【感想】変身・断食芸人

カフカ, 山下肇, 山下萬里 / 岩波文庫
(80件のレビュー)

総合評価:

平均 4.0
28
24
22
1
1
  • 胃袋を絞られるような読書体験

    フランツ・カフカの代表作「変身」の名を
    一度は目にしたこと耳にしたことがあると思います。
    主人公が虫になるというアレです。

    「断食芸人」はカフカが最後に遺した作品。
    病床につきながらも、最期まで手を加えていたのだとか。

    決して愉快でハッピーな話ではない、というより
    むしろ胃袋を絞られるような読書体験ができる部類の作品です。

    ライトで能天気な(おっと失礼)読み物に飽きがきている方々には
    手に取っていただきたい作品です。
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    投稿日:2013.11.09

  • ひたすらの孤独

     朝目覚めてみると、自身の体は大きな虫へと変化していた・・・という出だしで有名な「変身」。そして、時代が変わり人気が、ガタ落ちになった断食芸をする芸人を描いた「断食芸人」。

     この2篇の主人公は共に、孤独です。孤独な人間にスポットを当てた作品だと思い、私は読みました。主人公達の境遇や心理を知る読者は、何かをしてあげたい、助けになりたいと思うかもしれません。しかし何も知らなかったら、虫と成れ果てた人や、もはや時代遅れで怪しげな芸人を、あなたはどう思うでしょうか。おそらく蔑むか接触を避けるはずです。所詮、我々は人の容姿しか見ていないことに気付かせてくれました。

    小説によって感じ方、読後の感想などは人それぞれです。この小説を読んで、自分なりの感じ方や考えを得られることと思います。
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    投稿日:2013.11.02

  • ありえない世界がありえる小説の世界が、好きになる。

    初めて読んだ時の驚きが、今も消えていない。何の理由もなく、朝、目が覚めると虫になっているグレゴール・ザムザ。そんな異常事態に、周囲は驚きパニックになった家族は、ザムザを(物理的に)傷つけてしまう。

    ザムザ自身、突然のことに驚きはするものの心配したのは、行かなければ行けない仕事の出張の事だったりするのだ。この物語では、ただひとりそうなったことに対して、原因を探ろうと誰かが躍起になることはない。その醜い見た目が、人々を不快にさせザムザを追い詰めていく。

    人間が陥る孤独の状況を描いた“現代の寓話”と呼ばれるこの作品。圧倒的に不条理な設定にも関わらず、気づけば物語世界に読者を引きこまれている。それは純粋に驚きでもあり、読書の何よりの楽しみでもある。
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    投稿日:2013.12.10

  • 【評価はパス】不条理?どこが?

    物語の構造としては変身譚であるが、本作を特徴付けているのは変身したものが「毒虫」である点である。我々、理系の人間はそのモデルを理解するために変数を変化させて結果を観察することが多い。そこで、主人公が変身したモノが「毒虫」でなかった場合を考えた。例えば、愛くるしい子犬に主人公が変身していたらどうだろう?「毒虫」と同じく家計には貢献できないが、嫌悪されることなく主人公も一家の中で一定の位置を占めることが出来たかもしれない。そうすると、本作を理解するポイントはカフカは何故、敢えて「毒虫」を選んだかということにあると思える。そして、更に何故、そのようなモノに主人公を変身させたか?である。

    ところで、あなたははこう考えたことはあるだろうか?「私がもし働けなくなったら家族はどう思うだろう?」、「私の顔が事故や病気でキズを負っても恋人はそれでも愛してくれるだろうか?」、「私が周囲に受け入れて貰えるのは、何か私に価値があるからだ」等々・・・。つまり、自分自身の存在意義とか存在価値とかは何であるかと自問するということ。

    歳をとるとか、病気で少しづつ、その価値が減少していくことは一般に多いが、カフカはそれを「目が覚めたら」という劇的な変化で、主人公を最も無価値で最も嫌悪する対象に”変身”させることで、読者に人間の存在の不確かさを提示したのだと思う。主人公の内面、妹への優しい気遣いとか、家族への貢献意欲とかは全く変化が無いのに、外見を変化させただけで、こうなる危うさを人間社会は持っているのだと。

    世間では本作を不条理の代名詞と呼ぶ。曰く「なぜ変身したか説明されていない」、「人間が毒虫に変身するとは荒唐無稽だ」と。しかし、変身の理由は重要ではなく変身による結果をカフカは表現したかったのだし、毒虫に変身することはないがそのような極端な存在になった状況が必要だったので、本作を不条理と表現するのは不適切のように思える。

    ここで、閑話休題。しかし、やり切れない話ですなぁ。
    いや聞きますよ。リストラされたら即離婚されて慰謝料まで請求されたとか。労災でそれまでの仕事が出来なくなっのに結局会社に居づらくなったとか。家族間でもお互いに迷惑は掛けないで欲しいとか。
    まぁ、事情は色々だと思いますが、やり切れない話ですなぁ。

