shiroyagi03さんのレビュー
参考にされた数
8
このユーザーのレビュー
-
リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください 井上達夫の法哲学入門
井上達夫 / 毎日新聞出版
このタイトルをこの著者がつけるとは思えない。そういう意味ではずるい(でも秀逸です)。
5
タイトルも軽いし、文章もインタビュー形式で読みやすい。
とはいえそこは法哲学者の書いた法哲学の本ですから、きわめて中身は重たい、充実した内容の本です。
面白いし読んだあとすこし賢くなったような気がす…る良書ですが、ただこれだけでわかった気になってはいけない、この本の面白さを本当に血肉化したいのなら、関連書籍をあと7、8冊は読まないとだめなんだろうなという気にもさせられる。そういった意味では、絶望的で残酷な本でもあります。
たとえば、第二部でグローバルジャスティスの必要性を説いていて、それはそれで理解できるけど、それと同時に、例えば誰かから、これは八紘一宇的な発想とどうちがうのものなのと聞かれた時に、なんと答えればいいのかがわからない。感覚的にそれとこれとは違うというのはわかるがそれをどう伝えればいいのかがわからない。
また、第一部でパターナリズムに対する疑義を語っていたけど、実際問題パターナリズムを行使しないことには、グローバルジャスティスは実現し得ないのでは。
理想というか論理的帰結が一方にあり、相対立するものとして現実の諸問題がもう一方にある。たとえばそんなときに、この2つを如何に融和し問題点を解きほぐすのか。たぶんワタクシが知っていないだけで答えはでているのかな、とおもわれる疑問もいつくか湧き起こる、そんな本です。
あるいはそれは深読みで、本当は答えは出ていなくて結局はそれが哲学や法哲学の衰退を生じさせているのかもしれないけど。
ゆめゆめこれ一冊だけでわかった気になってはいけない本ではあるけど、それでもやっぱりいろんな人に読んで欲しい、大変おもしろい刺激的な本でした。
最近読んだ紙の本で「社会はなぜ左と右にわかれるのか」ジョナサン・ハイト著 高橋洋訳という本があります。この本を縦糸に、本書を横糸に、一人であれこれ考えを巡らせています。前書は社会心理学者の本、後書は法哲学者の本でジャンルは違うけど、なんとなくリンクしているところがあるような気がしています。
あと、サンデル本はなんとなく敬遠していて読まずに今に至っているけど今度呼んでみようかという気になった。だけどやっぱり読まなくいいかも。
どっちだ。
続きを読む投稿日:2015.12.30
-
わたしを離さないで Never Let Me Go
カズオ・イシグロ, 土屋政雄 / ハヤカワepi文庫
ここに描かれている世界は、本当に小説の中だけなのでしょうか。
1
少々ピンぼけな、漠然とした感想ですが。
静かに物語が進行していきます。
少々まどろっこしくもあります。
どちらかというと本読み上級者向けの小説なのかな、といった感じがします。
子どもの頃から特殊な…環境で育てられている。
我々の世界と地続きの世界とはいえない、別の世界で生きている。
その存在理由は、いってしまえば人々の欲望の対象でありつづけること。
それでもなお、みずからの人生を生きていく。
そんな世界に住んでいる人たちのお話です。
エピソードはいろいろあります。
そのエピソードの一つがタイトルにもなっている「私を離さないで」という曲に関するものです。
でもそれぞれのエピソードは本当はあんまりどうでもよくて(失礼)、それらの細部からにじみ出てくる世界観が大事なような気がします。
なので読み進んでいくと、その世界の中に自分が溶け込んでいくような、そんな気になります。
いい小説やいい映画ってそういうところありますよね。
我が身の置き場所はそこにはないんだけど、すっかりその中に溶け込んでいるような感覚になること。
そう、あの不思議な心地よさです。
それがこの小説にはあります。
最初に読んだのは、この本がでたばかりの頃です。
そのときは、読み終わったときに柳ジョージさんの「コインランドリーブルース」という曲のサビの部分が頭の中で鳴っていました。
最近思うところがあって再読してみました。
読み終わったときに頭の中に鳴りひびいたのは。。
ちょうど今、テレビドラマ化されているようです。
そういった折でもあり、またそれとは別の意味でも、今なら本読み上級者ではない人たちでも興味深く読むことができるのではないかと思います。
あと、カズオ・イシグロによる「物語のちから」ががすごいのはもちろんですが、訳者である土屋政雄の日本語への「移しかえのちから」もすごいと思います。
ここは特筆に値すると思います。
続きを読む投稿日:2016.01.24
-
むしろ暴落しそうな金融商品を買え!
