
学校の怪談
岡崎弘明
集英社文庫
小学校時代を思い出す
1995年公開の映画『学校の怪談』の小説版です(内容は映画と異なっている部分もあります)。「トイレの花子さん」など、学校の怪談としておなじみのネタも登場します。 映画は子どもでも楽しめるものだったので、小説版もそんなに怖くはありません。これを本当に夜の学校で体験したらめちゃめちゃ怖いでしょうけど……。 怪談ばかりでなく、子ども同士の友情など、微笑ましい場面もあります。私は木造校舎世代ではありませんが、学校ならではの風景(理科室や美術室など)に懐かしさを感じました。
0投稿日: 2013.11.02
一億三千万人のための小説教室
高橋源一郎
岩波新書
現役小説家による小説指南本
いわゆる「文章読本」系の書物は数多く出回っていますが、昔の文豪(谷崎潤一郎、三島由紀夫など)の著作を除けば、実際に活躍している小説家が書いたものはあまりありません。本書は現役の有名小説家が小説を書くことについて語った、数少ない本です。 ただし、小説の細かいテクニックを身につけたいという人にはあまり向いていません。名文を作る比喩法やプロットの組み方といったテクニックについては、本書以上に詳しく解説している本が存在するからです。 本書を本当に役立てることができるのは、「文章力はそこそこあるが、自分の書く小説にはまだなにかが足りない」と感じている人でしょう。そのレベルの方であれば、本書から学ぶことは多いと思います。
1投稿日: 2013.11.02
切れない糸
坂木司
東京創元社
謎を呼び込むクリーニング店
商店街にあるクリーニング店を継いだ主人公が、お客さんにまつわる謎を解いていく日常系連作ミステリ。謎解きには必ずといっていいほどクリーニングの知識が用いられるので、これはもう「クリーニング・ミステリ」と呼んでもいいかもしれません。 「ひきこもり探偵」シリーズ同様、本書でも登場人物のあたたかさは健在です。ただし、本書ではより語り手(=和也)に重点が置かれていて、熱しやすくもお人よしな彼の性格が魅力的に描かれています。対する探偵役・沢田はつかみどころのない人物に見えますが、話が進むにつれて彼の魅力もわかってくるはずです。 余談ですが、著者の作品に美味しい料理はつきものなのか、本書では沢田のふるまうコーヒーと洋食に食欲をそそられました……。
5投稿日: 2013.11.01
夏休み
中村航
河出書房新社
ポップミュージックのように
夫婦関係や友人との関係がテーマになっていますが、著者はそれを深刻な調子で書いたりはしません。本書はあくまでライトかつポップな物語に仕上がっており、夫婦間の関係さえも、愛情というよりは特別な友情(?)という感じに描かれています。 文章は読みやすいわりに、どことなくオシャレな雰囲気も感じられます。ベタベタの恋愛小説が苦手な人にもオススメです。
0投稿日: 2013.10.28
車輪の下で
ヘッセ,松永美穂
光文社古典新訳文庫
エリートの果てに
エリートとして期待されていた少年がしだいに落ちこぼれとなり、やがて破滅に至る――そんな過程を描いたヘッセの名作です。新訳だけあって読みやすく、内容がスムーズに頭に入ってきます。 神学校での生活を描いた前半部では、宗教的な異国情緒を感じるとともに、少年(生徒)たちの密な友情に心を動かされました。「エリートからの転落」というテーマは学歴社会(または能力社会)の現代でも十分通用しそうで、いろいろと考えさせられるものがあります。
1投稿日: 2013.10.28
ホーンテッド・キャンパス
櫛木理宇,ヤマウチシズ
角川ホラー文庫
ホラー初心者歓迎
本格的なホラー作品が目立つ「角川ホラー文庫」ですが、本書はそれほど怖くないです。幽霊は登場するものの、その外見等の恐怖描写が少ないせいかもしれません。 代わりに前面に押し出されているのは、主人公をはじめ、生きている登場人物のキャラクター性です。コミックタッチの表紙や人物紹介のおかげで、物語の世界にすんなりと入ることができます。 「視える」だけで基本へなちょこな主人公ですが、読後にはちょっとだけ格好よく思えました。
5投稿日: 2013.10.28
さいはての彼女
原田マハ
角川文庫
「彼女」のカッコよさに魅せられる
いろいろあって旅に出た女性の話を集めた短編集です。収録の4編はそれぞれ語り手が違いますが、最初(「さいはての彼女」)と最後(「風を止めないで」)の作品には共通する人物が登場します。 その人物とはタイトルにもなっている「彼女」のことですが、これがめちゃめちゃカッコいいんですよ。ふとした仕草やまなざしには、同性ながらキュンとしてしまいます。 彼女と一緒の旅ならどこだって楽しいだろうな~、と主人公がうらやましくなりました。
11投稿日: 2013.10.27
絶叫城殺人事件
有栖川有栖
新潮社
暗めの館モノ
館をモチーフにした作品を集めた火村&アリスシリーズの短編集です。 本書のタイトルもおどろおどろしい感じですが、基本的にどの作品も暗めで、読後にやりきれないような感じが残ったりもします。そんな「国名シリーズ」とは違った雰囲気も、本書の魅力といえるでしょう。 そんな中、表題作「絶叫城殺人事件」ではなんと火村がゲーム(テレビゲーム)をプレイします。本書の中でも特に暗い作品だというのに、その場面を想像してつい笑ってしまいました……。
0投稿日: 2013.10.26
ペルシャ猫の謎
有栖川有栖
講談社文庫
火村の素顔
国名シリーズは火村&アリスコンビが活躍する本格ミステリですが、第5弾の本書には本格ミステリ以外の作品も2編収録されています(「悲劇的」「猫と雨と助教授と」)。この2編をあえてジャンル分けするとすれば、「火村英生をより深く知るための小説」となるでしょう。 どちらの作品からも火村の日常生活や彼の思考感覚が読み取れますが、特に掌編「猫と雨と助教授と」では猫と戯れる火村が描かれており、微笑ましく感じられます。犯罪現場との違いにびっくりしますよ。
1投稿日: 2013.10.26
英国庭園の謎
有栖川有栖
講談社文庫
アリス、疾走
国名シリーズ第4弾は短編集です。 収録されている6編の中で一番好きなのは「ジャバウォッキー」。いつもは探偵役・火村の助手&話し相手&記録係(?)を務めているアリスですが、この作品では文字通り大活躍します。詳しくは語れませんが、ある人物を追って愛車ブルーバードで街中を疾走、車を降りてもさらに走ります。アリスの活躍シーンはシリーズを通してもあまりないので、アリスファンとしては嬉しい作品でした。 また、「完璧な遺書」は語り手・アリスの代わりに犯人の一人称で語られる珍しい作品です。
0投稿日: 2013.10.26
