fliwghさんのレビュー
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宇宙は「もつれ」でできている 「量子論最大の難問」はどう解き明かされたか
ルイーザ・ギルダー, 山田克哉, 窪田恭子 / ブルーバックス
読みやすいが、本題は難解。
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アインシュタイン、ボーアの世代から現代まで、量子力学の進展を、アインシュタインが「不気味な遠隔作用」と呼んだ「量子の非局所性」の捉え方の変遷を中心に辿った力作。(最近、量子もつれを完璧に証明する実験(…本書の後半で中心的な役割を担うジョン・ベルが考案した不等式に基づく)が行われ、アインシュタインの主張が間違っていたことが正式に証明された。)
しかし、本書を貫く問題、「量子の非局所性とは、いったいどういうことなのか?」という問いに対する答えは最後まで得られない。現代に至っても理解できている人はいないはずなので、当然のことだが。
本書の特筆すべきもうひとつの特徴は、各世代の物理学者たちの人物像を物語の主人公の様に描いていることで、今まで知ることのなかった物理学界の偉人たちがとても身近に感じられる。個人的には、アインシュタインには人格的にも改めて尊敬を、ハイゼンベルクには親近感を、そしてシュレディンガーには嫌悪感を感じた。ここは人によって感じ方は違うかも。
最後の章で本題に関する、現時点での結論めいたものが示される。現代の物理学者、フックスの考えとして、「量子論の構造は物理学について何も語っていない」「量子論とは、我々が知っていることを記述する形式的なツールである。」すなわち「量子論と呼ばれるものは、情報理論、つまり、量子の実体そのものよりむしろ実体に関する知識についての理論である」という意見....。 今だにピンとこない。 続きを読む投稿日:2019.02.06
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ホモ・デウス 上下合本版 テクノロジーとサピエンスの未来
ユヴァル・ノア・ハラリ, 柴田裕之 / 河出書房新社
サピエンスの未来 に関する新しい知見を得たいと思った。
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前作でホモ・サピエンスの歴史、社会について、新たな認識に目を見開かせてくれた著者の、人類の未来に目を向けた作品。自分には思いもつかない未来を見せてくれるのではないか、と強い期待を持って読んだ。
著者…が予言する二つの可能性。1)人類の貧富の差は拡大し、裕福な者は自らの生殖細胞の遺伝子を改変し、不老、不死、神のような能力を手に入れる(これが、ホモ・デウス。今は研究者のモラルで抑制されているが、技術的に可能となり、熱望する金持ちがいれば抑えることはできないだろう)。残された人類は重要性が失われ、家畜のような扱いを受けるようになる。2)AIの様な人類以外のものが人間を超越した存在となり、人類の重要性は失われる(所謂、シンギュラリティ)。
ベースにあるのが、19世紀から21世紀前半まで尊ばれた人間至上主義から21世紀には情報至上主義へと価値が変化する。科学が示唆する新たな教義は、生き物はアルゴリズムであり、生命はデータ処理である、ということ。
人間が自らの遺伝子を改変し現在の人類をはるかに超える情報処理能力を得るか、人間以外の存在が人間の情報処理能力を超えたとき、世の中で最も尊いとされている人類の価値は失われる。
本書の大半は、過去からの歴史を振り返り、将来が不安になる内容を積み上げていく。この大冊の最後の最後に著者は以下の三つの疑問を提示し、これらを頭において生きていくことを求める。望まない未来を迎えずに済むように、従来とは違う形で考えて行動してほしい、と。
1)生き物は本当にアルゴリズムに過ぎないのか? 生命は本当にデータ処理にすぎないのか?
2)知能と意識のどちらの方に価値があるのか?
3)意識を持たないが高度な知能を備えたアルゴリズム(GAFAのサービス等)が、私達が自分自身を知るよりも多くを知るようになったとき、社会や日常生活はどうなるのか?
前作は目からウロコの認識が多く得られたが、本書はそれほど意外性のある内容ではなかった。データ至上主義については、なぜデータそのものに価値が生じるのかわからない。前述の二つのディストピア的世界は既知で想定されているものだ。
未来はきっとこれらとは異なり、予想されていないものになるに違いない。ただ、著者が最後に言っていたように、可能性は頭においていこう。 続きを読む投稿日:2019.05.21
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21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考
ユヴァル・ノア・ハラリ, 柴田裕之 / 河出書房新社
人類の現在と近未来を考えるには必読
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前2作はそれぞれ、過去と将来について考察したもので、どちらも新しい視点を与えてくれる素晴らしい本だった。
本作は「現在」にフォーカスした本である。
著者は学者として明確さを読者に与えることが使命で…あると言っている。その上で読者に各自行動を考えて欲しいと考えている。
以下は本書を読んだ私の理解だ。
現在最も大きな問題は民主主義が信頼を失いつつあることだ。
民主主義を支えている個々の概念は以下のように揺らいでいる。
1. 人には確たる自己(アイデンティティ)がある。---> そのようなものはない。科学により感情は化学反応の集積であることが明らかとなった。記憶は脳内で作られたもので、多くは現実から大きく乖離している。
2. 国民は利口でその判断は正しい。---> 正しくない。特に近年SNS等の普及により、人々は自分と同意見のコンテンツのみを選択的に読む傾向にあり、分断が深まっている。
3. 冷戦が終った後、人類は平和と豊かさを享受すると思われた。 ---> ポピュリズムとナショナリズムの台頭により人類の平和も危うい。ナショナリズムは地球温暖化等のグローバルな問題に対応するには無力である。
経済に関して、
4. 市場は自然に任せるとうまくいく。---> 産業の変化により、今後は情報が価値を持つ。その情報の偏在化が進んでいる。一部のIT企業への富の集中により貧富の差が極端になっていき、歪が大きくなっている。
5. 近い将来の人類そのものに対する懸念 (『ホモデウス』でより詳細に考察されている)。 科学技術の発展によりAIが多くの分野で使用され始めている。例えば、タクシー運転手が自動運転車の普及で職を失い、必死に勉強してドローンパイロットになったとしても、その数年後にはドローンパイロットもAIに置換される可能性がある。人は10年毎に新しい職の技能を習得できるだろうか?) AIに職を奪われた人々は貧困に陥る。20世紀には労働力として国家から必要とされ、それ故団結することである程度の力を発揮できた労働者階級の人々の多くはAIの台頭により『無用層』となってしまう (被搾取層から無用層へ)。
遺伝子工学の進歩により遺伝情報を簡単に操作できるようになった。 ヒトのDNAの改変は倫理的なルールで禁止されているが、大金持ちの需要があれば、いつか誰かがやってしまう可能性は高い。富裕層の人たちは健康、美容、そして知的、体力的能力を向上させるために遺伝情報を改変することが予想される。生殖細胞のDNAも含めて。
その結果、自分自身をアップグレードした富裕層と無用層に陥った貧困層は将来生物学的にも異なる動物となり、サピエンスはヒトと超人の2つの種に分かれる可能性がある。 その時のヒトがどの様な扱いを受けるのか、おおいに懸念される。
著者の主張は明晰で説得力がある。さて自分はどう生きるべきなのか? 続きを読む投稿日:2020.01.14