
いちば童子
朱川湊人
文春文庫
大阪の市場
大阪の下町の市場の描写がとても懐かしい。コーヒー屋さんの香りをテーマにした特集用の一作品だそうだが、あえて洒落たコーヒーの香りではなく、雑然としているが懐かしい市場の様々な匂いを描き出した作者の感性に感銘を受けた。メルヘンチックなストーリー展開もなかなかいいが、最後の正体を明かすところは蛇足かな。
0投稿日: 2022.10.27
チルドレン
伊坂幸太郎
講談社文庫
連作短編集だったんだな
作者 伊坂幸太郎のどの作品にも言えることだが、登場人物たちが実に饒舌である。ストーリー展開と関わりがあろうがなかろうが、勝手に喋りまくって 作者がせっせせっせとその言葉を後から書き取っているような感じがする。洒落た会話が楽しめたし、チルドレンⅡの落ちはなかなか見事であった。この作者の作品にしばしば登場する残虐シーンがまったくなく読みやすかった。
0投稿日: 2022.10.27
てるてるあした
加納朋子
幻冬舎
ほんわり系のお話
両親の夜逃げ というかなり衝撃的な場面から話はスタートするのだが、避難先で比較的周辺人物に恵まれて というややほんわか系のお話である。一人称独白という、読みやすくわかりやすい体裁で話は描き出されてゆくが、やや単調になるのはやむを得ないか。終盤にかけていろいろな秘密が明かされてゆくが、結果 まあ良かったね というところで落ち着く。
0投稿日: 2022.10.21
骨を彩る
彩瀬まる
幻冬舎文庫
連作短編集
読み終わると5篇の短編がつながっていて、ああ連作短編集だったんだな と気づくような作品であった。大声ではなく静かに淡々と語られるような語り口は、読みやすく理解しやすかった。人の死を扱った話は原則苦手なのだが、この作品は静かな語り口のせいか、すんなりと読むことができた。
0投稿日: 2022.10.21
最後にして最初のアイドル【短篇版】
草野 原々
早川書房
オタクなハードSF
オタクで味付けをしたハードSFである。オタク風味が優勢な前半部分はまあまあ読み進めることができたが、未消化なハードSF用語 単語が飛び交う後半部分は全く受け付けることができなかった。表題がまあ作品の内容をよく表していて、まさに「最後にして最初」であった。
0投稿日: 2022.10.21
魔群の通過
山田風太郎
角川文庫
風太郎らしかなる傑作
山田風太郎といえばおどろおどろしい時代劇モノ という先入観があったが、この作品はガラッと異なった作風の苦渋に満ちた実録ものである。綿々と続いた江戸時代の価値観が大きく変わる幕末に、もっとも悲惨な最期を遂げた水戸天狗党の始末を多感な筆で描き出している。作中のクライマックスの一つ 冬季 積雪期の奥美濃の峠越えは、私が若い頃、雪山登山で登ったところなので、当時の天狗党の苦労が実感として偲ばれた。
0投稿日: 2022.10.21マイコンプレックス
美野晶
マイコンプレックス
美野晶
辰巳出版
丁寧には書いてあるが
体に自信がない女の子の気持ちをどのように解きほぐしてゆくか を、丁寧には書いてあるが、ストーリー展開があまりにも平板で意外性や盛り上がりに欠けている。もう少し波乱がないと読んでいてつまらない。
0投稿日: 2022.10.20
年下のセンセイ
中村航
幻冬舎文庫
怖がり
恋愛に関してはやたらと怖がりの、その点ではお似合いの二人の話である。結果がハッピーエンドに落ち着くからいいようなものの、途中経過はずいぶんとじれったく苛立たしい展開である。文章はうまいとは思うが、肝心の主人公たち二人に心惹かれるものがない。
0投稿日: 2022.10.20
とまどい関ヶ原
岩井三四二
PHP文芸文庫
安定した面白さ
著者 岩井三四二得意の連作短編集である。次々と登場人物を変えながら、関ケ原の前日譚から後日譚まで時系列に沿った話の展開にしている、相変わらずの巧みな構成である。勝ち馬に乗ろうとして右往左往する登場人物たちの言動が、滑稽でもあれば哀しくもある。このような話を書かせると著者の筆は一段と冴える。
0投稿日: 2022.10.20
絢爛たる奔流
岩井三四二
講談社
創業と守成いずれが難きや
貞観政要の「創業と守成いずれが難きや」という有名な格言を思い起こさせるような作品である。強固な意志と高い能力で持って次々と河川改修 運河建設を進める父親に対し、本業を続けもり立てながら資金繰りに苦心する息子、好対照の二人である。現代の道路や鉄道の新設にも共通する苦心をする父親のほうがより一層目立つが、息子の苦労の方もしみじみ感じることができる。 ただ題名がピンとこなかった。
0投稿日: 2022.10.20
