
総合評価
(599件)| 155 | ||
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powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
読み始めてまず印象に残ったのは、作品全体に漂う独特の不穏な空気だった。ミステリーというわけではないのに、先に何が起こるのかという緊張感がずっとある。読み終わってから振り返ると、冒頭の外国人のマネキンに対する独特な表現や、ガソリンスタンドの人間などが口にする「戦争に行ったのだから、人を殺したことくらいある」というような言葉も、後に起こることをどこかで暗示していたように思えて、何気ない描写の一つ一つにゾッとした。最初からすべてを理解していたわけではなく、読み終えた後だからこそ意味が変わって見えるところが面白かった。 もっとも、この作品を読んで一番考えさせられたのは、やはり「良心とは何なのか」ということである。人体解剖という題材だけを見ると、人間を解剖することの倫理性を問う作品のようにも思えるが、実際に描かれているのはもっと複雑なものだと思う。なぜ人は、自分では間違っていると思っていることに加担してしまうのか。何をもって「これはやってはいけない」と判断するのか。その判断を支えているものは何なのか。そこまで掘り下げている作品だと感じた。 そのことを考えるうえで、勝呂の存在が非常に興味深かった。勝呂は最初から人命を軽視していたわけではなく、むしろ患者を救いたいという思いを持っている。だからこそ、人体解剖を拒むこともできたはずなのに、なぜ拒まなかったのかが気になった。 私は、勝呂は単純に「悪に染まった」のではなく、自分が信じていた正義や良心を、現実の中で維持できなくなったのではないかと思った。目の前の患者を救いたいという思いがあり、そのために努力していた。それでも救えない現実に直面し、自分の善意だけではどうにもならないことを知ってしまう。そのとき、「それでも自分は正しくあり続ける」というより、「もうどうにでもなれ」という方向に傾いてしまったのではないか。良心を捨てようと決意したというより、良心を信じること自体を諦めてしまった、と考えると勝呂の行動が少し違って見えてくる。 そこから、作中の「神」の扱いも興味深く感じた。日本人の多くは、宗教的な意味で絶対的な神を信じて生きているわけではない。そうだとすると、自分が何を守るべきなのか、何が正しいのかを判断する最後の拠り所は、自分自身の良心になる。勝呂にとって、目の前で救いたいと思っていた患者は、一時的にその「神」のような存在だったのではないかと思う。抽象的な神を信じるのではなく、目の前の現実の中から「自分はこの人を救うべきだ」という精神的な支柱を作っていた。しかし、その支柱を失ったことで、何を信じていいのかわからなくなった。カトリックを信仰する人物との対比も含め、絶対的なものを外部に持つ人間と、自分自身の良心を拠り所にするしかない人間の違いが描かれているように感じた。 上田看護師についても、過去の出来事が現在の人格にどう影響しているのかを考えさせられた。もしあのとき死産をしていなければ、彼女は違う人間になっていたのではないか。そう考えると、良心や倫理観というものは、最初から人間の中に完成された形で存在するものではなく、経験や喪失によって形を変えていくものなのだと思う。 そして、個人的にこの作品の怖さを最も感じたのは、登場人物たちが人体解剖に「いきいきと」積極的に参加しているわけではないことだった。むしろ、どこかおかしいと思いながらも、はっきりと拒絶するほどの強い信念がなく、なんとなくその場に流されていく。その「なんとなく」が積み重なって、最終的には人を殺すことにまでつながってしまう。ここは今の社会にも通じるところだと思う。人間は、必ずしも「悪いことをしよう」と思って悪いことをするわけではない。「おかしいとは思うけれど」「自分だけ逆らうわけにはいかない」「みんなやっているから」と判断を少しずつ他人や状況に預けていく。その結果、自分の中では一度も明確に「人を傷つけよう」と決意していないのに、取り返しのつかないところまで行ってしまう。 だから、『海と毒薬』を読んで最後に残ったのは、人体実験の是非そのものより、「自分ならどこで拒むことができただろうか」という問いだった。良心を持っていることと、良心に従い続けられることは同じではない。自分の中にある「これは間違っている」という感覚を、周囲や状況に流されずに最後まで守れるのか。 この作品は、人間の残酷さを描いているというより、むしろ人間が良心を失っていく、その過程の怖さを描いているのだと思う。だからこそ、戦時中の特殊な事件を扱った作品でありながら、読み終えたあとに残るのは「彼らは異常だった」という感想ではなく、「自分も同じ状況に置かれたらどうなるのだろう」という、少し嫌な問いなのだと思った。
1投稿日: 2026.08.22
powered by ブクログ後半の手記を読んでいると、かなり嫌な気持ちになる。でも、実際に人の心の中はこんな風だと共感する部分が多々あり、リアルにも感じた。だからこそ、胸糞悪くなるんだろう。自分の中にもある見たくない部分を見せられているように感じるのかも知れない。 かなり前に読んだ『私が、棄てた、女』の時も思ったけれど、遠藤周作という作家は人間の醜悪な部分に目を逸らさずに向き合う人なのだと思う。そこに迫力がある。
1投稿日: 2026.08.16
powered by ブクログ事件についてはどんな思想を持っていても戦時下であることも含めた同じ状況だったら上に従わざるをえない気がするし、そこが江戸時代の武士道のような主君への忠義を重んじる日本人的な思考なのだろう。戦争で人を殺したり生きるか死ぬかの中にいた人たちがそこら中に普通に生活していた時代というのもやはり現代とはいろいろ違うだろうなと改めて考えるきっかけとなる。
36投稿日: 2026.08.15
powered by ブクログ彼の気持ちは非常によくわかります。さて その登場人物は誰かというと勝呂くんではありませんよ。戸田くんです。子ども時代や学生時代の自分の悪事が裁かれることなく 素通りしてしまい、うまく すり抜けて生きてこれてしまったという、この自分のずるさや逃げ、弱さ、そして何より罪の自覚のなさ。共感しかありません。
0投稿日: 2026.08.11
powered by ブクログ原爆の日が近いこの時期に予備知識なく手に取ったが、その生々しさに息が詰まった。実在の生体解剖事件を基にした作品。 「命とは」「良心とは」という使い古されたテーマのはずなのに、淡々と描く筆致だからこそ静かで逃げ場のない重みを持つ。劇的な悪意ではなく、流されるままに良心が麻痺していく怖さ。 感情を排した冷徹な描写だからこそ、読後の重い余韻がずっと残って消えない。
1投稿日: 2026.08.08
powered by ブクログ実験にまつわる「罪と罰」の内面的意識を描く。人間とは社会的視点から生まれる罪の意識しかなく、良心から生まれる罪の意識は存在しないのかもしれない。罰というのも曖昧なものでここには戦争などという時代背景が複雑に絡み合ってくる。結局、罪と罰というものはその時代による曖昧なもので、そこに法律というものは限定的なものとしてのみある。
0投稿日: 2026.08.02
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
確かに戦争でただ死ぬだけなら、意味を持って殺された方が良いのかなぁ。でも、人間のやることとしては怖すぎる。
0投稿日: 2026.07.29
powered by ブクログみんなが死んでいく世の中。 病院で息を引き取らぬ者は、空襲で死んでいく時代。 でも、そんな時代でも罪の意識に苛まれる者もあれば、罪の意識をどこかに追いやることができる者もいる。 医学の進歩のため、生体実験やむなしという考えはやはり怖しい。 断ることも選択肢にあっても状況的に断れないこともある。 いずれにしても、命が大切という常識が覆される状況にならないよう、私も我々も道を選択しなくてはいけない。 ああ、むだだよなあという諦念に支配されないように。 自分の中にも、勝呂と戸田、両者が棲んでいる。 少なくとも葛藤をしっかり見つめ選んでいきたい。 新潮文庫003
75投稿日: 2026.07.17
powered by ブクログ短い小説だったのですぐに読み終わった。過去に潜る、誰かの心理に潜る、といった方がいいのか。人間それぞれがいかに個性的で異なる存在であるかを、戦争・人体実験という危機的状況のなかで表現している。
4投稿日: 2026.07.14
powered by ブクログ淡々と、冷徹な筆致で人間の内面を描き出す文体が好き。過度な演出がないからこそ、人間という生き物の現実がそのまま浮き彫りになっている。 安易な道徳観や、こうあるべきという優等生的な倫理に逃げることなく、人間の業や本質をそのまま差し出してくるのが心地よく、知的な刺激を受けた。 綺麗事の多い作品に比べ、格段に腑に落ちる読後感。
2投稿日: 2026.07.11
powered by ブクログなんだろうな 実験に向かうところの描写、今から行われることに気づかない捕虜とそれに対する感情の生々しさなどが凄い怖かった。 勝呂1人ではなく戸田や看護師なども含めて記載してる意図まではまだわかりきれていないな。特に看護師。 戸田の罪と罰に対する感覚の描写などは凄い怖いようで、リアルなようで。 時代の違いだからという一言では終わらないような、わかりやすい答えを出してくれないこのモヤモヤもまた、、、、 感想が全くまとまらないな、 もう一回落ち着いて読まないと
0投稿日: 2026.07.04
powered by ブクログ人の死が日常である最中にも道徳的な倫理観を保持し続け、自己の振る舞いを決めることできるのか考えさせられる作品
0投稿日: 2026.06.29