吉本佳生 / 幻冬舎新書
あなたが働かないのにおカネが働いてくれることはない。
1
平成24年11月刊行の本です。
内容が古いかというと、そうでもありません。
タイトルこそ乱暴ですが内容はいたって真っ当なものです。
「長期投資」「分散投資」は今となっては有効でなくなったこと、こ…こをメインに話が進みます。
本書はお金儲けの指南本といっていいでしょうか。
ん~どうでしょう。
わたくし的には指南本と言ってよいように思いますが、人によってはちがう感想をもつかもしれません。
「第3章 分散投資ではもはや資産は守れない」での分散投資についての現状分析は、なんとはなしに感じていた点であり、そこを論理的かつ周到に説明してもらって、目からウロコかつ我が意を得たりとの感想をもちました。
また、長期投資について、おそらくですが今(2018年9月)から10年くらいにさかのぼってみてみれば、このスパンでの長期投資で成功している人は、実は多いかもしれません。
そういった人たちにとっては長期投資はいまなお有効な投資方法であると感じているかもしれません。
いまの経済がバブルだとは思いません。
でも油断は禁物です。
あるいはそろそろ暴落を迎えるのかもしれません。
これは杞憂かもしれませんが、そのような危機意識をもつことの重要性を、本書は主張しているようにも思えます。
「第6章 『暴落しそうで不安だ』と思う資産のほうが安全?」のおしまいのほうに、
「徹底してリスク管理を考えながら投資を続け、致命傷を避け、いつかバブルに乗って大儲けをするチャンスを狙うのが、今の世界の金融市場に適した投資だと、筆者は考えます。」
とあります。
わたくしも同意いたします。
なおまったくの余談ですが、読みながら、ナシーム・タレブの「ブラックスワン」や「反脆弱性」を思い出していました。
その主張に類似性があると思います。
続きを読む投稿日:2018.09.05
-
トラウマ
宮地尚子 / 岩波新書
わかりやすいけど奥が深い、そして答えはみえない。
1
例えばなんでもないときに、ふと心のなかで「それ」がよぎって「あぁ~」とか「うっ」とか声がでてしまったり。
例えばシャワーを浴びているときに、ふと心のなかで「それ」がよぎって「おれバカおれバカ!」とかい…いながら頭をゴシゴシしだしたり。
「それ」は誰かに傷つけられた記憶だったり、誰かを傷つけた記憶だったり、他人とは関係のない自分のなかだけの恥ずかしい思い出だったりで、どうってことのない過去のあれこれだけど、本当に突然想起されて、心にべったりと張り付いて心のコントロールがきかなくなる。
そんなことがあります。
想像するにトラウマは、この延長線上にあるもの(はるか先ですが)、これのもっと強烈でもっと頻繁におこるもの、なのでしょうか。
そうであるならこれは確かにしんどいです。
ちょっと身がもちそうにありません。
トラウマについて、またトラウマを抱えた人のそばにいるということについて、この本はよくまとまっていると思います。
この「まとまっている」というのは、教科書的という意味とはちょっとちがいます。
おそらくは、著者が手探りで調べ考えた言葉をつかっている、すでに評価が定まっているオーソリティの言説のコピー&ペーストといった借り物の言葉を埋め草的に使ったりしていない、そんなかんじです。
著者の矜持というか誠実さというか、そういったものが伝わってきます。
この本は、読めば自分が抱えている問題が一刀両断で解決する、といった種類の本ではありません。
「こうすれば楽になるよ」とか「こういうふうに接するべきですよ」とかの具体的なアドバイスはしていません。
そう簡単に解決策・処方箋をだしえない問題ばかりです。
処方箋を求める向きにはモヤモヤが残るかもしれません。
とはいえ個人的には、トラウマを抱えている人の近くにいる人たちに対しての章すなわち第三章でもう少し解決策・処方箋的なものを提示してもらいたかった、とも思います。
傷ついている人が目の前にいて、その人をなんとかしてあげたいと思う。
自分がセカンドレイプをするようなまねをしてしまうこともある、あるいは、その人の苦しみを丸抱えして自分自身が深く傷ついてしまうこともある。
確かに気づきにくい点であり、大事なことです。
オーケー、了解しました。
では、どうすればいいのでしょうか。
専門家ではない身として、そばにいるにはどうしたらいいのか。
そばに居続けるだけでいいのでしょうか。
もうちょっとなにかしらのヒントがあったら、というのが本音です。
なかなかむづかしいな。
続きを読む投稿日:2016.03.21
-
脳は回復する―高次脳機能障害からの脱出―(新潮新書)
