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ryunicoさんのレビュー
いいね!された数255
  • 人魚は空に還る

    人魚は空に還る

    三木笙子

    創元推理文庫

    腰の低いホームズと高飛車なワトソン

    弱小雑誌社の記者・里見高広と、人気絶頂の絵師にして超絶美貌の持ち主・有村礼のコンビが 帝都で起こる不思議を解決してまわる短編ミステリー集です。 全部で5編が収録されていますが、一番好きだったのは表題作『人魚は空に還る』でしょうか。 一冊読んでの感触は「上品な作品集だな」の一言。 主人公二人を巡る登場人物たちもキャラがはっきりしているし、 限られたページ数で謎を解決する流れも無理なくスムーズ。 大がかりなトリックはない反面、デビュー作ながら安全安心運転です。 案外珍しいパターンと思ったのは、主人公・里見が探偵役で、有村が聞き手だということ。 読者の目線を誘導するため、主人公はワトソン役に収まることがままある中 このタイトルでは主人公・里見があれこれ謎を解くのは、結構新鮮でした。 そして、このタイトルで一番見抜けなかった謎は、『人魚は空に還る』に出てくる小川さんの正体。 あれだけ思わせぶりに書かれてるのに見抜けなかった自分の感の悪さにガックリしました。

    1
    投稿日: 2014.04.05
  • 犬はどこだ

    犬はどこだ

    米澤穂信

    創元推理文庫

    落とし方が米澤節

    犬探し専門調査事務所を開業したはずだったのに、なぜか舞い込んだ依頼は古文書解読と失踪人探し。 高校時代の先輩後輩の男二人組が手分けして調査にあたるわけですが、無関係と思われた地味な依頼がリンクし、やがてのっぴきならない状態へもつれ込むあたりは、安定のストーリーテリングです。 途中で「オチが見えたかな~これ」と思ったら、最後の一撃にやられました。 あれで一気に後味が悪くなって(褒め言葉です)、物語が引き締まりました。 途中から物語も一気に加速しますし、米澤作品を初めて読む方でも入りやすい一冊かと思います。

    4
    投稿日: 2014.04.05
  • リンドバーグ(1)

    リンドバーグ(1)

    アントンシク

    ゲッサン

    竜+複葉機という新しい造形ながら、物語は王道

    久々に「おー面白い」と素直に思えたタイトル。 べったべたの王道です。登場人物も物語展開も。 実際、手放しで褒めるには荒削りな部分も多い。 欲を言えば秘境エルドゥラでの描写にもう1話くらい割いてほしかったし、いきなり飛行レースですか!……と、作者の描きたい大エピソード同士をつなぐ小エピソード部分がぎこちない。 しかし、それを補ってあまりある画力でぐいぐい読ませます。 (ごちゃごちゃしそうな空戦描写も見やすいし、キャラ描き分けも上手い。) 空気を蹴ることができる“リンドバーグ”という生き物(ただし翼はない)。 そんなリンドバーグに翼を取り付け長距離飛行を行う……という、複葉機+天駆けるドラゴンというアイディアも新しかった。 そのため、最終巻の収束ぶりは急激過ぎて、「もしかして打ち切りでしたか……?」と物悲しい気持ちになりました。 全体にジブリアニメの雰囲気が溢れていますから、ジブリ作品が好きな人に案外向いてる作品かもしれません。