powered by ブクログ九州大学病院で働く主人公。上司からある実験の誘いを受ける。「米国兵捕虜を使って、生きたまま解剖するんだ、どうだい?」日本人の醜悪な部分を描く物語。 帯を見て購入。 非道。 日本兵の太平洋戦争時の悪行は幾度となく聞いてきたが、まさかこんなこともあるとは。 全ての日本兵がそうではないことも知っているし、これで母国を批判する気になんてさらさらなれない。 しかし、我々の血の中にはこのような狂気も混じっていることを強く認識させられた。
1投稿日: 2026.06.09
powered by ブクログノンフィクション小説を期待して読むのであれば拍子抜けすると思います。 九州大学生体解剖事件を扱っていますが、話の中心は人間の意識の奥底にある善悪とはについてのもの。 戦時下において、人の死が日常であったとき。自分もいつ空襲で死ぬか分からないそんなとき。常に精神の極限で善悪の判断を正常にできるのか。 例えば、仕事で失敗をしたときに後で振り返ればあそこでこうしておけばよかった、何でこんなことに気づかなかったのか等、俯瞰して冷静に見ればなんとでもないようなことも気づかないことは多々ある。 その究極がこの事件であったと思う。
0投稿日: 2026.06.06
powered by ブクログ戦中に実際にあった事件を元にした小説とのことで、初めて遠藤周作作品を手に取った。 先ず、情景・心情描写が美しすぎる…。 特に76ページの初めの段落はとても好きな一節。 言葉遣いは現代とは少し違うが、上記のような丁寧な描写に助けられスルスルと読めた気がする。 それと、解説も濃厚だった。足りない頭じゃ掴みきれなかった部分が詳細に記されていた!頭いい人すごい! 大小の差異はあれど誰だって「罪」の一つや二つ持っているものだが、そこに罪の意識が伴っているのか、その罪に対して自身に「罰」を課すほどの価値を見出しているのかによっても、物事の捉え方が大きく変わるのだと思った。 対人的なコミュニケーションに基づく社会では、どうしたって物事を善と悪の二極に完全に仕分けることは不可能なのだ。戦中なら尚更だったろうな…。
0投稿日: 2026.05.10
powered by ブクログ私の人生の中にも、法律で処罰される程のものはないが罪はある。今でも思い出す。 それは波のように、時には意識下ぎりぎりのところを、時には激しく押し寄せ、そして引いていく。あたかも海岸線の砂浜の色が浸潤されているような変貌を遂げるように。 それは苛責として、あるいは毒薬として自身を蝕みうる。 耐性は個人に委ねられるところは明確であるが、どれほどの出来事を経ても一切地図が変わらない冷淡な人間(あるいは木偶と言ってもよいだろう)を、どうしても強い違和感を覚える。 しかし同時に、そのような無変化が他人事であると言い切れるのか、自分自身にもまた問い返さざるを得ない。 削掘された後の土壌が丸みを帯びるように、少しはマシな人間になれる機会である。 私としてはそのように後悔を昇華させていきたい。 この本の内容ほどのことは流石にないが、医療界では多かれ少なかれ、あるあるすぎる内容ばかりであったので、評価は低めとした。
1投稿日: 2026.05.06
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
悲しみの歌→海と毒薬 の順番で読んでしまって完全にミスった。 遠藤周作の作品は、「白い人・黄色い人」しかまだ読んでいなかったけど、今回読んだこのふたつの中でも一貫した「罪悪感」について描かれていておもしろかった キリスト教的に損得勘定なく純粋な人、純粋な人にあてられて罪悪感に苦しむ人、何も感じられない人 この三種類の人間で構成しながら、無宗教の罪の意識とはどのようなものか深堀している 戦中に九州の医大で行われたアメリカ人捕虜の生体解剖実験の実話を元にして、1作目では関わった医師や看護師を用いて戦中の生命の無価値さと感情の鈍麻を、2作目ではその中の勝呂という医師を用いて戦中と戦後の比較をしながら罪悪感を描いていた 1作目も2作目も、海のように大きな潮流に流される人を正義感を持って糾弾する程の権利はあるのかを問うてたとおもう 芦田のキュゲスの指輪的に動かない自分の良心に共感してしまって、それが一番好きだった 社会からの糾弾や法的罰則がなかったとき、良心にしたがえる人は一体どれほどいるんだろう 勝呂は一見その人間に見えるが、良心はあるが時代という大きな流れに逆らえず、逆らう意味もみいだせず、流されていく1番日本人的なひとだとおもう 流産した看護婦の、寂しさと無力感で投げやりになって同性の汚いところを自分の中で次々と暴いていき、同性の想い人を自分の方が知っていることに対してマウントを取っている汚さもすきだ 相対的に自分が醜く見えるのも、自分が持ってない異性という幸せを享受してるのも、許せなかったんだろうな
1投稿日: 2026.05.04
powered by ブクログ戦中実際に起きた事件をベースに書かれたもの。 当時の空気感、病院という閉鎖空間の空気感の中で、運命に流されるがままに実験に参加することになった主人公たちの罪の意識・倫理観を通して、日本人の罪や罰の捉え方とはいかなるものかを作者は問いかけてきてるのではないかと考えさせられる一冊。 登場人物のバックボーンと関係付けながら、登場人物各々の実験への感情のアプローチがあり、今後登場人物たちはどのように生活をしていくのか、非常に気になる作品でもある。
1投稿日: 2026.05.03
powered by ブクログ毎年8月になると終戦○年という特集が組まれる。今回はその流れでこちらの本を手に取った。 太平洋戦争中に実際にあった米軍捕虜解剖事件をもとに執筆された本作は、戦争という非常事態が人間の倫理観に与える影響を教えてくれる。 医療の発展という一見正しそうな理由をつけて米軍捕虜の解剖を正当化する登場人物たちの描写はとても生々しい。 敵と味方、彼らと我々の関係で支配された戦時中の感覚では、米国人などもはや人間ではなかったのかもしれない。戦争が人々の視野をどれだけ狭めるか、心の貧しさにつながるかを改めて考えることができた。 とはいえ、人間の残酷さというのは戦争中でなくても常に社会に露出している。極端な排外主義や新自由主義などによって社会的弱者は追い詰められている。 戦争中だからではなく、そもそも人間という存在に大層な倫理観など存在しないのかもしれない。
5投稿日: 2026.04.23
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
再読。神を持たない日本人の良心のあり方が描かれている。神なきがゆえに、罪を罪として拒絶することもなく、罰を受けることもないかわりに救いもないような。アメリカ人の捕虜を生体解剖して殺した、そのことへの呵責に苛まれる勝呂はまだ良心があって、罪の呵責を背負って生きている。彼にはまだ救いがある気がするけれど(その救いは描かれてはいないけれど)、全てに無感動で己の出世のことしか考えないような医師たちには何があるんだろうか。呵責の念の起きない戸田は戸田で、何も感じない自分を不気味に感じ、勝呂がうらやましいのだと思う。寂寞とした海鳴り。 作品冒頭では、腕は良いが機械的で人間味を感じさせない変わり者として登場する後年の勝呂が、本当は一番人間味がある。
2投稿日: 2026.04.21
powered by ブクログモデルとなった事件は数年前にWikipediaで読んでおり、その際は流し読みする感覚で「こんな事があったんだ〜」くらいの軽い気持ちでした。 本書を読み終わり、改めて事件の概要を読んでやるせない気持ちで胸がぐっと締め付けられました。 クリスチャンである遠藤周作さんが書かれたためか、登場人物のヒルダの言動や彼女に対する周りの感情がひどく印象的でした。
0投稿日: 2026.04.13
powered by ブクログ人は聡明で他者を思いやれる生き物であるのと同時に、残忍で自分勝手に振る舞い、流される脆い本質も持っているのかもしれないと感じた。 戦争という異常事態が"日常"になり、人の「死」が背景になった時、誰でも"そちら側"に堕ちていく可能性はあるのだろうなと。
0投稿日: 2026.04.02
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
この本のモデルになった、当時研修医として実験に参加していた先生が昔近所にいらっしゃって、時々講演会をしていた それをきっかけに親から勧められて読んだ本。講演会も行ってみるかと聞かれたけど当時高校生だったのでなんとなく怖くて断ってしまって。大人になってから行ってみたいなと思ったけれど先生は最近亡くなってしまったようで、今になってそれをすごく後悔している こうやって戦争の体験を直接経験者の方から聞ける機会って、これからどんどん失われていくんだろう そしておそらく、私たちはその最後の世代なんだろうな。 この本に登場する人物は誰も極悪人ではないのに、一人一人が手に取るナイフや、時には一本のペンが誰かの命を奪うことになる。健康診断だと聞かされていた捕虜たちが、実験前に「Thank you」とお礼を言ったという話を聞いて胸が痛くなった。 なんの本だったのかは忘れてしまったのだけど、「なぜナチスは大量虐殺ができたのか」を解説した本に「一つ一つの行為をできるだけ細分化したから」という見解があった。それによると、「私は収容者たちを運んだだけだから」「ガス室のボタンを押しただけだから」といったように罪悪感までも分解する効果があるそうで。本作で題材にされている事件も要因はそこにあるのかなと考えた
4投稿日: 2026.03.27
powered by ブクログ人体実験ってショッキングな事件やけど、それを行ってた人達の心理が、僕とそう変わらんのが辛かった。最近小説書いてみたいなって思ってちょっと書き出してたから、文体にも目が行った。目的語がないとか、文法が緩い感じなのに頭にスルッと入ってくるのが面白かった。この独特の文章が、心情パートと描写パートを溶かしてるんだと思った。
