
科学報道の真相 ──ジャーナリズムとマスメディア共同体
瀬川至朗
ちくま新書
報道の客観性、公平・中立性について考える
STAP細胞問題、福島第一原発事故、地球温暖化問題を通して、マスメディアの構造的問題、客観報道、公平・中立報道の問題点について考察している。 報道の客観性とは取材における科学的方法のことであり、検証の規律である。 日本では伝え方の客観性が重視されてきた。 そこでは「権威のある情報源」(理研、政府、東電、原子力安全・保安院、IPCC)が発表した内容をありのままに伝え、発表内容に間違いがあれば情報源に責任転嫁するという、効率的に記事を生産する構造が存在し、自己検証を怠るゆえ、市民はマスメディアの報道に不信感を抱く。
0投稿日: 2017.02.26人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊
井上智洋
文春新書
人類の未来は資本主義に飲み込まれてしまうのだろうか
AIの進化が引き起こす社会へのインパクト、とりわけ"労働が不要"になることについて経済学的視点から論じている。 しかし、それはユートピアではない。 シンギュラリティを迎える2045年には労働のシェアは圧倒的にAIが占めるようになり、人が労働で賃金を得ることが難しくなる。資本家はAIを活用することで利潤を増やし、ますます資産を膨張させ、ピケティが『21世紀の資本論』で明らかにしたように貧富の差はさらに拡大する。 著者は処方箋としてベーシックインカムの導入を熱心に論じる。ただ富裕層から高額の税金を徴収する点については具体性に欠ける。現実には資産はより税率の低い国・地域(タックスヘイヴン)に移されていくからだ。これは政治の問題か。
0投稿日: 2017.01.06日本会議 戦前回帰への情念
山崎雅弘
集英社新書
国家神道という補助線で読み解く
現行の日本国憲法のもと約70年間に渡り平和と豊かさを享受してきたという事実にあえて触れず、大きな犠牲を払った戦前・戦中への回帰を志向する団体があり、大きな勢力として現政権を占めている。 彼らはなぜ改憲に突き進むのか。「国家神道」という補助線で彼らが何を「語ろうとしていないか」を読み解いている。 国内大手メディアはこのことを積極的には報じない(時々申し訳程度に掲載)。むしろ海外メディアが積極的に報じているようで、いよいよ日本も自国の問題を認識するために海外メディアをフォローしなければならない倒錯した状況になってきたのだろうか。 彼らの憲法改正案は凄まじい。権力の暴走を制限するのが憲法のはずだが、むしろ権力のために国民の生活を制限するように見えてしまう。これが国民の望んでいる「美しい日本」の姿なのだろうか?
1投稿日: 2016.11.21ドナルド・トランプ 劇画化するアメリカと世界の悪夢
佐藤伸行
文春新書
トランプの入門書
トランプ主義の神髄は「無視されるよりも悪評が立つ方がいい」。 究極のナルシストは当初目立てばいいくらいのつもりで立候補したわけだが、嘘をも厭わない数々の暴言がマイノリティ化する恐怖におびえるブルーカラーの白人男性達に意外にも受けて共和党の大統領候補に登りつめた。 「不動産王」で鳴らすトランプだが、逆に不動産以外のビジネスは倒産続きだそうだ。
0投稿日: 2016.10.22「暗黒・中国」からの脱出 逃亡・逮捕・拷問・脱獄
顔伯鈞,安田峰俊
文春新書
これが小説ではなく現実という恐怖
監視、軟禁、投獄、拷問、思想改造。 読みながら常にジョージ・オーウェルの小説『一九八四年』が頭から離れない。 まさにあの一党独裁のディストピアが現実に存在することを知らしめる貴重な手記だと思う。 日本でも最近のメディアの萎縮ぶり、マイナンバーによる個人情報の統合等、その足音はだんだん近づいてきている?
