
スウェーデン館の謎
有栖川有栖
講談社文庫
スウェーデンじゃないけど雪景色
国名シリーズ第2弾は長編です。謎の数(=収録作品の数)が少なくなったぶん、舞台となる裏磐梯の雰囲気はたっぷり味わえるかと思います。冬に読んだらよけいに寒くなりそうですが……。 本作の謎はなかなか秀逸で、ミステリとしてよくできています。長編らしいややゆっくりな展開は、とにかく謎解きだけ味わいたいという方にはまどろっこしく感じられるかもしれません。謎だけじゃなくて火村&アリスコンビの会話も好き、という方なら問題なく楽しめると思います。余談ですが、作中にはスウェーデン豆知識的なものも出てきますよ。
3投稿日: 2013.10.19
ロシア紅茶の謎
有栖川有栖
講談社文庫
火村&アリスの会話も魅力
「火村英生&(作家)有栖川有栖」シリーズは基本的に、どれから読んでも問題ないと思います(登場人物について大まかな説明があることが多いため)。とはいえ、なるべく刊行順に読みたいという方は、本書から入るのがいいでしょう。本当はこれより前に「46番目の密室」「ダリの繭」の2冊が刊行されていますが、現時点(2013年10月)のReader Storeではで本書がシリーズ最古です。 本書は短編集ですので、本格ミステリをあまり読んだことがない方でも読みやすいと思います。ミステリとしての謎ときが面白いのはもちろんですが、本シリーズでは火村&アリスをはじめとする登場人物も大きな魅力です。白ジャケットの似合うクールな准教授・火村と関西弁の推理作家・アリスの主役コンビの会話は、深刻な事件の場面をなごませてくれます。本シリーズがコミカライズされているのも、このキャラの魅力ゆえでしょう。 ※追記:その後『46番目の密室』(新装版)と『ダリの繭』が電子化されました。刊行順に読みたい場合は『46番目の密室』からどうぞ。
5投稿日: 2013.10.19
図書館戦争 図書館戦争シリーズ(1)
有川浩
角川文庫
「本」を愛するすべての人に
有川氏お得意のバトル×恋愛ものですが、登場するのは自衛隊ならぬ「図書隊」です。恋愛要素も自衛隊三部作(「塩の街」「空の中」「海の底」)よりは強めに押し出してある感じです。 自由に本を読めなくなった近未来の日本で、主人公・郁(図書隊員)は検閲機関相手に戦います。すべては大好きな本を守るために! 本好きとしてはこの設定だけでも胸躍るものがありましたが、各組織の結成背景なども作り込まれており、シリーズ随所にみられる組織対組織、人間対人間の駆け引きも魅力です。 本が好き、読書が趣味という方は間違いなく楽しめるでしょう。読後は当たり前の読書ライフが貴重なものに感じられるかもしれません。
10投稿日: 2013.10.16
鳥籠荘の今日も眠たい住人たち(1)
壁井ユカコ,テクノサマタ
電撃文庫
不完全な人々による不思議な日常
〈鳥籠荘〉は一風変わったたたずまいのアパートで、住人連中もどこか欠けたような、奇妙な人たちばかりです。〈鳥籠荘〉での日常は不思議な事件にあふれていますが、それも当然といえば当然でしょう。 それでも、このアパートでの暮らしが楽しそうに思えてなりません。〈鳥籠荘〉はまるでシェルターのように、事情を抱えた人々をやさしく包んでくれている気がします。 日常と非日常が交錯する不思議な読み心地でした。
1投稿日: 2013.10.14
今日から(マ)王! 魔王誕生編 【電子特別版】
喬林知
角川文庫
小ネタのオンパレード
ただの野球好きな男子高校生が異世界の魔王になってしまう話です。もともとは少女向けのライトノベルとして刊行されていました。 基本的に最初から最後まで笑える小ネタの連続です。中にはイマドキの若者にはわからないような(=少々懐かしい)元ネタから引っ張ってきたものもあります。そんな笑いの中にも現代世界の諸問題を連想させるシーンが織り交ぜられていて、軽いばかりの作品じゃないところも本書の魅力です。 小ネタの中にはBL的なもの(男性同士の恋愛を連想させるもの)もありますが、あくまでもただのネタですので、それを気にしなければ男性でも楽しめるかと。 魔王なのに自分の正義を貫く主人公、なかなかの格好よさです。
