
何者(新潮文庫)
朝井リョウ
新潮文庫
就活をテーマにした若者の成長物語
就活にもがき苦しむ5人の物語です。主人公である拓人は、少し冷めたところがあるもののごく普通の学生。自分よりも先に内定をもらう友人には嫉妬も覚えるし、くやしくもある。表の顔もあれば裏の顔もある。小ズルいところもある。そういうところは共感できますし、読み進めるうちに応援する気持ちも湧いてきました。それだけに、同じく内定をもらえずに焦っている知人から裏の顔を激しく追求されるシーンは読んでいて心が痛かったです。そこまで悪い奴じゃないよって庇いたくもなりました。しかし、拓人はその言葉をしっかりと受け止めます。そして、自分の力に変えて行きます。読了後は、人が強くなる瞬間を見れたような。そんな清々しい気分になれる一冊でした。
2投稿日: 2016.12.10
女王国の城 上
有栖川有栖
創元推理文庫
上下巻通しての感想です
さすが和製エラリー・クイーンこと有栖川有栖氏。読者への挑戦状を筆頭に、非常にミステリーファンの心をくすぐる作りとなっています。様々な謎がある中、個人的には拳銃の入手方法に一番驚かされました。巨大な密室ともいえる宗教施設にまさかあのような方法で・・・見事です。中には肩透かしな真相もないわけではないのですが、総じてよく構成されていたように思います。新興宗教の施設に軟禁されるというシチュエーションも緊迫感があってよかったです。
1投稿日: 2016.12.10
笑うハーレキン
道尾秀介
中央公論新社
悲しくも前向きになれる物語
タイトルから喜劇を想像していたのですが、実際は悲しいピエロの仮面をかぶった人々の物語でした。(ハーレキンとは道化師のことです。)息子と妻を失い、人生のどん底を迎えていたホームレスの主人公。日々もがき苦しみながら生きて行くのですが、やがて自分そして仲間の、他人には決して見せない顔が浮かんできます。自分は他人からどのように見えているのか?自分はどんな仮面をかぶっているのか?そんなことを考えさせられる、悲しくも前向きになれる物語です。
1投稿日: 2016.12.10
愚行録
貫井徳郎
東京創元社
人間の心理を浮き彫りに
最初から最後まで独白形式で進行する意欲作です。ルポライターが一家殺害事件の真相を追い、関係者にインタビューをしていくのですが、そこで浮かび上がってくるのは“人間の醜さ”でした。元同級生が、被害者女性の人となりを語るシーンは、言葉の裏に垣間見える嫉妬や苛立ちの感情がとてもリアルで、読んでいて背筋がうすら寒くなってきたほどです。人は誰でも、本音と建前の使い分けるものですが、そうした人間の心理をうまく取り込んだ著者の筆力を感じさせる一冊となっています。何とも言えない読後感も心に残ります。
2投稿日: 2016.12.10
探偵の鑑定II
松岡圭祐
講談社文庫
両シリーズのターニングポイントとなる作品
前作から引き続き、ストーリーは暴力団 vs スマ・リサーチの抗争へと発展していきます。「探偵の探偵」シリーズなら違和感のない展開なのですが、暴力団からの乱暴に晒されているのが万能鑑定士の莉子であるという点がファンとしてはツラいです。万能鑑定士シリーズは、主に知的犯罪を手がけていましたので暴力とは無縁です。そこで活躍する莉子の物語が好きだったのですが、本作ではその世界観がある意味壊されてしまいます。外伝的な作品であれば、まだスルーするという選択肢もあるのですが、本作は両シリーズにおいて大きな変換点となりうる内容であり、シリーズファンこそ避けては通れません。それがまたツラいところです。本作が大きな前振りとなって、それぞれハッピーエンドへと終着してくれるのを願うばかりです。
3投稿日: 2016.06.19
探偵の鑑定I
松岡圭祐
講談社文庫
嬉しいコラボ、しかしファンとしては微妙な面も
