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hazu-haya-yuさんのレビュー
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  • 閉鎖病棟(新潮文庫)

    閉鎖病棟(新潮文庫)

    帚木蓬生

    新潮文庫

    心揺さぶられる

     九州のとある精神科病院に治療入院している患者さんたちのお話です。 恥ずかしい話ですが「閉鎖病棟」という言葉と意味を初めて知りました。 入院形態にパターンがある事やどのような症状の人が入院するのかも知りました。 著者が精神科医であると知り、裏打ちされたものがあるからこその物語の厚みだと感じました。 それぞれが重い過去を背負い、家族から疎まれ拒まれても明るく生きようとしている所で、事件は起きます。痛々しさとやさしさが織り合わされ章ごとに淡々と話は進みます。 私たちから見れば考えられない非日常がそこにありますが、そこで己の罪と生き方を問うていく文章に心を揺さぶられました。 生れ落ちること、生きること、死ぬこと、自由である事を考えさせられる話でした。 ★5でも足りない読後感。 多くの方に読んでほしい1冊です。  

    14
    投稿日: 2015.06.22
  • 南朝迷路

    南朝迷路

    高橋克彦

    文春文庫

    複数のひも解き方

     後醍醐天皇の流刑と隠し財宝に絡ませた歴史、偽装、過疎化というテーマが登場人物たちのキャラクターにより、読み応えのある展開になっていたと思います。 過疎について語る若者の言葉は今の時代でも言えてます。言葉が地方再生に代わっただけかもしれませんね。  後醍醐天皇には権力闘争に敗れて島流しになった、くらいの知識しかなかったので逆に興味をそそられました。 捉え方で同じ事実が180度変わる…という一文が作中にありましたが、本当にそうだなあと感じています。何でもそうでしょうけど一面だけで捉えてはだめですね。 今までの歴史ミステリーとはひと味違った面白さでした。

    11
    投稿日: 2015.06.17
  • 父とガムと彼女

    父とガムと彼女

    角田光代

    文春文庫

    いいな…と

     買って2年も経っていました。やっと読みました。 リーダーにする前、紙本で数冊読みましたがこれが一番しっくりしました。 子供の頃のおぼろげな記憶ってきっと誰でも一つはありますよね。 遠くなりすぎて曖昧になってしまったこと。 主人公が初子さんについて素直に回想されていくので読んでいて安心できました。父の死から記憶を手繰り寄せながら思い出し、母親と対峙する主人公、ラストは味のある終わり方でした。  著者の作品はどちらかというと、ぎすぎすしない人間関係の話が多かったなという薄い印象でしたが、これは好きでした。

    11
    投稿日: 2015.06.14
  • 小説 兜町(しま)

    小説 兜町(しま)

    清水一行

    徳間文庫

    今にも通ずる

    時代は昭和30年代の証券界と株の話。 久々の★5です。 戦後復興した日本の経済が溢れんばかりのエネルギーで動いている様が伝わってきます。 日本の証券市場の歴史が明治まで遡り、先物は17世紀のコメ取引を起源とするなど興味を膨らませて読みました。この時代にすでに投信があったことも驚き。 株に興味があってもこうした知識は無知だったので、疑問や現在までの変遷を調べたり出来て更に面白かった。野村、山一や実在する企業名があるのでフィクションとわかりつつも筋立ての躍動感に魅了された。 読み終えてふと現在の株式相場と酷似している気がした。時代背景に安保が絡んでいる。株価は上っている。

    9
    投稿日: 2015.06.06
  • カノン

    カノン

    篠田節子

    文春文庫

    青春の光と影

    幻想的なホラーファンタジーでした。 学生時代のひと夏の恋人が突然自殺。その彼から送られてきたテープ、そこから繰り広げられる 奇妙な出来事。明かされる秘密。 10代の一途に突き進む熱情と40を前にした惑い。 忘れ去ったもの、置き去りにしたもの、踏みつけてきたものがあったのではないかとそれぞれの 胸によぎり、それを「過ぎ去った時間を立ち止まって考える年齢にさいかかっている」とし、 「人生において何を重大事とし何を瑣末なものとするかというのはそれぞれの生き方によって限りなくかけ離れてくる」とも表現している。  著者はチェロが趣味ということで音楽にも精通されています。専門的なことは??という点もありましたがバッハのフーガが話に組み込まれ、回想部と現在とホラーが追いかけて繰り返されてるような印象を持ちました。 三者三様の生き方、39ってすごく微妙な年齢・・・今振り返ると本当にそう思います。

