
国家と教養(新潮新書)
藤原正彦
新潮新書
読書は国家存亡にも影響するってことです
超ざっくり言うと、民主主義国家を維持するには国民一人一人が高い教養を身につけなければならず、そのためにはいっぱい本を読めと。グローバリゼーションとか言って欧米文化ばかりを追っかけるな。日本の方が断然凄いんだぞと。とまあ、いつもの藤原節が炸裂。チャーチルを無能な政治家と言い切るあたりも気持ちいい。国家の繁栄や衰退と学問や教養との相関関係を世界史の流れを通して説明してくれるので大変勉強になった。「1日に1頁も本を読まない人間はケダモノと同じだ」という藤原先生の祖父様の言葉は強烈だけど頷ける。
0投稿日: 2019.11.15わが心のジェニファー
浅田次郎
小学館文庫
やっぱ日本って凄い!
「私と結婚したいなら日本で1人旅をしてきて」というミッションをジェニファーから与えられてしまって、やむなくアメリカから日本へやって来たラリー。日本では当たり前の些細なことにいちいち感動したり、誤解をしたり。外国人から見た日本人や日本文化の捉え方が笑える。そんなコミカルな旅行記が終始続くのかと思いきや最後にはホロッとさせる仕掛けが待ち受けている。複雑な生い立ちと家庭環境で育ったラリーにとって、自分のルーツを知ることは自分の進むべき道を知ることでもあるのだ。彼の祖父の言葉がキラリと光る。「常に航跡を振り返れ」
0投稿日: 2019.11.08アウシュヴィッツの図書係
アントニオ・G・イトゥルベ,小原京子
集英社文芸単行本
絶望の淵でいかに生きるべきかを問う感動作
読書すら禁止のアウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所。たった8冊の本を命を懸けて守る少女ディタ。絶滅収容所とも呼ばれるその中では、常に死の恐怖と隣り合わせ。1日に何千という命が何の躊躇もなく流れ作業のごとく殺されていく。さらに暴力、飢え、チフス、コレラ、悪臭、シラミ、強制労働。生きていくこと自体が辛い中にあって、人間らしさや希望を保つ原動力となるのは紙の本や教師たちの話す物語、生きた本だ。勉強や本が嫌いという日本の子どもたちにぜひ読んでもらいたい一冊。そして90歳近い現在のディタの生き様にも感服。
0投稿日: 2019.11.02捜査一課殺人班イルマ ファイアスターター(祥伝社文庫)
結城充考
祥伝社文庫
この女の行く所、常に犯罪あり
イルマシリーズ2作目。東京湾上のメタンガス掘削施設。初めは1人の作業員の転落事故に過ぎなかったものが、女刑事イルマが単身乗り込んできたことによって、事件解決どころか、あれよあれよという間にテロ犯罪にまで発展。その存在はまさにファイアスターター(着火剤)のよう。台風直撃の中、通信も応援も途絶した孤立無援状態でたった1人で犯人と対峙するイルマ。生意気な小娘のくせに満身創痍で戦い続けるまさにダイ・ハードの世界観。そして今回も難読漢字あり。「捩る(の旧字体、もはやデジタル上では表示できない)」
0投稿日: 2019.10.22ザ・ゴールド
カリン・スローター,リー・チャイルド,鈴木美朋
ハーパーBOOKS
人気シリーズの二人が夢の共演
え?これで終わり?ちょっと拍子抜け。ジャック・リーチャーとウィル・トレントが共演!どちらのシリーズも愛読している者からすると、もうそれだけでワクワクしてしまうのだけど、今回は短編のためか、二人の持ち味が充分に発揮されないまま、解決したのかしてないのか、よく分からないまま終わってしまった。巻末に12月発売予定のウィル・トレントシリーズ最新作の冒頭部分が予告編として掲載されてます。
1投稿日: 2019.10.21ホームズの娘
横関大
講談社文庫
またひとつ許されぬ恋生まれる
シリーズ3作目。今度は泥棒一家の息子と探偵一家の娘との結婚すったもんだ劇。そこにサスペンスが加わって、笑いの中にもちょっと緊迫したテイストを加えている。いつもながらユーモアとスリルのバランスが絶妙。結婚をあきらめさせるのに、名前が三雲美雲になっちゃうからという説得がウケる。一方、事件の方はまだまだ今後も引っ張りそうな気配。すっきり解明されていない部分もまだたくさん残っているし。次回作に期待!
0投稿日: 2019.10.17カササギ殺人事件 下
アンソニー・ホロヴィッツ,山田蘭
創元推理文庫
二重に謎解きが楽しめます
久しぶりに重厚かつ秀逸なミステリを読んだ気がする。下巻でガラッと視点が変わり、上巻のメインストーリーだった『カササギ殺人事件』を執筆した作家の死に疑問を感じた編集担当者が、作家の死の真相と消えた小説の最終章の原稿を追い求めていく。ここで読者は編集担当者と共に2つの謎解きを迫られる。この二層構造の筋立てが、単に犯人探しというだけにとどまらず、ダン・ブラウンばりの暗号解読ミステリも加わって、壮大なスケールとなって眼前に迫る。でも、原作は英語だから日本語で辻褄を合わせるのは、翻訳者が凄いってことかな。
0投稿日: 2019.09.29カササギ殺人事件 上
アンソニー・ホロヴィッツ,山田蘭
創元推理文庫
読者の推理力が試される本格ミステリ
アガサ・クリスティーのオマージュミステリという触れ込みに惹かれて読んでみた。確かに「パディントン駅三時五十分発の列車」とかのくだりが出て来て、アガサファンならニヤリとする部分も。ちなみにアガサ作品は四時五十分発だけど。主人公の探偵ピュントがあまりにも癖が無さすぎて、キャラとしては存在感が薄い。ポアロ同様、丁寧に関係者の話を聞きながら真相に近づいていく。しかし、すべては彼の頭の中にあって、読者には誰がどうなんだか皆目見当がつかない。久しぶりの本格ミステリだったので、上巻だけでも結構疲れた…。
0投稿日: 2019.09.20そしてミランダを殺す
ピーター・スワンソン,務台夏子
東京創元社
美人に声をかけられたら気をつけろ
最初から犯人も犯行手口も動機も分かってるのに、こんなにもぐいぐい読ませてしまう作家の筆力に驚愕。謎解きの要素はほとんどないにもかかわらず、先が気になって気になって、ページをめくる手が止まらない。読み手の予想を終始裏切り続け、おっとそう来るんかい!と唸らせることしばしば。そして、いつしか犯人の完全犯罪を応援する気になっている自分に気づくのである。登場人物だけでなく、読者までをも操る恐るべきサイコパス。ちょっとばっかしイカれてても、結局男は美女に弱いってことかな。
1投稿日: 2019.09.10迷宮の門~警視庁特命捜査対策室九係~
渡辺裕之
光文社文庫
渡辺裕之さんの新シリーズか?
渡辺裕之さんの他シリーズとはかなり趣が違い、本格的な刑事ドラマになっている。戦闘能力抜群の主人公もなし。美女もなし。アクションなし。地道な捜査と推理で進んでいく刑事小説。犯人側の境遇と刑事側の境遇を絡めながら、重厚な人間ドラマに仕上がっている。渡辺氏の新境地を垣間見たような作品だ。
0投稿日: 2019.09.02