1投稿日: 2013.10.14
金色のコルダ 1巻
呉由姫,ルビー・パーティー
LaLa
恋と音楽に満ちた高校生活
同名の女性向けゲーム(いわゆる「乙女ゲーム」)をコミック化したものです。ゲーム原作作品にしては珍しく、ゲーム版のキャラクターデザインを担当したマンガ家がこのコミック版も手掛けています。 登場キャラクターや設定はゲームどおりですが、コミック版のストーリーはオリジナル要素が強く、ゲームをプレイしていなくても問題なく楽しめると思います。 女性向けゲームが原作だけあって、いろいろなタイプのカッコいい高校生男子が登場します。また、音楽科のある高校が舞台ですので、クラシック音楽が好きな方はより楽しめるでしょう。主人公・香穂子も頑張り屋さんで、思わず応援したくなります。 この作品にハマるうちに、無性にヴァイオリンを始めたくなりました……。
2投稿日: 2013.10.14
青空の卵 ひきこもり探偵シリーズ1
坂木司
創元推理文庫
こんな人たちと出会いたい
探偵役の鳥井は「ひきこもり」(ただし職持ち)で、初めは語り手の坂木以外には心を許しません。そのため、坂木以外の登場人物は鳥井の振る舞いに戸惑うことも多いようです。それでも鳥井は、坂木が持ってくる「事件」を推理することによって、坂木以外の人間ともかかわっていきます。 定期的に鳥井宅を訪ねる坂木をはじめとして、本作の登場人物はあたたかい心の持ち主ばかりです。多少の欠点さえその人の持ち味に思えてしまいます。料理上手の鳥井が作る料理はどれもとっても美味しそうなのですが、本作もコタツで囲む鍋のように心あたたまる物語です。
6投稿日: 2013.10.13
桐島、部活やめるってよ
朝井リョウ
集英社文庫
恐るべき文章力
スクールカーストとか現代の高校生事情とか、テーマ性は確かにあります。 でも、なにより強調したいのは著者の文章力。「これで(たしか執筆時)十代? これでデビュー作?」と驚くしかありません。風景・心情描写ともに巧く、しかも印象深いです。特に心情描写に関しては、登場人物と年齢が近い作者だからこそ書けた文章だと思います。 登場人物(高校生)と年齢が近ければ近いほど楽しめるでしょうが、最近の高校生事情をのぞき見る感覚で読んでみるのもいいかと。
0投稿日: 2013.10.13
タイニー・タイニー・ハッピー
飛鳥井千砂
角川文庫
女性目線の恋模様
とあるショッピングモールにかかわる人々の恋愛模様を描いた連作短編集です。 作者が女性ということもあり、出てくる男性はちょっといい人すぎたり、甘っちょろく感じられる部分があります。そのため、登場人物に現実さながらのリアル感を求める方にはあまりおすすめできません。 とはいえ、その点を別とすれば、さっくり読めてほんわか幸せな気分になれる作品です。女性や「嫌味のない、後味のよい小説」を求める方には楽しめると思います。
0投稿日: 2013.10.13
世界神話事典 創世神話と英雄伝説
大林太良,伊藤清司,吉田敦彦,松村一男
角川ソフィア文庫
上級者向き(?)の神話事典
世界の神話を解説した学術書です。数名の研究者が分担執筆していますので、基本的に文章は硬めです。もちろん挿絵もありません。 本書の強みはまさに「世界中」に伝わる神話を収録したことでしょう。「世界の起源」「火の起源」といった項目別に列挙された神話の数々は、ヨーロッパ、北米、日本はもちろん、アフリカ、ブラジル、ポリネシアに至るまで、幅広い地域から集められたものです。 また、神話を専門とする研究者が執筆しているため、内容にも信頼がおけます。 最初から最後まで通して読むのは正直疲れますが、マニアックな神話を知りたい場合や、(文字通り「事典」として)必要なときに必要な項目だけ調べるのには向いています。
3投稿日: 2013.10.12
