sabachthani?さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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攪乱者
石持浅海 / 実業之日本社文庫
九つの文藝作品とテロリストたち
6
社会を攪乱させ日本政府の転覆を企むテロ組織メンバー3人が受けた奇妙な任務と、その任務によって引き起こされる結末を描く9編の連作短編集。
コードネーム「久米」「輪島」「宮古」のテロリスト3人が組織から言…い渡される任務は目的がよくわからない奇妙なものばかりで、不可解に思いながらも実行する彼らにもう一人のメンバー「串本」が任務の目的を解説するというのが各話の基本的な流れです。
暴力や流血沙汰になるような方法は採らない、実行部隊に任務の意図を知らせないという組織上層部の方針が優秀な3人のテロリストの関係や運命を変えていきます。
各短編のタイトルは「檸檬」「一握の砂」「蜘蛛の糸」「みだれ髪」「舞姫」など学校の授業でも習うような文豪の有名作品がずらり。タイトルの雰囲気だけを用いたものもあれば、作品の内容が短編のストーリー展開を示唆しているものもあり、それぞれの文藝作品がどう絡んでくるのか深読みするという楽しみ方もあります。
暴力は用いないとは言え、他人を駒のように扱い、不安を煽るような彼らの行動・考え方に共感は覚えませんが、いつかこんな人たちが出てきてもおかしくないと思えてちょっと背筋が寒くなります。 続きを読む投稿日:2014.10.25
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ある日、アヒルバス
山本幸久 / 実業之日本社文庫
はとじゃないよ、アヒルだよ♪
9
観光バス会社「アヒルバス」のバスガイド・デコが主人公の笑えて元気になれるお仕事小説。
どう見ても「はとバス」がモデルな「アヒルバス」ですが、定番の東京観光ツアーに加え、『ディープな東京でドキドキ!旦那…様にはナイショでナイト』なんていうイロモノツアーも行っている楽しげなバス会社です。
そこの中堅ガイドのデコ(秀子)も本人はわかって無いけど、ちょっとズレてる感じが楽しい。個性的なツアー客のグループや新人に対するあだ名のネーミングセンスといい、同僚たちへのツッコミといい、思わず笑ってしまうキャラクターです。
かつては数々の失敗を起こしていたデコも新人教育を任されるようになったものの、尊敬する三原先輩のようにはできないことに悩みますが、彼女が自分なりのやり方を見出すシーンには「仕事ってそういうもんだよな」と共感できます。
仕事ガンバロって思えて、元気になれる一冊です。
それにしても、デコが通勤に愛用する自転車のロゴには笑わされた。ヤッターマンかよw 続きを読む投稿日:2014.10.25
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火星の人
アンディ・ウィアー, 小野田和子 / ハヤカワ文庫SF
火星サバイバル!
20
火星探査ミッションの打ち切りに伴う帰還直前の事故で同僚達から死んだと見なされ、たった一人で置いてきぼりにされた宇宙飛行士マーク・ワトニーのサバイバル記録。
少しの誤りが命取りな火星の過酷な環境、助けを…求める事も出来ない孤独な状況の中で、自らの知力・体力と限られた物資を最大限に活かして地球への生還を図ろうとするワトニーのキャラクターが最高。絶望的な状況にもかかわらず、希望とユーモアを忘れない彼にきっと好感を覚えるハズ。読んでいて「宇宙兄弟」の南波兄弟が思い浮かびました。「宇宙兄弟」好きなら読んでみて損はないかも。
また、サバイバルにあたっての試行錯誤の内容や、NASA側の技術についての描写もディテールが細かく、これぞサイエンス・フィクション!て感じで面白い。
登場人物達の口調がハリウッド映画や海外ドラマの吹替えみたいな上、ワトニーが残した日記という形式の文章ですので、ボリュームがある割りに一気に読めて、翻訳モノが苦手な方でも読みやすいと思います。
ちなみに、私は脳内でワトニーの声に山寺宏一さんを当ててみましたが、この読み方はちょっと楽しかったです。 続きを読む投稿日:2014.10.16
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すべての神様の十月
小路幸也 / PHP研究所
十月だから、神様を思って読んでみた。
9
八百万の神がいる日本だから、いろんな神様がいて当たり前。そんな神様達の優しい6編の短編集。
初めの3編は死神、貧乏神、疫病神とあまりお近づきになりたくない方々だけど、誰かに憑き淡々と仕事をする彼らは…逆説的に人々の幸せを導いてくれる。
他に、交通誘導員の道祖神、九十九神となって喋るお釜さん、自分がどんな存在か忘れてしまった福の神。
人間の中にいると神様達も人間臭くなってしまうけど、導く側の存在である事は変わらない。
「人間の前に姿を現す時は偽名を名乗り、対象者が亡くなる(貧乏になったり、病にかかったり)のを見守るだけ」という神様達のスタンスは伊坂幸太郎氏の「死神の精度」から設定を拝借したそうですが、飄々とした死神・千葉と味わいは違っていて、こちらの神様達はみんなお人よし。
この優しさが小路さんらしいです。 続きを読む投稿日:2014.10.02
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茅田砂胡 全仕事1993-2013
茅田砂胡 / 中央公論新社
電子化待ってました!
10
茅田砂胡ファンには待望の電子化です。
通称・弁当箱と呼ばれ紙の実物は5cm以上の厚さがあったため、購入に躊躇しているうちにリアル書店では見かけることもなくなってしまい読めないのかと思ってました。こうい…う分厚い本こそ電子化にはもってこいです。
巻頭の「紅蓮の夢」はデルフィニア戦記のウォル王がリィ達の共和宇宙に来たら、リィが再びデルフィニアに戻ったら、という夢のようなストーリー。これだけで分厚い本の半分近くを占めます。
その他も各シリーズの番外編ショートストーリーやそれぞれの絵師さん達によるコミックがあります。各番外編は本編の紹介をかねているので、全作品を読みつくしていない方でも満足できそう。つまみ読みでも大丈夫です。 続きを読む投稿日:2014.09.29
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シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱
高殿円 / 単行本
百合ホームズ(笑)!
8
英国ドラマ「SHERLOCK/シャーロック」や米国ドラマ「エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY」等で現代化したシャーロック・ホームズの物語が流行りですが、さらに一捻り加えてホームズ&ワトソン…両方を女性化したのがこの作品。高殿さん曰く、「時代は百合ホームズ!」とのことw。しかもレストレード警部、マイクロフト、モリアーティ教授までもが女性って‥。
ストーリーはホームズとワトソンが出会う「緋色の研究」を元にしていて、原典との違い、共通点、様々なところにちりばめられた小ネタを探すのはもちろんですが、ドラマ「SHERLOCK」1話目の「ピンク色の研究」と比較して読むのも楽しいです。
タイトルの「憂鬱」というのは登場人物が皆女性だからこそのネーミングで、トリックや犯行の動機を考えるとなるほどと思いますが、男性読者は引いてしまうかも‥。
突っ込みたい所も多々ありますが、あまり詳しいことは考えず、女子校ノリを楽しむ感じで読んでみてください。 続きを読む投稿日:2014.09.05