sabachthani?さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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もう年はとれない
ダニエル・フリードマン, 野口百合子 / 東京創元社
おじーちゃん、何やってんのっっ!!
11
そんなツッコミを入れずには居られない、ハードボイルド(?)な作品です。
主人公のバック・シャッツは偏屈で皮肉屋で元殺人課刑事で、そして愛妻家の87歳。
かつての戦友が『「あんたに親切とは言えなかった」…(←この言い回しが面白い)ナチス将校が生きている』と遺言を遺したばっかりに、トラブルに足を突っ込む事に…。「そんな無茶な」って事の連続で目が離せなくなりました。
「年寄り扱いするな」と言いながらも、都合が悪い時は聞こえてない振りをしたり、寄る年波に勝てない事実を突き付けられるとしょぼんとしたりするおじいちゃんのキャラクターが秀逸です。コンビを組む孫のテキーラもなかなか変な性格で楽しい。
その他、日本人にはあまり馴染みのないユダヤ人コミュニティの様子が詳しく描写されていて興味深かったです。
年末恒例の各ミステリーランキングで読者部門の上位を占めていましたが、それも納得の面白さです。 続きを読む投稿日:2015.03.13
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ヴァン・ショーをあなたに
近藤史恵 / 東京創元社
第二弾もやっぱり美味しそう!
12
三舟シェフの過去と意外な姿が見られる、「ビストロ・パ・マル」シリーズの第二弾。
前回と違ってギャルソンの高築くん視点だけでなく、お客さん視点の作品、フランス放浪中のシェフを当地で出会った日本人視点から…描くものとバラエティに富んだ内容になっています。
特に、三舟シェフの珍しい姿が見られる「マドモワゼル・ブイヤベースにご用心」とシェフ特製ヴァン・ショーの始まりを描く表題作は要注目。
さらっと交わされた会話の何気ない一言から真実を見抜くシェフの推理に拗れていたものが解され、相手の事を考えて作られる慈味深い料理に身も心も満たされる。こんな店が近所にあったら絶対に通う。 続きを読む投稿日:2015.03.02
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バネ足ジャックと時空の罠 上
マーク・ホダー, 金子司 / 東京創元社
ごたまぜ感が楽しい!スチームパンクSF
9
ヴィクトリア朝をベースに、科学技術の発達しすぎた19世紀ロンドンが舞台の冒険活劇。
品種改良された動物たち(伝達インコ、伝送犬、箒猫、メガ馬)、ローターチェア(空飛ぶ肘掛け椅子)、気送チューブ(地下鉄…のようなもの?)など、いわゆるスチームパンクと呼ばれる作品に付き物のオーバーテクノロジーなギミックがいっぱいで楽しい作品です。中でも、伝言の際に必ず悪態を付け加える伝達インコともふもふな長毛でおそうじする箒猫には思わず笑ってしまう。
首相から密命を受け、ロンドンに出没する人狼やマッドサイエンティスト、犯罪者たちを探る冒険家バートンは変装・語学・格闘・剣術に長けていて、催眠術の解除もできたりとちょっとチートすぎるんじゃないかと思わないでもないですが、相棒のドMな詩人・スウィンバーンの楽天的で突っ走るキャラクターとの組み合わせが良い感じ。
バートンの調査の過程で明らかになるマッドサイエンティスト達に歴史上の人物がいて、あんな偉人達を悪党にするのか?と意外でした。誰がどうなのかは読んでみてください。
翻訳モノによくある欠点として、最初のうちはちょっと冗長に感じるのですが、バネ足ジャックの登場あたりから物語に勢いがつき一気読みでした。ツッコミ処も多々有りますが、それも味です。 続きを読む投稿日:2015.02.24
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健康男 体にいいこと、全部試しました!
A.J.ジェイコブズ, 本間徳子 / 日経BP
健康は気になるけど、つまらんハウツー物は読みたくない人へ
2
健康に不安を覚えた著者が、ありとあらゆる健康法を試してみたルポです。
常にバカでかいヘッドフォンを装着したり、NYのセントラルパークで半裸で走り回ったり、奇行としか見えないフィットネス教室に参加したり…と、やることが極端な著者にツッコミを入れずには居られない。語り口調もユーモアたっぷりで読み物として面白いです。
笑いながら読みつつも、理にかなった健康法の数々にいつの間にか参考にしてしまっている自分に驚きました。ある意味、極端な方法を知る事で、自分に合った健康法を見極める一助となるのではないでしょうか?
トレッドミル(ウォーキングマシン)で歩きながら原稿を書く姿や、除菌派の著者と免疫力をつける為少し位の菌は問題なしと考える妻の戦い、洋式トイレを和式にする下りはかなり笑えます。
上から目線で~しなさいと言うような本や、平凡なハウツー物は読みたくないけど健康が気になる方にオススメです。
続きを読む投稿日:2015.01.29
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走れ病院
福田和代 / 実業之日本社文庫
綺麗事だけでは病院経営は成り立たないけど…
5
この著者はホントに、崖っぷちで奮闘する人たちを描くのが上手いなぁ。
海外出張中に勤め先が倒産、病院長の父親が急死し、なし崩しで赤字経営の病院理事になってしまった青年の奮闘物語です。
地方の医師不足、患…者のたらい回し、勤務医のワーク・ライフ・バランス、医療現場での貧困ビジネス等、作中で取り上げられる問題は多岐に渡り、素人には手に追えないようなことばかりですが、主人公の愚直なまでの誠実さや素人だからこその視点にひょっとしてどうにかなるのでは…と思い応援したくなります。
数多くの問題を抱え、綺麗事だけでは病院経営なんて立ち行かないのは明らかだけれども、この主人公達のように良心と誠実さを理想に置いていて欲しいなと思います。 続きを読む投稿日:2015.01.29
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泣くな道真 大宰府の詩
澤田瞳子 / 集英社文庫
泣いてるなんて、らしくない!
12
一介の学者から大臣にまで登り詰めた菅原道真は、世渡り下手故に大宰府へと左遷されて失意のうちに亡くなり、一方で京の人々は道真の怒りを恐れて神へと奉り上げた…。
菅原道真に関して大体こんなイメージでいたの…ですが、当時最高の頭脳を持つ人物があっさりと失意のうちに死ぬっていうのにも違和感があった私には、この作品は「こんな道真像が見たかった!」と満足の一冊でした。
大宰府に着いた道真は始めは屋敷に引きこもり泣き暮らしているのですが、監視役の小役人・保積と大宰府庁幹部の姪・小野小町(恬子)が博多津の街に連れ出した後は大陸との交易地である当地を満喫する現金な暮らしぶり。
途中、度重なる不幸や他者からの批判に再び失意に陥るのですが、周囲から知恵を借りたいと求められてからは、これでこそ智者・菅原道真だという展開です。
道真の雷神伝説も、定説を知ってるとちょっとニヤリとしてしまいます。
物語の中では喜怒哀楽が激しく描かれていますが、人間くさい道真像も意外性があって魅力的でした。 続きを読む投稿日:2015.01.26