来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題
國分功一郎(著)
/幻冬舎
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役所が決めたらそれで決定。こんな社会がなぜ「民主主義」なのか? 2013年5月、東京都初の住民直接請求による住民投票が、小平市で行われた。結果は投票率が50%に達しなかったため不成立。半世紀も前に作られた道路計画を見直してほしいという住民の声が、行政に届かない。そこには、近代政治哲学の単純にして重大な欠陥がひそんでいた。日本中から熱い関心が集まった小平市都道328号線問題。「この問題に応えられなければ、自分がやっている学問は?だ」と住民運動に飛び込んだ哲学者が、実践と深い思索をとおして描き出す、新しい社会の構想。
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この作品のレビュー
平均 4.0 (49件のレビュー)
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行政という「怪物」は日本全国にいて、多くの人たちが泣き寝入りしているだろうことは想像に難くない。
哲学者・國分功一郎の名前を知ったのは、2011年秋に刊行された『暇と退屈の倫理学』を手に取ったときだ。ちょうど哲学の勉強をしているということもあったけれども、とりわけ裏表紙に印刷された言葉に僕は惹かれ…た。そこにはこう書かれている――〈19世紀イギリスに「革命が起こってしまったら、その後どうしよう」と考えた人がいた。ウィリアムス・モリスだ。「わたしたちはパンだけではなく、バラも求めよう。生きることは薔薇で飾られねばならない」〉。
「革命」という響きは耽美だ。ときに人を熱狂させるけども、往々にしてそのあとに多くの混乱をもたらすことも多い。例えば「アラブの春」後の、エジプトの混迷はそれを証明している。國分さんは革命によって〈余裕を得た社会〉は〈暇を得た社会〉だとする。革命前は〈痛ましい労働〉に耐えなければならなかったから、革命自体は歓迎されるべきものだ。けれども、〈「豊かな社会」を手に入れた今、私たちは日々の労働以外の何に向かっているのか?〉と國分さんは疑義を呈した。それはつまり、〈結局は、文化産業が提供してくれた「楽しみ」に向かっているだけではないのか?〉という疑問である。
哲学は机上でうんうんと考え続けるイメージがあって、『暇と退屈の倫理学』でも既存の哲学のフレームワークを用いる。スピノザ、ハイデガー、パスカルたちの言葉を援用しながら、自身の考えを強化していく、という方法である。けれども僕は、この『暇と退屈の倫理学』を読みながら、このひとは机上からフィールドへと出ていくのだろうなと、漠然と思った。社会にコミットしようという意思が感じられたからだ。
そんなことを思いながら、僕は國分さんのツイッターをフォローしていたのだけども、ある日、彼のツイートの中に「都道328号」というキーワードが頻出するようになって、おや、と思った。名古屋に住む僕には、初めはピンと来なかったのだけれども、どうやら國分さんは近隣に新しく造られる道路について語っているらしい。けれども、哲学者と道路とは、いささか奇妙な組み合わせである。いったいなにが、國分さんの身に起きているのだろう?
その答えが書かれているのが『来るべき民主主義』で、副題には「小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題」とある。都道328号線というのは、今から五十年ほど前に策定された道路である。その計画が今頃になって頭をもたげて、住民を困惑させているという。なにせ、建設予定地にはすでに民家が建ち並んでいるし、市民の憩いの場所となっている雑木林もある。さらに言えば、すぐ横には生活道路もある。わざわざ200億円をかけて新しい道路を作るのであれば、そちらの道路を整備したほうが効率的だ。住民を立ち退かせ、緑を削ってまで作る意味がわからない(僕もそう思う)。
しかし、行政はかたくなだ。一度決められたものを覆すということは、なかなかしない。國分さんが疑問に思ったのは、民主主義といわれる社会であるにもかかわらず、じつは我々には何の決定権も権利も委ねられていないという事実だ。我々が関与できるのは、議会へ我々の代表となる議員を送ることである。たしかに議会制民主主義はたいせつだ。けれども議会には、じつは私たちに身近な問題であればあるほど、その決定権がない。決定権を握っているのは、行政だ。本来であれば、行政はたんなる執行機関であるはずである。しかしその行政が絶大な決定権を握っている。これはおかしい。おかしいからこそ、住民をないがしろにした都道328号線のような事態が起きる。この国では行政が「リヴァイアサン」と化している。
だからといって、國分さんは過激な机上の空論をこの本でぶち上げるわけではない。議会制民主主義を尊重しつつ、そこに「強化パーツ」を組み入れようと提案する。今のところ、最も効果が期待できそうなのは住民投票だから、その制度を改めてみてはどうだろう。逆にいえば、住民投票の実現には現状、ものすごく高いハードルがある。さらに行政側はプロフェッショナル集団だから、素人集団である地域住民を手玉に取ることなどわけもない。住民にとっては、とても不利な状態、つまり民主的な状態ではないから、そこに修正をかけようということである。
しかし現実には、どうやらこれすらも難しいようで、住民投票は行政の暗躍(といっていいと思う)によって無効にされ、開票すら行われなかった。2013年10月、投票用紙の情報公開請求を訴える裁判の第一回口頭弁論が行われたということだが、決着を見る日は遠い。都道328号線の問題は、氷山の一角であるだろうことは容易に想像できる。行政という怪物は日本全国にいて、多くの人たちが泣き寝入りしているだろうことは想像に難くない。続きを読む投稿日:2014.01.07
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住民投票はポピュリズムに陥りにくい。
町の雑木林を無くそうとする道路整備計画に対する住民投票は、単なる反対運動ではなかった。そして、その運動を叩き潰す策動が却って、民主主義とは何かという本質への問を招来します。主権が立法にあること自体の課…題と、その乗り越えが具体的に思考される興味深い一冊でした。ただ難解だと思い込んでいたデリダの論が沁み入るのも素敵です。続きを読む
投稿日:2015.06.18
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