鈴木大介 / 新潮新書
井上陽水は「氷の世界」の頃、アフロヘアーでした。
0
本書は、不幸にも脳梗塞を引き起こして高次脳機能障害を負った方の体験談です。
前著に「脳が壊れた」という本があります。
前著もそうでしたが本書は、内容はかなりシリアスなものですが読みやすい文章で書か…れています。
著者は本書において、脳梗塞からのサバイバーとして発言・提言されています。
個人的な体験をベースとして、自分が抱えることとなった様々な障害や症状を分類し、その特徴を説明し、その対処法や解決法を探っています。
言ってみればこれらは「切れば血の出る生身の言葉」です。
ここに本書の主眼があります。
また著者の職業は取材記者であって、これまで職業上取材対象者として多くの貧困者や種々の被害経験者に接してきています。
彼ら彼女らから感じることのあったある種独特のパーソナリティと、今回自分が抱えることとなった障害・症状との間に、類似性があることを見いだしました。
ここも慧眼だと思います。
もっともこの、取材対象者に関するくだりについては、読んでいて息苦しいというか、気持ちが揺れるところもありました。
著者は本書の中で、みずからの障害・症状からの回復に必要だったものを挙げています。
ただし、それすなわち上記の取材対象者たちが決定的に持ち合わせていないもの、だったりします。
この点において著者が、この場で共に語らんとする取材対象者との間に解離というか溝を作ってしまっている、そんな気がするのです。
あるいはわたしが頭でっかちで、誤読や曲解をしているだけなのかもしれません。
ただ、著者のいう「助けなきゃいけない人たち」(「助けなきゃいけない人たちが、助けたいと思えるような人たちだとは限らない」のだ。)の中にはこのような誤解や曲解をしてしまいがちな人もいるのではないでしょうか。
そんな気がして、微妙に気持ちがヒリヒリしながら読んでいました。
そんなこんなで個人的には著者に対して、今は「あれもこれも」とは考えずに、脳梗塞からのサバイバーとしての発言・提言に主軸を置いた方が良いのではないかな、と感じました。
結局はそれが、著者が求めているものの全てにつながるような気がします。
アトゥール・ガワンデの「予期せぬ瞬間」(みすず書房)という本があります。
この本の中に「厄介事が起こると、私たちはそれを悲劇と呼ぶ。しかし、ひとたび誰かが書き記せば、それを科学と呼ぶ。」(原註 まえがき1)とあります。
高次脳機能障害をもつ当事者からの発言・発言はまだまだ少ないのが現状のようです。
より多くの当事者の声が書き記されることを望みます。
そして、より多くの厄介事が科学に還元されることを望みます。
(本当は著者の奥さんについても書いてみたかったけど、なんか力尽きてしまった。)
いい本です。読んでみてください。
続きを読む投稿日:2018.04.11
-
仕事に効く、脳を鍛える、スロージョギング
久保田競 / 角川SSC新書
とりあえず今日からちょっとだけ走ってみましょう。
0
ボリュームもそう多くなく、文章も読みやすいです。
そうですね、2・3時間くらいででさくっと読めます。
奥付をみると、2011年11月5日第三刷を底本として2012年1月1日に電子書籍として発行…、とあります。なのでいま(2018年)からみると少々古い本です。
とはいえ内容的に時代遅れという訳ではありません。
ゆっくり走るといいことあるよ、走るときはフォアフット走法で走るといいよ、こういったことが書かれています。
「Born To Run」(クリストファー・マクドゥーガル著 NHK出版)や「脳を鍛えるには運動しかない!」(ジョンJ・レイティほか著 NHK出版)を本文の中で紹介・引用しています。
上記の出版時期からいって、この辺の話が話題になっていたころに、これらの内容を若干希釈して読みやすくし、そこに本著独自の視点や解釈を加えている、そういった本づくりをしているのだろうなとの印象を受けました。
子供のころの体育の授業にいやな思い出がある人は少なくないと思います。
運動なんて疲れるししんどいしなんか嫌だな、といった人も多いと思います。
でもそういいつつ、体を動かすことは楽しいことだ、ということをわかってもいます。
スポーツもそうだしダンスもそうだし、音楽に合わせて頭を揺らしたりするものそうです。
なんだかんだいっても体を動かすことは楽しかったり気持ちのいいことだったりするものです。
そんななか、ゆっくり走るあるいは無理なく走る。これが一番手っとり早くて一番人に適した運動なんだろうな、そう思わす内容でした。 続きを読む投稿日:2018.05.15