今回の少女との出会いを通じてどのような成長を遂げたのか。彼の後日潭もいつか語られてほしいものです。
2投稿日: 2016.01.23
空飛ぶタイヤ(上)
池井戸潤
講談社文庫
上下巻通しての感想 <ややネタバレ>
信念を持って大企業と対峙する運送社長に感情移入してしまい、読中はハラハラドキドキ(そしてギリギリ)していましたが、最後は見事に逆転満塁ホームランを打ってくれました!これぞ池井戸作品の醍醐味です!実在の事件をモチーフにしているとのことですが、あくまでも本作はエンターテインメント作品。下町ロケット同様、がんばれ日本の中小企業!と元気を与えてくれます。
3投稿日: 2016.01.02
ドミノ
恩田陸
角川文庫
コメディタッチの群像劇
東京駅を舞台にしたコメディタッチの群像劇です。登場人物それぞれの物語が少しずつ絡まっていき、やがて大きな事件へと発展していきます。「ドミノ」という感覚ではなかったものの、一見関係なさそうな出来事が収束していく様は読んでいて楽しかったです。たくさんの個性的な登場人物がいる中で、私のお気に入りは子役の二人。ライバルであると同時に、事件を通して友情を深めていく姿がとても印象的で、事件解決にも一役買ってくれます。弱者と思われがちな子供が大人を翻弄するお話は痛快で大好きです。
1投稿日: 2015.12.01
花と流れ星
道尾秀介
幻冬舎文庫
真備シリーズ第三弾
「背の眼」「骸の爪」に続くシリーズ3作目。前二作は長編でしたが、本作は短編集となっています。前作を知らなくても、本作を読むにあたっては何の問題もありません(私がそうでしたw)。道尾秀介は「向日葵の咲かない夏」の印象が強烈で、異質な作品を書くイメージを持っていましたが、本作は心温まる話も多く読者を選ばない印象です。それでも「流れ星のつくり方」の最後のセリフには、"道尾作品らしさ"のようなものを感じ、それが余韻となって心に残る魅力に繋がっています。順番は逆になってしまいましたが、前作・前々作も近いうち読んでみたいと思います。
3投稿日: 2015.11.08
折れた竜骨 上
米澤穂信
東京創元社
上下巻通しての感想
中世ヨーロッパの諸島を舞台にしたファンタジーミステリーです。魔法が出てくる世界観ではあるのですが、論理的かつフェアなフーダニット(犯人探し)を堪能することができます。また、並行して起きる蛮族との闘いも迫力満点で、冒険活劇さながのアクションを楽しむことができます。論理とファンタジー、あるいは静と動、この一見相反する2つの様子を見事に融合させた、とても贅沢な作品となっています。タイトルから中身を想像できないことや、上下巻になっていることで、最初手に取りづらい印象もあるのですが、そこで止めてしまわないで本当によかったと思いました。
2投稿日: 2015.11.01
探偵の探偵III
松岡圭祐
講談社文庫
死神と決着のとき
妹の死に携わった悪徳探偵「死神」の正体がついに本作で明かされ、主人公・玲奈と対峙することに。いよいよ決着のときを迎えます。本物の妹のような存在であった琴葉との関係にも変化が。テレビドラマもここで終わりますので、今後の展開はわかりませんが、本作が一つの区切りと言えそうです。玲奈には、これを機にゆっくり休んで欲しいところですが、その一方で活躍を見続けたい気持ちもあり、読者とは何とわがままなものかと再認識させられました。
1投稿日: 2015.09.10
ペンギン・ハイウェイ
森見登美彦
角川文庫
ペンギンの謎、そして少年の成長
素直なんだけど、ちょっぴりおませさん。理屈っぽいんだけど、どこか憎めない。そんな少年が主人公のSFファンタジーです。最初はペンギンが街に現れるという小さな事件が起きるだけですが、日を追うごとに不思議な出来事は増えていき、やがて大きな事件へと発展していきます。一見、関連がなさそうな出来事が、一つの意外な真相へと集約していく構成には感心させられました。これら経験を通して成長していく少年の成長物語にもなっており、最後切なさを覚えるシーンもあるのですが、これでまた少年が成長するのだと思うと温かい気持ちにもなれる。そんな素敵な作品です。
2投稿日: 2015.09.10
