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ナチ_コチ_ショチさんのレビュー
いいね!された数92
  • 荒蝦夷

    荒蝦夷

    熊谷達也

    集英社文庫

    平安期の熊谷流陸奥(みちのく)伝、2冊続けて読むと面白い!

    以前に読んだ高橋克彦氏の”火怨”が正史のようなイメージでインプットされているので、熊谷流にアレンジされたアデマロ伝はとても新鮮に読めた。かなり残酷なシーンもあり、アデマロが冷酷無比のように描かれているが、これも次のアテルイ(アデマロの有していない優しさ)に繋がる伏線になっている。『アデマロは、次なる新しい国を作るために息子のアテルイによって殺された』『戦闘の巫女としてのモレー(表に出ている男性のモレーは傀儡)』という設定も大変良く、書かれた順序は逆だが、この話が“まほろばの疾風”に繋がっていく。できれば熊谷氏の2冊と高橋氏の火怨を読み比べることをお勧めする。

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    投稿日: 2017.10.09
  • まほろばの疾風

    まほろばの疾風

    熊谷達也

    集英社文庫

    熊谷氏によるアテルイ伝、高橋克彦氏『火怨』との比較も面白い

    熊谷達也バージョンの『アテルイ伝』:高橋克彦氏と同様に東北の生まれであるからこそ書ける小説。ここでは、アテルイの相棒・モレは女性(大巫女)として描かれている(史実は男性なのでは?)。大和朝廷との戦争初期では、アテルイを長とする蝦夷連合が勝利を重ねるものの、策士・田村麻呂の出現で戦況は一変する。アテルイとモレとの結婚(相互に不干渉を保ってきたイサワとイワイの融合)、最後に帝に一矢報いるアテルイ&モレの姿は、熊谷オリジナルか?敵ながら田村麻呂の男気も含めて、素晴らしいエンディングと思う。『火怨』も早速読み返そう。

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    投稿日: 2017.09.21
  • 地のはてから(下)

    地のはてから(下)

    乃南アサ

    講談社文庫

    北海道開拓の物語、痛烈な反戦小説、女性の強さを語った小説。

    知床の厳しい自然の中で生き続ける『とわ』の半生を描いた小説。一方で、甘言を弄し北海道移住を喚起した『国家』、後半は第二次世界大戦という歴史(ある意味、『国家』の犯罪)に翻弄されながらも家族を成し、家族を育てた女性の強さを描いた小説。女性にとって、かつては『自然も国家も』敵だったということか。それにしても女性は強い。この本を読みながら、時代設定は少し前だが、坂東真砂子『梟首の島』との類似性を感じた。女流作家の後半では、このような小説(近代女性史)を書きたいものなのか。ぜひ読んでいただきたい佳作だと思う。

    0
    投稿日: 2017.08.27
  • 地のはてから(上)

    地のはてから(上)

    乃南アサ

    講談社文庫

    内地で行き場のなくなった家族が求めた新天地(北海道)は?

    今でもウトロと言えば、知床半島で人の住んでいる北東限という感じがするのに、大正時代にその先のイワウベツを開拓するのは不可能だったのでは・・・というのはリアルにわかる気がする。自然環境の厳しさに加えて、収穫期にイナゴの襲来があるとさぞかし気落ちするだろう。上巻は、一攫千金を夢見たむらっけの多い父親に従って北海道開拓団に加わった一家、特に娘の『とわ』の14歳までの歴史が淡々と綴られる。平行して、甘言を弄して国民を開拓に駆り立てた国家の歴史も理解が進む。総評は下巻を読んでから。

    1
    投稿日: 2017.08.27
  • 最悪

    最悪

    奥田英朗

    講談社文庫

    悪い方へ、悪い方へ流されていくが・・・奥田氏の傑作の一つ

    この小説は、奥田氏の傑作の一つに入るかもしれない。モラトリアムの極みのような若者(両親からネグレクト)、何の変哲もない年若いOL(悩みは色々あるが)、そして多くのしがらみを抱えてくたびれているピークを過ぎた町工場の社長(私としては一番思い入れがあるが)、小説では三つのストーリー構成で三者三様の時を刻み、最終的には御殿場に逼塞することになる。この際の行き場のない閉塞感を、奥田氏はどう収束するのだろうと読み進めたら、何とやくざが最後のカタストロフを起こし、幕引きとなる。うーん、うまいとしか言いようがない。登場人物の背景描写も細かく、リアルに書かれており、文体も平易で飽きずに読み進められる。お勧めです。

