くっちゃね村のねむり姫さんのレビュー
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プラナリア
山本文緒 / 文春文庫
私には共感できる主人公は。。。
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直木賞受賞作ということで、確かに興味深く面白いのですが、今一つ主人公達に共感できませんでした。なにをグタグタ御託を並べているんだ?というのがホンネかな。短篇集なので、それでどうなのよ、と終わってしま…う感がありました。
ただ、最後に掲載されていた「あいあるあした」に描かれていた主人公を始めとする登場人物には共感できます。そして小説としても一番まとまっているような気がしました。彼らに幸あれと祈るばかりであります。
ちなみにプラナリアの一種とされるコウガイビルは、我が家の外壁に湿っぽい季節に時々登場します。結構デカイものもいて気持ちのいいものではありませんな。でも、陽に当たって干からびていると、ちょっと可愛そうな生物でもあります。 続きを読む投稿日:2021.04.02
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JR上野駅公園口
柳美里 / 河出文庫
フクシマは、こうして忘れられていくのか
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ホームレスの人を描いた作品は他にもあるのかもしれませんが、フィクションとはいえ、それを東日本大震災と東京オリンピックに関連させたところが、今後とも読み継がれていくべき作品となった所以です。
懸命…に生きてきたにもかかわらず、終焉の地は上野駅公園口という、実に切ない物語でした。人は誰かのために頑張ることはできても、自分だけのためには、なかなか頑張れないものでしょう。誰もが人生という物語中では、自分自身が主人公のはずですが、その物語に主人公が必要なのかと感じたとき、ラストに描かれる「黄色い線」を超えてしまうのかもしれません。
綿密な取材によって紡ぎ出された物語は、読みごたえがあります。「山狩り」と称される行為は、どこの市街でも行っていることですね。そう言えば、最近ホームレスの姿を私の街でも見かけなくなりました。
また一方、天皇の姿が物語の中で重要な要素となります。読んでいるときはあまり感じませんでしたが、巻末に掲載されていた原武史氏の長い解説で、なるほど、そのように読み取らねばらならないのかと感じ入りました。おそらくその点が、全米図書賞を受賞した理由なのかもしれません。自分の読解力のなさを恥じ入るばかりです。
そして本文の最初に出てくるイチョウは銀杏ではありません。公孫樹という漢字があてられています。そのような字でも表記されると初めて知りました。調べてみると、孫の代に実がなる樹木との意味があり、そもそも公孫とは、王侯の孫、貴族の子孫という意味だそうな。つまりここから天皇ということを意識して表記されていたのですね。流石は柳美里さん。完敗です。 続きを読む投稿日:2021.05.02
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幻夏
太田愛 / 角川文庫
あの夏の日がなかったら。。。。
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ドラマや映画において、見ている我々が犯罪者の方に肩入れをしたくなるストーリーは多々ありますが、このミステリーも私にとっては、まさにそのような小説でありました。
冤罪については、これまでも何度も問…題にされています。松本サリン事件や、いまだ再審中の事件も多々あります。しかし、この小説の中で書かれているように、冤罪に導いた人達に対する行為が罰せられるケースはあまりないように思います。厚生労働省の村木厚子さんのように、関与したか否かのような場合は別として、殺人事件ような場合は、真犯人を取り逃がすという大罪を、警察も検察も犯しているわけで、もっときびしく断罪されるべきでしょう。それにしても、いつ自分自身がそのような状況に追い込まれるか判らないと思うと、おちおち街を歩けなくなりますよね。
さて、この小説そのものはミステリーでありますから、その内容についての感想を詳しく書くと、これから読む人に申し訳ないので書けませんが、久々に長編ミステリーを読んだ私は、完全にのめり込みました。
謎が謎を呼び、一体何がどうなっているか、先が気になって仕方ありませんでした。おそらく実際にはこんな形で冤罪が成立してしまうのだなと言う戦慄、そして、まるでスタンドバイミーのような幼き頃の夏の思い出。結局、ウラに隠れている大きな闇は世間に公表されることはなかったという結果に終わりましたが、今なら文春が暴露するところでしょう。これに頼らざるを得ないのも情けない話です。