人が死なないミステリの「万能鑑定士Q」と暴力上等の「探偵の探偵」がまさかのコラボです。趣きの異なる2作品であるため、どっち寄りの話になるのか気になっていましたが、「探偵の探偵」をベースにしている印象で、物語はやがてヤクザとの抗争に発展していきます。両ヒロインの共演は嬉しいのですが、莉子が暴力沙汰に巻き込まれていくのはファン心理としてはかなり微妙です。本作だけでは終わらず、次巻へ持ち越しとなっているのもヤキモキさせられます。
3投稿日: 2016.06.19
エヴェレスト 神々の山嶺 電子特別合本版
夢枕獏
角川文庫
心震える凄まじい作品
読書中はただただ圧倒されるばかりでした。文字通り命を賭して、最難関ルートでエヴェレスト登頂を目指す男の物語。その姿は、鬼気迫るという言葉ではとても足りないほど、圧倒的な迫力を感じました。一見するとその行為は自殺にも等しいのですが、死と隣り合わせであるからこそ、命の価値、命の尊さ、生への感謝を強く感じられるのかも知れません。神の領域とも言えるエヴェレスト山頂。そこに取り憑かれた人間の生き様は凄まじいの一言です。
2投稿日: 2016.06.05
星籠の海(上)
島田荘司
講談社文庫
御手洗が国内事件に挑む!(上下巻通しての感想です)
御手洗潔と聞くと、まず本格モノをイメージしますが、本作は歴史ロマンやサスペンス要素が強く、ちょっと毛色が異なります。意外な犯人やトリックはありませんが、複数の思惑が絡み合いながら転がっていく物語は読み応えがあり、ファンならずとも満足のいく内容となっているように思います。一方で、シリーズファンとしては、御手洗らしくないなと感じるところもあります。例えば船上で登場人物をはめるシーンなどは、見栄えはよいもののまるで安っぽいミステリー漫画のようですし、事件解決にあたっては他力本願なところもあります。ただ、映像化を前提とした見せ場ということであれば、こうしたシーンも止む無しという感じでしょうか。このボリュームをどうまとめているかも気になりますし、映画のほうも近いうち見てみたいと思います。
2投稿日: 2016.06.05
ボーン・コレクター(上)
ジェフリー・ディーヴァー,池田真紀子
文春文庫
上下巻通しての感想です
主人公は事故で四肢麻痺となった元・科学捜査のプロ、リンカーン・ライム。指の肉が削られた死体発見に異質なものを感じたNY市警は、ライムに捜査協力を求めるが、事件はやがて連続猟奇殺人へと発展していく・・・という物語です。主人公はほぼ寝たきり状態なのですが、現場に残された微細な証拠をとてつもないスピードで解析し、犯人への包囲網を少しずつ狭めて行きます。的確な科学捜査と優れた洞察力があれば、たとえ四肢麻痺であろうと犯人に迫れることができるとは、新しい形の安楽椅子探偵モノだと感じました。また、いよいよ犯人を追いつめたか!という場面から一転する展開も見事で、上下二巻に分かれていますがまったくダレることなく読み終えました。翻訳ものが苦手な私でもかなり読み易かったのも嬉しい誤算です。
3投稿日: 2016.03.27
グランドマンション
折原一
光文社文庫
叙述トリックのキレは戻ったか
最近の折原作品は、決して詰まらないわけではないのですが、往年のキレには欠けている印象があります。ただ本作は評判が良いようでしたので期待して手にとってみました。まず、氏の長編作は冗長に感じることが多いのですが、本作は連作短編集であるため小気味よく読むことができました。ただ惜しむらくは、トリックがどれも小粒で、既視感があることでした。最後にドンデン返しが用意されているものの、それも舞台設定からある程度予測できてしまったため、カタルシスを感じるほどではありませんでした。結果として、本来のキレを取り戻すまでには至らなかったという印象です。ただ、一癖も二癖もあるマンション住民の絡み合いは面白いですし、作者に騙されまいと構えて読み進めるのも折原作品ならでは楽しさです。
2投稿日: 2016.02.28
