崩紫サロメさんのレビュー
参考にされた数
1460
このユーザーのレビュー
-
天智と天武-新説・日本書紀-(11)
園村昌弘, 中村真理子 / ビッグコミック
狂気の行きつくところに……
0
10巻・11巻で副題「新説・日本書紀」の意味が明らかになってくる。
9巻までのどこかで「何事!?」と挫折しかけた人も、最後まで読んで欲しい。
ラスト2巻で描かれるのは、今まで繰り広げられてきた…「何事!?」な歴史が、我々の知る「歴史」へと書き換えられる過程(もちろんこれもフィクション)。
フィクションではありながら、歴史が勝者によって書き換えられていくことはしばしば行われることであるだけに、一定のリアリティを持つ。しかし、この兄弟の異常な熱気を伴う愛憎を、リアリティの枠組みに治めず、最後まで狂気を維持した(妙な言い方ではあるが)ところも圧巻。
そして、このタイトルで最終巻なので、もちろん、最後は「あの二人」が飾ってくれる。その演出も、ここまで読んできた人には涙ものだと思う。 続きを読む投稿日:2018.07.31
-
夢の雫、黄金の鳥籠(11)
篠原千絵 / プチコミック
本編加筆部分+もやっとすること
1
多くの読者同様、私もこの話の展開には少々イラッとするものがある。
が、毎号雑誌版で読むくらい篠原千絵ファンで、オスマン帝国ファンなので、「もう少し……もう少し待って、きっと面白くなるから……!」と必…死に訴えている(どこにだ)
さて、今回は『天は赤い河のほとり』番外編、ザナンザが登場!ということでそちらが本編のような盛り上がり(私の周囲だけか?)だが、本編の方も雑誌掲載版と比べて書き下ろしページが4頁あるので、一応コメントしておく。
・「歴史書を読んでいました」のあとのヒュッレムとスレイマンの会話見開き。
・イブラヒム邸でのヒュッレムとイブラヒムの会話見開き(「友人のアルヴィーゼがハディージェさまに会いたいと言うので……」あたりから)。
何か、イブラヒムにイラッとする方向で描いているんですよね?と思うところなのですが(苦笑)
この話のもやっとするところが、もともと
ヒュッレム→イブラヒム←スレイマン
だったところ、8巻あたりで「スレイマン様に負けた」とヒュッレムが引き下がる(←この展開は個人的には好きだ)。
しかし、少女漫画において、主人公が恋愛面で敗北するからには、相当の説明が必要なはず。そこの説明(つまり、イブラヒムとスレイマンの絆なり、ヒュッレムのスレイマンに対する思いの変化なり)が足りていない、そのあたりが非常に気になる。そこの三人の関係を整理しないままアルヴィーゼか……?と思ったり。子世代も気になるけど、親世代消化不良で子世代……?なども。
細かいかも知れないけど、11巻末でハンガリー遠征(1526年)ということなのでミフリマーは4歳くらいのはず。流石に本編のいろいろな発言は大人過ぎる~。
ただ、やはり今後に期待したいという思いと、表紙のスレイマン様麗しすぎるということで、☆3に。
続きを読む投稿日:2018.07.31
-
「隔離」という病い 近代日本の医療空間
武田徹 / 中公文庫
「異なるもの」への排除の構図
16
ハンセン病患者に対する隔離政策が誤ったものであったという認識は、
政府レベルでも、民間レベルでもほぼ一致しているのではないかと思う。
では、隔離政策とはもはや「終わったこと」なのか。
本書は、そう…ではない、という。
感染力が弱いから隔離しなくてもよいのか、感染力が強ければ隔離してよいのか?