1投稿日: 2026.03.17
powered by ブクログ日本人の行動規範とは何か、を明瞭に描いた作品だ。 神や良心といった内面的な絶対基準を持たず、政治や体面で動く教授陣、世間からの目で動く戸田、男女の情や嫉妬などの感情で動く看護師たち、そして、無力感を感じながらただ流されていく勝呂。 「仕方がないからねえ。あの時だってどうにも仕方がなかったのだが、これからだって自信がない。これからも同じような境遇におかれたら僕はやはり、アレをやってしまうかもしれない……アレをねえ」 責任の所在がうやむやなまま東京裁判で裁かれた戦犯たちも同じようなことを言うのだろう。そして、ひとたび戦争や災害などの異常事態が起きれば、同じようなことが繰り返されるのだろう。 この文化はやすやすとは変わらないし、変えるべきだとも思わない。 なあなあで生きたほうが心地よく暮らせる場合も多いし、絶対的な正義みたいなものを持っているほうが、逆に戦争や分断につながっているのが現状だと思う。 ただ、人の生命とか尊厳とか、絶対的に守るべきところは守りたい。今学んでいる憲法や人権は、まさにそういう話なんだけど、絶対的に遵守すべき行動規範として意識されているとはあまり思えない。 読書中、最近読んだいろんな本を思い出した。 日本人の行動規範の話はルース・ベネディクトの「菊と刀」、患者を「物」のように扱う医療の話はキューブラー・ロスの「死ぬ瞬間」、被害者を数として扱い固有性を失わせる話は東浩紀の「平和と愚かさ」につながった。 いろいろな本をたくさん読んで、自分なりの考えを深めていきたい、もっと言葉にできるようにしたいと改めて思った。
3投稿日: 2026.03.10
powered by ブクログいい本だった。 持病持ちのサラリーマンが引っ越してきた町で、 主治医と出会うとこから始まる。 医師には人に知られたくない過去があった。 場面は医師の若かりし頃に変わる。 読みやすくて、情景もよく浮かんだ。 いろんな人の気持ちになれた。 豊かな時間、過ごせた。 今まで読んでなかったの申し訳なく思った。
2投稿日: 2026.02.22
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
葛藤や自分自身に対して噛み砕いて自分という人間を言語化してる事がかっこいいなと思った。 罪悪感の感じ方は人それぞれ。 戸田はサイコパスではないと思う。真人間だと思う。 僕はあなた達にも聞きたい。あなた達もやはり、僕と同じように一皮剥けば、他人の死、他人の苦しみに無感動なのだろうか。
1投稿日: 2026.02.12
powered by ブクログ難しそうで敬遠してたけど読みやすかった!勝呂は立ち止まって考えれば実験参加を断れた筈なのに、戦争と患者の死によって無力感が募り、自暴自棄になり、思考停止してしまったから断れなかった。考えることをやめないようにしようと思った。おかしい、という違和感を無視しないようにしよう。 戸田の、大人へ媚を売るところは確かになと思ったけれど、非情さには流石に共感できなかった。ずるいことをした後、後ろめたさがしんどいからやらなきゃいいのに。こんな大事件に加担しておいて良心が周りからの罰にしか向かないのが凄い。[やがて罰せられる日が来ても、彼らの恐怖は世間や社会の罰に対してだけだ。自分の良心にたいしてではないのだ]がすごく印象的だった。このように考える戸田達は、捕虜や患者を見下して自分とは別次元の生き物だと考えているからこそ非道な価値観になるのでは?このような仕打ちをされても仕方がない下等な可哀想な生き物、とでも思ってるのかな? 患者さんと対等に話し人生と背景を想像していこうと強く感じた。生体解剖でも手術でも系統解剖でも、見える構造は一緒だと気づき、線引きの難しさと医療の責任の重さにゾワっとした。
2投稿日: 2026.02.11
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
この本を知るまで、実際の事件を全く知らなかった。病院で人が死ななければ、外では空襲で人が死ぬ時代。時代による影響が大きいのかもしれないが、「生」と「死」に対して、感覚が麻痺していたのだろう。戦争医学や結核患者を救うという名目の解剖だったのかもしれないが、軍医は捕虜の肝臓を欲しがったり、解剖に参加した看護師は、教授やその奥さんの事しか考えてなさそうだった。断りきれなかったものの、手術を目の前にして「やっぱりできない」と怯えてしまう勝呂は人間的で、解剖による良心の呵責を考える戸田も人間的に思えた。
1投稿日: 2026.02.06
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
勝呂や戸田のその後の人生に関してもう少し深掘りされるかと思いきやされなかったが、それは戸田も勝呂も看護婦もどこにでもいる誰かであり、本を読んでいる私たち自身であり得るからだろうか。
0投稿日: 2026.02.04
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
罪の意識、自責を期待したが何も感じられない戸田と、所々で迷いや後悔の念が見える勝呂の対比が良かった。 上田の回想にも戸田の回想にも「面倒くさい」という表現が出てきたので、彼らは思考を途中で放棄してしまったが故に生体解剖の場に立ち会うことになってしまったのではないかと思った。 海の描写がしばしば出てきたが、その描写が登場人物の感情を繋げてる? 解説にあった、「罰は恐れながら罪を恐れない日本人の習性がどこに由来しているか、を問いただすために生体解剖という異常な事件を、ひとつの枠組みに利用した形跡がある。」とはどういうこと?▶︎行為の善悪よりも損得で動くから、罪の意識が育たず、倫理観の空白として現れる。
0投稿日: 2026.01.23
powered by ブクログ苦々しい思いで読んだ。事件のあらましを知っているだけに、どんな人がやったのかという思いで読み進めたが、結局どこか身に覚えがある考え方をしている人が「普通に」やっただけだ。そう、我々日本人の倫理観がいかに脆く、いかに集団心理の中にあるかを暴いている。 これは事件のショッキングさを被りつつ、冷静に日本人に問いかける遠藤周作の思考本だと思う。
1投稿日: 2026.01.23
powered by ブクログとても強烈な事件。 だけど、人物それぞれの内情をのぞくと自分との親近感を覚える。 「日本人とは如何なる人間か」という問いに対する要素を沸々と感じる。
2投稿日: 2026.01.11
powered by ブクログ今年から感想残そうと思う! 年明け早々、読むものではなかった... プロローグがあったのは、戦争では人を殺すことだということが強調したかったのかしら。 全員の解剖に至るまでの背景に迫っていて、誰にも共感は出来なかったけど、日本人特有の「みんなしているから」、「今更断れないから」などの同調圧力がずっと隠れてる感じがした。
2投稿日: 2026.01.02
powered by ブクログ遠藤周作 2冊目。 信仰をもつもの、もたざるもの。 戦争が次々に人間の命を奪い、倫理観は麻痺していく。 医学の発展を免罪符にした人ならぬ行為。 「やがて罰せられる日が来ても、彼等の恐怖は世間や社会の罰にたいしてだけだ。自分の良心にたいしてではないのだ」 思想・信条をもつことで良心の呵責から逃れる、という生き方を選んだ私にとって、この作品が投げかけてくる問いは重く深い。 はっきりとした感想が書けないけれど、人生を通して考え続けるテーマをもらった気がする。 続編とよばれる「悲しみの歌」もぜひ読んでみたい。
2投稿日: 2025.12.30
powered by ブクログ来年のラッキーカラー(エメラルドグリーン)の背表紙で買おうと思って選んだのが遠藤周作で、その中からチョイス。 小さい頃から父親の本棚から拝借して読書をしていたけど、その中に海と毒薬が並んでいて、やけに目について気になっていたから父親にどんな話?と聞いてみたら「それは読まんくてもいいんじゃない、何か感動があるとかないと思う」とふわ〜っと遠ざけられてて、余計気になってたから、大人の今、購入。 暗い…えぐい…。遠ざけられた意味がわかった…。 けど、信仰を持たない日本人の良心と、罪と罰とは、苦しく考える物語の雰囲気に、若い頃の父親の気持ちを想像しながら自分も同じ経験をできたので、読めてよかった。 次は沈黙を読もうかな。
2投稿日: 2025.12.28
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
圧巻。素晴らしすぎる。 戦争下という特殊な環境において、善良な市民がごく一般的に倫理観を壊していく様を見事に描ききっている。 文章は平易だが情景描写に重みがあり澱んだ空気が広がっている。特に流される海音を聞き、人間として流動的に流されていく、というメタファーは怖しい。 勝呂に主眼は置かれているものの、序盤の「私」の平凡な日常の描写、上田の女性的な嫉妬の描写、戸田の人間失格に通ずるような描写、その全てが人間の愚かさを表現していて没頭した。 アーレントの「凡庸な悪」を想起しながら読んだ。 しかしこのような倫理観の欠落という問題を、単に日本人の無宗教的価値観のみと結びつけて論ずることは短絡的だと思う。つまり、人間一般として議論するに値する問題だと思う。 23 何もないこと、何も起こらないこと、平凡であることが人間にとって一番、幸福なのだと私は彼等をみながら、ぼんやりと考えた。 88 あれでもそれでも、どうでもいいことだ、考えぬこと。眠ること。考えても仕方のないこと。俺一人ではどうにもならぬ世の中なのだ。 夢の中で彼は黒い海に破片のように押し流される自分の姿を見た。 92 「神というものはあるのかなあ」「神?」「なんや、まあヘンな話やけど、こう、人間は自分を押しながすものからー運命というんやろうが、どうしても逃れられんやろ。そういうものから自由にしてくれるものを神とよぶならばや」 194 人間の良心なんて、考えよう一つで、どうにも変わるんや
