【感想】墨東綺譚

永井荷風 / グーテンベルク21
(3件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
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  • 呼吸のような出会いと別れ

     大正~昭和初期の東京の風景を緻密な表現で描いて、その中に特に情熱的でもなければ数奇な感じもしない、男(老作家)と女(娼婦)の出会いと別れが組み込まれています。
     作中の《後書き》の中に、《この話をもっとドラマチックに書くならば、数年後の再会などを書いたほうがよい》といった類の事が言われています。まったくその通りと思います。 しかし敢えてドラマチックにしないで終わるにもかかわらず、この読後感ののよさはいったいなんでしょうか? 「悪いことがなかったのでいい日だった」と感じるのと同じような読書でした。続きを読む

    投稿日:2015.12.02

  • 柔らかな古典

     遠い昔の記憶に間違いなければ、担任教師が永井荷風を浮名を流した作家と雑談で評していた。
    そういう意味の読まず嫌いで、反面、機会があれば読んでみたい作家だった。
    老境に入った作家の「わたし」と墨田の娼婦街にいたお雪との出会いと別れが、江戸の匂いも残る
    ノスタルジックな小説。
    「三丁目の夕日」よりもずっと前の設定なので更に知るはずのない生活が、描写も言葉も活き活きしていて一緒に界隈を歩いているような気分。所々なんか知ってる気分にさせられて興味深かった。
    今では聞くこともない言葉が宝石のように光って感じる上に「わたし」の小説の草稿とが話に折り挿まれてさながら迷宮に迷い込んだ感がありました。
    京成がこの時代にあったのね!と妙な感心もしました。
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    投稿日:2015.02.25

  • 想像していた内容とは少々異なりました

     1992年に、これを原作とした藤兼人監督の映画を見ました。演じたのは、津川雅彦、墨田ユキ等。墨田ユキは、当然のことながらヒロインからとった名前です。ATG配給30周年作品と、私の鑑賞メモにはありました。
     昔懐かしい日活ロマンポルノの雰囲気を残しつつ、かなり当時の私にとっては衝撃的な内容だったので、いつか原作を読みたいと思っていました。
     そして願いかなって、ようやく読んだわけですが、映画から受けた印象とは、やぱり、かなり異なるものでした。映画では、荷風の死ぬまでが描かれていたのですが、小説では、ご本人が私小説風に書いているので、そのようには終わりません。映画を見たときは、ロートレックのように底辺の女たちを描き、運命の人と思い込んだ相手とも別れ、そして、孤独に死んでいった彼の人生に涙したものでした。
     情感溢れる筆致で書かれた当時の玉ノ井の、猥雑で、それでいて、どこもかしこも綺麗になってしまった現代から見ると、ちょっとうらやましい世界は、読む者を引きつけます。今はこのような界隈は、存在しませんね。
     恥ずかしながら、荷風の小説を初めて読みましたが、流石に珠玉の一編と呼ばれるだけのことはありました。
     それにしても、文化勲章まで受賞している作家でありながら、一人寂しく自宅で亡くなっていたのを見付けられるとは、寂しすぎますよね。
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    投稿日:2016.12.31

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