    0
    投稿日: 2014.04.05
  • ラギッド・ガール 廃園の天使II

    ラギッド・ガール 廃園の天使II

    飛浩隆

    ハヤカワ文庫JA

    〈数値海岸〉を外側から覗き込む中短編集

    前作『グラン・ヴァカンス』は〈数値海岸〉という仮想リゾートの一区画〈夏の区界〉の崩壊を描きましたが、今作『ラギッド・ガール』ではその外側を描き、『グラン・ヴァカンス』を補完する構成になっています。 〈夏の区界〉のジュリーとジョゼの交流を描いた『夏の硝視体』が全体のイントロ。 続いて、〈数値海岸〉開発秘話である『ラギッド・ガール』。 仮想リゾートのAIへ仕込まれた“潜在的恐怖”について触れる『クローゼット』。 〈数値海岸〉に訪問者がなくなった〈大途絶〉――その理由と、〈大途絶〉が発生した瞬間の区界を描いた『魔術師』。 最後に、〈夏の区界〉を襲ったランゴーニの少年時代の物語『蜘蛛の王』。 仮想世界に始まり、その外側の物理世界の動きを時系列で走り、最後にまた仮想世界に戻る章立ても、純粋に面白かった。 時には『グラン・ヴァカンス』を上回る残酷さなのに、区界はおしなべて皆美しいし、物理世界は適度にサイバーパンクだし、SF小説を満喫しました。 まさに情報的似姿がそれぞれの仮想世界で蓄積した情報をロードさせたような読後感でした。

    5
    投稿日: 2014.04.05
  • グラン・ヴァカンス 廃園の天使I

    グラン・ヴァカンス 廃園の天使I

    飛浩隆

    ハヤカワ文庫JA

    キーワードは「残酷」

    アミューズメントとしての仮想空間や、そこで来訪する客をもてなすNPC(ここでいうAI)たち……というモチーフは、確かにSF世界観としていまや新鮮味が薄いかもしれません。 でも、声を大にして言える。 そんなことに拘るのは馬鹿馬鹿しいほど、圧倒的な魅力の溢れる作品だと。 正体不明の〈蜘蛛〉は強靭で、〈夏の区界〉AIたちはみるみるなぎ倒されていきます。 それも酷く残虐な方法で。 そして物語が進むにつれ、〈夏の区界〉そのものがゲストたちの厭らしい欲望をぶつけられてきた歪な世界だと判明します。 思わずぎょっとするようなグロテスクな展開も多いです。 でも読後感はとても爽やか。 あとがきに「ただ、清新であること、残酷であること、美しくあることだけは心がけたつもりだ。」とある通り、文章も端正でとても美しい。 だからなのか、SFというジャンルでも、世界観の把握はスムーズにできます。 仮に「SFって何だか苦手」という理由だけでこのタイトルを敬遠しているとしたら、それはとてももったいない。 この一冊だけでは謎はすべて解けません。 シリーズ続編である「空の園丁(仮)」が心底待ち遠しいです。

    3
    投稿日: 2014.04.05
  • ぼくらの(1)

    ぼくらの(1)

    鬼頭莫宏

    月刊IKKI

    少年少女たちの選択

    「地球を守る」闘いに巻き込まれた15人の少年少女たちを描いたSFマンガです。 勝っても負けても自分は死ななければならないと気づき、その立場から逃げられないことを飲み込んだ後、彼ら・彼女たちはいったいどのように振る舞うのか。 それがこの物語のキモとなります。 (SF世界観の解明や、一人余るパイロットの謎など、物語をリードする伏線は別に連綿と綴られます。) こういった設定ですから、読後の印象が好悪はっきり分かれるのは致し方ないかと。 はっきり言って「この年齢ではたしてここまで割り切って行動できるか?」というキャラクターもいますが、そこは物語の進行とキャラクター描き分けの点で仕方ないのかも。 最初の3巻を読んで、その時点でさらに先が気になるようであれば、最後まで楽しめるはずです。

    1
    投稿日: 2014.04.05
  • さんすくみ(1)

    さんすくみ(1)

    絹田村子

    月刊flowers

    青春ものの皮を被った異業種あるある

    神主の息子・恭太郎、住職の息子・孝仁、牧師の息子・工は、宗教法人のジュニア世代友だち。 家業と恋のはざまで苦悩する青年たちの明日はどっちだ―――といった短編集です。 恋の悩みといっても、三人とも「恋人ができない」というお題なので、話のウエイトは恋話よりも宗教法人の異業種ネタが輝いています。 日本の日常風景に溶け込んでいる神社やお寺や教会の、その舞台裏を描く「異業種あるある」が面白いシリーズです。 デビュー単行本『読経しちゃうぞ』と、連載に際し改題した『さんすくみ』は、物語が連綿と続いていますから、これから読む方は『読経しちゃうぞ』から入った方がよりスムーズに馴染めるかもしれません。