本書で扱うのは「異なるもの=他者」に対する姿勢そのものである。
人が「異なるもの」に対して排除、隔離、忘却という思考・行動を取ることは、
他の例でも変わらない。
むしろ、ハンセン病問題を通して強く感じることができる普遍的な問題なのではないか、と。
本書は
第一章:ハンセン病を巡って近代日本がどのような対応をしたか
第二章:隔離政策を支えてきた価値観の枠組みの分析
第三章以降:隔離という方法をいかに人権思想と共存させるかを考察
という構成だ。
多くの場合、第一章の部分で断罪して終わるのであろう。
だが、第二章で、隔離政策に携わった人々の強い使命感(正義感)、隔離された人々の、
「他の人に迷惑を掛けてはならない」という思いを知ると、
とても根の深い問題であることに改めて気付く。
「主観的な夢」の脆さ、として著者は次の用に語る。
脆い理想像を信奉する人が、仮構性を忘れてその唯一絶対的な正しさを主張し、
自分たちとはちがう立場の人々=他者を排除していくことがありえる。
ここに挙げられていたのは賀川豊彦、神谷美恵子などのいわゆる「人格者」も多く含まれる。
では、どうすればいいか。著者の模索とともに、
読者自らも模索していかなければならない。
著者は隔離医療と人権思想の共存の試みとして
ロバート・ノージック『アナーキー・国家・ユートピア』
に見られる、「最小国家」の概念が有効なのではないかと考える。
その内容については本書で読んでみてほしいが、
なかなかに魅力的、しかし、それをどうやって本書が「病んでいる」とする日本社会に取り入れていくかを考えると、また気が遠くなる思いだ。
複数の価値観が共存しあえる社会を。
この難しさを痛烈に感じる。
続きを読む投稿日:2015.05.12
-
イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北
内藤正典 / 集英社新書
敵対するもの同士の対話の実践
11
日本人はイスラムについてあまりにも無知だと言われる。
だが、知識人レベルで見ると、日本のイスラム研究者の中には、見識の深さと誠実な姿勢において、多いに学ぶべき人物もいる。
その一人が本書の著者、内藤…正典氏であろう。
多くのイスラム研究者はアラブやイランを専門とするが、
内藤氏はトルコからイスラム世界を見る。(主にヨーロッパに移民しているトルコ人のことなど)
トルコはイスラム教徒が多数を占める国でありながら、徹底した政教分離政策を行い、
NATO加盟国で朝鮮戦争にも参戦しており、今もまた、欧米とイスラム世界の間で板挟みとなっている。
本書が中心として扱うのはトルコではなく、イスラム世界と欧米、そして日本のあり方であるが、
長年トルコを通して世界を見てきた人だけあって、
イスラムにもヨーロッパにもアメリカにも、冷静で鋭い目が向けられている。
特に、日本のイスラム理解が欧米のバイヤスが掛かりすぎていることを危惧している。
そのバイヤスについては本書の本題なので、そちらに譲ろう。
知識が豊富ゆえに話が難しくなってしまう人や、無知による単純化を行ってしまう人が多いが、
本書はそのどちらにも陥らず、豊富な知識と鋭い観察点をわかりやすい言葉で読者に伝えている。
本書の魅力は論理的に整理されていることだけではない。
かつてシリアに留学し、その後もトルコやシリアを中心にフィールドワークを重ねてきた著者。
本書では、著者が研究科長を務める同志社大学グローバルスタディーズ研究科で、
アフガニスタン大統領のカルザイ氏と、
タリバンの幹部を招き、学生たちのいきつけの酒場で鍋を囲んだ話も紹介されている。
後にカルザイ大統領が"Doshisha Process"と呼んだできごとであるが、これについて、
フランスのAFP通信が著者に対して「タリバンのようなテロ組織を招待して恥ずかしく思わないのか」と質問した。
著者は「タリバンだけでなく、政府代表も呼んだのです。
敵対するどうしが対話を開始しなくて、一体どうやって和解が成立するでしょう」と答えたという。
この信念は今も揺らがないという。
私もこの時ではないが、同志社大学での公開講演で著者のトルコについての講演や、
ユダヤ教、イスラム教の様々な人を招いた講演会に何度か出席し、いろいろ考えるところがあった。
一応言っておくが、同志社はキリスト教の学校法人である。
だが、なのか、だからこそなのか、イスラムとの対話に非常に力を入れている。
敵対するもの同士、理解しあえないもの同士だからこそ、対話を開始しなければならない、
ということを実践しているわけだ。
こうした講演に参加できる人はそれほど多くはないだろうが
(一応、「同志社大学一神教学際センター」で検索すると公開講演の案内を見ることができ、また過去の講演会の要旨や動画もある)、
新書という形で、そのような活動を知ることができるのは喜ばしいことだ。
理論と実際の取り組みを紹介する中で、著者の「対話」への誠実な姿勢を感じる。
続きを読む投稿日:2015.04.28
-
PAPUWA1巻
柴田亜美 / 月刊少年ガンガン
前作主人公がお姑ポジション(笑)
8
『南国少年パプワくん』の続編である。
普通、続編というと主人公は前作と同一人物で数年後だったり、
一気に飛んで子世代だったりするが、本作品はそのどちらでもない。
あれから4年。第二のパプワ島には、パ…プワくんとチャッピー、相変わらずなナマモノ達がいて、
そこにシンタローの弟のコタローがやってきて・・・
それはいいのだが、シンタローポジションにいるのが・・・
前作主人公シンタローの親戚のおじさん(獅子舞みたいな方)の部下の中で一番下っ端だった奴
・・・。・・・。・・・。
え?