    一方でこんな台詞を書く作家もいて、少しホッとしたりもする。
    息子「家族には迷惑を掛けないから、やりたいことをやらして欲しい」
    父「家族なのに、迷惑かけ合わんでどうする!」

    ところで、「転校生」(平田オリザ作)を見たのが、本作を読むきっかけであった。
    その朝、突然、転校してきた生徒と、明日、転校して行く生徒のたった一日の邂逅。その2人の生徒が夕方の教室で友人たちの座席を、ひとつひとつ確認して行く場面が印象的だった。本作を読んで改めて考えると、あれは友人たちとの関わりの中で位置付ける自分というものを確認する作業を表現していたのかも知れない。中々、興味深い劇であった。

    ※★は総合評価に影響を与えたくないので、既レビュー者の評価に合わせました。
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    投稿日:2015.10.28

ブクログレビュー

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  • 公園

    公園

    読書会のために再読。今回ラストの明るい結末について話し合った結果、あれは「毒虫からの解放」ではなく「グレゴールからの解放」だったのではないか?という結論に落ち着いた。「変身」以前のザムザ家で主人公は、転落した父、世間知らずな妹、病弱な母という役名を自己の家族に付し、「自分が家族を支える」という自分の「物語」の中に家族を囚えていたのでは?と考えたのだ。事実「変身」以降、父は働くようになり妹は勉強もするようになった。彼らの向上心を阻んでいたのはグレゴール自身だったという皮肉。続きを読む

    投稿日:2024.03.15

  • ぬえ

    ぬえ

    断食芸人は長期に渡る断食で餓死する直前、こんなことを言う。
    「いつだってあんたらを、この断食で感心させてやろう、と思ってきたんだがね……(略)もう、感心するのはやめてほしいんだ……(略)うまいと思う食べ物が見つからなかったからなんだ」
    これは思うに、「断食」は断食芸人が食べたいものがある状態にあって初めて「断食」たり得るのであって、何も食べたくなくなってしまったらそれはもう「断食」の本質に反してしまっている。こういうことだろうか。
    続きを読む

    投稿日:2024.01.18

  • あおい

    あおい

    このレビューはネタバレを含みます

    不条理文学というのを初めて読んでみました。
    どちらもすごく面白かった。

    毒虫:
    起きたらばかでかい毒虫になってるの、普通はなんで!?ってなりそうなところですが、主人公は特に疑問も無しに受け入れてるの面白い。
    家族も主人公が毒虫になったことを受け入れていてすごい(笑)
    私なら主人公が毒虫に食べられたのかなと思って退治してしまいそう。
    家族のために働いてきたのに、変身して毒虫になってから、気を遣われ、どんどん扱いが酷くなっていくの可哀想すぎる...でも、毒虫と共に住む家族の立場になると、仕方の無い扱いだよなあとも思います。

    断食芸人:
    かなり短かったけど面白い。
    断食芸人ってほんとにいたっけ?ってぐらいリアルな設定!流行が去って、人権的にどうなんだ?と世間的に痛い目で見られて人気が無くなるところもリアルだ。皮肉の効いたオチも最高です。

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    投稿日:2023.10.14

  • 希

    変身の、くどくどとしていてずっとなんだかわからない悲鳴のようなものが、終わりにつれて異様なほど滑らかに穏やかに鎮まっていく感じ。断食芸人の、彼と彼以外のすべての痛々しいほどの隔たりと品のある狂気。どうしてこんなに惹かれるのか分からないのに。彼は彼にだけの魅力でわたしの心のある一部分を掴んで離さない。続きを読む

    投稿日:2023.06.11

  • おぬま

    おぬま

    図書館で借りた。
    朝起きたら虫になっていた、と言うはじまりが有名な小説作品。ただ、読んでなければその先の展開は知らない人も多いのではないか。私もそうだった。
    私は「自分がこうなったら…」を想像し、震え上がった。夢で見たような世界感。
    次に感じたのは、これが社会風刺的であるということ。現代の介護問題を連想させる。その側面でも、「自分のまわりでこうなったら…」と震え上がる。

    家族がザムザになったとて、私は十字を切って神様にお礼を言う気になれるだろうか?私にはわからない。恐怖であり、悲しくなるお話だった。
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    投稿日:2023.05.05

  • 夜ノ帳

    夜ノ帳

    よく最初の文が引用されるのもあって、その一文に惹かれて手に取った。
    読み終えて毒虫、についての考察もいくつか拝見したのだが、いつか見たその中の「毒虫になった=使い物にならなくなった」という解釈があったのがとても興味深い。
    朝起きたら、自分が使い物にならない。害にしかならない毒虫になっていた。
    それを踏まえたラストは、救いがなく生々しさを強く感じた。
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    投稿日:2023.01.25

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