    8
    投稿日: 2015.04.30
  • ハルモニア

    ハルモニア

    篠田節子

    文春文庫

    タイトルからは思い描けないプロット

     何だか不思議な話でした。脳に障害を持った由希という女性がチェロという楽器・音楽を通して 成長、回復していくのか、又はじめの方にサヴァン症候群の話が出ていたのでどんな展開かと期待が 膨らみましたが、全く予想を裏切られ、オカルティズムとホラーが合わさったような話でした。  ただそうした点が全面に出ているという訳ではなく、由希に係る人々の欲望・葛藤・打算などが織り交ぜられ想像を裏切られた分だけ、のめりこんでいきます。由希が生活している施設の語りは現実世界にも投影されそうな内容。一人一人の生き方、係り方をついてきた気がする。  脳科学とは言っても未知なる世界、宇宙と同じ…というような話も聞いたことがあるけれど、そうした点でのオカルティズムとしてなら十分に面白かったです。  ハルモニアは戦いの神アレスと美の女神アフロディーテの娘だそうで、それが隠れた伏線としたら心憎いな・・と思いました。  

    11
    投稿日: 2015.04.25
  • ペトロ 警視庁捜査一課・碓氷弘一5

    ペトロ 警視庁捜査一課・碓氷弘一5

    今野敏

    中公文庫

    異色の刑事もの

     今野敏さんの作品は石神達彦シリーズしか位しか読んだことがなく、これが4冊め。 いつもの如くタイトルに惹かれて読んでみたら、他の刑事ものとはひと味、ふた味も違いました。 事件は起きて捜査本部も動いているのに誰も「これぞ刑事だ!」という様な濃いキャラクターが いない。怒号が飛び交うことも残忍な場面も無し。登場人物が皆スマート。 警部補・碓氷とアルトマン教授のペトログリフから核心に迫っていく様子を読んでいたら、以前読だ 同系統のものが頭に浮かんで、あの話はこうした流れなんだぁ…と妙な符号をして私には二重の 面白さがありました。  迫真、緊迫感はないので好みはハッキリ分かれる作品ではないかと思います。  

    9
    投稿日: 2015.04.15
  • 夜の床屋

    夜の床屋

    沢村浩輔

    東京創元社

    素敵な短編集

     新しい作家さんは出だしの数行がいつも不安なんですけど、この一冊は心配無用でした。 一つひとつが独立していると思いきや、途中で「あら?ここでもそれが出てくるの……」 ラスト近く「ここでそれと絡めるの!」と新鮮な驚き。 どの話も好きでした、騙され方が楽しい。大人メルヘン。 「葡萄荘のミラージュⅠ」からは発想の奇抜さに唖然とさせられ、まさにmirage!

    15
    投稿日: 2015.03.24
  • 棲息分布(下)

    棲息分布(下)

    松本清張

    講談社文庫

    やはり清張は

     もの凄く久しぶりに松本清張を読みました。 むせかえる様な昭和の匂いと快調な文章にグイグイ引き込まれ、やはり清張だなぁ…と。 半世紀も前の小説なのに、時代考証こそ違え全く古さを感じさせないのは、人間の欲望がいつの時代でも変わらぬものだからでしょう。 戦後の動乱に財を得、混乱期に急成長を成し遂げた企業の内幕と一族の肥大化する欲望が描かれてい て草食系ならぬ肉食系の登場人物たち。その腹の探り合いも人間臭くて面白い。 小説の中の政治の話と現実の政治家の顛末に差がないなあと妙な実感

    8
    投稿日: 2015.03.09
  • 墨東綺譚

    墨東綺譚

    永井荷風

    グーテンベルク21

    柔らかな古典

     遠い昔の記憶に間違いなければ、担任教師が永井荷風を浮名を流した作家と雑談で評していた。 そういう意味の読まず嫌いで、反面、機会があれば読んでみたい作家だった。 老境に入った作家の「わたし」と墨田の娼婦街にいたお雪との出会いと別れが、江戸の匂いも残る ノスタルジックな小説。 「三丁目の夕日」よりもずっと前の設定なので更に知るはずのない生活が、描写も言葉も活き活きしていて一緒に界隈を歩いているような気分。所々なんか知ってる気分にさせられて興味深かった。 今では聞くこともない言葉が宝石のように光って感じる上に「わたし」の小説の草稿とが話に折り挿まれてさながら迷宮に迷い込んだ感がありました。 京成がこの時代にあったのね!と妙な感心もしました。

    9
    投稿日: 2015.02.25