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ryunicoさんのレビュー
いいね!された数255
  • 娚の一生(1)

    娚の一生(1)

    西炯子

    月刊flowers

    西炯子が描く男の色気

    五十代の大学教授と三十路半ばを過ぎた独身キャリアウーマンのまったり恋愛話ですが、ほどよくファンタジーで読みやすい。 そもそものシチュエーションが非現実的だと言ってしまえばそれまでなんですが、主人公つぐみの悩みがいやに現実的なので、そのあたりでバランス取っている感じでしょうか。 というか、片思い歴が長いはずの海江田なのに、いやに恋愛経験値が高いのも……。 あの突き放した物言いと包容力ある振る舞いとスマートな行動力のトリプルコンボは、強烈です。 それにしても、西さんの描く恋愛ものは不倫ネタが混じること多々なのは何故なんでしょう……。

    4
    投稿日: 2014.04.06
  • プラテーロとわたし

    プラテーロとわたし

    J.R.ヒメーネス,長南実

    岩波文庫

    何故か「エレジー」という単語が脳裏をよぎった一冊

    アンダルシアを舞台に、プラテーロという名前のロバに語りかける形で綴られる散文詩は、とてもカラフルで、柔らかい文調ながら時折強い哀愁を滲ませます。 読了して痛感したのは、私自身にスペイン(あるいはアンダルシア)に関する知識がないこと。そのため巻末に収録されている注釈と首っぴきにならざるを得ず、それが最後まで読書ペースに影響してしまいました。 もうちょっとすらすらと読めれば、より楽しめたのではないかと……(自分の知識不足が)残念。 あと動物に聞かせる優しい口調でそれとなく深い話をするパターンとして、カレル・チャペックの『ダーシェンカ』を連想しました。(勿論、作風は全く違いますが。) 色鮮やかなアンダルシアの四季を、ロバのプラテーロと共に過ごす、優しい詩集です。 子供への読み聞かせにもいいかもしれません。 (ただし、たまにしんどい作品も混ざっていますから、そこだけ注意)

    1
    投稿日: 2014.04.06
  • 吉原手引草

    吉原手引草

    松井今朝子

    幻冬舎文庫

    「吉原」という特殊世界をのぞき込める時代ミステリー

    小説のスタート時点から、もう花魁葛城は失踪していて登場しません。 そして小説は葛城の関係者一人ひとりにインタビューする形で進行します。 関係者たちの証言から、徐々に葛城という花魁の姿が浮かび上がってきて、やがて失踪事件の真相にたどり着く……という展開です。 私自身は、「吉原」に対する思い込みを上手く利用したミスリードに見事に引っかかりました。 最後の最後でどんでん返しがあるんですけど、実はここには余り感動しなかったんです(何故だろう?)。 あと、個人的に葛城の選んだ手段にいまいち納得がいかず……目標を目指すには、時間がかかる以上に不確定要素が多いと思うんですよね、この方法……。 むしろ時代ミステリーというよりも、『吉原』という、当時ですら異界だった世界を手取り足取り解説してくれる、ガイドブック的な面白さの方が目立ちました。 基本的な知識はあるつもりでしたが、大店への上がり方とか、花魁との作法とか、本作品で初めて知ることが多く、そういう点も楽しめた一因かと。

    14
    投稿日: 2014.04.06
  • 秋期限定栗きんとん事件 上

    秋期限定栗きんとん事件 上

    米澤穂信

    創元推理文庫

    小市民シリーズ第3弾は上下巻に

    この『秋期』では話の半分が新しい登場人物・瓜野視点で進みます。 今までは小鳩君の主観でのみ語られた小山内さんのキャラクターが、瓜野視点で語られると微妙に変わるのが細かい演出です。 新聞部が発行している『月報船戸』のコラム欄で瓜野は自分の推理を披露し、彼女の小山内さんにいいところを見せようと頑張ります。 が、小鳩君という探偵役(=主役)のいる物語で華々しく活躍できるはずもなく。 自尊心の強いタイプで結構鼻につくキャラクターである瓜野が、最後のオチで一気に哀れになりました。 最初は若干キャラに頼ったライトノベル系探偵物かと思った当シリーズ。 すみません、侮っていました。物凄く正統派な探偵物ですね。 しかもさすがに高校三年生になった小鳩君と小山内さんが、紆余曲折を経て自分たちの自然体に気付く流れは、とても自然でしかも青春物としてオーソドックスな展開。 さすがの米澤節でした。

    0
    投稿日: 2014.04.06
  • 夏期限定トロピカルパフェ事件

    夏期限定トロピカルパフェ事件

    米澤穂信

    創元推理文庫

    「小市民」シリーズ第2弾……「ホップステップ」の「ステップ」の巻

    小鳩君と小山内さんは中学時代の己から脱皮を計画し、互いに協力しあって≪小市民≫になることを目指しています。 前作で小鳩君がそう決意するに至った出来事が簡単に触れられていましたが、ここにきて小山内さんの過去の一端が明るみに出ます。 ついでにひた隠しにしている小山内さんの「狼」の部分―すなわち復讐好きの本性が明らかに。 ……かなりすごい性格でした、小山内さん。 そして既に互恵関係とは言えなくなっている互いの関係性に気付き、別れを決意する二人。 まだ『秋期』『冬期』と続くだろうシリーズ、今後この二人はどうなるんでしょう……。 第1弾ではどうもしっくりこなかった内容も、この巻を読むと一冊かけた助走だったんだとわかり、シリーズに対する評価も変わりました。 読むなら二冊続けて読んだ方がいいかもしれません。

    0
    投稿日: 2014.04.06
  • 春期限定いちごタルト事件

    春期限定いちごタルト事件

    米澤穂信

    創元推理文庫

    「小市民」シリーズ第1弾……で、「小市民」ってなに?