1投稿日: 2025.11.28
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冒頭は戦後が舞台なので はて..?となるが 医師が登場して戦時中になって 読み進めていくうちに どんどん闇が深くなっていく物語だ。 登場人物の過去も描いてるが その表現がすごく良い 特に戸田の過去を読んでいると 実際に同じような境遇をしてる人がいるのではと思う 個人的にページをどんどん進めた部分がある。 それは、解剖直前の場面だ。 ''生きた人間に麻酔をかけ殺す''という状況が 文章だけでも伝わってきた。 反戦とか歴史の出来事から学んでという作品ではない。 絶対オススメしないが 時間もあってする事もなくて ネットサーフィンしてるくらいなら 200ページ未満だから 読んでみてもいいかも。
3投稿日: 2025.11.26
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桜庭一樹の読書日記に載ってたし『ラビリンス・サーガ』で日本軍の話が出てきていたので読んでみました。淡々と進む物語。ガソリンスタンドの主人など戦争中に人を殺していた人々が平凡に暮らすという話、戦争中の病院、読んでいて怖かった。戦争中だからあり得た話という気がしない、もしかしたらちょっとしたキッカケで今の世の中でも起きるかも知れない。遠藤周作が凄い、『沈黙』といい『海と毒薬』といい凄い。なんか色んな事を感じたけど上手く感想が書けない。
0投稿日: 2025.11.23
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
再読、借りた本。 生体解剖に目が行きがちだが、今回は登場人物それぞれの向き合い方に引き込まれる 冒頭のマネキンを眺める勝呂、何もない生活の幸せへの言及。 海への考察は解説で深まった 作家に断罪する権利はなく、関わった人達からの抗議に苦しんだとのことだが、私にも断罪する意図は見えなかった 捉え方は立場が変われば無限にある 終わった後の教授の佇まいがそれを物語っていると思った 留学、沈黙で三部作と捉えられるようで、こちらも改めて再読しようと思った 一緒に読んだ中3娘はやはり生体解剖に焦点をあてていた
1投稿日: 2025.11.09
powered by ブクログ帯に書かれた内容から、人体実験の部分にフォーカスしている本かと身構えたけど、そうではなかった。 戦時中の人体実験に至った背景を、特に医師や看護師の心情や性格にフォーカスして書かれた本。 皆が平凡な人間で、かつこのような異常な環境下でなければ、人体実験には至らなかったのかな。 唯一、勝呂先生だけ、正常な認知機能を保っていたということなのだろうか。
0投稿日: 2025.11.05
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
看護婦に不妊コンプレックスがあるのはわかるけどだからといって飼い犬の生理で暴力を振るったりする描写があると知っていたなら読まなかったな、、
0投稿日: 2025.10.31
powered by ブクログ神が運命をさだめるのではなく、運命から自由にしてくれるのが神だという考え、神は無力であれ、可能性さえ示してくれればそれで良いのだと感じた。 人間は善悪の外には立てない。 人によって罰と感じるものは違う。 ならば正義もみな形が違うのも当然で、 その混沌のなか、正しい倫理観を求められる。 私達はかなり難しいところにいるのではないか。 戦時中の命の重さ、同じでなくてはならない。 私はその中で今の価値観を貫けるのだろうか。 多く自分に問いかけながら読み進めた。 海が癒しから大きな不安にかわるその瞬間 恐ろしくて黒い黒い海が脳を絶えず侵食した。 見た事のない手術室の血を流すための 小さな川の流れを連想して苦しくなった。 そういう伏線も散りばめられているのだろう。 素晴らしい作品だった。
10投稿日: 2025.10.27
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
海と毒薬 著者:遠藤周作 発行:1960年7月15日 (2004年6月5日 91刷) 新潮文庫 初出:1958年4月、文藝春秋新社より刊行 遠藤周作のエッセイを読みたくて、古本をまとめて購入。エッセイ2冊を読んだので、久し振りに小説。代表作が何冊もあるけど、この本はとくに有名なので読んだ人も多いかと。戦争末期に起きた九州大学医学部事件をもとに書かれている小説だけれど、事件小説やモデル小説など歴史小説的なものではない。軍部と九州のF市にある大学病院の教授や医局員たちが、計画的に行ったアメリカの捕虜達を生体解剖した事件について、あくまでフィクションで書かれたもの。したがって、関わった医師や軍部の人数なども、実際とは違っている。 学生時代、上坂冬子が書いたノンフィクション本「生体解剖」を読んだ。本棚を見ると、なんと奇跡的にその本が出て来た。帯を見ると「三十余年目に発公開された全記録」とある。こちらは1979年の本なので、それまでは事件の全貌を明らかにしたものはノンフィクションでもほとんどなかったということになる。その20年ちょっと前に書かれた「海と毒薬」の〝フィクション度合い〟が想像できる。 新宿から1時間、黄色い埃が舞う住宅街。当時だからまだまだ荒れ地のような郊外。そこに変わり者の開業医、勝呂(すぐろ)二郎。なにか事情がありそう。この街に越してきたある男が、たまたま結婚式で九州のF市を訪れたところ、勝呂を知る医師に出会う。そこから、勝呂の若き時代の出来事、すなわち生体解剖の話が始まる。 大学病院では、第一外科部長と第二外科部長が、次の医学部長の座を狙って兢兢としている。自分が有利になるように患者を利用し、手術をうまくこなしてポイン稼ぎをしようとしている。勝呂は医局員(研究生)として、第一外科で勤務している。ところが、その第一外科部長をしている教授が、手術に失敗してしまい、失脚する。助教授と助手が中心となり、勝呂たち若手や看護婦を巻き込んで生体解剖をする。 勝呂は参加を決めたものの、途中ですっかり気分が悪くなり、無気力になるが、もう一人の若手の戸田は平気でこなしていく。彼は幼い頃から、人に対して何をしても罪の意識を感じない性格だった。罪と罰でいえば、罰が与えられない限りまったく平気なのである。つまりは、バレなければいい、そんな人間だった。 参加を決めた一人の看護婦の人生も振り返る。離婚経験があり、いろんな人生を歩んでいた。 それぞれの立場で、屈折し、苦悩する。 ********* 勝呂二郎:医師 戸田:同じ研究室 橋本:勝呂たちの教授、第一外科部長 朝井:助手、橋本の姪と婚約 柴田:助教授、施療患者の手術担当 大場:看護婦長 垣下:元第一外科部長、柴田は垣下に育てられた、死亡し橋本副部長が継ぐ 坂田:看護婦 阿部ミツ:結核患者 おばはん:施療患者 義清:息子(出征兵士) 田部夫人:個室の患者、大杉部長の親戚とも言われている 大杉:医学部長 権藤:教授、第二外科部長 小堀:軍医、第二外科の講師 新島:助手 田中:軍医(手術に立ち会い) 小森少尉:送別会の主 村井:軍(将校の一人) 看護婦関連(上田ノブ) 雑賀:大連での隣人 夫:大阪出身、満鉄社員、2年で離婚 橋本:副部長→第一外科部長 フラウ・ヒルダ:橋本の妻 河野:若い看護婦(同僚) 大野フサ:施療患者 前橋トキ:大部屋の患者、死亡 医学生関連(戸田剛) アキラ:六甲小学校の同級生 木村マサル:同上 ススム:同上 若林稔:東京からの転校生 オコゼ:N中学の博物の教師 山口:N中学の同級生、盗みの疑いがかけられた、無実なのに否定せず 佐野ミツ:医学生の頃にいた女中、妊娠させて中絶 医学部長の座を争って、橋本
0投稿日: 2025.10.27
powered by ブクログ読者の私が高校生のときに、この本は絶対に読んでおくべき本だと言われた本です。当時の衝撃は、とてつもなくて言葉を失ったことを覚えています。少し前にNSFMさんのレビューを読んで、続編を読みたいと思いました。まずはこの本をもう一度読んでからと思い、再読しました。 新宿でひっそりと開業医をする勝呂。彼の過去へと話が進みます。戦時中、大学病院の研究生の時、空襲か病気でいずれ皆死ぬんだという希望のない日々を過ごします。そして彼が生かしたかった女性の死後、大学病院の勢力争いに巻き込まれ、アメリカの捕虜の生体実験に参加します···。 時代が起こした罪なのか、本当にそれだけなのか。平和な時代の感覚では考えられないことが現実にあり、それを元にした小説だということが、やはり衝撃的でした。 生体実験に参加した看護師、医学生がどういう敬意を経てその場に立ったのかを読んでも、複雑な思いはぬぐえませんでした。 心のなかで葛藤し、ただそこにいただけの人と、実験後でも呵責も後悔も感じない人の違いは何なのだろうと考えました。 戦時中に起きたこの事実を知ることはもちろん、人間の倫理観について考えさせられる小説でした。 決して赦されない過去を背負った勝呂のその後を知るために、続編を読もうと思います。
59投稿日: 2025.10.17
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
戸田ターン、途中いきなり読み手側に問いかけてくるからびっくりした 戸田らだけではなく、私だって、世間や社会に絡まなくとも罰だって罪だって意識できるのか 良心による罪と罰を知らないかもしくは無視してしまわないか 自分に正直でありたいと強く感じた 戸田ターンで出てくる首に包帯を巻いた少年、君、太宰治の人間失格にもいなかった....?