    2
    投稿日: 2014.04.05
  • 神無き月十番目の夜

    神無き月十番目の夜

    飯嶋和一

    小学館文庫

    超ド級に面白いけれど、重い

    慶長七年、常陸国の小生瀬にて、村人約三百人が一斉に消えた。 この地へ派遣された大藤嘉衛門は、囲炉裏の灰やお供え餅の様子から数日前までは確かに村が機能していたことを確信する。 そして地元民から聞き出した山道にある「カノハタ」で、遂に夥しい数の死体を発見した。 果たしてこの村で一体何があったのか―――といった出だしです。 導入こそミステリー仕立てなものの、それ以降は完全な歴史小説です。 出だしで既に語られた通り、結末は文字通りの村民皆殺し。 これは一言で言うと、一揆の物語です。 ただ一揆の理由が税率の高い年貢に不満だから~というような、時代劇でよくあるタイプのパターンではなく、戦国時代の名残を色濃く残した半農半士の土豪蜂起による新体制(=江戸幕府)への反発的カラーも含んでいるところが異色。 一方、読み進めるほど、こちらの胸はどんどん重くなります。 全ての条件が悉く悪い方へ悪い方へ転がっていくので、まさに奈落へ落ちていくように小生瀬の運命が定まるのを見るのが辛いです。 でもストーリーテリングが絶妙で、先が気になって仕方ない展開であることも事実。 正史では語られない史実を掘り起こし、それにここまで迫真の肉付けを施した物語に呆然となった一冊です。

    5
    投稿日: 2014.04.05
  • 始祖鳥記

    始祖鳥記

    飯嶋和一

    小学館文庫

    熱い男たちの闘い

    天災続きで民が疲弊した江戸時代天明期。 岡山の表具師・幸吉は、ずっと空を飛ぶことを夢見てきた。 そして凧の原理を応用した翼を作り滑空に挑戦したところ、本人のあずかり知らぬところで鵺騒動が沸き起こってしまう。 お上の悪政に押しつぶされつつあった平民たちが、幸吉の空飛ぶ翼に「立ち上がる勇気」を見たからだ。 幸吉の翼に勇気付けられ、人々は公儀の悪政に敢然と立ち向かう――といった話です。 結構な分量のある本作品ですが、実は幸吉を描いているのは半分くらいです。 幸吉自身は枠にはまった生き方に馴染めず、心の奥底にある「飛ぶ」欲求一直線に生きます。 ただ、本人は飛ぶことに必死なだけで、お上にたて突こうなどとは毛の筋ほども考えていません。 むしろ周囲が勝手に幸吉の行動に理由を付けてしまいます。 そうした「理由付け」に魂を揺さぶられて、自らお上の隙を突く形で悪政に反旗を翻す人々を、残り半分で描いている物語です。 ざっくり纏めてしまうと 「迷わず行けよ 行けばわかるさ」が八割 「プロジェクトX」が二割 …といった読後感。 個人的には、幸吉の生き様よりも、第二部で語られた巴屋伊兵衛たちの活躍の方が面白かった。 目先の利に捕らわれない、長期スパンで物を見る、熱い男たちの生き様…みたいな展開が心地よかったです。

    7
    投稿日: 2014.04.05
  • つらつらわらじ(1)

    つらつらわらじ(1)

    オノ・ナツメ

    モーニング・ツー

    『参勤交代』を舞台にした群像劇

    岡山藩熊田家当主・治隆の参勤交代道中を舞台にした、武士の群像劇です。 語りの中心となるのは供家老に選ばれた家老職4ヶ月目の新人・和泉ですが、型破り藩主の治隆や岡山に残ったの家老たち、そして道中に紛れ込んでいる幕府老中の密偵など、さまざまな人物がそれぞれの思惑で動くさまを描いていきます。 プロットのしっかり練られている安全運転ストーリーテリングはもちろんのこと、なにより画面構成センスがずば抜けています。 コマ割りなどを見ると、浮世絵を思わせるカットも多く、かなり練り込んだ構図も楽しめます。 ただ、このシリーズはキャラクターが3頭身パターンで描かれるので、オノ・ナツメさんの絵柄を見慣れてないと、冒頭あたりキャラクターの見分けがつきにくいかも……。 (なお、4巻に登場する鳥人幸吉のエピソードが気になる方には、飯嶋和一さんの『始祖鳥記』をお勧めします。)

    4
    投稿日: 2014.04.05