0投稿日: 2016.09.24下り坂をそろそろと下る
平田オリザ
講談社現代新書
何でもかんでも右肩上がりのストーリーを描く時代ではなくなった
日本は明治近代の成立、戦後復興・高度経済成長という2つの大きな坂を立派に登り切った。 私たちは今その急坂をどのように下って行こうかとしており、3つの寂しさに直面している。 もはや工業立国ではないこと、 もはや成長社会でないということ、 もはやアジア唯一の先進国ではないこと。 私たちはこれらの寂しさに耐えていかなければならない。 いつまでたっても「道半ば」のアベノミクス、嫌韓・嫌中スピーチ、これらはこの寂しさに向き合えない不満の表れだろう。 本書では著者の関わるプロジェクトを中心にその寂しさとの向き合い方を示している。
0投稿日: 2016.07.19マインド・コントロール 増補改訂版
岡田尊司
文春新書
すでにマインド・コントロールされている?
テロリスト、霊感商法、カルト、ブラック企業。 依存的なパーソナリティ、高い被暗示性、バランスの悪い自己愛、現在及び過去のストレス・葛藤、支持環境の脆弱さが、 マインドコントロールにつけこむ隙を与えやすい。 催眠療法や精神分析に始まる無意識を操作する技術は、 やがて諜報機関が興味を持ち、その技術が洗練されていく。 多くは相手を支配下に置き主体性を奪ってしまうものだが、 「本人の主体性を尊重し、選択権をもった存在として認めたうえで、結果的にその行動を操作する」アプローチもある。例えばダブルバインドを使ったセールストーク。 クルマのセールスでは、「ボディの色は白がお好みですか、黒がお好みですか」「オプションはお付けしましょうか」。すでにクルマを買うことが前提になっている。 自分がマインド・コントロールを仕掛けられやすい状況・心理状態にあるかどうかを意識することは重要だと思う。
0投稿日: 2016.06.27中国4.0 暴発する中華帝国
エドワード・ルトワック,奥山真司・訳
文春新書
2000年代以降の中国の対外戦略を分析
2000年代以降の中国の対外戦略は平和的台頭で成功し(中国1.0)、 2009年の国際金融危機で世界経済の構造が変化し始めると、 成長は線形だ、金は力なり、大国は小国に勝てる という3つの勘違いを犯して対外強硬路線に突き進む(中国2.0)。 先進国の凋落は中華思想に火をつけやすいのだろう。 2014年秋に反中同盟に気づくと、抵抗があれば止めるという選択的攻撃におよぶ(中国3.0)。 日本にとって中国がリスクなのは"不安定な大国"であることだという。 中国は内向きの性向があり、それが対外戦略を誤らせる。
0投稿日: 2016.06.25ゲノム革命―ヒト起源の真実―
ユージン E ハリス,水谷 淳
早川書房
ゲノムは語る
上野の国立科学博物館に系統広場という、 進化の過程を床一面に葉脈状の系統樹で表した展示がある。 1つの生命を起点としてそれは数え切れないほどに分岐し、 ヒトはそのうちの1本に過ぎない。 最も我々に近縁なゴリラ、チンパンジー、ヒトの分岐がどのように行われたかについてにさえ、 形態学的に解析できる程度に残された化石は少ない。 しかしそこからゲノムを抽出できればはるかに多くの発見がある。 分岐がスッパリと行われたのか、長い年月をかけて別れたのか。 本書では科学的証拠からヒト起源に思いを馳せる。
0投稿日: 2016.06.18臆病者のための億万長者入門
橘玲
文春新書
金融リテラシーの入門書
法人と違い、リスク耐性の低い「臆病者」の個人投資家の資産運用はどうあるべきか。 「宝くじは『愚か者に課せられた税金』」、 「『不幸の宝くじ』生命保険」、 「FXでふつうのオバサンが億万長者になった理由」、 「『マイホームと賃貸、どちらが得か』に決着をつける」など、 直感的な思考ではカン違いしがちな「金融の常識」に斬り込む。 金融リテラシーが不自由な人はぼったくられるしかない。 かと言って誰かがそのことを指摘してくれるわけではない。 しかし気付かないことで世の中上手く回っていることもあるのだ。
0投稿日: 2016.06.16