1投稿日: 2025.10.14
powered by ブクログ倫理観は、個人の中に生まれるものではなく、世間が作り出すものだと再認識した。それでも私は人が悪魔なのではなく、戦争が人を悪魔に変えてしまうだけと信じたい。 最初は利己的な戸田は純粋で不器用な勝呂のことを馬鹿にしてると思っていたが、生い立ちを知って見方が変わった。小説のセリフを用いるなら、勝呂にとってのおばちゃんのように、戸田にとっては勝呂が運命から自由にしてくれる神に見えていたんだと思う。それは、残された「良心」の部分であったに違いない。 後味の悪さが残る話だったが、読むことができてよかった。本書はあくまで創作なので「九州大学病院解剖事件」の経験者が書いた本も読み、もっと事実を確かめたい。
23投稿日: 2025.10.06
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ちょうどよい厚みの本。 昔中学生あたりで一度読んだときは全く理解できずに終わったのだが、大人になってから読むと色々考えさせられる本だった。 わかりやすい起承転結を求める人には向かないが、人それぞれの感情の機微について考えたい人に薦めたい作品。 第一部での勝呂の最後の一言が、最後まで読み終えると違う意味だったことに気が付いて胸が苦しくなった。
3投稿日: 2025.10.03
powered by ブクログ終戦前の九州大学生体解剖事件をモチーフにし、登場人物の出生や罪の意識の感じ方の違いを良く表現していた。個人個人の罪の意識の違いは勿論、当該事件の当事者になった際にもその罪の意識の違いによる心情の違いを垣間見え、読者にも正義感や罪の意識の感じ方を問い直す作品になっていた。事件について表面的にしか分からなかったが、当事者目線のように事件を体感できたし終戦直後の福岡の様子も垣間見えたのが面白かった。
2投稿日: 2025.09.30
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調度良い長さ、かつ文体も読みやすかった 勝呂医師の非情な過去が明らかになるかと思ったが彼は年老いても良心の呵責に苦しんでいて、本当の化け物は戸田だった 誰もが戸田のような一面と勝呂のような道徳を持ち合わせているものだと思う。2人ともに共感できる部分があった。
1投稿日: 2025.09.25
powered by ブクログ【2025年112冊目】 戦争の最中の日本で行われた医師による米軍捕虜の生体実験。世間は衝撃を受けながらもどこか他人事のように捉えていた。ある日、夫婦ともに田舎に引っ越してきた私は、気胸の処置をしてもらうため、町の小さな医院を訪れる。どこか陰のある医者、勝呂を奇妙に思いながらも、同時に適切な処置に感服する私。だが、勝呂が件の生体実験に関わっていたことを知って――人間の善悪はどこにあるのか、問をかけ続ける一作。 この作品、いろんな出版社から出されているんですね、それほどまでに主題がセンセーショナルだとも言えるのですが、「生体実験」というキーワードからおどろおどろしいものを想像していると全く違った衝撃に殴られることになります。 最初は第三者である「私」が語り部となり、その後事件に関わった医師や看護師の視点で物語は少しずつ進んでいきます。実験のシーンは物語全体の僅かを占めているに過ぎませんが、そこにたどり着くまでの過程で見る、「一見して平凡な人々」の心の動きを考えると、まるで実験が日常の一コマとして行われたことに読了後もじめりとした余韻を残してきます。 人体実験下のみならず、戦争下の人々は心のどこかが常に脅かされていて、感情が麻痺している部分があると言っても過言ではありません。 昭和の時代に書かれた小説ですが、読みにくさはほとんどないので、日本人として一度は読んでおくべきかもしれないな、なんて思いました。
2投稿日: 2025.09.16
powered by ブクログ捕虜の生態解剖がテーマと聞いていたからどれほど解剖や付随した描写があるのかと思ったけど、そういうわけじゃなかった 海のように寄せては引いていく非人道的な事柄や勝呂自身ではどうしようもない患者の容体云々に対する勝呂の葛藤が見てとれた 生態解剖は医学的な観点からは正に傾くし、人道的な観点からは負に傾くが、、、という感じ 25.09.0.9-10
5投稿日: 2025.09.11
powered by ブクログ良心とは社会的な恥からこそ生まれるものなかのか。本当は、罪の意識や道徳的なものから生まれてくるのが良心ではないのか。人は社会的な評価がもしなくなってしまえば良心はなくなるのか。そういったことを考えさせられるほんだった。
2投稿日: 2025.09.11
powered by ブクログ「盛大な反省文」 それぞれの登場人物、 特に生きたまま捕虜を殺す手術に関わった男女は各々が過去に反省しなければならない出来事を経験している。 彼らだけに限らず、生きてる人間に等しくある『罪悪感』であり、これをどう感じ、どう消化していくかが肝心だと感じた。 残された手記のように記録され、 過ちを犯した己を自らが叱るような書き方もされていたりと、人間の反省をさまざまな角度から描いたストーリー。 中でも上田看護師の話が一番、ぐっときた。 もう感情を失ってしまうような辛い出来事を 彼女なりに消化し、罪悪感を捕虜の手術で混乱させ、 嫉妬や悔しさを理解していく姿勢に 同情をする人も少なくない気がする。 戦時中という時代を感じる部分がほとんどであるので まだ読書歴の浅い自分にとっては、理解しにくい場所もあるが、比較的時代ものが得意ではなくても、読める作品だった。
9投稿日: 2025.09.08
powered by ブクログ「沈黙」からの流れで。人の残虐さと、そうなれなかった勝呂の良心はじつに良心だったのか、あるいは冷徹に見える戸田にほんとうに良心はなかったのか、まざまざと考えさせられる。 佐伯彰一が解説ですべて書いてしまっているけれど、導入部の計算され尽くしっぷりに感嘆する。 黒い海が引き込んだのだ、みんな死ぬ世の中なんだから、一人くらい生きたまま殺したって自然死とどうちがうんだよ、と、ああ呵責さえ感じられない戸田を思う。(黒い)海が自然死で、毒薬が実験死だったのかもしれない。
3投稿日: 2025.09.05
powered by ブクログ全体的に暗めの色調で描かれていて 明るさをイメージするタイミングがなかった 佐伯彰一の解説を読むこと作者の伝えたいテーマがハッキリ分かった。 当時のことについて全く詳しくないけど 登場人物それぞれが秘めるココロの声や言動に 理解できるものもあった。 良い人でありたいっていう自分の理想とはまた別に一皮剥いたら別の自分もいる気がするのも理解できた。良心というのは地盤が緩んだ状態というのはブレブレになる。 登場人物がそれぞれが自分という人間に翻弄されているような感じが面白かった。 シンプルに話の流れが良くてめちゃくちゃ没入できたし、全体的に暗いイメージなのに「西陽が白い埃を浮かせながら誰もいない机や椅子の上に流れ落ちている」とか陽の描写もたまにあって、別に柔らかさや明るさを想起させる描写ではないんだけど 明るさを感じて素敵だなと思った。
2投稿日: 2025.09.04
powered by ブクログ捕虜への生体実験という実際の事件をベースにした作品。ここでは、人間を押し流す運命に抗い自由を与える存在として神が捉えられていた。しかし、そのような神が存在せず、ただ海にのまれるように罪を犯してしまう登場人物たち。そして、彼らは、その罪に対して「良心」の問題ではなく、あくまでも一時的な世間的な罰のみの問題として考えている。文章としては大分読みやすく、それぞれが印象的であり面白い。また、解説もとてもわかりやすく面白い。
7投稿日: 2025.08.25
powered by ブクログ遠藤周作さん著「海と毒薬」 ヒポさんのレビューを読んで自分も再読してみるに至った。この作品を読んだのは中学生の時、計算してみれば約35年振りの再読となる。中学生の時に読んだ時はストーリーを読んだだけの読書だったが、今回は流石に違うものも感じとれたし、考えさせられながらの読書となった。 改めて読んでみて、この作品、戦時中が舞台なので戦争文学として位置付けされる事が多いが、それ以外にも色んな側面を持った作品に感じられる。 人としての倫理観や道義が時代背景を背に投げ掛けられている作品だと感じた。 物語は太平洋戦争末期の九州のある大学病院が舞台、終始不穏の空気感が漂う作風。大くの民間人が空襲、そして病気にも苦しみ命を落としていた時代。 医者の数も足らず、食料も足らず、手当てをする薬すらも足らない。貧困状態も末期な状況下。 主人公の一人である戸田、そんな状況下ならばと、彼自身の良心の呵責を測る為に生体解剖への参加を申し受ける。言い方を強く変換すれば殺人に参加する事に同意。 作家遠藤周作による「罪と罰」と謳われているが正にその通りの内容。 この戸田、太宰治「人間失格」の主人公「大庭葉蔵」のように感じる。自分自身の内面の奥底の部分を繊細に探るような一面も持ちながら、その意識とは裏腹に思考行動言動は大胆で、罪に対しての呵責の念は限りなく薄い。 感情の欠陥やサイコパスとも違い、御都合主義の延長のようにも感じるが、私見や所感がストイックに尖っており、そこに対しては黒い瞳の持ち主のように感じられる。 その戸田のその人間らしさに自分は妙に共感、魅力を感じてしまった。 勿論、社会や人としての倫理や道義を否定するわけでは全くないが、自分の心の中にも戸田がいるような気がするからだ。気がするのではなく間違いなく存在している。 そして戸田は誰の心の中にも存在していると感じる。 それが人間なのだろうと思う。 著者が戸田という登場人物を描くこと、それは人間の奥底を描いているのではないだろうか?とさえ感じられた。 そして今回、再読してみてこの「海と毒薬」というタイトル、正に海の深さのように感じさせられる。 読了後に調べてみて、このタイトルに関して、様々な方々が様々な解釈をしている。しかし著者自身はこのタイトルの意味の解説はしてはいないらしい。 自分も自分なりに色々と考えてみたが、その様々な方々の解釈が全部あっているようにも感じられるし、全部違うようにも感じられる。作品を捉える視点や重点でその意味がだいぶ変化して感じられるからだ。 作品を介して読者各々が感じた「海」の解釈と読者各々が感じた「毒薬」の解釈でいいのだろう。それを望んで著者はあえて明言しなかったのだろう。 そう考えれば、自分以外の他の人の考えの全てを「海」と比喩していて、その中での自分の個人の考えが「毒薬」なのかもしれないって思えてきた。 もしそうならば少し怖い。 深く潜考させられる作品だった。
