くっちゃね村のねむり姫さんのレビュー
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ジョゼと虎と魚たち
田辺聖子 / 角川文庫
これは作者の願望?理想?それとも。。。
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短篇集であり、どれも女性の心の内を描いた物となっています。こんなことを考えているのかな?なんて男である私は思ってしまいますが、これら短篇集の中から「ジョゼと虎と魚たち」を選んで映像化したというのは少々…ビックリしますね。
所々ドキッとする表現ありました。「ジョゼと虎と魚たち」の中にも、「障害者の中には差別闘争意識が強くて、日常でもおのずと人間性に圭角が多くなってゆく、そういう者もいるということだが。。。」なんていう記述がありました。そうかもしれませんね。
私が好きなのは、最後の「雪の降るまで」かな。そこで使われる「嵌まる(はまる)」という表現。これなんかは、作者の数々の恋愛遍歴の末たどりついた、熟年の境地と言ったところでしょうかねぇ。わたしなんぞは、とても足下にも及びませぬ。 続きを読む投稿日:2021.02.01
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記憶喪失になったぼくが見た世界
坪倉優介 / 朝日文庫
想像を絶する不思議な体験のノンフィクション
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記憶喪失という言葉は知ってますし、数々のドラマ等でも見てきましたが、これは本人が体験したことを綴った物ですから、まさに真実の物語であります。
記憶喪失の症状は様々な形態がありますが、彼の場合、字…も書けなかったとありますので、前半部分は回想して書いたのでしょうか?とすれば、実際には当時の心情とは若干異なるのかもしれません。
それに、ご本人も大変だったでしょうが、心配しながらも自立させる道を模索したご家族の苦労も大変だったでしょう。
様々なエピソードが書かれてあるのですが、あ~なるほどそうだよね、というのも結構あって、カタカナと同じ形の漢字を何故キチンと読めるのか、などというギモンは面白かったですね。「カーショップ」は確かに、「ちから-ショップ」ですもんね。
後半部分は、芸術家としての記述が多くなってくるので、少々元のタイトルからは外れる気がしますけど、美しき着物の写真も掲載されていました。しかし、「まつたけ染め」はいかにも、もったいないですよねぇ。
さてさて、まっさらの状態で生まれてくる赤ちゃんは、少しずつ知識や経験を積んで大人になっていくわけですが、18歳でまっさらの状態になってしまった人間が、苦悩しながらも大急ぎで成長していく姿は、とても興味深いものでした。性格も多少変わったと同時に芸術的センスも開花したのかな?ビートたけしも、あのバイク事故から、世界の北野武になったわけですし、いかなる状況に陥っても、めげずに前を向いて歩くことが必要なのでしょう。
ただ、坪倉さんは元々美大生で芸術的センスを持ち合わせていたのでよいですけど、そうでない平凡な人間はどうしたらいいでしょうかねぇ。 続きを読む投稿日:2021.02.01
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なんとめでたいご臨終
小笠原文雄 / 小学館
緊急退院!この文言を知るだけでも価値あり!
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最近、終活やら生前葬が流行だと聞きます。勿論、死んだ後に迷惑をかけたくないとか、生きている内に感謝の気持ちを表したいとか、その思いは様々でしょう。でも、私個人は、生前葬の招待状を友人知人に出す気には…なれないなぁ。招待者は手ぶらでは来ないでしょうし、招待状をもらったら断るわけにもいかないだろうし。
なんてことを考える歳に私もなってきたわけですが、そんなことよりも、この本に書かれていることの方が、よほど重要だと気づかされました。とにかく、初めて目にする文言、単語が満載であります。
緊急入院とはいいますが、緊急退院なんて考えられます?でも、人は一度しか死ねないんだとの指摘には目からウロコが落ちました。希望死・満足死・納得死という考え方にも、初めて触れました。私のお袋さんも、現在90歳。まだまだ元気でありますが、見送るのも遠い将来の話ではありません。小笠原内科のような在宅医療クリニックが近くにあるかどうかわかりませんけれど、出来れば自宅で見送ってやりたいとは思います。
また、その後私自身が一人暮らしになることは必然でありますが、一人でも自宅で旅立つことが可能であると、この本が示しています。
数多くの在宅看取りの事例が書かれていますが、めでたくご臨終を迎えるにはどうしたらよいか、この本こそ、その処方箋であると思いました。折に触れ、読み返したいと思います。 続きを読む投稿日:2021.02.01
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夏への扉