・・・というのが第一印象だった(笑)
いや、なんであんたがパプワ島で家政夫やってるの?
家政夫やってるのはいいとしてなんでシンタロー的なポジションなの?(笑)
あなたが主役なの?(←多分そう・笑)
しばらく「コレジャナイ」感が抜けきれず放置していたのだが、
思い切って再読したら意外に面白かった-!
何がって、前作で下っ端脇役だった彼が、少しずつ「主人公」へと成長していくところが。
いやまあ、成長物語って王道だけど、こんな形で主人公になる人、珍しいし(笑)
元上司の獅子舞様とか、お姑さんと化している前作主人公のシンタローとか、
いいポジションに(笑)
本当、前作主人公がすぐ傍で監視、いや、見守っているとかプレッシャーすぎるよ。
頑張ってるなあ、お前・・・と涙ぐみそうになる(笑)
とりあえず、「パプワくん」の世界が好きな人にはおすすめ。
多分、シンタローが戻ってくるあたり(4巻?)から前作ファンには面白くなるかと。
続きを読む投稿日:2015.04.27
-
南国少年パプワくん1巻
柴田亜美 / 月刊少年ガンガン
シリアスとギャグの絶妙な配合!
13
幼い頃、紙版がばらばらになるほど愛読したマンガであるが、
改めて電子版で読んでみて、作品の構成力に感心した。
7巻、という長さである。決して長い方ではないだろう。
しかし、そこで語られるストーリーは…壮大だ。
主人公のシンタローはわけあってパプワ島なる南の島に漂着してしまう。
そこで何だかやたら強いパプワ少年と、ブサ可愛い犬のチャッピーと出会い、
「今日からお前も友達だ!」と言われ、島で召使いとして暮らす(友達とは一体・笑)
島に住む奇怪な生物(敢えてナマモノと読ませるところに作者のセンスを感じる)
に振り回されるギャグパートと入り交じる形で、
シンタローが所属していた「ガンマ団」の刺客との戦いが展開する。
まあ、こいつらも愛すべきバカなのだが(笑)
組織の秘密、父や叔父・弟にまつわる秘密、そして、パプワ島の秘密・・・
かなり複雑で壮大な話なのだが、単行本7巻という長さが絶妙なのだろうか、
殆どダレるところがない。
シンタロー(青年)、パプワ(子ども)、そして中盤から華麗に活躍するおじさんたち。
結構、読む年齢によって感情移入するところが変わってきて何度も楽しめる重層性があるなあ、と再び感心。
まあ、私は最初からおじさんたちに夢中だったのだが(笑)
特に4巻表紙左の美麗なおじさま(43)に(笑)
今回再読してシンタローの
「俺は知らなかったんだ 歳をくうほど人は弱くなるなんて!
泣きてえことばかりだなんて知らなかったんだ!!!」
という言葉に対するパプワの答えが何かぐっと来た。
前は、美麗なおじさまに夢中で(笑)そこはあまり印象に残っていなかったのだが、
それは私が歳をとって泣きたくなることをたくさん経験したからだろうか。
ドSなギャグ満載なんだが、根本的なところですべての人物やナマモノへの愛を感じる。
ギャグ漫画というのはそうでないと、何だか笑えない。
そういう意味で、この物語は素晴らしいギャグ漫画で、涙無しには読めないシリアス漫画である。
決して長くない物語の中に、魅力的な人物とストーリーが凝縮されていて、
何度も読み返し、空白やその後をどれだけ想像してわくわくしたことか。
続編にあたるPAPUWAという作品が本作品の4年後という設定で出ていて、
楽しく読んだのだが、やはり本編7冊の凝縮されたエネルギーは忘れられないものとして残っている。
続きを読む投稿日:2015.04.26