
道三堀のさくら
山本一力
角川文庫
江戸の水事情
テーマの設定や人物描写にはいつも感心させられる。今回は江戸時代の「水売り」の話。おいしい水を町民に届けることを一生の仕事として打込む青年が主人公。その青年は、近い将来、そば屋の娘と所帯を持ちたいと考えている。そこにかつお問屋の若旦那が登場し、二人の間に亀裂が入る。でも男二人の思いは同じで、「おいしい水」を追求しているのである。
1投稿日: 2015.05.25
さいはての彼女
原田マハ
角川文庫
さいはてに向かって突き進む女たち
4つの短篇から構成されており、最後の「風を止めないで」だけは少し心動かされた。ハーレーダビッドソンに惚れ込み、それ特有の”風”を感じとる様々な人びとの心模様をうまく描写している。ストーリーは本のタイトルにもなっている一つめの短篇「さいはての彼女」とつながっている。できれば、この2本を結びつけて長編小説に仕上げてもらいたかった。
0投稿日: 2015.05.25
月魚
三浦しをん
角川文庫
少女漫画風な展開
作者はどうも古本分野が得意のようだ。ここでも古本屋三代目の若い店主が主人公である。この人物がどうも女性っぽい。その仲間にこの業界で卸で儲ける「せどりや」という同世代の男友だちがいる。その若い二人は古本業界では経験浅いにもかかわらず、本への愛着が人一倍あり、買取り価格の設定能力や所有者の本への思いも察することができる才能に両者は優れている。父親との確執も絡ませながら展開するストーリーであるが、女性っぽい主人公の設定には抵抗があり、好感を抱けない作品である。
0投稿日: 2015.05.25
なるだけ 医者に頼らず生きるために私が実践している100の習慣
五木寛之
中経出版
心身一如
身体と心は切り離すことはできない。身体が教えてくれる異変(病気)に自分の心が応えないといけない。病気の治し方は、個々人によって異なる。「あれがいい、これがいい」と医者やメディアで言われているものは万人に通用するものではない。寝たきりになってまで、「生」を医療機器で延命するのはどうかと疑問を投げかける、などなど、考えさせられる点があった。
2投稿日: 2015.05.25
崩れる 結婚にまつわる八つの風景
貫井徳郎
角川文庫
妻の決断
ミステリ風の短篇が8つ。冒頭の「崩れる」が本のタイトルにもなっているように印象に残る作品。私の中学・高校と同級だった女の子が陶芸家と結婚をしたが、生活苦で凄惨な焼身自殺をした事件を思い出した。芸術家は創作に打ち込んで眼を輝かせている姿は美しい。片や、挫折から立ち上がれず哀れな姿をさらけ出し、投げやりな生活に陥落してしまう者もいる。「崩れる」に出てくる画家崩れのイラストレーターはその後者である。そして、その息子も父親の血を受け継いでおり似た性格。その狭間で揺れる妻のことが哀れで、つい同級生の女の子の苦悩と重ね合わせてしまった。でも、結末は違っているが…。
0投稿日: 2015.05.25
ユージニア
恩田陸,松本コウシ
角川文庫
大量毒殺事件の真相は?
「大量毒殺事件の犯人探し」と単純に片付けられない話の展開。事件に関わった人びとの証言により、少しずつ真実に近づいていくのだが、最後まで真相は明かされない。その判断は読者に委ねられている。いい意味で不思議な読後感を与えてくれる作品である。
1投稿日: 2015.05.25
大延長
堂場瞬一
実業之日本社文庫
夏の甲子園の決勝戦をそのまま再現!
甲子園の延長再試合の模様を監督や選手の気持ちを通して展開する内容。こう書くと、「夏の甲子園」ほどドラマチックで小説よりもおもしろい、と考えている方がほとんどであろう。私も野球をテーマにした小説を読む気にならない。そんな感じなのであまり期待していなかった。でも、文字の力を借りて意外と「夏の甲子園」のスリルや醍醐味を表している。おもしろいのは監督や選手の心理描写である。また、高校野球につきものの選手の不祥事を絡めた内容も臨場感があふれている。なかなか野球小説では秀作といえる。
0投稿日: 2015.05.25
シャイロックの子供たち
池井戸潤
文春文庫
意味深なタイトル
「シャイロック」は悪徳商人の代名詞。その末裔として生きる銀行員たちのドラマを、ある事件(行内で起こった百万円紛失事件)をキッカケとして、次から次へと展開させていく。銀行員の悲哀を織り交ぜながら、普段はエリート意識の強い銀行員も一人の人間なんだなぁ、としんみりと考えさせられる。
0投稿日: 2015.05.25
まほろ駅前多田便利軒
三浦しをん
文春文庫
難しい内容ではなく、さらりと読めます。
三浦しをんさんの「舟を編む」を読んでなかなか着想がおもしろい作家だなぁ、と感心したので適当な別の本を探していたら、これを見つけた次第。特にこれを読もうと意気込んでいたわけではない。タイトルがどうも軽い気もしたが、読み進むことにした。別段ストーリーに引き込まれるわけではないが、おもしろくないこともない。風変わりな主人公にそれに輪をかけたユニークな相方。飽きさせないで読め、読後感もほんわかとする。
0投稿日: 2015.05.25
舟を編む
三浦しをん
光文社文庫
お堅いテーマを軽いタッチで伝える
国語辞典の編纂のたいへんさを劇画風に展開。「本屋大賞」になったほどの作品なので期待をかけたのだが、軽いタッチの若者向けの読み物であった。でも、国語辞典の編纂という、あまりおもしろくないテーマで一冊の本に仕上げているのにはすごいと感じた。どう考えても読者を惹きつける作品に仕上げるのは困難に思える。でも、この作者はユニークな作中人物の設定でその壁を乗り越えている。さすがである。
0投稿日: 2015.05.25