133投稿日: 2025.08.23
powered by ブクログ遠藤周作さん「海と毒薬」読了しました。 古い作品なので、読みづらい文章表記もありましたが、大筋は理解できました。勝呂先生の葛藤や心情の変化を読み取りながら、読み進めました。
40投稿日: 2025.08.13
powered by ブクログ戦争末期の米軍捕虜生体解剖実験という、残酷惨虐な題材であったけれど、その事実を過大に脚色するのではなく、平坦と語るのが心に重く残った。関わった人間それぞれの思惑と感情と、無感情が、不気味で怖かった。
12投稿日: 2025.08.11
powered by ブクログ何かでこの事件を知った。 snsか。 それは後に役に立つ事だったのかな。 小説を読んだだけで、真実は知らないから何とも言えない。小説内では麻酔を使われていたけど実際はどうだったのか。 そもそも日本でこんな事があるんだから、海外でも同じような事件はありますよね絶対。遠藤周作さん、他にも読んでみようかな。
1投稿日: 2025.08.11
powered by ブクログ様々なテーマが折り重なった傑作。ちなみに僕はこの話を読んだ後、菊と刀、新渡戸稲造の武士道を読み返した。議論のきっかけになるし、比較すべき作品も非常に多岐にわたる。人の原罪や組織内での正義などを深く考えさせられる。短い作品ながらまさに文学を体現した素晴らしい名作ということで総括したいと思います。
8投稿日: 2025.07.20
powered by ブクログ「俺が恐ろしいのはこれではない。自分の殺した人間の一部を見ても、ほとんど何も感ぜず、何も苦しまないこの不気味な心なのだ」 「罪と罰」を主題に取り扱った小説。 人を殺した良心の呵責よりも、世間、社会的に罰される事を恐れる心しか持たない登場人物の内面を捉えた作品。
6投稿日: 2025.06.20
powered by ブクログおすすめポイント ・正しさとは何か、すごく考えさせられる ・遠藤周作はキリスト教信者なので、キリスト教のマインドが根底に流れてる。でも全然押し付けがましくないし、むしろ人とはどうあるべきかという彼のメッセージには納得する。サイコパスでもない限りは、きっと多くの人は。 残念ポイント ・なし!ほんとに好きな作品です
4投稿日: 2025.06.19
powered by ブクログわからないことが多い 解説を読んで、少し理解が深まった ゆりちゃんやナツミートが薦めたこの本をわかりたかった
0投稿日: 2025.06.19
powered by ブクログ九州で凄惨な事件が起きた。 米兵を生きたまま解剖した、という事件が。 九州の大学病院で学ぶ主人公、勝呂と同僚の戸田は病院内の政治が活発化するのを横目に日々を過ごしていた。毎日戦闘機が飛び回り人々が命を落としていく中、2人は生きたままの米兵を解剖してみないか、という誘いに乗ることになる。 初めて遠藤周作作品を読んでみました。本当に練り込まれた作品でした。中でも感情移入を強くしたキャラクターは勝呂の友人、戸田でした。悪事をしても罪悪感がそれほど湧かず、一番恐ろしいと感じるのはそのことによる社会的な制裁というキャラクター。どこか自分と重なる部分があります。米兵の殺害の片棒を担いでしまったことに強い罪悪感を感じている勝呂に対し、「なんでお前は罪悪感を感じられるんや」という風に感じている戸田の描写は強く胸を締め付けられました。罪とは何か。そして彼らに待ち受ける罰とは…。 文庫の後書きを見るとどうやらこの作品には続編の構想があったようです。それも読んでみたかったな、と思うほど考えさせられる小説でした。
0投稿日: 2025.06.15
powered by ブクログ2025.6.4 一瞬だけ出てくるヒルダという登場人物が重要であり、この人だけが唯一罪という感情を持ち合わせる。それは絶対的な神の前での罪、それによる裁き、つまり絶対的な罰を備えるのに対し、日本人は社会的罰を感じ、それは絶対的ではないことが描かれている。
1投稿日: 2025.06.07
powered by ブクログ人体実験、と言うとマッドサイエンティストをイメージしてしまう。しかし、この本の登場人物は、私たちと変わりがない普通の人たち(軍人は除く)。戦時下という状況でなくても、様々な要因から誰もが当事者となり得る怖さを感じた。
0投稿日: 2025.06.06
powered by ブクログ医学と倫理。人を救う仁術が人の命を犠牲にする。この矛盾が精神を蝕む時、人は自省するのか、それとも後付けの自己正当化によって誤魔化すのか。社会が悪い、職場が悪い、過去が悪い、しかしその瞬間行動したのは己である。その責任を負うのか、それとも逃げるのか。そこに僅かな理性が宿ってほしい。状況に翻弄される私たちに課される主題であろう。
1投稿日: 2025.05.31
powered by ブクログ作中に何か答えがあるわけではなく、ただ、読者はどの登場人物かに自分の中に何か共感のようなものを感じて深く考える…そうなるように描かれているように感じた。 人間の本質に良心は存在するのか、戸田の苦しみがわかる気がする… 第二次世界大戦末期の日本、弱くささやかな良心が踏み躙られるような荒廃した舞台は羅生門の世界観と似ている。かも。
1投稿日: 2025.05.28
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
まさか実際に存在した事件だったとは、思っても居らず。解剖のシーンは、文字だけで映像も何も無いのに、想像されてなかなか読むのがきついものがあったが、故に現実を知らされる。 日本もなかなかの戦争犯罪を犯してきたと初めて知れた本。 日本人の思考は、きっとそのような罪を犯してしまった彼らを庇護してしまうところにあるのでは無いか。ヒルダの「神様がこわいとは思わないのか」という一言は核心をついている。彼らは神という絶対存在が自分の上にある。自分の一挙一動を監視し、裁判を下す神という存在が。なので悪には容赦なく敵意を向けるし、善にはとことん慕う。しかし日本人には基本服従の対象がない。故に悪意を見せられても、ある程度時が経ってしまえば「時代だったから仕方ない」「彼らにだって本気でそうしてやろうと言う気持ちはなかったかもしれない」と庇護し、片付けてしまう傾向にさえある。 これは、私たちが結局日本人で、自分にとっての絶対的存在がないからでは無いだろうか。私の神が許さない、神はそれを認めないから、私も認めない、という思考が、私たちにはないことをこの小説は皮肉にも物語っている…ように、私は思うが。
1投稿日: 2025.05.05
powered by ブクログ当事者の心情が細く描かれてる 解説に、創作だから実際に関与してた方からの批評があったと言及されていて そう考えると本作とか 実話ベースのフィクションとか 歴史の教科書やらなんやら みんな思うことあるよねーって 当事者にしか分からないこととか 色々あるから このタイミングでこの本から 自分の得た教訓としては 人の意見は参考程度に取捨選択していくことが改めて大事(話飛躍しすぎてごめんなさい) 戦争医学に興味が湧いたので 多少調べてみました。
0投稿日: 2025.05.04
powered by ブクログ戦争という人の命が簡単になくなってしまう状況において人間の良心は機能するのか。そもそも、良心ってなに。 米軍捕虜を人体実験した実話をもとにしているが、実験の内容も丁寧に描かれていた。死というものにもう慣れてしまった人間の行く末を突き付けられ、心に重く響いた。 200ページないぐらいの本なのにこの読了感は遠藤周作さんの小説の構成や表現が卓越しているとしか言いようがない。 ただ、重く心にのしかかる。
0投稿日: 2025.04.23
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
惹き込まれた。 同じものを見たり経験したりしても、考え方は人それぞれだと気付かされた。 最後に過去の回想から戻るかと思った。
0投稿日: 2025.04.11
powered by ブクログ約20年ぶりに読みました。 いつ終わるかも分からない戦争の中で、空襲や病気で人がどんどん亡くなっていっても何も思わなくなってしまう感覚があまりにも生々しい。 もし今再び戦争が起こってしまったとして、生き延びていたら同じような感覚に陥ってしまうのではないのかと思ってしまう…。 生きたまま捕虜の解剖することで医療の進歩に繋がる。そんなのは正当化でしかない!酷すぎる!と思うけれど、戦争により感覚が麻痺してしまったら、そうとも思えなくなってしまうのか… これも宗教観が薄い日本人故なのか、個人の性質なのか。でも今と当時で考え方自体もだいぶ違う気もする。 病院内の様子、情景がめちゃくちゃリアルに想像出来る文章…。 この医療が発達してる現代だって、私は手術台に上がるのすごく怖かった。麻酔だって今より全然精度低いしだろうし、手術受けるのめちゃくちゃ怖いと思う。 20年前に読んだ時は戦争って怖い、ダメだとしか思わなかったな。今はいつ戦争が再び起きてもおかしくないような時代になってるということなんて思ってもいなかった。 と、小説の本質とズレてる感想になってしまった…
15投稿日: 2025.04.10
powered by ブクログ終始重い作品だったけど、しっかり考えさせられる作品だった。勝呂と周りの人間の考え方のズレに怖さを感じた。 「どうせ死刑になるような人間を1人殺したところで別に。」という考え方が、「広い海に一滴の毒薬を垂らしたところで別に。」という解釈をタイトルから読み取れた。
2投稿日: 2025.04.09
powered by ブクログ不穏な話だけど、どんどん引き込まれてしまう。 それぞれの立場の手記で話が進んでいき、救いようのないことがたくさんおき、それでも普通は立ち上がって行くけど、この人達はそうではなくさらに暗い淵に落ちていく。 でも、罪を感じることができないのは悪いことなのか?と言われると生まれ持った性質だから仕方ないとも言える。 他人の眼や社会の罰だけにしか恐れを感ぜず、それが除かれれば恐れも消える。という言葉がささり、今はのほほんと生きていけるけど、日々の選択って何なんだろうと思う。 迷いを消せるのは、ただ好きになること、いかに他の人の評価は気にせず、自分のためになるか指標で生きて行くのがいいんじゃないかなぁ。人間に優劣はないし。と思ったのでした。