ロバート・A・ハインライン, 福島正実 / ハヤカワ文庫SF
読み進むにつれ次が気になる、これが名作と言われる所以か
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どこかファンタジックなタイトルではありますが、内容はかなり硬派なSFミステリーであります。
かなり複雑な物語ですので、斜め読みは難しいですが、訳が素晴らしいのでページをめくる手が止まることはあり…ませんでした。
1956年発表と言うことで、当時は遠い?未来であった現代が舞台にもなっていますが、今現在、製品化しているもの、まだまだ実現は遠そうな物が出てくるのも面白かったです。
様々な方がレビューを書いておられるし、古典的名作なので読まれた方も多いでしょう。教訓としては、やはり女性には気をつけましょうということかな(笑)私ならば、もう少し彼女に復讐したくなってしまいますけどねぇ。
このReaderStoreの作品情報の内容や表紙の絵のイメージとは、かなりかけ離れた感じがする内容ですので、これから読まれる方は、その点ご注意を! 続きを読む投稿日:2021.03.02
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ペストの記憶
ダニエル・デフォー, 武田将明 / 研究社
さて誰が書く?コロナの記憶
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読むきっかけになったのは、NHKの100分de名著という番組でありました。ノンフィクションのルポではなく、この手のものを記録文学と言うそうです。しかし、どなたかが書いているように、小説の体を成してい…ないのはその指摘通りで、話には矛盾があったり、展開があっちにいったり、こっちにいってます。しかし、カミュにも影響を与えて、長年読み継がれてきただけのことはあります。また、デフォーと聞いて、最初はピンとこなかったのですが、「ロビンソンクルーソー」の作者だったんだね。
さてその内容は、ペストが猛威をふるった時期にロンドンに残った架空の人物による覚え書きといったスタイルです。その状況、人々の思いが、現在のコロナと同じであるのにビックリします。ただ都市封鎖ではなく、感染した家族の家そのものを封鎖してしまうという荒技だったようです。そして、行政が大変頑張っていたとの記述の他に、教会や教区という区分けが重要な要素として出てきます。いずれにせよ、ワクチンがあるわけでもない時代、ただただ終息するのを待つしかないのは、確かに恐怖だったでしょう。
かなりのボリュームがある冊子ですが、最後の100ページほどは解説となっています。この物語は、ペストの記録ではなく、記憶としているところがミソですが、とすれば、これから何年か後、コロナの記憶という記録文学をどなたかが書くのでしょうか? おそらく記録としては、今ならば、しっかり残るでしょう。しかし、一般の人がどのような感覚でいたのかを、公式記録とは別に、後々の人に伝えていくことは、とても重要になるかもしれません。 続きを読む投稿日:2021.03.02
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祈りのカルテ
知念実希人 / 角川文庫
ミステリーながら研修医と巡る各科の内容も魅力
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国家試験に合格した若い研修医が、自分の進むべき道を決めるため各診療科を回ります。そしてその間に垣間見る、様々な患者の人生模様。それを作者一流の見識を持って描いた作品でありました。とても興味深く読ませ…て頂きましたよ。
精神科を皮切りに、外科、皮膚科、小児科、循環器内科とめぐります。その中では、末期癌や臓器移植の問題も語られますし、お亡くなりになってしまう人もいます。そして、本人は内科が向いているかなと思いつつも、研修先のどの科からも、向いていないと言われます。と言うのも、患者の内面に踏み込みすぎるというのです。確かに、2時間も3時間も待って、実際の診察は検査データの画面を見ながら、じゃ様子を見ましょうか、なんていう診察もあるのが実情でしょう。だからこそ、患者にとっては、真剣にこちらの話を聞いてくれる医師がいいのですよね。
個人的には、自分自身やオヤジやオフクロの病気において、大病院からかかりつけ医まで、5つ位の病院受診の経験がありますが、幸いなことに、よく話を聞いてくれて、時には雑談に花が咲く医師ばかりでありました。ただ、中には、毎年のように担当医が変わってしまう病院もありますけどね。
今は、手術支援ロボット等もありますから、名医とは神の手を持つ人ではなく、患者の話をよく聞いてくれて、早期に異常を見つけてくれる人のことを言うのでしょう。こちら側としても、何事も包み隠さず、話しやすい雰囲気を自分から醸し出すことも必要かもしれません。
というわけで、この小説は、ミステリーとしても大変興味深く面白いものでありましたが、医師と患者の関係をもう一度問い直すのに、よい作品でありました。 続きを読む投稿日:2021.04.02