社会的闇を追及しつつ、夏の日の記憶をたどるストーリー展開は、とても読みごたえがありました。私はこの小説を最初に読んでしまいましたが、主要人物が出会う話がこの前にあるようで、そちらも是非手に取りたいと思っています。 続きを読む投稿日:2021.05.02
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わたしの神様
小島慶子 / 幻冬舎文庫
描かれているのは、げに恐ろしき女の園、だけではなかった
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考えてみれば、女子アナという単語自体が、ヘンと言えばヘンですよね。男子アナとは言わないもんな。
作品情報には、女たちの嫉妬・執着・野心を描く、極上のエンタメ小説とありますが、確かに一気読み必至で…あります。エンタメと言いつつも、女子アナの世界の暴露本かいなと思いつつ読み出すわけですが、徐々に男も女も、互いに持っている人間の業の哀しさみたいなものを感じて、うら寂しくなってきました。
神様にもらった美貌、ブスには判らない。また一方、こんなに努力しているのに、なぜ神様は私を認めてくれない?一体何をどうされたくて生きているのでしょうか。
ちょっと昔、勝ち組、負け組なんて言葉がありました。でも、勝ち組ってなんなんでしょうかねぇ。この小説話を読んでいると、徐々に寂しくなってきます。
ただ、エンタメ小説としてはとても面白く、なぜ女子アナが独立したがるのかと言うことも、さもありなん、と思いますし、放送業界の内幕も判りますし、LGBTやDVも網羅されて、その点は興味深いものがありました。
そして、出世欲もなく、日々の穏やかな暮らしと健康だけを神様に祈ってきた私は、結構幸せ者なのかもしれないなと思う次第であります。 続きを読む投稿日:2021.05.02
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牝猫
コレット, 川口博 / グーテンベルク21
読んだきっかけは、映画「コレット」
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手に取ったきっかけは、2019年に観たウォッシュ・ウェストモアランド監督の映画「コレット」であります。フランスでは超有名な女流作家とのことですが、ピンとこず、パンフレットを見て「青い麦」の作者である…と知りました。スキャンダラスで波瀾万丈な人生は、それだけで1900年代では話題だったのでしょう。てなわけで、一度読んでみようとダウンロードしたのですが、ずっと手つかずでありました。
さて物語は、作品紹介の通りなのですが、最初はバカップルの話かと思いましたよ。そのうち、マリッジブルーの話か?と思っている内に、破局へと向かっていくのですが、嫁さんの方も、メス猫気質で、雌猫同士の戦いか?と思ったりもしました。ただ私が男であるからか、どうしても夫の方に肩入れしたくなりますね。あそこまでいかなくても、可愛がっていた猫をあんなに虐待したら、そりゃキレるでしょう。しかし、家政婦やお手伝いさんがいるような裕福な家庭で、嫁さんの方は、まったくすることがなければ、考えることはあんなことしかないのかもしれませんね。随所に表れる文学的表現は流石なものがありますが、はーとさんがレビューで書かれているように、登場人物には感情移入はできないかな。ちょっと時代が違いすぎますね。 続きを読む投稿日:2021.05.31
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セーラー服とエッフェル塔
鹿島茂 / 文春文庫
滅茶苦茶に面白かった!
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テレビでよくお見かけする、見かけはちょいと強面の先生。フランス文学が専門とはいえ、出演する番組は多岐にわたり、あらゆる分野のうんちくを語る姿は、まさに博覧強記!でも専門は下ネタ?
私は初めてじっく…り著作を読ませて頂きました。いやホントに面白かったです。幾つかの話に別れていますが、初っぱなの項目が、SMと米俵ですよ。また、ベルサイユ宮殿にトイレがなかったというのは、私も知っていましたが、単に下水道がなかったというよりも。。。。いやいやこれは、これから読まれる方のために、ネタバレをしてはいけませんね。
下ネタ、エログロ話も多い中、私には、貴族の衒示的余暇とブルジョワの衒示的消費という考え方が、妙にハマりました。これはある時代を象徴する表現となりますが、これでいくとSNSでやたら発言するのは衒示的に何と表現するのでしょうかねぇ。 続きを読む投稿日:2021.05.31