    日常に潜む謎を推理する短編が連なり、最終話でそれまでに張られた伏線を纏めた一本のミステリが完結する二段構えのミステリです。 途中は「ふうん」程度でしたが、最後は無駄なくすっきりと着地がきまり、なかなかにお見事。 ただ、このシリーズのお題目になっている「小市民」の設定がよく分からず。 ごくごく平凡でありふれた人物になりたいと躍起になる高校男女って、あんまりいないよね……。 しかも何をもってして小市民なのかよく分からないし、そこまで二人が拘る理由が開示されていないのがマイナス相乗効果でした。 (小鳩君はそれなりに触れられているけれど、小山内さんに至っては殆ど不明です。)

    0
    投稿日: 2014.04.06
  • さよならソルシエ(1)

    さよならソルシエ(1)

    穂積

    月刊flowers

    はたして「ゴッホ兄弟」である必要があったのか

    穂積さんの長編タイトルということで読んでみました。 西洋絵画史で燦然と輝くフィンセント・ファン・ゴッホと、彼の不遇を支え続けた弟・テオの二人に焦点を当てた物語でした。 が。 読了後の感想としては「うーん、これはどうなんだろう」でした。 穂積氏のやりたいことはよく伝わってきました。 でも、あのドラマティックな物語を展開するにあたって、ゴッホ兄弟をモチーフにする必然性がどこまであったのか、と。 こういった有名人の詳細は、あらかた研究済みでその報告も世間に流布しています。 正直、あのどんでん返しを仕掛けるには、ゴッホはビッグネームすぎた感がありました。 私は史実厨ではないものの、あの物語を描きたいなら、完全フィクションを一から構築するか、写楽のように全貌の解明されていない有名人をモチーフにしたほうが、読後感はよかったんじゃないかなぁと思った次第。 (まあ、そうしたら全2巻ではとても収まらないボリュームになりますが。)

    1
    投稿日: 2014.04.06
  • カラット探偵事務所の事件簿 2

    カラット探偵事務所の事件簿 2

    乾くるみ

    PHP文芸文庫

    謎解きの面白さは1巻に軍配

    「謎解き」専門のため、閑古鳥が鳴き続ける探偵事務所「カラット探偵事務所」を舞台とした第2弾です。 正直、各話の謎解きレベルとしては、1巻の方が好きでした。 特に最初の2話が「え、そのオチなの?」といった感触だったため、序盤でちょっとテンションが落ちたのも事実。 でも途中から「日常系ならこれもありだな~」と感想が方向転換しました。 そして、なによりラスト二行でまた「え、えええええっ!?」と。 (1巻のラストがすこーんと綺麗に決まっていたので、正直2巻が刊行されたこと自体に驚いたわけですが。) 最後のオチだけに限って言えば、驚愕具合は1巻を越えました。 とにもかくにも、主役二人に幸あれ、です。

    1
    投稿日: 2014.04.06
  • カラット探偵事務所の事件簿 1

    カラット探偵事務所の事件簿 1

    乾くるみ

    PHP文芸文庫

    ラストこそがキモ

    殺人事件などは皆無の、日常に潜む謎(夫の浮気疑惑調査、遺言書の謎の和歌、団地の怪文書事件などなど)を、探偵・古谷が安楽椅子探偵として解決する6本の短編を収めた連作集です。 この本を手に取った理由の一つに、ネット評で「最後の話で凄いオチがつく」というものがあったから。 が、その予備知識があったためか、最終話に入る前にそのオチが分かってしまった……。 ミステリー小説であまり勘の働かない私でも見当がついたくらいですから、オチに気づく人は結構いるのでは? もっとも、可愛らしいラストなので、オチに見当がつこうがなんだろうが、読後感はいいです。

    3
    投稿日: 2014.04.06
  • 世界記憶コンクール

    世界記憶コンクール

    三木笙子

    創元推理文庫

    さらに磨きのかかった第2弾

    全部で5編収録されていますが、実際に高広&礼のメインコンビが活躍するのは3編だけ(しかも礼の影が薄い)。 むしろ高広の父・基博の青年時代の話や、『人魚は空に還る』で登場した恵の話も入っています。 個人的には『人魚は空に還る』よりもこちらの方が面白かったです。 和製ホームズ&ワトソンコンビもいいんだけど、サブキャラかと思っていた人々にスポットが当たり、 しかもそれがスピンオフにとどまらず、この物語の世界観を膨らませることに成功しているからかも。 という訳で、5編の中で一番好きだったのは、若かりし基博が活躍する『氷のような女』でした。 青春ものとしても面白いし、当時の製氷業解説も初めて知ることばかりで納得の一編。 凄惨な事件などはなく、上品で繊細、まるであたりのいい軟水みたいな作風です。 ただし作中でコナン・ドイルの『赤毛組合』『ボヘミアの醜聞』のネタバレ記述があるので、 これから上記2作を読もうと思っている方は『世界記憶コンクール』を後回しにしたほうがいいかもしれません。

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    投稿日: 2014.04.05
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