ナチ_コチ_ショチさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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雷電本紀
飯嶋和一 / 小学館
雷電と言う江戸時代に無双の強さを誇ったお相撲さんの話と思いきや、やっぱり飯島小説には人生の機微がある。
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寡作で有名な作家だが、飯島氏の小説に外れ無しという感じ。相撲は好きでも嫌いでもなく、相撲中継すら見ることの無い私でも、『雷電』は面白いと思う。氏の小説に一貫して出てくるのは、お上の権威を着て保身一筋の…糞侍(いずれの小説でもこの言葉は出てくる)と善良な庶民または庶民の象徴としての何か(ここでは雷電、始祖鳥記では幸吉)の対立軸であり、この構図は、飯島氏の小説の根幹をなす。考えてみれば、今の政治家や官僚でも同じことで、所詮は糞侍の仲間か。本書の紹介としての書籍説明は、この本の特徴を表していない。相撲に興味のない方にも、本書はお勧め。確かに相撲取り・雷電の物語を書いてはいるが、これと並行して、鉄物問屋・鍵屋助五郎が出てくるが、むしろこちらが主役で、出来うるなら彼の様な行き方をしたいものだと思う。 続きを読む
投稿日:2016.02.24
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星宿海への道
宮本輝 / 幻冬舎文庫
星宿海に消えた雅人、娘は新たな星宿海を見つけられるだろうか。
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久しぶりに読んだ宮本輝小説。氏の小説は何を読んでも『何となくいい』としか言いようがない。星宿海に行くと言って失踪した雅人とその母の数奇な運命は非日常的だが、それを取り巻く人々の生活は多少の波乱があるも…のの平凡に過ぎて行く。これらの人たちの何気ない会話や関わりを通して“何か”を問い詰めようとする氏の文学は何とも言えない味わいがある。雅人の娘『せつ』は、母親である千春の愛情を受けて新たなる星宿海を見つけるのであろうか。 続きを読む
投稿日:2020.02.15
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軍師の門 上
火坂雅志 / 角川文庫
上巻は、黒田官兵衛の師であり、友である竹中半兵衛に主眼を置いた小説
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火坂作品の初読。作者の創作部分も相当に入っていると思うが、情緒を極端に配して淡々と時間軸に沿って記述されている小説で、純然たる歴史書を読んでいる感じ。文章力があり、滑らかに読み進められるので決して苦痛…ではないが、大河ドラマと比較しながら読んでみるのも面白いかもしれない。 続きを読む
投稿日:2014.08.01
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十字架
重松清 / 講談社文庫
感情の鈍くなった大人より、多感な時期の中高生に是非とも読んでほしい一冊。
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重松氏の小説に外れは無いな~というのが読後の素直な感想。ここ数年の氏の小説は重いテーマが多い。癌による死をテーマにしたものがいくつかある:『その日のまえに』という読みやすい短編から、『カシオペアの丘』…のように非常に重いものまで。これらに加えて、本書『十字架』はいじめによる同級生の自殺、それを背負い続ける人たちのその後の歩み。重松氏にしかできない表現もたくさんあった。内容の出来・不出来/好き・嫌いではなく、登場人物たちの思考・感情の表現そのものに賛否両論はあろうと思うが、中・高校生の多感な時期に読んで欲しい一冊。 続きを読む
投稿日:2016.12.21
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土漠の花
月村了衛 / 幻冬舎文庫
紛争地帯に前線も後方支援も無い。イマジネーションの欠落した政治家の集団的自衛権=交戦論に厳しい目を!
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『土漠の花』を読んで、まず考えるのは集団的自衛権。USとの友好関係は、日本の安定的平和にとって最重要ではあるが、CIA,MI5/6,モサドといった諜報機関を持たない(インテリジェンスが得られない)日本…が、無条件でUSに追従するのは危険。集団的自衛権とは、まさにUSに対する盲目的追従に等しいもので、この本をあまりにも想像力に乏しい“安部君とその仲間のバカ自民党議員達”に捧げたい。日本としてのグランドデザインをきちんと議論すれば、集団的自衛権をもちださなくても、国際貢献に寄与する方法はいくらでもあると思う。
確かに本書に書かれている通り、紛争に巻き込まれて戦わざるを得ない人たちの死に物狂いの奮闘・他人を生かそうとする気遣いは感動もの(登場人物の全てが格好良かった、よ過ぎたというべきか/思わず涙した場面も多々あり)だが、それでも誰もこんな戦いはしたくないと思う。将来不幸にして集団的自衛権が発動された場合、まずは安部キャビネットの数人を総責任者にして紛争地帯の前線に立ってもらいたい。それでこそ政治家魂だと思う。これレビューになってないですね! 続きを読む投稿日:2015.07.07
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散り椿
葉室麟 / 角川文庫
幼いころからの三角関係と藩政に秘められた謎とを情感豊かに織り上げた葉室ワールド
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本書『散り椿』は、葉室小説の中ではかなり情緒に訴える書き方をしている。『星火瞬く』は淡々と歴史書を読んでいる感じで、直木賞を受賞した『蜩の記』も涙腺を刺激する部分はあるが、あえて情緒を抑え気味に書かれ…ていると感じる。いづれが良いかは人により異なると思うが、私自身は、この小説がしっくりきて、一気読みに近い感じで読めた。舞台設定・ストーリーこそ、藤沢周平氏の『蝉しぐれ』と異なるが、つい同質のものを感じてしまう。両作家を比較してみるのも面白い。 続きを読む
投稿日:2015.10.26