ソーシャルメディア・プリズム――SNSはなぜヒトを過激にするのか?
クリス・ベイル(著)
,松井信彦(訳)
/みすず書房
作品情報
「われわれのチームは、何千何万というソーシャルメディア・ユーザーの複数年にわたる行動を記述した億単位のデータポイントを収集してきた。自動化されたアカウントを使って新実験を行ったり、外国による誤情報キャンペーンが与える影響について先駆けとなる調査を実施したりしてきた」「その真実とは、ソーシャルメディアにおける政治的部族主義の根本原因が私たち自身の心の奥底にあることだ。社会的孤立が進む時代において、ソーシャルメディアは私たちが自身を——そして互いを——理解するために使う最重要ツールのひとつになってきた。私たちがソーシャルメディアにやみつきなのは、人間に生得的な行動、すなわち、さまざまなバージョンの自己を呈示しては、他人がどう思うかをうかがい、それに応じてアイデンティティーを手直しするという行動を手助けしてくれるからである。ソーシャルメディアは、各自のアイデンティティーを屈折させるプリズムなのだ——それによって私たちは、互いについて、そして自分についての理解をゆがめられてしまう」(本文より)計算社会科学Computational Social Scienceの最先端を走る研究者が、政治的分極化への処方箋を提示する。
もっとみる
商品情報
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 4.0 (3件のレビュー)
-
ソーシャルメディアが偽りの分極化を一気に速めた
ちょうど本書を手にとるタイミングでナンシー・ペロシ下院議長宅に侵入した男による襲撃事件が発生し、読み終えたところで、Twitter社を買収したイーロン・マスクがこの事件には隠された裏があると意味深なツ…イートし削除する騒動があった。
著者はSNSが「偽りの分極化」を加速させたのだと主張しているが、それはどういうことか?
「偽り」ではなく「真正」の分断ではないのか?
それに答える前に、まずよく語られる「エコーチェンバー」に関する通念を疑う必要がある。
エコーチェンバーとは、閉鎖空間で似た者同士で意見をSNSで発信すると自分と似た意見が返ってきて増幅していく状況を指し、偏った意見でも容易に増幅されていく現象を示している。
たいていの人は自らの意見を強化する情報を探し求め、肯定する情報に触れるほど、自身の信条体系は正当で、合理的で、事実に即しているという思いを強くする。
しかも昨今ではアルゴリズムの後押しによって、いっそう効率良く対立見解を避けられるようになった。
そうなるとますます人は俯瞰的な視点を失い、近視眼状態に陥るからと、エコーチェンバー効果のさらなる悪化を懸念する声が強まっている。
すなわち、エコーチェンバーを壊せとか、アルゴリズムを見直するべきだという意見だが、これは正しいか?
著者は計算社会科学者だがデータサイエンスの限界も熟知していて、質的調査(ツイートの内容の読み込みやインタビュー)で肉付けした分析を続けている。
人は自身のエコーチェンバーから出るとどうなるか?
多様な意見と向き合うことで内省が促されて、新情報を注意深く検討して自身の意見を微調整する?
ひいては対立者との和解が進む?
そんなことには全然ならないことが調査でわかった。
敵対する見解に接触させてもそれまでの意見は穏健にはならないどころか、逆に強化された。
例えばライトな左派の実験対象者は、SNS上での激しい個人攻撃を自身のアイデンティティーへの攻撃として経験したため、かえって自分の意見を民主党の見解に合わせはじめた。
エコーチェンバーは、過激な攻撃から隔離する繭でもあったのだ。
「エコーチェンバーを出たことで、”私たち”と”彼ら"の違いがいっそう大きく見えてきたようだった。どちらのタイプの場合も、自身のエコーチェンバーを出て何が起こったかといえば、考えのより良い競争ではなく、アイデンティティーの悪しきせめぎ合いだった」
じゃあSNSなんて使わなければと考えたくなるが、これも難しい。
数年前、フェイスブック離れが進んだことがあったが、ほとんどの人は元に戻ったか、別のプラットフォームに移行しただけだった。
「私たちがソーシャルメディアに繰り返し戻ってくるのは、社会的ステータスを得るために自分のアイデンティティーをつくり、手を入れ、保つ、といういかにも人間らしい営みにとってソーシャルメディアが便利だからだ。ソーシャルメディアを使うと、さまざまなバージョンの自己を呈示しては、他人の反応をうかがい、前例のない速さと効率でアイデンティティーを手直しできる」
ソーシャルメディアは確かに、私たち人間に生得的な行動である自己呈示の機会を提供してくれているが、自分の社会的位置づけをありのまま映し、社会を俯瞰するのにも使える巨大な鏡とはなっていない。
実際は、社会環境を曲げたり屈折させたりするプリズムであり、自己や対他人の感覚をゆがめている。
各自のアイデンティティーを屈折させるので、私たちは互いについて、そして自分についての理解をゆがめられている。
しかも我々はそのことにまったく気づいていない。
プリズムがこちらに映し返えす社会状況は避けがたくゆがめられ、SNS上で"いいね”や”ナイス”をもらうたびに有頂天になって、自己に価値があるという妄想を抱かせる。
なぜSNS上には、過激な意見が溢れているのに、実際にそのような意見の持ち主は全体のわずか数%しかいないのだろう?
なぜ圧倒的大多数の穏健な意見の持ち主は沈黙しているのか?
これもソーシャルメディア・プリズムがもたらすゆがみによって説明できる。
まず、プリズムが過激主義者の自己理解をゆがめるのに加えて、相手方のアイデンティティーをもゆがめている。
過激主義者の目に映る自分や他人をゆがめ、それにより生まれる自己成就的予言が人々をさらに引き離す。
プリズムは、自らの過激主義を普通化するのとまさに同じようにして、相手方の過激主義を誇張するのだ。続きを読む投稿日:2022.10.31
-
表題となっているソーシャルメディア・プリズムという言葉には、ソーシャルメディアが社会を俯瞰する鏡となるどころか、ときに他者や、あるいは自己への理解さえも大きく歪ませてしまうことへの警鐘が込められてい…る。
近年の調査結果をもとに、エコーチェンバー現象への理解の更新や、進行し続ける偽りの分極化への注意を促しつつ、今後も一つの公共の広場として存在し続けるであろうソーシャルメディアの適切な扱い方について社会学の立場からの検討がなされる。続きを読む投稿日:2023.04.21
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。