    0
    投稿日: 2017.08.11
  • 双子の悪魔

    双子の悪魔

    相場英雄

    幻冬舎文庫

    頭脳明晰な人間が反転すると・・・・

    少年時代に悲劇を味わった在日韓国人が、株に関する違法取引や時には殺人を犯してまで日本および韓国に復習する。確かに表だけを歩いている普通の人には彼の気持ちはわからないかもしれない。本作品の主役である美奈子や潤一郎と比較しても、裏側から不気味な光を発し続けた(続けている)沼島という男に強烈な存在感を覚える作品。成績優秀・野球でも活躍していたのに、父親の死、かつ生きていくのに精一杯の環境が、彼を悪に変えた。それにしても読んでいてなんか疲れたな。面白く読めた作品だけど、読後感の持って行き場がない感じ。

    0
    投稿日: 2017.07.20
  • 転生

    転生

    貫井徳郎

    幻冬舎文庫

    臓器移植に伴う記憶の転移:意欲的なテーマも佳作

    この本が上梓された1999年当時には相当に先進的な内容だったと思われる。脳死判定の是非も定かでなく(ある意味、今でもそうだが)、まして移植した心臓を通してレシピエントの記憶が転移するなどという突飛な話に取り組むには、かなりの覚悟がいったと思う。最近NHKで、記憶はどこに存在するかといった番組が放送されたが、記憶は脳だけでなく個々の細胞内に存在するという内容だった。レシピエント・ドナー間の記憶の転移を中心に、後半(終盤)は、氏の得意領域でもあるミステリー仕立てで進んでいく。この作品のテーマ(臓器移植および記憶の転移)は、今でも進行形ものでなかなか読み応えのある佳作。

    0
    投稿日: 2017.07.01
  • 腐蝕の王国

    腐蝕の王国

    江上剛

    幻冬舎文庫

    硬い経済小説のイメージがあったが、サクサク読める佳作

    私にとっては、2作目の江上作品。さすがに元銀行マンが書いただけあって、銀行の裏事情がリアルに書かれていて面白かった。現在・過去の2つの時間軸が比較的短いテンポで交互に記述されており、これにより長い小説にもかかわらず、飽きずにサクサクと読むことができた。不良債権隠し(飛ばし)、子会社を通じての迂回融資等々銀行の悪行が延々に続くかと思われたが、終章で物語はドラスティックに展開する。ストーリー的に藤山を殺す必要まであったかどうか疑問だが、血のつながりとは、家族とはについても考えさせられる。

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    投稿日: 2017.06.25
  • φは壊れたね PATH CONNECTED φ BROKE

    φは壊れたね PATH CONNECTED φ BROKE

    森博嗣

    講談社文庫

    気軽に読める推理(謎解き)小説、旅のお供にいいかも。

    森博嗣作品の初読み。好きな人には根強い人気を持つ作家だと承知していたが、何故か避けてきた(学部こそ違え、同じ大学の先輩というのも敬遠してきた要因かな)。Gシリーズとの触れ込みだが、このシリーズは軽いタッチの”謎解きが中心”のシリーズなのでしょうか(見当違いなら恐縮です)。文章は読みやすく、出てくるキャラクターも面白く、ストーリーもすんなりと頭に入る。あと数冊読んでから私なりの総評をしよう。ひとまず星3/5としました。

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    投稿日: 2017.06.18
  • スリーパー

    スリーパー

    楡周平

    角川文庫

    落合信彦を思い出させる楡氏のインテリジェンス(情報機関)小説

    楡氏の小説はやはり情報機関(インテリジェンス)の争いが面白い。この小説では、CIA vs 中国人民解放軍・瀋陽軍区の東アジア海域の覇権争いだが、若かりしころに夢中で読んだ落合信彦氏の小説をほうふつとさせる。社会派小説としての楡氏も悪くは無いが、無限連鎖やこのスリーパーに代表される各国の情報機関相互の情報合戦、最終的には破壊工作が面白い。プロローグとエピローグで朝倉恭介が出てくるところも、今後の続編を期待させる。

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    投稿日: 2017.06.09