2投稿日: 2025.03.02
powered by ブクログ終始暗い雰囲気の小説でした。読んだ後に、どんよりとした心苦しい気持ちになりました。 たった160ページ程度で、読者をこんな沈んだ気持ちにさせる表現力、構成力はさすがとしか言いようがないように思います。特に手術のシーンですが、心拍数が上がるのがわかるほどの恐怖でした。 終盤に「俺たちを罰する連中かて同じ立場におかれたら、どうなったかわからんぜ。世間の罰など、まずまず、そんなもんや。」という一文がありました。 この一文から、日本人って、よくも悪くも他人指向的なところがあるなと考えさせられました。見栄とか、他人からの評価を気にして、作中のような残虐なことが、あたかも正義かのように行われてしまうのですから。自分は医者でも何でもないですが、仮に自分がこの時代に生まれ、勝呂と同じ環境に置かれていたら、この生体解剖に参加してしまうのだろうなと思い、人ごとではないような気がしてなりませんでした。 あまり文学作品と触れてこなかった人生でしたが、これを機に他の文学作品も読んでみようと思わせてくれる良著でした。 ✳︎読み終わって、1ヶ月経過したのですが、この作品が脳裏に焼きついて離れないので、星を4つから5つに変更します。(R7.3.13追記)
4投稿日: 2025.02.14
powered by ブクログ戦時中に捕虜の人体実験に参加した医師のお話 課題本読書会のために再読 スポットの当たっている登場人物それぞれの苦悩や葛藤 良心はあるが、流されるままに実験に参加した勝呂の無力感 子を成せなくなった上に夫に捨てられた看護婦の上田 参加を断らなかったのは、聖女のように振る舞う部長夫人のヒルダへの歪んだ優越感のため 罪の意識のない功利主義の戸田 最初に読んだときには、「沈黙」からの流れでキリスト教の「罪」と日本人の「罪の意識」について注目したけど 今回はそもそも、この行為が罪なのか?という視点で考えた この人体実験何が問題なのか? 裁判なしで殺したことなのか? 人体実験に使った事なのか? 本人に告知していないことか? 肝を食すという行為か? さらに言えば 死刑囚ならば人体実験は許されるのか? という事まで考えが及ぶ 罪を犯した人に、社会貢献に繋がる罰を科す事の是非 応報刑を元にするのであれば、人を殺したならば同じだけ救わなければいけない 一人の死が他の生命を救う糧になるのは戸田の言葉で示されている 軍事裁判の正当性は置いておいて 死刑になる人間を社会のために役立てるという行為はどこまで咎められるんだろう? 人権とは人の何を保証するものなのでしょうね 村田沙耶香の「殺人出産」では産刑というものが実現された社会が描かれているわけだけれども 個人の意志を無視して何かを行わせるのはどこまで社会が許容するのかという、変容する倫理観でしか語れないのではなかろうか 人体実験は当時も今も咎められる行為ではある ただ、未来永劫変わらない倫理観ではなく もしかしたら、「遺体をただ燃やす埋めるだなんて、当時は何て勿体ないことを!」という価値観の社会ができてもおかしくないわけで 倫理って何なんだろうな?と思った それにしても、小説を読んでて様々な要因で自分の価値観を叩きのめされてきたからか、私の倫理観も結構ぶっ壊れているなぁ
5投稿日: 2025.02.06
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
戦時中に捕虜に対して生体解剖を行った事件について。 文章自体は思っていたより全然読みやすかったけれど、内容が難しかった... 私の読解力が足りず、結局何が言いたいのか分からない部分が多かったです 結末も結局何だったのだろう?冒頭の戦後の部分はなんだったのだろう?と纏まりのないまま終わってしまって、びっくりしました 解説を読んで漸く少し理解できた気がしました 生体解剖というあってはならない異常な事件を、平常な次元に還元することで罪責意識を問おうとしていたという解説になるほど...と納得しました 罰を恐れながら罪を恐れない日本人の習性というのは確かに一理あると感じました 解説が個人的にとても刺さりました 続編があるようなので読もうと思います
6投稿日: 2025.02.05
powered by ブクログ学生の時には古めかしくて読み続けられなかったので、リトライ。 しかし医師となった今では、戦前に建てられた母校の廊下などを思い出してしまうと場面の描写があまりに生々しく、読み進めるのが辛かった。 戦争という異常な時代背景の中でおかしくなっていく倫理観の波に飲まれ、無力感に苛まれながら人間性を保とうとする者、開き直る者、正当化する者、それら全てが人間だということ。社会に認められる罪だけを問題にすれば良いのか?自分の中にしっかりとした価値観と倫理観を持たねばならぬこの分断の時代に、とても考えさせられた。
2投稿日: 2025.02.01
powered by ブクログ遠藤周作を読むたびに、こんなに巧みで良いんですかと驚いてしまう。こんなに効いてる導入ってあるんですか。構造もキーワードも考えられた上で作られていると分かるから、分析してみたくなる。分析した後に辿り着くのは主題なんだと思う。 生体解剖という恐ろしい事件を、絶対的なものではなく相対的な日常の中に潜むものとして特殊性を取り除きながら書くっていうのが面白いと思った。
1投稿日: 2025.01.25
powered by ブクログかまいたちラジオで、どこかの書店員さんがオススメしていた本! 書店員さん曰く、この本を小学生の頃に読み、読了後数日は考えさせられたと言っていたので興味を持ち購入。 最近本を読み始めたので、昔の人が書いた作品を初めて読んだ。読んでみたら予想よりめちゃくちゃ読みやすい…! 時代的な風景とか考え方は理解できないこともあったけど、現代でも通用するというか興味をそそる内容だった。
2投稿日: 2025.01.18
powered by ブクログ生きた人間を解剖するといったおぞましい事件の当事者それぞれの胸の内を開けていく話。 現実味が無さすぎて、うまく感想がまとまらないというのが正直な感想。 無宗教の僕ら日本人にとっての良心や罪の意識は、いつ、どこで、どのように養われるのだろうか。神様のような絶対的な存在が決めた絶対的な基準を持たない僕らが、物事の善悪を判断する基準はなんだろうか。それは、法と社会がもつ基準だと思う。 法や社会が認識していない悪事は、それがどれだけ卑劣なものであろうと、誰も知らないし、誰にも咎められない。
1投稿日: 2025.01.17
powered by ブクログ学生の頃、夢中になって一気読みしたけど内容すっかり忘れてて再読。 こんな重い話だったんだ…よう読んだな昔の我…。 罪の意識とは…? 人が毎日死んでいくのが当たり前の戦争末期の環境で、果たして人間は良心を保ち続けられるか? そもそも人間は最初からそんなものを持ち合わせているのだろうか? 戸田のような人間は決して少数派ではないと思う。 歴史を見ても、人間は多分、環境とかに流されて簡単に残虐になれる生き物なのだろうと思う。 そういうことをみぞおちに叩きつけられたような、重い気持ちになった。
1投稿日: 2025.01.16
powered by ブクログ戦中の九大捕虜生体解剖事件 描写が生々しくリアリティーがある。 良心の呵責はどこから感じるのか。無宗教の日本人だと、絶対的な基準がなく、個人の解釈次第。
0投稿日: 2024.12.27
powered by ブクログスラスラ読める作品。 人間の尊厳とは何か、どこからが罪でどこまでが許されるのか、あらためて捉え直す必要性を感じた。
0投稿日: 2024.12.26
powered by ブクログ『海と毒薬』遠藤周作 あなたは、周りからどう思われるかを基準に選択をしているでしょうか? 仮に場や時代の流れで倫理的に誤ったことをしても何も追及されなかったら、そのことに良心の呵責を感じるでしょうか。 「いいこと」をするのは、大人や社会から褒められる、認められる、そういう目を意識してのことでそれが全てなのでしょうか。 良心とはつまり、社会性や他者からの評価が内面化された産物なのでしょうか? 私の場合、もちろん悪いことや人を傷つけたことがバレて明るみにだされ裁かれることは非常に恐ろしいことですが、 それらしいな理由や仕方のない理由でやった「悪いこと」「人を傷つけたこと」で、誰からも咎めを受けずにもう時効だろうと思うようなものでも「罪」の意識をもってそれがグルグルと自分の中でリフレインしてしまったり、 もしくは、その罪をまるで覚醒剤のように好んでしまうという傾向性があるようです。 それが世間から「悪」とみなされた、「あっち側」に属するものでかつ自分の気に入らないものを、 「正義」の名の下に、利害関係が一致する人々と非難する行為、 もしくは、「正義」の名のもとに自分の傲慢さを押し付けている人々を皮肉って、その正義を信じている人々の出鼻をくじくというそういうことだったりします。 これは、多くの日本人がいうように「考えすぎ」なのでしょうか? 「罪意識」を「持たない」「許す」ことと「感じない」ことは、似て非なるもののように思います。 戦争末期に、大学附属病院で米軍捕虜を生きたまま生体解剖をした事件があったことを初めて知りました。 本作は、そこに関わった医師や看護師たちの内面の告白とも言えるべきものですが、みんな、 それを拒絶する機会はあったはずなのに、 「大きな流れ」に逆らえずに、唯々諾々とそれに従い、 淡々と普通に捕虜を解剖していくだけ。 いじめに加担して、自分は全てを忘れて有耶無耶にする人々。 袴田さんの冤罪に際して逃げる、死刑判決を出した判事たち。 前時代には、仕方がないと空気のように認められていた、セクハラに体罰にタバコにあれやこれやが、 時代が変われば、逆の全体主義のように、何事もなかったかのように、あれもこれも悪になっていく現象。 それに「時代だから」「流れだから」という接頭辞すらつけず、 あたかも「世間」イコールそれが普遍の真理であるかのように、 そこに同化することのみしか考えていないような「いい」人々は、 そうじゃない人たちをごくごく普通に排除していく。 現象と評価だけが自然に変わっていく。 そこに「責任」も「振り返り」もない。 なんなんでしょう、なんなんでしょうか、と思います。 そんな私も、そう考えることがしんどくて、 というか、そもそも、そんなこねくり回さなくても、 この「海」こそが正直な正解なんだと思いそうになる。 気がついたらその「海」に引き込まれたら楽かなあ、と思うことが多々あります。
1投稿日: 2024.12.13
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
私がこの本を手にしたのを見て、父親が「海とは何なのか、毒薬とは何なのか、を考えて読んでみたら」と言ってくれた。 この話には海がたくさん描かれていて、特に海の音が恐ろしさを孕んでるようだった。 海に毒薬が一滴落とされたとしても、海の中で毒薬は紛れてしまう。大部屋で体が弱り死んでいく患者たちと生体解剖によって死んだ白人の捕虜、社会的地位の獲得に奔走する医師たちと良心の呵責を感じれない戸田、戦争で人を殺したことがある一般市民と生体解剖に関わった勝呂医師……。うまく言えないけど、「海と毒薬」はそういう対比を表してるのかなぁ、と考えてる……。
2投稿日: 2024.11.06
powered by ブクログ人体実験は科学の進歩に大きく寄与している必要悪である、しかし正当化して良い理由にはならない。関わったものが皆何かしらの罪を背負い生き続けていくことに意味がある。
0投稿日: 2024.10.22
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
過去に九州大学で起こった捕虜による生体実験が行われた事件をもとに描かれた小説。 九州で戦時中アメリカ兵が数人つかまり、その処遇を国にもとめたところ捕虜収容所がいっぱいなため、そちらで処分?してくれと言われる。 そのため、その捕虜たちは近々九州で処刑される予定だったが、 大学病院が「生体実験を行うため数名ほしい」と手を挙げた。 捕虜たちは「健康診断をしてもらえる」と喜んで病院にはいるが、彼らは生きながらにそれぞれの実験により死亡することとなった。 勝呂はその実験に参加することとなった。断れなかった。 その実験に至る葛藤、 ある看護師がそこにいくまでの人生、 ある若い医師もその大学病院にいくまでのいろいろがあり。 その日はやってきた。 だが勝呂は怖くなって手術室の端っこでふるえているしかなかった。 若い医師は終わってから、自分に罪悪感のないことに戸惑う。 実験を見学した日本軍の隊員たち(そこそこ偉い人たち)を含めて、病院の偉い人たちはその実験のすぐあと、 ある医師の送別会で宴会を開く。 そこに、さっき亡くなった捕虜の肝が運ばれていく・・・ っていうものすっごい胸糞悪い小説でした。 古くて保存状態のわるいモノクロフィルムの映画をみているよう。 それがなおさら不気味でした。 冒頭、戦争が終わって、勝呂はある都会から外れた町で町医者をっしている様子がうかがえます。 気胸で針を打ってもらいに行くが、こんな田舎の暗い医者がうまくできるのかと不安ながらも、妹の結婚式に行かねばならないのでかかってみると、 この医者がとんでもなくうまく針を打つので、びっりする・・ ってところからはじまるんですが、 この都会から離れた町、のんびりして平和で人々は穏やかなように見えて 実はあっちの店の主人も、こっちの店の主人も、出兵して幾人もの人を殺していたりするんですよね。 でも戦争ではそれはよしとされ、罪にもならず、平和にすごせる。 勝呂は医者として、生きてる人の命を自ら断つことができなかった。 が、彼はずっとそれを引きずって生きている。 その感じもおも~~~~く感じられて、 読み終わってから、もう一回、冒頭の町の様子を読み返しました
0投稿日: 2024.10.11
powered by ブクログ終始鳥肌が出るほど衝撃的な内容でした。 時代背景もあるかもしれませんが、人間ってどうなんだろ? 日本人って周りに流されて酷いことしてしまう人種多いと考えてしまいました。 勝呂だけが普通っぽく、、続編が気になります。
0投稿日: 2024.10.06
powered by ブクログ衝撃的な内容だった。人間にがっかりする話だった。 今までの経験に重ね合わせて、たしかにって納得する部分があった。 続編があるらしいから、そちらに救いがあることを期待する。
7投稿日: 2024.10.04
powered by ブクログこれは凄かった。正統派の倫理観を「人間の尊厳とは何か」を突き詰められたような小説だ。 私は意外とサイコパスな戸田という人間の方が人としての黒さが無いように感じる部分もあるなと思った。 勝呂があの手術の後から、最初の主人公に出会うまでのところも読んでみたかった。
0投稿日: 2024.10.02
powered by ブクログ第二次世界大戦下、大学病院で起こった米軍捕虜の生体解剖事件を描く作品。 タイトルに『海と毒薬』とあるように、海が登場人物の心理と絡めて描かれていている。特に生体解剖参加の打診を受けた勝呂が自分の意思で決めるのではなく、流れに流されていく様と暗い海が迫ってくる様子が重要な表現になっている。 解剖に参加した看護師上田と助手の戸田の内面がそれまでに至る経緯と共に、かなりの字数で描かれており、共感はできないが理解できるという感じ。上田の嫉妬というか、自分の失ったものを違う形で埋めたいというかもリアルな内面だと感じる。戸田の罪悪感がない自分が不思議で怖いという感情は、特にこの小説の肝になっている。自分が流され、何もできないことに罪悪感を感じる勝呂と戸田が対比的に描かれているのも明らか。 勝呂は冒頭に後日談の形で姿が出てくることで、余計に印象に残りやすいが、罪悪感に苛まれつつも、結局医者を続けているあたり勝呂の方が戸田よりも面の皮が厚いのではと思う…。戸田の後日談がないので、どうなったかはわからないけれども。 上田、勝呂、戸田の内面がかなり細かく描かれている分、橋本部長の内面が一切出てこないので、橋本部長が最後どういうつもりで手術室前に立っていたのかを読み取りたい。
2投稿日: 2024.09.09
powered by ブクログ「どうせ死刑にきまっていた連中だもの。医学の進歩にも役だつわけだよ」 太平洋戦争末期の1945年5月、九州帝国大学(現・九州大学病院)医学部の医師らが、米軍爆撃機B29の乗員で捕虜となった米兵8人を人体実験に利用した事件が基となっている作品。 作中では罪悪感に苛まれる者、未来の医学のためだと信じる者、現実から目を背ける者、様々な人物の思考が入り乱れて実験が進んでいく。この実験によって大勢の命を救ったとも言えるし、そのために一人の命を軽視したとも考えることができる。個人的には例え相手が米軍だったとしても、人間である以上命の重さは平等だという気持ちが強かったし、その場にいる以上誰もが悪人であることには変わりないと思った。 それに実験の内容が内容なだけに擁護はしづらい。血管の中に食塩水や空気を注入したり、肺の片方だけを切り取って何秒生き延びられるのかを計測したり等々。いくら医学のための実験だとしても結構惨いことをしているし、半ば実験を楽しんでいたのだろうとも感じる。手術の描写も映像が鮮明に浮かぶから、尚更ページをめくる手が重かった。 ただ、戦時中という極限状態の中で、日々多くの命が失われ、死が間近にある環境で過ごしていると判断が鈍ってしまうのも理解はできる。そこに至るまでの描写も丁寧で巧かったし、決して登場人物たちを完全な悪人にしなかったのも良かった。宗教的な要素も強くて、無宗教が多い日本ならではの話でもあるなと感じた。安易な言い方になってしまうけれど、「善とは、悪とは」について考えさせられたし、倫理観にずしんと響いてきた。 要所要所で挟まれる立原道造の『雲の祭日』から引用された一節「羊の雲の過ぎるとき 蒸気の雲が飛ぶ毎に 空よ おまえの散らすのは 白い しいろい 綿の列」という詩がとても良い味を出していた。本編のどんよりとした暗さに相反して、その詩の美しさが際立っていた。戦時中という極限状態の中で、この詩を思い返せばそりゃ涙も溢れてくるはずである。自分の中でもとても好きな詩になった。 あとこれは余談なのだが、九州大学病院のすぐ近くには海があり、著者の遠藤周作はそこの屋上で手すりにもたれて雨にけぶる町と海を見つめて『海と毒薬』という題名を思い付いたという。この美しいエピソードが、さらに本書の魅力を引き立てていた。
14投稿日: 2024.09.02
powered by ブクログ表現が具体的すぎて特に手術シーン、情景はありありと浮かんだのですが残酷過ぎると感じました。 その中でも現実をしっかり見せてくれる書き方が好きです。
13投稿日: 2024.08.25
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
苦しい状況と自分も手術の現場に居合わせたような居心地の悪さを感じた。文章のリズムが良く、死体解剖など気が進まないような内容の場面でもするすると読めてしまい罪の意識を考えさせる内容にも関わらず読後の後味は気持ち良いものになっている。遠藤周作は宗教観をわかりやすく、荘厳だけど日常に潜んでいるよ的なメッセージで小説を書いているイメージだけど、海と毒薬に関してはアイデンティティの宗教が薄めで個人的には彼の作品で一番好きかもしれない。 好きなシーン 汚いメス犬が孕んだのを嫉妬して石を投げるところ 女中を孕ませてしまい暑さの中避妊具を借りて自らの手で堕胎させるところ おばはんの痰の描写、死
0投稿日: 2024.08.01
powered by ブクログ罪を犯した「人間」が悪いのか?そう単純なものではないと思う。その時の社会情勢、置かれた環境、精神状態。そういうものを全て知らなければ簡単にあいつは悪人だと言いきれないと思う。罪を犯すか犯さないかの判断の際に「神はあるのかな」のセリフのように自分を律するものが(神でなくても)あれば流されることもなかったのか。
1投稿日: 2024.07.14
powered by ブクログ遠藤周作さんは楽しいダメ親父的なエッセイもありながら、これほどに重い作品も残す。人間の深さを感じる。戦争の中のこととはいえ、罪深い行為だ。日本人だけが蛮行をしたとは言えないだろうが、とても遠い過去ではない時代に、確かになされていたことと認識していきたい。
1投稿日: 2024.07.04
